スキル『箱庭』を手にした男ののんびり救世冒険譚〜ハズレスキル? とんでもないアタリスキルでした〜

夜夢

文字の大きさ
28 / 81

第28話 賑わう町

しおりを挟む
 黒い鴉の一件で一悶着あったが、以降は特に危ない事もなく時が流れていった。

「いや、凄い人だね」
「優勝したら家が貰えるから当然なのっ」

 町は釣り大会に賭ける人々で連日賑わいをみせていた。ある者はポイントの研究、またある者は釣具の調整と大会に並々ならぬ意気込みで臨んでいた。

「お兄さんは参加しないの? 優勝したらお家貰えるのに」
「あはは、僕は冒険者だからね。一つの町に長くいないから」

 なお連日当たり前のようにリリアが観光についてきていた。宿屋は相変わらず閑古鳥が鳴いている。

「あんなに料理美味しいのになんでお客さん入らないんだろ」
「多分まだ黒い鴉の件が尾を引いてるなの」
「ほんっと迷惑だよね! あ、お兄さん私あれ食べたい!」
「どれ?」
「あの実が入ってる甘い飴!」
「あ、僕も食べたいな」
「私もなのっ!」

 大会二日前にもなると町に様々な屋台が並び始めた。町は一気にお祭ムードに突入し、笑顔が溢れ出していた。

「ん~っ、美味しいっ! これ食べると大会が始まるんだなって毎年思うよ~」
「町に住んでる人達からすれば恒例行事みたいだね」
「レイ! あっちで腸詰め肉売ってる!」
「はいはい。あまり食べ過ぎるなよ? 晩御飯食べられなくなるよ?」
「晩御飯は別腹なのっ!」

 相変わらずリリーは食いしん坊だった。そんな中で大会受付のテントからベルが鳴り響いた。

「以上で大会参加者を締め切りします! 大会は二日後の正午から鐘が四回鳴るまでです! なお、不正が発覚した際は今後一切の参加を受け付けません! 参加者の皆様、フェアに楽しみましょう!」
「「「「「おぉぉぉ~っ!!」」」」」

 参加者の募集が終わりいよいよ大会が始まる。

「今年こそ優勝して家を貰うぞ!」
「こちとらガキの頃から釣りで生きてきてんだ! その辺の奴らにゃ負けねぇぜ!」
「ふっ、弱い奴ほどよく吠えるな。まあ、明日は私の優勝と決まっている。精々盛り上げてくれたまえ」
「なんだあいつ気持ち悪いな」

 参加者はやる気十分だ。

「まだ二日前なのにやる気出し過ぎじゃないか?」
「村に家を持つのとは違うなの。アクアヒルは王都に次ぐ人気の町なの。土地代はそれなりにするなの」
「ん? 土地代?」

 レイはリリーの言葉に引っ掛かりを覚えた。

「なあ、これ……家を貰えるんだよな?」
「うんなの」
「土地付きで?」
「ん?」

 レイは町の人に話し掛けた。

「あの、優勝したら家貰えるんですよね?」
「ん? ああ、そうだよ」
「それって土地も貰えるんですか? いや、もしかしたら他にも条件があるんじゃ……」
「おっといけねぇ。買い出しの最中だったわ。じ、じゃあなっ」
「あ……逃げた」

 逃げた町の人の態度でさらに疑惑が高まる。

「なんか怪しげなんだよなぁ。でも一応毎年続いてるイベントみたいだし……。気の所為なのかな?」
「レ~イ~! そろそろ宿に帰るなのっ」
「あ、うん。今行くよっ」

 レイは気にする事を止めた。

「僕は参加者じゃないし気にしてもしょうがないか」

 そして二日後の夕方、この懸案が大会終了と共に判明した。

「は、話が違うじゃないか!」
「いえいえ。確かに家は用意してありますよ?」
「確かに家はある! だがなんなんだこの女は!?」
「あっは~ん」

 優勝した人物は例の気持ち悪い喋り方をしていた顔の整った男だった。

「おや、もしや貴方……取得条件をしっかりと確認しておりませんな?」
「な、なに?」

 男は慌てて参加契約書に目を通す。

「特に何も書かれていないが……」
「あぁ、取得条件は裏面です」
「裏面? ……んなぁっ!?」

 男は内容を確認し驚愕。その後絶句した。

「家の取得条件として、持ち主と婚姻を結んでいただきます。その後一年以内に子を成せば正式に貴方様の物に。婚姻できない、もしくは子が成されなかった場合は権利を剥奪いたします」
「さ、詐欺だ! 私は結婚などする気はないっ!」
「しっかり確認しなかった貴方が悪いのでしょう? さて、どうしますかな?」

 男は契約書を破り壇上から降りた。

「二度と参加するかっ! 帰る!」
「お疲れ様でした。では準優勝の方を繰り上げで……おや、貴方は」

 優勝者が辞退した事で準優勝だった男に権利が移行した。

「ハニィィィィィッ!」
「あぁぁぁん、ダァリィィィィン!」
「「「ヒュー!」」」

 壇上で小太りの男が女と抱き合った。

「絶対優勝するって言ってたのにぃ~! 私奪われちゃうとこだったのよ~?」
「ごめんよハニー! まさかほんのちょっとの差で負けるとは思わなかったんだ」
「許さないわよ~。死ぬまで離さないで刑に処しちゃうんだから~」
「ははは、ハニー。それは刑じゃなくてご褒美だよっ」

 壇上でバカップルが爆誕していた。

「……僕は何を見せられてるんだろ」
「からくりがわかったなの。この大会はああして家はあるけど行き遅れになってる男女をくっつけるための大会なの!」
「……参加しなくて良かったなぁ」

 こうして落ちがついた所で大会は後夜祭に移った。

「レイさん、大会はどうでした?」
「あ、うん……。見る分には楽しかったかな。湖にあんな大きい魚いたんだ~って」

 夜、客がいない女将は娘のリリアと後夜祭に出てきていた。

「まさか家をもらう条件があったなんてびっくりしましたよ」
「あ、初めて見る方は驚きますよね。毎年あんなですよ。去年は男の方でしたが、結局決まらず盛り上がりに欠けました」
「その割に参加者多くないですか?」

 女将が悪戯っぽく笑みを浮かべた。

「結婚と天秤にかけても家が欲しいという方もいらっしゃいますし。今年は町でも有名な恋人が結婚にいたったので大盛況でした」
「初めから結婚すれば良いのに」
「あら、どうせならドラマがあった方が記念になるじゃないですか。そうですね~……来年は私が商品になってみようかしら?」
「酔ってます?」

 女将の顔が若干赤い。

「夫はどうせ野垂れ死んでるだろうし。宿も流行らないし……。誰かに助けて欲しいかな~」
「ちょっ!?」

 女将がレイにもたれ掛かる。

「リリーちゃん! あっちでケーキあるみたいだよ!」
「なん!? リリアいくなのっ!」

 お子様と精神年齢お子様の二人は屋台に消えて行った。

「レイさん、今なら宿に私達母娘がついてお買い得ですよ?」
「い、いやっ。僕はまだ結婚する気ないですし! それに……まだ冒険者続けたいからっ」
「残念、ふられちゃいました」

 女将の身体がそっと離れた。

「でも苦しいのは本当ですよ? 多分宿も閉める事になります」
「そんな……。両親が残した宿でしょう?」
「はい。ですが思い出より生活ですよ。これ以上リリアに迷惑はかけられません。ですのでレイさん達が出たら宿を売ってどこか田舎にでも移ります」

 レイは正直そこまで経営が苦しいとは想像もしていなかった。

「あの! 今から少し時間良いですか?」
「はい? お誘いですか?」
「まあ……誘いになりますかね。見せたいものがあります。宿に戻ったら見せますね」
「リリアも一緒に?」
「もちろんです」
「何かしら~? 楽しみね」

 その後、後夜祭をたっぷり満喫してきた二人と合流し、レイは宿に戻ったのだった。
しおりを挟む
感想 21

あなたにおすすめの小説

異世界に召喚されて2日目です。クズは要らないと追放され、激レアユニークスキルで危機回避したはずが、トラブル続きで泣きそうです。

もにゃむ
ファンタジー
父親に教師になる人生を強要され、父親が死ぬまで自分の望む人生を歩むことはできないと、人生を諦め淡々とした日々を送る清泉だったが、夏休みの補習中、突然4人の生徒と共に光に包まれ異世界に召喚されてしまう。 異世界召喚という非現実的な状況に、教師1年目の清泉が状況把握に努めていると、ステータスを確認したい召喚者と1人の生徒の間にトラブル発生。 ステータスではなく職業だけを鑑定することで落ち着くも、清泉と女子生徒の1人は職業がクズだから要らないと、王都追放を言い渡されてしまう。 残留組の2人の生徒にはクズな職業だと蔑みの目を向けられ、 同時に追放を言い渡された女子生徒は問題行動が多すぎて退学させるための監視対象で、 追加で追放を言い渡された男子生徒は言動に違和感ありまくりで、 清泉は1人で自由に生きるために、問題児たちからさっさと離れたいと思うのだが……

間違い転生!!〜神様の加護をたくさん貰っても それでものんびり自由に生きたい〜

舞桜
ファンタジー
「初めまして!私の名前は 沙樹崎 咲子 35歳 自営業 独身です‼︎よろしくお願いします‼︎」  突然 神様の手違いにより死亡扱いになってしまったオタクアラサー女子、 手違いのお詫びにと色々な加護とチートスキルを貰って異世界に転生することに、 だが転生した先でまたもや神様の手違いが‼︎  神々から貰った加護とスキルで“転生チート無双“  瞳は希少なオッドアイで顔は超絶美人、でも性格は・・・  転生したオタクアラサー女子は意外と物知りで有能?  だが、死亡する原因には不可解な点が…  数々の事件が巻き起こる中、神様に貰った加護と前世での知識で乗り越えて、 神々と家族からの溺愛され前世での心の傷を癒していくハートフルなストーリー?  様々な思惑と神様達のやらかしで異世界ライフを楽しく過ごす主人公、 目指すは“のんびり自由な冒険者ライフ‼︎“  そんな主人公は無自覚に色々やらかすお茶目さん♪ *神様達は間違いをちょいちょいやらかします。これから咲子はどうなるのか?のんびりできるといいね!(希望的観測っw) *投稿周期は基本的には不定期です、3日に1度を目安にやりたいと思いますので生暖かく見守って下さい *この作品は“小説家になろう“にも掲載しています

俺だけ永久リジェネな件 〜パーティーを追放されたポーション生成師の俺、ポーションがぶ飲みで得た無限回復スキルを何故かみんなに狙われてます!〜

早見羽流
ファンタジー
ポーション生成師のリックは、回復魔法使いのアリシアがパーティーに加入したことで、役たたずだと追放されてしまう。 食い物に困って余ったポーションを飲みまくっていたら、気づくとHPが自動で回復する「リジェネレーション」というユニークスキルを発現した! しかし、そんな便利なスキルが放っておかれるわけもなく、はぐれ者の魔女、孤高の天才幼女、マッドサイエンティスト、魔女狩り集団、最強の仮面騎士、深窓の令嬢、王族、謎の巨乳魔術師、エルフetc、ヤバい奴らに狙われることに……。挙句の果てには人助けのために、危険な組織と対決することになって……? 「俺はただ平和に暮らしたいだけなんだぁぁぁぁぁ!!!」 そんなリックの叫びも虚しく、王国中を巻き込んだ動乱に巻き込まれていく。 無双あり、ざまぁあり、ハーレムあり、戦闘あり、友情も恋愛もありのドタバタファンタジー!

他人の寿命が視える俺は理を捻じ曲げる。学園一の美令嬢を助けたら凄く優遇されることに

千石
ファンタジー
【第17回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞】 魔法学園4年生のグレイ・ズーは平凡な平民であるが、『他人の寿命が視える』という他の人にはない特殊な能力を持っていた。 ある日、学園一の美令嬢とすれ違った時、グレイは彼女の余命が本日までということを知ってしまう。 グレイは自分の特殊能力によって過去に周りから気味悪がられ、迫害されるということを経験していたためひたすら隠してきたのだが、 「・・・知ったからには黙っていられないよな」 と何とかしようと行動を開始する。 そのことが切っ掛けでグレイの生活が一変していくのであった。 他の投稿サイトでも掲載してます。 ※表紙の絵はAIが生成したものであり、著作権に関する最終的な責任は負いかねます。

散々利用されてから勇者パーティーを追い出された…が、元勇者パーティーは僕の本当の能力を知らない。

アノマロカリス
ファンタジー
僕こと…ディスト・ランゼウスは、経験値を倍増させてパーティーの成長を急成長させるスキルを持っていた。 それにあやかった剣士ディランは、僕と共にパーティーを集めて成長して行き…数々の魔王軍の配下を討伐して行き、なんと勇者の称号を得る事になった。 するとディランは、勇者の称号を得てからというもの…態度が横柄になり、更にはパーティーメンバー達も調子付いて行った。 それからと言うもの、調子付いた勇者ディランとパーティーメンバー達は、レベルの上がらないサポート役の僕を邪険にし始めていき… 遂には、役立たずは不要と言って僕を追い出したのだった。 ……とまぁ、ここまでは良くある話。 僕が抜けた勇者ディランとパーティーメンバー達は、その後も活躍し続けていき… 遂には、大魔王ドゥルガディスが収める魔大陸を攻略すると言う話になっていた。 「おやおや…もう魔大陸に上陸すると言う話になったのか、ならば…そろそろ僕の本来のスキルを発動するとしますか!」 それから数日後に、ディランとパーティーメンバー達が魔大陸に侵攻し始めたという話を聞いた。 なので、それと同時に…僕の本来のスキルを発動すると…? 2月11日にHOTランキング男性向けで1位になりました。 皆様お陰です、有り難う御座います。

収奪の探索者(エクスプローラー)~魔物から奪ったスキルは優秀でした~

エルリア
ファンタジー
HOTランキング1位ありがとうございます! 2000年代初頭。 突如として出現したダンジョンと魔物によって人類は未曾有の危機へと陥った。 しかし、新たに獲得したスキルによって人類はその危機を乗り越え、なんならダンジョンや魔物を新たな素材、エネルギー資源として使うようになる。 人類とダンジョンが共存して数十年。 元ブラック企業勤務の主人公が一発逆転を賭け夢のタワマン生活を目指して挑んだ探索者研修。 なんとか手に入れたものの最初は外れスキルだと思われていた収奪スキルが実はものすごく優秀だと気付いたその瞬間から、彼の華々しくも生々しい日常が始まった。 これは魔物のスキルを駆使して夢と欲望を満たしつつ、そのついでに前人未到のダンジョンを攻略するある男の物語である。

落ちこぼれの貴族、現地の人達を味方に付けて頑張ります!

ユーリ
ファンタジー
気がつくと、見知らぬ部屋のベッドの上で、状況が理解できず混乱していた僕は、鏡の前に立って、あることを思い出した。 ここはリュカとして生きてきた異世界で、僕は“落ちこぼれ貴族の息子”だった。しかも最悪なことに、さっき行われた絶対失敗出来ない召喚の儀で、僕だけが失敗した。 そのせいで、貴族としての評価は確実に地に落ちる。けれど、両親は超が付くほど過保護だから、家から追い出される心配は……たぶん無い。 問題は一つ。 兄様との関係が、どうしようもなく悪い。 僕は両親に甘やかされ、勉強もサボり放題。その積み重ねのせいで、兄様との距離は遠く、話しかけるだけで気まずい空気に。 このまま兄様が家督を継いだら、屋敷から追い出されるかもしれない! 追い出されないように兄様との関係を改善し、いざ追い出されても生きていけるように勉強して強くなる!……のはずが、勉強をサボっていたせいで、一般常識すら分からないところからのスタートだった。 それでも、兄様との距離を縮めようと努力しているのに、なかなか縮まらない! むしろ避けられてる気さえする!! それでもめげずに、今日も兄様との関係修復、頑張ります! 5/9から小説になろうでも掲載中

備蓄スキルで異世界転移もナンノソノ

ちかず
ファンタジー
久しぶりの早帰りの金曜日の夜(但し、矢作基準)ラッキーの連続に浮かれた矢作の行った先は。 見た事のない空き地に1人。異世界だと気づかない矢作のした事は? 異世界アニメも見た事のない矢作が、自分のスキルに気づく日はいつ来るのだろうか。スキル【備蓄】で異世界に騒動を起こすもちょっぴりズレた矢作はそれに気づかずマイペースに頑張るお話。 鈍感な主人公が降り注ぐ困難もナンノソノとクリアしながら仲間を増やして居場所を作るまで。

処理中です...