スキル『箱庭』を手にした男ののんびり救世冒険譚〜ハズレスキル? とんでもないアタリスキルでした〜

夜夢

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第40話 決着

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 ベネティアが投降した事も知らずにドレイクとグレイルの口論が続いていた。

「ハロルドがいねぇんだから次の頭は一番の古株の俺だろうが!」
「頭の悪い貴方に従って勝てるのですか? 戦力はもう我々しかいないではないか」
「だから俺が使ってやるって言ってんだろうが!」
「魔導のまの字も知らぬ貴方に指揮など任せられんよ。早く死んで下さい」
「てめぇが死ねっ!」
「グレイル様! 危ないっ!!」

 ついにキレたドレイクはグレイルに向け背中にあった大剣を抜き構えた。それに対しグレイルの配下達も一斉に杖を構え詠唱を始めた。

「ちぃっ! ベネティアァァッ! 力貸せ──は? て、てめぇっ! 何してやがる!?」
「とっくに投降してますが何か? 勝ち目ないじゃない。あんたらも諦めたら?」
「ふざけんじゃねぇっ! 捕まったら処刑されちまうだろうが!」
「私は違うわよ。だって諜報活動しかしてないもの」
「同罪だよ馬鹿野郎!?」
「やれやれ……」

 ベネティアがレイに尋ねる。

「お、恩赦……あるのよね?」
「さあ。決めるのはヴェルデ王だし。僕はただの冒険者だからわからないな」
「は、はぁっ!? 話が違うじゃないっ! 恩赦がもらえるから投降したのに!」
「僕頷いてないよね」
「そ、そんなぁ~! 詐欺よぉぉぉっ!」
「詐欺とは酷いな。抵抗したら今死ぬけど捕まったら正しく裁かれるだけじゃないか。決めるのは国でしょ? さて」

 レイは片手で刀を構え、もう一方の手で魔力を練る。

「言い争いは終わった? 抵抗するか投降するか聞こうか」
「誰が捕まるかっ! グレイル! いくぞっ!」
「仕方ありませんね。魔導部隊! 標的に魔法を放ちなさい!」
「同時に行くぞ! しゃあぁぁぁぁっ!」

 ドレイクの巨体が真っ直ぐレイに向かってくる。その背後からグレイル率いる魔導師達がレイに向け魔法を放った。

 レイは魔法の起動を読み、バックステップした。

「ぐがぁぁぁぁっ!? な、なにしてん……だ……ぐふっ」
「なっ!?」

 バックステップした瞬間ドレイクが向かう勢いを増し、魔法の射線上に入った。放たれた魔法は全てドレイクの背中に命中し、ドレイクは炎に包まれ地面へと崩れ落ちた。

「自爆だね。そしてお前達も終わりだ。詠唱より早く僕はお前達を斬れる。どうする?」
「く、くそっ!」

 グレイルは配下達の後ろに隠れた。

「お前達、時間を稼ぎなさい!」
「「「「はっ!」」」」

 グレイルは配下を肉壁にしネストの死体に近付こうとする。

「させないよ。はっ!!」
「ひっ!? く、くるなぁぁっ! 我はまだ死ぬわけ──があっ!?」

 レイは配下達の間を縫い先に背を向けたグレイルに背後から刀を突き刺した。

「狙いは転移石だろ? 前にそれで逃げられたからね。二度目はないよ」

 もの言わなくなったグレイルから刀を引き抜き血を払う。

「まだ抵抗する? リーダー達全員いなくなったけど」
「わ、我らは決して屈しはしないっ! 徹底抗戦だっ!」
「来るなら来いっ! 抗うなら倒すまでだっ!」

 魔法を放つ時間を稼げない魔導師達は杖を振り回しながら特攻してくるも、レイに敵うはずもなくあっけなく全滅した。

 全てを倒し終えたレイはネストの遺体に近付き懐を漁る。

「あった、転移石。これは僕がもらうよ」

 レイはこっそりと転移石を収納に放り込み、ベネティアに近付く。

「そろそろ夜明けだ。後は王国軍が来るのを待つだけだ」
「ね、ねぇ。助けてよぉ~」
「一応無抵抗だった事だけは伝える。投降したとはいえ貴女も反乱に加担したんだ。罪は償う、当たり前の話でしょ」
「ちっくしょぉぉっ! たった一人に負けるなんてっ! ぐやじぃぃぃっ!」

 それからレイは諦めたベネティアを連れ門を開いた。そして夜が明け数時間後。

「た、隊長! エスタの門が上がってます!」
「な、なにっ!? 敵影は!」
「ありません!」
「なんだと? 中に誘導されているのか? 一先ず陛下に伺いを立てる」
「はっ!」

 先頭にいた騎士隊長が馬を走らせ最後尾にいるヴェルデとオルスの下へと向かう。

「陛下! エスタの門が開かれております!」
「は? 門が? 罠か? オルス、どう思うよ?」
「罠……だろうな。何もない平地で戦うよりは遮蔽物のある街中で戦う方が少ない兵力で痛手を与えられる。猿でもわかる兵法だ」

 オルスは騎士隊長に命じた。

「まず少数部隊で門を確保! 外壁の上に敵がいないか確認しつつ速やかに入り口を封鎖!」
「はっ!」

 そして部隊が前進してすぐにまた騎士隊長が戻ってきた。

「陛下! エスタはすでに落ちておりました!」
「……は?」
「冒険者のレイ殿が敵の一人を確保し町の中央にて待機されております!」
「なぁにぃ~!? レイだと!? あ、あの野郎……抜け駆けしやがったな!? オルス!」
「行きましょうか」

 ヴェルデとオルスは馬を歩かせエスタに入る。町の中央に近付くとレイが手を挙げヴェルデに挨拶した。

「レイ~! てんめぇぇぇっ、一人でお楽しみたぁ良い度胸じゃねぇか!」
「えぇぇ……」

 ヴェルデは笑顔で怒りながら馬を降りた。同じ馬を降りたオルスがレイに尋ねる。

「レイ殿、その者は?」
「反乱軍の一人で白い蛇頭目のベネティアだそうです。配下は王都に潜入しているそうですよ」
「他の敵は?」
「あちこちで倒れてます。生き残りはこのベネティアだけですね」
「そうか」

 オルスは後ろにいた騎士隊長に命じた。

「各員町の中を捜索しろ。死体一つ残さず回収だ」
「はっ!」

 オルスの命を受け全ての騎士が街中から反乱軍の遺体を次々と運び出して町の中央に積み上げていった。

「オルス様! ハロルドとドーレの遺体を発見いたしました!」
「そうか」
「マジで一人で殺ったのお前? どうやったんだ?」
「深夜上空から闇魔法を乱発しまして」
「えげつねぇなぁ……。とりあえずお前逮捕な」
「へ?」

 ヴェルデがレイの腕に手錠をかけた。

「な、なんで!?」
「逃走防止のためだな。俺の国でこんな大暴れしといてはいサヨナラってわけにゃいかねぇんだわ。これからミッチリ取り調べな?」
「う、嘘でしょ?」
「マジだ。まぁしばらく城でのんびり過ごせよ。全ての処理が終わるまでな」
「よ、良かれと思ってやったのに!?」

 その後、エスタの町から全ての遺体が荷車に積まれ、王都へと運ばれた。

 そして翌日、捕まったベネティアの姿を見たのか白い蛇の団員全員が出頭し、エルドニア王国の騒動は集結した。反乱軍に怯えて国民は晒し首になったハロルドとドーレ、そして黒焦げのドレイク、グレイル、ネストの首を見て戦の危機は去ったのだと安堵した。

「で、僕はいつ解放されるんですか?」
「お前にゃ聞きたい事が山ほどあるからよ。つーか敵の首が足りんのだが」
「ああ、もしかしてエルフですか?」
「エルフだ?」
「はい。エルフはハロルドに騙されて反乱軍に参加していたみたいです。僕の話を聞いて嘘だとわかったらさっさと帰って行きましたよ。近々遣いを寄越すと言い残していきました」
「なるほどなぁ。エルフか。遣いが来たらお前も来い。それが終わったら解放してやんよ」
「わかりましたよ」

 この一ヶ月後、王城にエルフの一団がやってきたのだった。
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