スキル『箱庭』を手にした男ののんびり救世冒険譚〜ハズレスキル? とんでもないアタリスキルでした〜

夜夢

文字の大きさ
74 / 81

第74話 出陣

しおりを挟む
 メディスとの話し合いにより、レイが北からの侵略を防ぎ、勇者の力を持つメディスが南のフォールガーデンを担当する事に決まった。

 出陣は二週間後。それまでの間にメディスの呼び掛けでエイジアン王国の住民がレイの箱庭に避難する事になった。

「へぇ~……これが箱庭なのね。こんなのズルいわよ~」
「ズルい?」
「当たり前じゃない。私達には成長限界があるけどレイは住民を増やせば増やすだけパワーアップしちゃうんでしょ? こんなの見たら努力するのがバカらしくなっちゃうわ」

 レイはまだ本質を理解していないメディスに言った。

「簡単に住民を増やせばって言うけどさ、住民を増やすのって案外難しいものだよ。メディスも為政者ならわかるだろ?」
「あ、その辺は大臣に丸投げしてるからちょっと」
「……」

 レイは可哀想なものを見る目でメディスを見た。

「ただ入れておくだけじゃ牢屋と変わらないし、無理矢理領土を拡大しているゴルゴーン帝国と同じだよ。そんな場所に望んで住みたい人なんかいないだろ。僕は力になってくれる全ての住民のために何でもするつもりだよ」
「レイは国王に向いてるかもしれないわね。きっと素晴らしい国を作るんだろうな~」
「これは箱庭の中だからできてるだけで、実際に地上で同じ事はできないよ」

 そこにエイジアン王国の大臣が駆け寄ってきた。

「メディス様、たった今最後の国民がこちらに入りました。レイ様、国民を代表し感謝いたしますっ!」
「いえいえ。困った時はお互い様ですよ。これから戦が終わるまでこの中で暮らしてもらいます。もし不満な点があれば町長のクレハに言伝をお願いします。すぐに対応いたしますので」

 大臣は袖で目元を拭いながら声を震わせ口を開いた。

「これが王たる者の資質ですぞっ! メディス様、少しはレイ様を見習って下さいませっ!」
「な、なによ~」
「国民の声も聞かず西に東に飛び回る始末っ! 戦だけが政治ではないのですぞっ!」
「べ、別に良いじゃない。私は勇者で戦う事しかできないしっ。それに……私とレイが結婚したらレイが王になるから良いじゃない」
「あなたの様な戦バカとレイ様が釣り合うとお思いですか?」
「ぶっ飛ばすわよ!?」

 大臣はレイに深々と頭を下げた。

「レイ様、メディス様のたわ言は聞き流して下さって構いませんっ。ですが億が一メディス様に気持ちがおありでしたら我がエイジアン王国の民を救うとお思い力をお貸し下されっ」
「えっと……その件につきましては全てが片付いてからまた改めてで」
「もちろんいつまででもお待ちいたしますぞ。では仕事に戻ります故、お気をつけ下さい」
「ありがとうございます」

 大臣が去りメディスは腕組みをして頬を膨らませていた。

「失礼しちゃうわねっ。あの言い方だとまるで私に魅力がないみたいじゃないっ」

 ここで結婚を考えるほどの魅力はないと言えないレイだった。

 そうして避難民のために仮の居住地が設置され、当面の生活基盤を整えレイとメディスは箱庭を出た。

「見事に空になったわね~。人がいないと案外広く見えるものなのね」
「そうだね。メディス、結界解除したらどれくらい力が増すの?」
「五割かな。勇者って魔力回復も早いのよ。結界の維持で使う魔力を攻撃に回せる分かなり余裕かできるわ」
「勇者の方がズルいじゃないか。まさに万能って感じがするよ」
「ふふ~ん、頑張ってるからね。レイ」

 メディスは南に向かう前にレイに言った。

「ゴルゴーン帝国の兵士は容赦なく倒して良いわ。でももし他国の兵が降参を願い出たらできるだけ助けて欲しいの。他国の兵は無理矢理遵わせられてるだけだからっ」
「わかってるよ。戦う意志のない者に追い打ちをかけるほど落ちてないからね。本当なら戦いすらしたくないんだけど」
「ごめんね。その代わりフォールガーデンは必ず解放してくるわ」
「無理はしないようにね」

 レイとメディスは握手を交わし誓いを立てた。

「必ず生きてこの地に戻る。無茶はしない。危ないと思ったら逃げる。良い?」
「ええ。レイは無理矢理戦わせられてる人を助けてねっ。それと無茶は禁物だからね!」
「ああ。俺達の手でこの大陸から争いを無くそう」

 二人はハイタッチを交わし、南北に分かれ移動を開始した。

「さて、町を出てみたは良いけど誰もいないな」

 町を出た先には平原が広がっており、おそらくメディスがやったと思われる敵兵の残骸が散らばっているだけだった。

「あまり町から離れるのもなぁ。少し待機して様子を見ようか。っとその前に」

 レイは町を振り返り手をかざした。

「幻影魔法『イリュージョン』」

 レイの魔法により解除した結界の幻影と町を守る兵士の姿が投影された。

「これで向こうもまさか町が空になってるとは思わないでしょ。あとは敵が来るのを待つのみ。新しい力でも確認しておこうかな」

 レイは敵の姿が見える前にエイジアン王国国民から得たスキルの確認を行うのだった。

 そして南へと向かったメディスはというと。

「な、なにこれ……。見渡す限り瓦礫の山だし生きた人間が一人もいないっ! こんな事が許されて良いのっ!?」
《シネェェェェェッ!》
「また魔人! はぁぁっ! 勇者の一撃っ!」
《ガッ!? アァァ……》

 魔人はメディスの剣に斬られ光となり霧散した。

「魔族が世界を手にしたら人間は終わりだわ……。これは絶対に負けられない戦いよっ!」

 メディスは剣を握る手に力を籠めフォールガーデン王都を目指すのだった。
しおりを挟む
感想 21

あなたにおすすめの小説

備蓄スキルで異世界転移もナンノソノ

ちかず
ファンタジー
久しぶりの早帰りの金曜日の夜(但し、矢作基準)ラッキーの連続に浮かれた矢作の行った先は。 見た事のない空き地に1人。異世界だと気づかない矢作のした事は? 異世界アニメも見た事のない矢作が、自分のスキルに気づく日はいつ来るのだろうか。スキル【備蓄】で異世界に騒動を起こすもちょっぴりズレた矢作はそれに気づかずマイペースに頑張るお話。 鈍感な主人公が降り注ぐ困難もナンノソノとクリアしながら仲間を増やして居場所を作るまで。

異世界に召喚されて2日目です。クズは要らないと追放され、激レアユニークスキルで危機回避したはずが、トラブル続きで泣きそうです。

もにゃむ
ファンタジー
父親に教師になる人生を強要され、父親が死ぬまで自分の望む人生を歩むことはできないと、人生を諦め淡々とした日々を送る清泉だったが、夏休みの補習中、突然4人の生徒と共に光に包まれ異世界に召喚されてしまう。 異世界召喚という非現実的な状況に、教師1年目の清泉が状況把握に努めていると、ステータスを確認したい召喚者と1人の生徒の間にトラブル発生。 ステータスではなく職業だけを鑑定することで落ち着くも、清泉と女子生徒の1人は職業がクズだから要らないと、王都追放を言い渡されてしまう。 残留組の2人の生徒にはクズな職業だと蔑みの目を向けられ、 同時に追放を言い渡された女子生徒は問題行動が多すぎて退学させるための監視対象で、 追加で追放を言い渡された男子生徒は言動に違和感ありまくりで、 清泉は1人で自由に生きるために、問題児たちからさっさと離れたいと思うのだが……

間違い転生!!〜神様の加護をたくさん貰っても それでものんびり自由に生きたい〜

舞桜
ファンタジー
「初めまして!私の名前は 沙樹崎 咲子 35歳 自営業 独身です‼︎よろしくお願いします‼︎」  突然 神様の手違いにより死亡扱いになってしまったオタクアラサー女子、 手違いのお詫びにと色々な加護とチートスキルを貰って異世界に転生することに、 だが転生した先でまたもや神様の手違いが‼︎  神々から貰った加護とスキルで“転生チート無双“  瞳は希少なオッドアイで顔は超絶美人、でも性格は・・・  転生したオタクアラサー女子は意外と物知りで有能?  だが、死亡する原因には不可解な点が…  数々の事件が巻き起こる中、神様に貰った加護と前世での知識で乗り越えて、 神々と家族からの溺愛され前世での心の傷を癒していくハートフルなストーリー?  様々な思惑と神様達のやらかしで異世界ライフを楽しく過ごす主人公、 目指すは“のんびり自由な冒険者ライフ‼︎“  そんな主人公は無自覚に色々やらかすお茶目さん♪ *神様達は間違いをちょいちょいやらかします。これから咲子はどうなるのか?のんびりできるといいね!(希望的観測っw) *投稿周期は基本的には不定期です、3日に1度を目安にやりたいと思いますので生暖かく見守って下さい *この作品は“小説家になろう“にも掲載しています

他人の寿命が視える俺は理を捻じ曲げる。学園一の美令嬢を助けたら凄く優遇されることに

千石
ファンタジー
【第17回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞】 魔法学園4年生のグレイ・ズーは平凡な平民であるが、『他人の寿命が視える』という他の人にはない特殊な能力を持っていた。 ある日、学園一の美令嬢とすれ違った時、グレイは彼女の余命が本日までということを知ってしまう。 グレイは自分の特殊能力によって過去に周りから気味悪がられ、迫害されるということを経験していたためひたすら隠してきたのだが、 「・・・知ったからには黙っていられないよな」 と何とかしようと行動を開始する。 そのことが切っ掛けでグレイの生活が一変していくのであった。 他の投稿サイトでも掲載してます。 ※表紙の絵はAIが生成したものであり、著作権に関する最終的な責任は負いかねます。

散々利用されてから勇者パーティーを追い出された…が、元勇者パーティーは僕の本当の能力を知らない。

アノマロカリス
ファンタジー
僕こと…ディスト・ランゼウスは、経験値を倍増させてパーティーの成長を急成長させるスキルを持っていた。 それにあやかった剣士ディランは、僕と共にパーティーを集めて成長して行き…数々の魔王軍の配下を討伐して行き、なんと勇者の称号を得る事になった。 するとディランは、勇者の称号を得てからというもの…態度が横柄になり、更にはパーティーメンバー達も調子付いて行った。 それからと言うもの、調子付いた勇者ディランとパーティーメンバー達は、レベルの上がらないサポート役の僕を邪険にし始めていき… 遂には、役立たずは不要と言って僕を追い出したのだった。 ……とまぁ、ここまでは良くある話。 僕が抜けた勇者ディランとパーティーメンバー達は、その後も活躍し続けていき… 遂には、大魔王ドゥルガディスが収める魔大陸を攻略すると言う話になっていた。 「おやおや…もう魔大陸に上陸すると言う話になったのか、ならば…そろそろ僕の本来のスキルを発動するとしますか!」 それから数日後に、ディランとパーティーメンバー達が魔大陸に侵攻し始めたという話を聞いた。 なので、それと同時に…僕の本来のスキルを発動すると…? 2月11日にHOTランキング男性向けで1位になりました。 皆様お陰です、有り難う御座います。

世界最強の賢者、勇者パーティーを追放される~いまさら帰ってこいと言われてももう遅い俺は拾ってくれた最強のお姫様と幸せに過ごす~

aoi
ファンタジー
「なぁ、マギそろそろこのパーティーを抜けてくれないか?」 勇者パーティーに勤めて数年、いきなりパーティーを戦闘ができずに女に守られてばかりだからと追放された賢者マギ。王都で新しい仕事を探すにも勇者パーティーが邪魔をして見つからない。そんな時、とある国のお姫様がマギに声をかけてきて......? お姫様の為に全力を尽くす賢者マギが無双する!?

収奪の探索者(エクスプローラー)~魔物から奪ったスキルは優秀でした~

エルリア
ファンタジー
HOTランキング1位ありがとうございます! 2000年代初頭。 突如として出現したダンジョンと魔物によって人類は未曾有の危機へと陥った。 しかし、新たに獲得したスキルによって人類はその危機を乗り越え、なんならダンジョンや魔物を新たな素材、エネルギー資源として使うようになる。 人類とダンジョンが共存して数十年。 元ブラック企業勤務の主人公が一発逆転を賭け夢のタワマン生活を目指して挑んだ探索者研修。 なんとか手に入れたものの最初は外れスキルだと思われていた収奪スキルが実はものすごく優秀だと気付いたその瞬間から、彼の華々しくも生々しい日常が始まった。 これは魔物のスキルを駆使して夢と欲望を満たしつつ、そのついでに前人未到のダンジョンを攻略するある男の物語である。

誰一人帰らない『奈落』に落とされたおっさん、うっかり暗号を解読したら、未知の遺物の使い手になりました!

ミポリオン
ファンタジー
旧題:巻き込まれ召喚されたおっさん、無能で誰一人帰らない場所に追放されるも、超古代文明の暗号を解いて力を手にいれ、楽しく生きていく  高校生達が勇者として召喚される中、1人のただのサラリーマンのおっさんである福菅健吾が巻き込まれて異世界に召喚された。  高校生達は強力なステータスとスキルを獲得したが、おっさんは一般人未満のステータスしかない上に、異世界人の誰もが持っている言語理解しかなかったため、転移装置で誰一人帰ってこない『奈落』に追放されてしまう。  しかし、そこに刻まれた見たこともない文字を、健吾には全て理解する事ができ、強大な超古代文明のアイテムを手に入れる。  召喚者達は気づかなかった。健吾以外の高校生達の通常スキル欄に言語スキルがあり、健吾だけは固有スキルの欄に言語スキルがあった事を。そしてそのスキルが恐るべき力を秘めていることを。 ※カクヨムでも連載しています

処理中です...