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第一章 最初の国エルローズにて
第31話 奇跡
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総一朗は刀に入った亀裂を眺め眉をしかめていた。
「……そう言えば……あっちとは時間の流れが違うんだったな。総の奴……まさか倒幕派とやり合って負けたか? こいつは俺にそれを知らせるために?」
総一朗はそっと刀を鞘に戻した。
「ここは不思議な力がある世界だし、いつか直せる方法も見つかるだろ。それまで休んでてくれよ、菊一文字」
総一朗は刀を労い魔法の袋に収納した。
「さて……何か目ぼしい武器あったかな。米以外どうでも良かったから適当に放り込んでたしな」
代わりの武器を探そうと魔法の袋を漁っていると、総一朗の足元で一匹の黒猫が鳴いた。
「にゃ~」
「ん? 猫? なんでダンジョンに? うぉっ!?」
突如空間が目映い光に包まれた。とても目を開けていられないほどの目映さだ。やがて光が収束し総一朗は目を開く。
「なん──は? そ、総っ!?」
足元にいた黒猫が消え、代わりに総一朗の弟である総司が現れた。だが眠ったまま目を開かない。総一朗は総司を抱き起こし肩を揺らして声をかける。
「総っ、総っ!! 起きろお前っ!」
「ん……ここ……は……」
「総っ!」
総司の目が開く。
「に……兄さん……? 兄さんっ!?」
「やっぱり総か! ははっ、すっかり老けたなお前」
「兄さん……。じゃあ……やっぱり僕は死んだんだ」
「みたいだな。だが……」
総一朗は総司を抱き起こし上から下まで見る。
「総は二十代半ばくらいか?」
「うん。あれ? 兄さん若くない!?」
「あん? まぁ……死んだ歳のままだからな。加えて言うと、俺が死んでからまだ数ヶ月くらいだぞ」
「え? あ、あれから十年以上経ってるのに?」
総一朗は総司に告げた。
「あっちとは時間の流れが違うらしいんだわ」
「あっち?」
「俺達がいた世界だ。どうやらここは違う世界らしくてな、総に殺られて目が覚めたらここにいたんだわ」
「あ……その……。兄さん、ごめん……」
「ははっ、気にすんな。だが……まさかお前までこっちに来るとはなぁ~。誰に殺られたんだ? 西郷さんか? 桂か? まさか高杉じゃねぇよな?」
総司は首を横に振った。
「……いや、違うよ。僕は労咳だったんだ。最後は血を吐いて一人で死んだんだよ」
「病か……。さすがにお前でも病には勝てなかったか。戦えずに死ぬなんて……さぞ無念だったろう」
「……うん。皆を助けられなかったのが悔しいよ」
総一朗はそう言って落ち込む総司の肩に手を置いた。
「ま、今まで頑張ったんだ。ここでのんびり休めよ総」
「兄さん……、って言うか……僕の方が歳上になっちゃったね。兄さんって変だよ」
「はっ、うっせ」
「はははははっ」
総司は久しぶりに心から笑顔を見せた。
「さて、一度戻るか。総、地上に戻ったらこの世界の事を色々教えてやるよ。ついてきな」
「うん、兄さん」
総一朗は奥にいるボスより弟の総司を優先した。総一朗は地下九十階の入り口へと戻り松明を下ろした。
「わっ!?」
総司はいきなり現れた光に驚き総一朗にしがみついた。
「総、目を開けな」
「え? あ、あれ!? 外!? な、なんで!?」
「ここはこう言う不思議な力が存在する世界なんだよ。例えば……これ。【ファイアアロー】」
「は、はぁぁっ!?」
総司は目を見開き驚いた。天に向け伸びた総一朗の指先から炎の矢が飛び出したのである。
「兄さん! い、今何したの!?」
「驚いたか? これが不思議な力の一つ、魔法ってやつだ」
「魔……法? そっか、てっきり陰陽師にでもなったかと思ったよ」
「まぁ、似た力は使えるな。悪霊退治もできるぜ」
「へぇ~……」
総司はまるで子供の頃に戻ったかのように瞳を輝かせていた。だが総一朗の腰を見て真剣な表情になる。
「兄さん、剣はやめたの?」
「剣? あ、そうだ!」
総一朗は魔法の袋にしまった菊一文字を取り出す。
「わわっ!? な、なにその袋……え? あぁぁぁぁぁっ! それ僕の菊一文字じゃないか!」
「いやぁ~、何かこっちに来た時持っててな」
「ある日突然失くなって探してたんだよそれ!」
総一朗は総司に菊一文字を手渡した。総司は懐かしい手触りを確め鞘から刀身を抜き絶叫した。
「ひ、ひび割れてるぅぅぅぅぅぅっ!」
「すまんっ! ちゃんと手入れはしてたんだが……。さっき急に亀裂が入って……」
「……それって……まさか僕が死んだから?」
「多分な。だが安心しな。こっちには不思議な力があるからな。多分それも直す方法があるだろうよ」
「……そっか。じゃあこれは僕が持っておくよ。兄さん、剣続けてたんだね」
「だからまだ数ヶ月しか経ってねぇっての。お前こそ少しは腕上げたか?」
その問い掛けに総司はニッコリ笑ってこう答えた。
「もちろん。兄さんと殺り合った時以上に強くなってるよ」
「ほ~う。だが……まだまだだな。今の俺と総じゃ天地くらい差があるだろう」
「む。舐めないで欲しいなー」
「そうじゃないんだよ。ま、そこも説明してやるよ。俺こっちで店を開いてんだ。まずはそこに行こうぜ」
「店を? 兄さんずいぶん楽しそうな事してるね。僕はこの十年近く毎日人を斬り殺してきたっていうのに……」
「はははは、まぁ俺も戦いだけの人生はつまらんと思ってな。そうだ、店に着いても驚くなよ?」
「え? なにかあるの??」
そう首を傾げる総司だが、総一朗は悪い笑みを浮かべたまま説明をしなかった。
そしてデリル村に着き店に入った。
「戻ったか、総一朗。……大人の総一朗がいる!?」
「わわっ! か、格好いい……」
「ただいま。弁慶、義経」
「え? べ、べべべべ弁慶に義経って!? あ、あの弁慶と義経ぇぇぇぇぇっ!?」
「そうだ。驚いたろ? ははははっ」
総一朗は驚く総司を見てただただ腹を抱えるのだった。
「……そう言えば……あっちとは時間の流れが違うんだったな。総の奴……まさか倒幕派とやり合って負けたか? こいつは俺にそれを知らせるために?」
総一朗はそっと刀を鞘に戻した。
「ここは不思議な力がある世界だし、いつか直せる方法も見つかるだろ。それまで休んでてくれよ、菊一文字」
総一朗は刀を労い魔法の袋に収納した。
「さて……何か目ぼしい武器あったかな。米以外どうでも良かったから適当に放り込んでたしな」
代わりの武器を探そうと魔法の袋を漁っていると、総一朗の足元で一匹の黒猫が鳴いた。
「にゃ~」
「ん? 猫? なんでダンジョンに? うぉっ!?」
突如空間が目映い光に包まれた。とても目を開けていられないほどの目映さだ。やがて光が収束し総一朗は目を開く。
「なん──は? そ、総っ!?」
足元にいた黒猫が消え、代わりに総一朗の弟である総司が現れた。だが眠ったまま目を開かない。総一朗は総司を抱き起こし肩を揺らして声をかける。
「総っ、総っ!! 起きろお前っ!」
「ん……ここ……は……」
「総っ!」
総司の目が開く。
「に……兄さん……? 兄さんっ!?」
「やっぱり総か! ははっ、すっかり老けたなお前」
「兄さん……。じゃあ……やっぱり僕は死んだんだ」
「みたいだな。だが……」
総一朗は総司を抱き起こし上から下まで見る。
「総は二十代半ばくらいか?」
「うん。あれ? 兄さん若くない!?」
「あん? まぁ……死んだ歳のままだからな。加えて言うと、俺が死んでからまだ数ヶ月くらいだぞ」
「え? あ、あれから十年以上経ってるのに?」
総一朗は総司に告げた。
「あっちとは時間の流れが違うらしいんだわ」
「あっち?」
「俺達がいた世界だ。どうやらここは違う世界らしくてな、総に殺られて目が覚めたらここにいたんだわ」
「あ……その……。兄さん、ごめん……」
「ははっ、気にすんな。だが……まさかお前までこっちに来るとはなぁ~。誰に殺られたんだ? 西郷さんか? 桂か? まさか高杉じゃねぇよな?」
総司は首を横に振った。
「……いや、違うよ。僕は労咳だったんだ。最後は血を吐いて一人で死んだんだよ」
「病か……。さすがにお前でも病には勝てなかったか。戦えずに死ぬなんて……さぞ無念だったろう」
「……うん。皆を助けられなかったのが悔しいよ」
総一朗はそう言って落ち込む総司の肩に手を置いた。
「ま、今まで頑張ったんだ。ここでのんびり休めよ総」
「兄さん……、って言うか……僕の方が歳上になっちゃったね。兄さんって変だよ」
「はっ、うっせ」
「はははははっ」
総司は久しぶりに心から笑顔を見せた。
「さて、一度戻るか。総、地上に戻ったらこの世界の事を色々教えてやるよ。ついてきな」
「うん、兄さん」
総一朗は奥にいるボスより弟の総司を優先した。総一朗は地下九十階の入り口へと戻り松明を下ろした。
「わっ!?」
総司はいきなり現れた光に驚き総一朗にしがみついた。
「総、目を開けな」
「え? あ、あれ!? 外!? な、なんで!?」
「ここはこう言う不思議な力が存在する世界なんだよ。例えば……これ。【ファイアアロー】」
「は、はぁぁっ!?」
総司は目を見開き驚いた。天に向け伸びた総一朗の指先から炎の矢が飛び出したのである。
「兄さん! い、今何したの!?」
「驚いたか? これが不思議な力の一つ、魔法ってやつだ」
「魔……法? そっか、てっきり陰陽師にでもなったかと思ったよ」
「まぁ、似た力は使えるな。悪霊退治もできるぜ」
「へぇ~……」
総司はまるで子供の頃に戻ったかのように瞳を輝かせていた。だが総一朗の腰を見て真剣な表情になる。
「兄さん、剣はやめたの?」
「剣? あ、そうだ!」
総一朗は魔法の袋にしまった菊一文字を取り出す。
「わわっ!? な、なにその袋……え? あぁぁぁぁぁっ! それ僕の菊一文字じゃないか!」
「いやぁ~、何かこっちに来た時持っててな」
「ある日突然失くなって探してたんだよそれ!」
総一朗は総司に菊一文字を手渡した。総司は懐かしい手触りを確め鞘から刀身を抜き絶叫した。
「ひ、ひび割れてるぅぅぅぅぅぅっ!」
「すまんっ! ちゃんと手入れはしてたんだが……。さっき急に亀裂が入って……」
「……それって……まさか僕が死んだから?」
「多分な。だが安心しな。こっちには不思議な力があるからな。多分それも直す方法があるだろうよ」
「……そっか。じゃあこれは僕が持っておくよ。兄さん、剣続けてたんだね」
「だからまだ数ヶ月しか経ってねぇっての。お前こそ少しは腕上げたか?」
その問い掛けに総司はニッコリ笑ってこう答えた。
「もちろん。兄さんと殺り合った時以上に強くなってるよ」
「ほ~う。だが……まだまだだな。今の俺と総じゃ天地くらい差があるだろう」
「む。舐めないで欲しいなー」
「そうじゃないんだよ。ま、そこも説明してやるよ。俺こっちで店を開いてんだ。まずはそこに行こうぜ」
「店を? 兄さんずいぶん楽しそうな事してるね。僕はこの十年近く毎日人を斬り殺してきたっていうのに……」
「はははは、まぁ俺も戦いだけの人生はつまらんと思ってな。そうだ、店に着いても驚くなよ?」
「え? なにかあるの??」
そう首を傾げる総司だが、総一朗は悪い笑みを浮かべたまま説明をしなかった。
そしてデリル村に着き店に入った。
「戻ったか、総一朗。……大人の総一朗がいる!?」
「わわっ! か、格好いい……」
「ただいま。弁慶、義経」
「え? べ、べべべべ弁慶に義経って!? あ、あの弁慶と義経ぇぇぇぇぇっ!?」
「そうだ。驚いたろ? ははははっ」
総一朗は驚く総司を見てただただ腹を抱えるのだった。
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