職業『精霊使い』に覚醒したら人類圏から追放されました(完結)

夜夢

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第2章 ゴルドランド王国侵攻編

04 ウォルフガング王国

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 魔族領に隣接している国は二つ。今絶体絶命な状態に追い込まれている国、ゴルドランド王国とウォルフガング王国だ。外壁上部で監視していた兵が休まず馬を走らせ、アーレス率いる魔王軍の侵攻から二日後、ようやくウォルフガング王に事態が報告された。

「ま、魔族の大群が壁を破壊しただと!?」
「はっ! 魔族の大群はゴルドランド王国に向かった模様! 陛下、我が国は如何動きますか!」
「おのれ魔族め……! 急ぎ戦の準備だ! ゴルドランド王国と我が国の戦力は同等だ! 身を弁えぬ魔族を二国で挟撃するぞ! 急ぐのだ!!」
「はっ!!」

 元より魔族領と隣接しているという危機感から、ウォルフガング王国もゴルドランド王国も迅速に挙兵できるだけの準備は整っている。

 ウォルフガング王国は報告から即時戦支度を整え、二日後、ゴルドランド王国の端に到達し、呆然としていた。

「な、なんだこの有り様は……」
「瓦礫の山だ……酷いな……」
「騎士団長、死体が一つもありません! 住民はどこにいったのでしょうか」
「……わからぬ。と、とにかく先に進もう! 陛下、ここはもう手遅れのようです。このまま王都を目指しましょう」
「う……む。あいわかった! 進軍開始だ! 生きている者の保護をしつつ我らは王都に向かう!」
「「「「オォォォォォォォッ!!」」」」

 そう意気込み進軍を続けるウォルフガング王国軍だったが、王都へと近づくごとに破壊度が増していく有り様を見ては士気を下げていった。そしてついに王都近郊へと到着し、王都を取り囲むように待機していた無数の敵を見て絶望を露にした。

「な、なんだ……。なんだあの数は!! あんな数を相手にどう戦えば良いのだ!」
「あ、あり得ない……。魔族とはあんなにも存在していたのか!」
「ち、違います! あれを!」

 騎士の一人が魔王軍を見て言った。

「あの服装は一般人のもの! 恐らく魔王軍の中に死者を操る者がいるかと思われます!」
「死者を……操る? 魔王軍は殺した一般人を兵力に変えているのか! な、なんと非道な!」

 憤る国王に騎士団長が進言する。

「陛下、御決断を。我らは戦うのか、退くのか」
「……あの数を相手どって戦えるわけがない! 退却だ、ゴルドランド王国は陥落した。急ぎ国へと帰還し同盟国に伝えよ! 魔族がゴルドランド王国を手にしたとな!」
「はっ! 総員退却!! 急ぎ国へと戻るぞ!!」
「「「「はっ!」」」」

 ウォルフガング王国軍は王都を取り囲む魔王軍を見て恐れおののき、退却を開始した。

 それを見張り台から見ていた王国の兵が王に告げる。

「な、なんだと!? ウォルフガングの奴ら……我らを見捨てて逃げたと申すか!!」
「は、はい! すでに退却を始め、王都から離れていきました!」
「お、おのれぇぇぇぇぇぇっ!! 我らは同盟国ではなかったのか!! 共に力を合わせ魔族から人々を守ろうと──クソがぁぁぁぁぁぁっ!!」

 王は玉座に向かい拳を振り下ろした。

「へ、陛下……。我々はどうすれば……。このまま籠城を続けたとしても食糧が足りません!」
「わかっておるわっ!! こうなれば仕方ない……」

 王は玉座に腰を下ろし大臣に言った。

「魔族に使者を送れ。我々は降伏するとな」
「ま、魔族に下ると仰られるのですか!」
「それ意外にどんな解決策があると言うのだ! あれに逆らったところで勝ち目はない。ならば少なくとも生き残れる道を模索する事が私の仕事だ」
「陛下……わかりました。すぐに使者を送ります」

 そうして魔王軍の戻ったへと使者が送られ、王都に張られていた結界が解除された。アーレスはアリアとミリアム、そして魔王軍幹部四人を引き連れ王都を歩いた。

「これが人間の町か。綺麗なものじゃな」
「魔王様、あの屋台とか美味しそうなお肉売ってますよ!」
「ふむ」
「あ、おいアリア!」

 魔王がふらふらと屋台に近づく。

「お前、それを妾に献上するのじゃ」
「は、はははははい! ただいまっ!」

 その時だった。小さな子供がアリアに向け石を投げた。だがそこは魔王。投げられた石を難なく掴み、砕いた。

「ま、魔族は今すぐ出ていけっ!」 
「なんじゃ坊主。妾に石を投げるなど……」
「う、うるさいっ! 魔族のせいで皆脅えてるんだ! 魔族なんか死んじゃえばいいっ! ぐっ!?」

 そこでベリアルが間に入り、子供の首を掴み怒りを露にした。

「貴様……誰に石を投げたかわかっているのですか! 子供とて容赦はしませんよっ!!」
「は、はな──」

 子供の声はそこで途切れ、地面に赤い鮮血が滴った。

「ふむ。この肉は美味いな! ミリアムよ、主も食ってみよ」
「はぁ~いっ」
「魔王様! 私も!」
「うむ。レザニアも食え」

 魔王達は自由だった。アーレスはウルスラに尋ねた。

「ウルスラは食わないのか?」
「私は食わない。食事はいらない身体」
「なるほど。アリア、それ食ったら行くぞ。早いとこ休みたい」
「わかっておるわ。店主」
「へ、へいっ!」

 アリアが屋台の店主に語りかける。

「貴様は生かしておくとしよう。妾に逆らわなかったらな」
「さ、逆らうなどとんでもないっ! あ、あっしは皆さんに従いますとも! へ、へへへ……」
「うむ。それで良い。ミリアム、行くぞ」
「は~いっ。おじさん、ごちそうさま!」
「は、ははっ!」

 腹を満たした三人を引き連れ、城内町入る。アーレスはようやく自分を追放した国王と対面を果たした。

「……精霊使いか。まさか貴様が生きて魔王軍と繋がるとはな。我が国を滅茶苦茶にした気分はどうだ?」
「最高だよ。おかげで魔王軍はかなり兵隊を得る事ができた。感謝するよ」
「ふん、やはり処刑しておくべきだったな。情けをかけ追放した私が愚かだったわ!」

 国王は自身に結界を張り身を守っていた。尊大な態度もこの結界に絶対の自信を持っている現れだ。

「精霊使い、貴様の望みはなんだ。言ってみろ」
「望み? そんなのもう気付いてんだろ。国王、お前の命だよ。今すぐその結界を解除し、命を差し出せば他の奴らは見逃してやる。ただし、逆らう者は殺すがな」
「私が命を差し出せば皆を見逃すとな? ハハハハッ! ならばこの結界は決して解かんわっ!」
「なに?」

 国王はアーレスを見ながら嘲笑う。

「貴様にこの結界を破る力はないと見た! ならば私は結界を維持したまま逃げるとしよう!」
「へ、陛下!? 何を仰られるか!! 我らを見捨てると言うか!!」
「……ふん。私とて命は惜しいのでな」
「こ、この卑怯者!!」
「ふん、何とでも言え。では私は去らせてもらおうかの」

 そう言い、玉座から立ち上がった国王を見てアーレスが嗤った。

「ハハハハハハッ!」
「何を笑う」
「清々しいまでのクズだな。民を守って然るべき国王が一人敵前逃亡しようとは……。これを笑わずに何を笑えば良いと?」
「はっ、何とでも言え。何を言ったところでこの結界を破れん貴様が私を殺す事などできんのだからな! ハハハハッ!」

 そう笑いながらアーレスの脇を通り抜けようとした国王をアリアらが止める。

「アーレスよ。もう良いのではないか? こ奴のクズっぷりは皆に伝わったはずじゃ」
「な、なに?」

 アーレスはニヤリと嗤った。

「ああ、そうだな」
「な、なにを言って……」
「今の会話と映像は全て王都にいる国民に伝わっている」
「──は?」
「【ダークトランスミッション】。闇の中級精霊から習った伝達魔法だ。お前が一人逃げ出そうとした事は全部バレてるって言ってんだよ」
「な、なななななっ!? い、今のは嘘だっ! 私は城から出て貴様らを城内に閉じ込めようと──!」
「もう遅いよ」

 王は慌てて立場を取り繕うのだった。
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