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第2章 ゴルドランド王国侵攻編
07 拡大する脅威
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ゴルドランド王国に続きウォルフガング王国が陥落した。魔族領と接する強国二国がいとも簡単に陥落した衝撃は近隣諸国を恐怖に陥れていった。
近隣諸国は慌てて緊急対策会談を執り行い、魔王国バハートスにどう対処するか話し合った。
「魔族領と人間領を隔てていた壁はもうないそうだ」
「うむ。しかも我らの国より強い二国があっけなく陥落したのう」
「まさに非常事態じゃな。次はどの国に攻め込む気かの」
「ウォルフガング、ゴルドランドと隣接している国は四つ。何か情報はありませんの?」
若き王と老いた王二人、そして女王一人がお互いの持つ情報を提示していく。
「一つあるぞ。何でも魔王国バハートスの王は魔王を妻に迎えた人間らしい」
「それは誠か? ならばその人間は追放者か」
「ワシも情報を持っておるぞ。その人間はゴルドランド王国から追放された【精霊使い】らしいぞ」
「精霊使い……。わかったわ! だから神殿を破壊し、神官を殺させたのね!」
「「何の話じゃ?」」
老いた王二人が女王に問い掛ける。
「ウォルフガング王国の神殿が全て破壊され、神官の首が魔王国の王に献上されたらしいわ」
「お主、どこでその話を……」
「私の国はウォルフガングに間者を送ってたのよ」
「ふむ……。神殿に神官か。ならば魔王国の王は追放者で確定じゃな。おそらく魔族領に追放されたその人間は神殿……いや、聖フランチェスカ教国に恨みを抱いておるのじゃろう」
そこで若き王が口を開く。
「助かりそうな案が浮かんだ」
「聞きたくないが、一応聞こうかの」
「魔国王の要望が神殿と神官の首なら、あちらから要求が出される前に差し出せば良いのではないか?」
「やはりそうなるか。だがな、それだと我らは聖フランチェスカ教国の敵になってしまう。加えて神殿がなくなれば新たに職業を授かる場がなくなってしまうぞ?」
女王が 口を開く。
「ねぇ、一つ疑問があるのだけれど」
「なにか?」
「職業とは神官がいなければ授かれないのでしょうか?」
「「「は?」」」
三人は虚をつかれた顔で女王を見る。
「職業を授かる時水晶に触れるでしょう? 確かにその前に神官の祝詞があり身体が光るけど……あの水晶は本当に鑑定水晶なのかしら?」
「……わからん。その辺りは教国が管理しているからな」
「これは仮説なのですが……。あの祝詞に全く意味がなく、神官は光の魔法を使っているに過ぎないのでは? そして……あの水晶こそが職業を得るために必要なのでは……」
その仮説を聞き、三人は悩み始めた。
「ふ~む……。その仮説を確認するためには水晶が必要じゃな」
「今の仮説が的を射ていたとすると……教国は長年我らを謀り対価を得ていた事になるのう」
「それが事実だとしたら世界が根本から狂う可能性があるな。だが……確かめてみる価値はありそうだ」
そこで女王が懐から水晶を取り出した。
「「「そ、それは!」」」
「ふふっ、ウォルフガングにあった水晶の一つです。間者が瓦礫の中から持ち帰りましたの」
「試したのか!?」
「まだですわ。運悪く関係者の中に成人する者がいませんでしたの」
そこで老いた王が立ち上がる。
「それなら随伴したワシの娘で確かめよう。明日成人を迎えるでな」
「明日か。これはまた良いタイミングだな」
「ちょうど良い。明日確かめてみるとしよう」
そして翌日。王女が会談の場に呼び出され、そこで成人の儀が始まった。
「お父様! 私の職業【炎術士】みたいですわ!」
「「「ほ、本当に職業が……!」」」
「確定ですね。神官には何一つ力がない。重要なのはこの水晶……」
女王は三人の王に言った。
「御三方、私の国はすぐにでも神殿を破壊し、神官の首を差し出そうと思いますが」
「うむ。その時水晶の回収もせねばな」
「ああ、これで国は守れるか心配だが……」
「魔国王の情けに賭けるしかないのう……。だがこれでわかった。神殿はまやかしじゃ。聖フランチェスカ教国は必要ないと確信できたのう」
そして四人は手を重ねた。
「やりましょう、国民を守るために」
「ああ、今代の教皇は何か裏があると思っていたからな。このようなカラクリで金をむしられていたなぞ許せん」
「今の情報と神官の首を差し出し国を守ろう」
「……魔国王が知らなければ良いのじゃがの」
最後の王の不安は的中していた。
ここは魔王国バハートス。ゴルドランド王城を魔王城とし、魔王軍が拠点としている場所。そこで魔王アリアからまさに今同じ話を聞かされていた。
「なるほどなぁ。なぜ神官のいない魔族領の魔族が職業を持っているか謎だったんだよな」
「神官なんぞいらぬのじゃよ。重要なのはこれ。神の涙といわれている【精霊結晶】じゃ」
アリアの手にアーレスが神殿で見た水晶があった。
「精霊水晶ねぇ」
「そうじゃ。これには精霊力が蓄えられておるのじゃ。そして一度限り触れた者の潜在的な力を覚醒させるのじゃ」
「それはまさか成人すら関係ないのでは?」
「うむ。じゃが成人前じゃとなぜか不遇職といわれる職業しか開花せん。おそらく成人までの生き様がトリガーとなっておるのじゃろうが……」
「これは検証する必要がありそうだな。幸いな事に実験材料は豊富にあるし、近隣の国を攻める前に実験しておこうか」
「そうじゃな」
そうして一ヶ月後、実験をしていた魔王国に四つの隣国から神官の首と使者がやってきた。
「ほう、では自ら我が魔王国に下ると?」
「はい。我らは魔王国に逆らう気などございません。神殿も破壊し、こうして神官の首も持参いたしました」
「ふむ。アーレスよ、どうする?」
玉座の間に並ぶ四人の使者を見下ろすアーレスとアリア。アリアはアーレスに決断を促した。
「……お前ら、神殿にあった水晶はどうした?」
「えっ!? あ、そのっ! 水晶は国で保管しておりますが……」
「ならその水晶を渡せ。それでお前らの国と不可侵の条約を結んでやる」
「なっ!? それでは我が国で職業が得られなく……!」
アーレスは肘をつきながら冷たい視線を向けた。
「職業と命、天秤にかけるまでもないだろう? ああ、そんなに水晶が欲しいなら他の国から奪えば良いじゃないか」
「え?」
「俺はお前達の国を攻めない。そしてお前達の国が他の国に戦を仕掛ける事も止めない。水晶が欲しいなら奪い合え」
「そ、そんな……」
アーレスは水晶を戦の理由に仕立て上げる事にした。これで魔王国は疲弊する事なく、人間が人間同士で争う状況を作り上げたのである。
「今の話を国に持ち帰りな。答えは水晶を献上するかどうかで判断してやる。なるべく良い返事を期待しているよ」
「「「「……はっ」」」」
そうして使者達は自国へと戻り、各国の王にアーレスの言葉を伝えた。
「まさか水晶を争いの道具にするなどと……!」
「い、如何いたしますか?」
「……従うしかないだろう。職業はなくても生きては行けるが、魔王国に逆らった瞬間死だ。誰ぞ魔王国に水晶を引き渡すのだ」
「畏まりました」
こうして命ある者に職業を与え、輝かしい未来を与える精霊結晶は戦の理由となった。これより人間領は戦火の絶えない激動の時代へと突入していくのだった。
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「それは誠か? ならばその人間は追放者か」
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「精霊使い……。わかったわ! だから神殿を破壊し、神官を殺させたのね!」
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老いた王二人が女王に問い掛ける。
「ウォルフガング王国の神殿が全て破壊され、神官の首が魔王国の王に献上されたらしいわ」
「お主、どこでその話を……」
「私の国はウォルフガングに間者を送ってたのよ」
「ふむ……。神殿に神官か。ならば魔王国の王は追放者で確定じゃな。おそらく魔族領に追放されたその人間は神殿……いや、聖フランチェスカ教国に恨みを抱いておるのじゃろう」
そこで若き王が口を開く。
「助かりそうな案が浮かんだ」
「聞きたくないが、一応聞こうかの」
「魔国王の要望が神殿と神官の首なら、あちらから要求が出される前に差し出せば良いのではないか?」
「やはりそうなるか。だがな、それだと我らは聖フランチェスカ教国の敵になってしまう。加えて神殿がなくなれば新たに職業を授かる場がなくなってしまうぞ?」
女王が 口を開く。
「ねぇ、一つ疑問があるのだけれど」
「なにか?」
「職業とは神官がいなければ授かれないのでしょうか?」
「「「は?」」」
三人は虚をつかれた顔で女王を見る。
「職業を授かる時水晶に触れるでしょう? 確かにその前に神官の祝詞があり身体が光るけど……あの水晶は本当に鑑定水晶なのかしら?」
「……わからん。その辺りは教国が管理しているからな」
「これは仮説なのですが……。あの祝詞に全く意味がなく、神官は光の魔法を使っているに過ぎないのでは? そして……あの水晶こそが職業を得るために必要なのでは……」
その仮説を聞き、三人は悩み始めた。
「ふ~む……。その仮説を確認するためには水晶が必要じゃな」
「今の仮説が的を射ていたとすると……教国は長年我らを謀り対価を得ていた事になるのう」
「それが事実だとしたら世界が根本から狂う可能性があるな。だが……確かめてみる価値はありそうだ」
そこで女王が懐から水晶を取り出した。
「「「そ、それは!」」」
「ふふっ、ウォルフガングにあった水晶の一つです。間者が瓦礫の中から持ち帰りましたの」
「試したのか!?」
「まだですわ。運悪く関係者の中に成人する者がいませんでしたの」
そこで老いた王が立ち上がる。
「それなら随伴したワシの娘で確かめよう。明日成人を迎えるでな」
「明日か。これはまた良いタイミングだな」
「ちょうど良い。明日確かめてみるとしよう」
そして翌日。王女が会談の場に呼び出され、そこで成人の儀が始まった。
「お父様! 私の職業【炎術士】みたいですわ!」
「「「ほ、本当に職業が……!」」」
「確定ですね。神官には何一つ力がない。重要なのはこの水晶……」
女王は三人の王に言った。
「御三方、私の国はすぐにでも神殿を破壊し、神官の首を差し出そうと思いますが」
「うむ。その時水晶の回収もせねばな」
「ああ、これで国は守れるか心配だが……」
「魔国王の情けに賭けるしかないのう……。だがこれでわかった。神殿はまやかしじゃ。聖フランチェスカ教国は必要ないと確信できたのう」
そして四人は手を重ねた。
「やりましょう、国民を守るために」
「ああ、今代の教皇は何か裏があると思っていたからな。このようなカラクリで金をむしられていたなぞ許せん」
「今の情報と神官の首を差し出し国を守ろう」
「……魔国王が知らなければ良いのじゃがの」
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「なるほどなぁ。なぜ神官のいない魔族領の魔族が職業を持っているか謎だったんだよな」
「神官なんぞいらぬのじゃよ。重要なのはこれ。神の涙といわれている【精霊結晶】じゃ」
アリアの手にアーレスが神殿で見た水晶があった。
「精霊水晶ねぇ」
「そうじゃ。これには精霊力が蓄えられておるのじゃ。そして一度限り触れた者の潜在的な力を覚醒させるのじゃ」
「それはまさか成人すら関係ないのでは?」
「うむ。じゃが成人前じゃとなぜか不遇職といわれる職業しか開花せん。おそらく成人までの生き様がトリガーとなっておるのじゃろうが……」
「これは検証する必要がありそうだな。幸いな事に実験材料は豊富にあるし、近隣の国を攻める前に実験しておこうか」
「そうじゃな」
そうして一ヶ月後、実験をしていた魔王国に四つの隣国から神官の首と使者がやってきた。
「ほう、では自ら我が魔王国に下ると?」
「はい。我らは魔王国に逆らう気などございません。神殿も破壊し、こうして神官の首も持参いたしました」
「ふむ。アーレスよ、どうする?」
玉座の間に並ぶ四人の使者を見下ろすアーレスとアリア。アリアはアーレスに決断を促した。
「……お前ら、神殿にあった水晶はどうした?」
「えっ!? あ、そのっ! 水晶は国で保管しておりますが……」
「ならその水晶を渡せ。それでお前らの国と不可侵の条約を結んでやる」
「なっ!? それでは我が国で職業が得られなく……!」
アーレスは肘をつきながら冷たい視線を向けた。
「職業と命、天秤にかけるまでもないだろう? ああ、そんなに水晶が欲しいなら他の国から奪えば良いじゃないか」
「え?」
「俺はお前達の国を攻めない。そしてお前達の国が他の国に戦を仕掛ける事も止めない。水晶が欲しいなら奪い合え」
「そ、そんな……」
アーレスは水晶を戦の理由に仕立て上げる事にした。これで魔王国は疲弊する事なく、人間が人間同士で争う状況を作り上げたのである。
「今の話を国に持ち帰りな。答えは水晶を献上するかどうかで判断してやる。なるべく良い返事を期待しているよ」
「「「「……はっ」」」」
そうして使者達は自国へと戻り、各国の王にアーレスの言葉を伝えた。
「まさか水晶を争いの道具にするなどと……!」
「い、如何いたしますか?」
「……従うしかないだろう。職業はなくても生きては行けるが、魔王国に逆らった瞬間死だ。誰ぞ魔王国に水晶を引き渡すのだ」
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