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第2章 ゴルドランド王国侵攻編
08 広がる戦火
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聖フランチェスカ教国は虚飾にまみれていた。この事実が魔王国バハートスと近隣四か国の手により暴かれ、さらに周辺国へと伝播していく。これまで精霊神を盲信していた国や、わずかな税収から無理矢理多額の寄付を納めていた小国などは一斉に反旗を翻し、国内から聖フランチェスカ教国の神殿を排除する動きへと変わった。
そして職業を授かるために必要な精霊結晶は国が管理し、奪われた国は奪った国の属国になるという状況を作り上げた。また、いち早くこの精霊結晶が重要なアイテムと気付いた盗賊ギルドや闇ギルドは自らの戦力を率いまだ情報のない他国の神殿を襲撃し、神官を虐殺しつつ精霊結晶を奪うという暴挙に出ていた。そして高学で必要な国に売るビジネスも始まり、世界は荒れに荒れた。
これまで精霊神を信仰していれば平和に暮らせる。その幻想は今まさにガラガラと音を立て崩れていく。そうして人間は魔王軍侵攻からわずか一年足らずで信仰心を失っていった。
そして逆に魔王国は人間の戦に関わらず、日々同胞を増やし、魔族側の神に対する信仰を増やしていった。アーレスは堕天使ラフィエルから神の情報を聞き出し、神殿のあった場所に各神のための神殿を新たに建設させていた。
「魔神ルシファー、邪神ヘル、鬼神酒呑童子だったな。見た目はこんな感じか?」
「ん~……ルシファー様はもうちょいイケメンかな! で、ヘル様は妖艶な感じ! そんで酒呑童子様は頼れる兄貴分みたいな!」
「なんだそのアバウトな要求は。もうちょっと具体的な意見を出してくれよ」
「そう言われてもね~。私が直接面識あるのルシファー様だけだし」
「やれやれ。こいつはとんでもなく面倒な作業になってきたなぁ……」
アーレスは三柱の神像を作り上げ、民に偶像崇拝を促す計画に取り掛かっていた。これにより神力の落ちている三柱の力を増やし、どうにか楽できないか模索している。アーレスは自分を追放した者に復讐を果たし、その元凶となった神殿も人間の手で破壊されていく現状を受け、これまでの苛烈な生き様は陰を潜めていた。
「完璧です! アーレスの魔法は万能ですね!」
「そうかい。やっと満足してくれたか」
「これで信仰心は爆上がり間違いなしですっ!」
「そうなると良いなぁ……」
そうして人々が精霊結晶を奪い合う中のんびりとした日々を過ごしている頃、二十歳で聖女という職業を授かり聖フランチェスカ教国本土へと連行されたアーレスの母親は地下深くの牢獄で同じく連行された者と凄惨な日々を過ごしていた。
「あ~……、やっぱこんなババアじゃ気が乗らねぇな」
「おお、散々使われてユルユルだしな」
「……」
アーレスの母【ヘーラー】は二十歳で投獄され、看守や神官達により二十年もの間汚され続けていた。また、同じく教皇に投獄された女もこのヘーラー同様に汚され、中には自死した者もいた。職業は回るものであり、仮に所有者が死んだ場合はまた別の人間に宿る。この地下牢には二十歳から四十歳の女が鎖で繋がれ、日々凌辱されている。
「気が乗らねぇとか言ってる癖に毎回聖女様ばっかりじゃねぇかお前。しかもきっちり最後までやってるしよ」
「まあ、俺のはデケェからよ。多少ユルくてもお構い無しなんだわ」
「引くわ~……。俺ぁ若い女が良いわ」
「ははははっ、お前のは小せぇからな~」
「人並みはあるっつーの!」
散々欲望を吐き出した看守が遠ざかるとヘーラーは深く息を吐いた。
「……どこまでも汚い……っ! 聖フランチェスカ教国……っ! 世界を平和に導くべく創設された中立国がよもやここまで堕ちてしまうなど──! あぁ……憎いっ!! 例えこの身体が朽ちようとも……っ! ここにいる人間だけは決して許さないっ!」
するとついに聖女ヘーラーに神の奇跡が舞い降りる日がやってきた。
《あら、心地良い感情ねぇ~……ふふふっ》
「え? な、なに!? あっ!? ま、魔封じの鎖が──!」
ヘーラーを壁に繋いでいた魔封じの鎖が砂に変わる。そして床に崩れ落ちたヘーラーの前に思念体の女が浮かび上がった。
「い、今の声はあなた……?」
《ええ。私は邪神ヘルよ。最近信者が増えててね。こ~んな事もできるようになったの》
「邪神……ヘル……ごくり」
ヘーラーは手首を擦りながらヘルを見上げる。
《今はまだ思念体だけどその内実体化もできそうね。これも全部魔王アリアとその夫のアーレスのおかげね~》
「……アーレス? アーレスですって!? どこのアーレスですか!?」
ヘーラーはキッとヘルを睨み付けた。
《決まってるじゃない。あなたの愛しい愛しい息子よ、ヘーラー》
「そん……な! アーレスが魔王の夫ですって!? な、何が起こってるの!?」
《ふふふっ、ちょっと身体借りるわね。何が起きたか全部教えてあ・げ・る》
「あッ──」
ヘルの思念体がヘーラーと重なるかと思いきや、そのまま吸い込まれるように体内に消えた。
「あ……あぁぁぁ……、そんなっ! これが私のアーレス……! な、なんて凛々しく成長して……っ!」
ヘーラーの頭の中で声が響く。
《彼、凄く黒いわよねぇ。貴女も……疼くでしょう?》
「な、何を言って──」
《でも……貴女の身体は穢れている。彼を受け入れる事はできないでしょうねぇ》
「あぁぁ……、穢れて……。ち、違うっ! 私はアーレスをそんな目で見てないわっ!」
《そりゃあ母親ですものねぇ。息子に発情しちゃったら大変。でも……私なら貴女の身体を作り替えてあげられるわよ》
「え?」
ヘーラーの心臓がドクリと高鳴った。
《魔王とその配下、他にも沢山の女性が彼を求め、良い声で鳴いてる。私にこの身を預けてみない? 全て綺麗に作り替えて彼の下に送ってあげるわよ》
「あ……あぁ……っ」
ヘルは甘い言葉でヘーラーを誘惑していく。
「だ、だめ……っ。あなたは邪神よっ! 邪神が無償で動くなんてありえないっ! あなたの望みはなに?」
《そんな大それた望みなんてないわよ? ただ、あなたが彼に抱かれたらこうして同化してる私も快楽を得られるのよ。私、彼が気に入ってるの。だから……貴女を助ける代わりにちょっと私にも御褒美くれないなってね。神と意思疎通がとれるのは聖女だけ。どう? 悪い取引じゃないでしょ?》
「……私が……アーレスと? あ、あれを私が? ガイアスの倍はありそうなアレと……」
ヘーラーは不思議な感情に包まれていた。そこにヘルが最後の鍵を挿し込む。
《身体は二十歳の純潔に。見た目も別人に。でも記憶や意識はそのままに。貴女、この国を潰したいんでしょ? 彼ならきっとやってくれるわ。しかもとびきりの愛情も得られてね。彼も貴女も人間に深い恨みを抱える同志よ。さあ、受け入れたら身体を作り替えて魔王国に転移するわよ?》
「……」
ヘーラーの瞳に昏い光が宿る。この二十年で人間に対する愛情は消えている。そこをヘルに漬け込まれたヘーラーはこの誘いに乗った。
「……やってちょうだい。私の身体、あなたに託すわ。あ、あれの時はでしゃばらないでよね!?」
《ふふふふっ、もちろん。契約成立ね。さあ、復讐の扉を開きましょう、ヘーラー》
「あ──あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
ヘーラーは激痛に悶え苦しんだ。そして翌朝。見回りに来た看守が牢の異常に気付いた。
「なっ!? 聖女が消えただとっ!? ど、どこいったっ!? くそっ!」
慌てて看守総動員で牢獄内を捜索するも、終ぞヘーラーの姿は発見できなかった。
「あれが魔王国バハートス……。ふふふっ、アーレスちゃんっ、今お母さんが行くから待っててね~っ。ふふふふふふっ」
魔王国バハートスにある丘にアーレスと同じ髪色をした二十歳の聖女が立っていた。その様相はどこかヘーラーとヘルが混じりあっており、誰をも魅了するような怪しい雰囲気に包まれていた。
こうして邪神ヘルはアーレスの母ヘーラーと組み、地上世界で暗躍を開始するのだった。
そして職業を授かるために必要な精霊結晶は国が管理し、奪われた国は奪った国の属国になるという状況を作り上げた。また、いち早くこの精霊結晶が重要なアイテムと気付いた盗賊ギルドや闇ギルドは自らの戦力を率いまだ情報のない他国の神殿を襲撃し、神官を虐殺しつつ精霊結晶を奪うという暴挙に出ていた。そして高学で必要な国に売るビジネスも始まり、世界は荒れに荒れた。
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そして逆に魔王国は人間の戦に関わらず、日々同胞を増やし、魔族側の神に対する信仰を増やしていった。アーレスは堕天使ラフィエルから神の情報を聞き出し、神殿のあった場所に各神のための神殿を新たに建設させていた。
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「ん~……ルシファー様はもうちょいイケメンかな! で、ヘル様は妖艶な感じ! そんで酒呑童子様は頼れる兄貴分みたいな!」
「なんだそのアバウトな要求は。もうちょっと具体的な意見を出してくれよ」
「そう言われてもね~。私が直接面識あるのルシファー様だけだし」
「やれやれ。こいつはとんでもなく面倒な作業になってきたなぁ……」
アーレスは三柱の神像を作り上げ、民に偶像崇拝を促す計画に取り掛かっていた。これにより神力の落ちている三柱の力を増やし、どうにか楽できないか模索している。アーレスは自分を追放した者に復讐を果たし、その元凶となった神殿も人間の手で破壊されていく現状を受け、これまでの苛烈な生き様は陰を潜めていた。
「完璧です! アーレスの魔法は万能ですね!」
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「これで信仰心は爆上がり間違いなしですっ!」
「そうなると良いなぁ……」
そうして人々が精霊結晶を奪い合う中のんびりとした日々を過ごしている頃、二十歳で聖女という職業を授かり聖フランチェスカ教国本土へと連行されたアーレスの母親は地下深くの牢獄で同じく連行された者と凄惨な日々を過ごしていた。
「あ~……、やっぱこんなババアじゃ気が乗らねぇな」
「おお、散々使われてユルユルだしな」
「……」
アーレスの母【ヘーラー】は二十歳で投獄され、看守や神官達により二十年もの間汚され続けていた。また、同じく教皇に投獄された女もこのヘーラー同様に汚され、中には自死した者もいた。職業は回るものであり、仮に所有者が死んだ場合はまた別の人間に宿る。この地下牢には二十歳から四十歳の女が鎖で繋がれ、日々凌辱されている。
「気が乗らねぇとか言ってる癖に毎回聖女様ばっかりじゃねぇかお前。しかもきっちり最後までやってるしよ」
「まあ、俺のはデケェからよ。多少ユルくてもお構い無しなんだわ」
「引くわ~……。俺ぁ若い女が良いわ」
「ははははっ、お前のは小せぇからな~」
「人並みはあるっつーの!」
散々欲望を吐き出した看守が遠ざかるとヘーラーは深く息を吐いた。
「……どこまでも汚い……っ! 聖フランチェスカ教国……っ! 世界を平和に導くべく創設された中立国がよもやここまで堕ちてしまうなど──! あぁ……憎いっ!! 例えこの身体が朽ちようとも……っ! ここにいる人間だけは決して許さないっ!」
するとついに聖女ヘーラーに神の奇跡が舞い降りる日がやってきた。
《あら、心地良い感情ねぇ~……ふふふっ》
「え? な、なに!? あっ!? ま、魔封じの鎖が──!」
ヘーラーを壁に繋いでいた魔封じの鎖が砂に変わる。そして床に崩れ落ちたヘーラーの前に思念体の女が浮かび上がった。
「い、今の声はあなた……?」
《ええ。私は邪神ヘルよ。最近信者が増えててね。こ~んな事もできるようになったの》
「邪神……ヘル……ごくり」
ヘーラーは手首を擦りながらヘルを見上げる。
《今はまだ思念体だけどその内実体化もできそうね。これも全部魔王アリアとその夫のアーレスのおかげね~》
「……アーレス? アーレスですって!? どこのアーレスですか!?」
ヘーラーはキッとヘルを睨み付けた。
《決まってるじゃない。あなたの愛しい愛しい息子よ、ヘーラー》
「そん……な! アーレスが魔王の夫ですって!? な、何が起こってるの!?」
《ふふふっ、ちょっと身体借りるわね。何が起きたか全部教えてあ・げ・る》
「あッ──」
ヘルの思念体がヘーラーと重なるかと思いきや、そのまま吸い込まれるように体内に消えた。
「あ……あぁぁぁ……、そんなっ! これが私のアーレス……! な、なんて凛々しく成長して……っ!」
ヘーラーの頭の中で声が響く。
《彼、凄く黒いわよねぇ。貴女も……疼くでしょう?》
「な、何を言って──」
《でも……貴女の身体は穢れている。彼を受け入れる事はできないでしょうねぇ》
「あぁぁ……、穢れて……。ち、違うっ! 私はアーレスをそんな目で見てないわっ!」
《そりゃあ母親ですものねぇ。息子に発情しちゃったら大変。でも……私なら貴女の身体を作り替えてあげられるわよ》
「え?」
ヘーラーの心臓がドクリと高鳴った。
《魔王とその配下、他にも沢山の女性が彼を求め、良い声で鳴いてる。私にこの身を預けてみない? 全て綺麗に作り替えて彼の下に送ってあげるわよ》
「あ……あぁ……っ」
ヘルは甘い言葉でヘーラーを誘惑していく。
「だ、だめ……っ。あなたは邪神よっ! 邪神が無償で動くなんてありえないっ! あなたの望みはなに?」
《そんな大それた望みなんてないわよ? ただ、あなたが彼に抱かれたらこうして同化してる私も快楽を得られるのよ。私、彼が気に入ってるの。だから……貴女を助ける代わりにちょっと私にも御褒美くれないなってね。神と意思疎通がとれるのは聖女だけ。どう? 悪い取引じゃないでしょ?》
「……私が……アーレスと? あ、あれを私が? ガイアスの倍はありそうなアレと……」
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「……」
ヘーラーの瞳に昏い光が宿る。この二十年で人間に対する愛情は消えている。そこをヘルに漬け込まれたヘーラーはこの誘いに乗った。
「……やってちょうだい。私の身体、あなたに託すわ。あ、あれの時はでしゃばらないでよね!?」
《ふふふふっ、もちろん。契約成立ね。さあ、復讐の扉を開きましょう、ヘーラー》
「あ──あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
ヘーラーは激痛に悶え苦しんだ。そして翌朝。見回りに来た看守が牢の異常に気付いた。
「なっ!? 聖女が消えただとっ!? ど、どこいったっ!? くそっ!」
慌てて看守総動員で牢獄内を捜索するも、終ぞヘーラーの姿は発見できなかった。
「あれが魔王国バハートス……。ふふふっ、アーレスちゃんっ、今お母さんが行くから待っててね~っ。ふふふふふふっ」
魔王国バハートスにある丘にアーレスと同じ髪色をした二十歳の聖女が立っていた。その様相はどこかヘーラーとヘルが混じりあっており、誰をも魅了するような怪しい雰囲気に包まれていた。
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