職業『精霊使い』に覚醒したら人類圏から追放されました(完結)

夜夢

文字の大きさ
27 / 55
第3章 打倒、聖フランチェスカ教国編

09 虫けら

しおりを挟む
 停泊していた船は全て破壊され、各大陸に繋がる転移魔法陣も消え去った。

「アーレスちゃん?」
「ん?」
「これ、私達どうやって帰るの?」
「もちろん転移でだが?」
「え? 今破壊しちゃったじゃない」

 するとアーレスは余裕の笑みを浮かべこう告げた。

「あのなぁ、何の策もなく帰る手段を破壊するほどバカじゃないぞ。まあ、俺のは転移魔法陣じゃなく転移ゲートだけどな」
「転移……ゲート?」
「ああ。魔王アリアの部屋にいた精霊から時空魔法を取得している。俺の転移ゲートは一度訪れた事がある場所ならどこでも転移できる魔法なんだよ」
「ははは……。もう何でもありみたいね~……」
「このくらいできなきゃ世界を正せないからな。さて、話はここまでだ。新しい敵のお出ましだ」

 先ほどの伝令を受けた部隊だろうか、重装備で馬に乗った騎士が大挙してやってきた。

「いたぞ! 侵入者は二人組だ! あれに違いないっ!」
「ふざけた奴らだ! どこに侵入したかたっぷり教えてやるぜぇぇぇぇっ!」

 アーレスは向かってくる大群を憐れみポツリと呟いた。

「おーおー……何人いるんだあれ。今から死ぬというのに」
「アーレスちゃん、ここ私に殺らせて!」
「え?」

 珍しくヘラがやる気になっている。

「あの中に私を辱しめた奴らが混じってるの!」
「……ほう」

 アーレスの雰囲気が憐れみから怒りに変わる。

「俺が殺ろうか? 自分から死を口にするまで追い込んでやるが」
「ううん、私が殺る! 安心して、私にはヘル様がついてるから」 
「……わかった。じゃああれは母さんに任せよう」
「ありがとう、アーレスちゃん」

 ヘラはアーレスの前に立ち向かってくる軍勢を待ち構える。すると軍勢の中にいた誰かが二人を鑑定したようで、先頭の男に伝令がなされた。

「なに? あの女は聖女だと?」
「はっ!」
「しかし……前の聖女は逃げたばかり……。まさか自害して新しい聖女になったか? まあ良い。前の聖女は良い具合だったからなぁ~……。旦那は可哀想だったがな、はははははっ!」

 そして騎士の大群が二人から少し離れた場所で止まった。

「貴様ら! ここが聖フランチェスカ教国と知っての狼藉か! 知らぬ場合は男は処刑! 女は奴隷にする! 知っていて暴れた場合は……女は男の見てる前まで我らの相手でもしてもらおうか? 死ぬまでな」
「「「「ひゃははははははっ」」」」

 アーレスは不快感しか抱かなかった。そしてヘラは珍しく冷静に杖を構えている。

「お前は聖女らしいな。前の聖女は散々俺達にヤられて喜んでたがなぁ~? お前も同じく股を開いてみるか? そしたらそこの男は見逃してやるぞ?」
「……口を閉じな。あんた、息が臭いわよ」
「は?」

 ヘラの雰囲気が代わり、ヘルが出てきた。

「私の身体はあんたらの粗末なモノじゃ満足しないわ。身の程を弁えなさい」
「そ、粗末なモノだと!? 舐めてんのか女ぁっ!」
「舐める? バカなの? 猿が人間のフリして喋らないでくれる? 【呪殺】」
「がっ──!?」
「え?」

 突如先頭にいた男が糸の切れた人形のように馬から落下し、地べたに這いつくばったまま動かなくなった。

「お、おい落馬なんてどうし──し、死んでる!?」
「「「「なっ!?」」」」

 馬から落ちた騎士を助け起こそうとした騎士は既に息をしていない騎士を見て尻餅をついて驚きの声をあげた。

「おいっ、死んでるってなんだ!?」
「わ、わからないっ! こいつもう息してないんだよっ!」
「くっ! 女ぁぁぁぁっ! 貴様何をしたっ!」

 ヘルは畏れを含んだ視線を向けられ嗤った。

「アハハハハハッ! 【呪炎】!」
「「「「お──おわぁぁぁぁぁぁぁっ!?」」」」
「なっ、火魔法かっ!? 【ウォーターボール】!」

 燃え盛る仲間に向かい水魔法を放つ。だが水は黒い炎に吸い込まれただけで火力は全く落ちない。

「な、なぜ消えないっ! なんだこの黒い炎はっ!?」
「くそぉっ! 【ウォーターボール】! 【ウォーターボール】!!」

 どれだけ水魔法をかけようが黒い炎は消えず、全てを焼き付くしようやく消えた。

「それは呪いの炎。水魔法なんかで消えるわけないじゃない。やっぱりバカねぇ~」
「なっ!? の、呪いの炎!?」
「さあ、どんどんいくわよ? 【呪蟲】」
「「「「う、うわぁぁぁぁぁっ!? む、むむむむむ虫ぃぃぃぃぃぃぃっ!?」」」」

 騎士の足下に無数の蟲が湧きだし、鎧の隙間から内側へと入り込む。

「ぎぃぃぃっ!? いてぇぇぇっ!? 喰われ──喰われてるっ!!」
「や、やめ──中に入ってくるなぁぁぁぁぁぁっ!!」
「う、うわぁぁぁぁっ!? め、目から多足蟲がぁぁぁ……っ! げぼっ……」
「うわぁぁぁぁっ! あいつ口から虫吐きやがった!」

 駆け付けた騎士達は大量の蟲に喰われ、刺され、宿主にされ、苦しみもがきながら絶命していく。

「アハハハハハッ! 虫けらに相応しい死に方じゃない。……地へ還れ」

 そう呟き指をパチンと鳴らすと地面を這っていた虫は何事も無かったように消え去り、地面には騎士がいた証だけがただ静かに残っていた。

「終わったわよ、アーレス」
「さすがヘルだ。俺が出るまでもなかったな。セリフもバッチリだった。見ていて興奮したよ」
「あらぁ~? あらあら~? じゃあ早速御褒美タイムかしら~?」
「ああ。あまり時間はないがあの倉庫で……な?」
「やは~んっ、いく逝く~」

 それから興奮を冷まし、ヘルをヘラに戻す。

「アーレスちゃ~ん、また私の身体使った?」
「ヘルが大活躍でな。何があったか教えてやるよ」

 アーレスはヘラに自分を陵辱した奴らの最後がどうなったか教えてやった。

「うわぁ……気持ち悪~い……」
「そうか? 相応しい死に方じゃないか。あんな殺り方を思い付くとはさすが神だなと感心したくらいだ」
「絶対自分じゃくらいたくないわぁ~……。でも……ちょっとだけスッキリしたかもっ」
「ははっ。さて、後続はないようだし……そろそろ塔に向かおうか。一番近い塔は?」

 ヘラは記憶を頼りに塔のある方向を指差した。

「一番近いのは南の塔。通称【朱雀の塔】ね」
「朱雀か。じゃあそこから破壊していこうか」
「はぁ~いっ」

 こうして騎士を全滅させた二人は一番近い塔である朱雀の塔を目指すのだった。
しおりを挟む
感想 89

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった

ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます! 僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか? 『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』

男女比1:15の貞操逆転世界で高校生活(婚活)

大寒波
恋愛
日本で生活していた前世の記憶を持つ主人公、七瀬達也が日本によく似た貞操逆転世界に転生し、高校生活を楽しみながら婚活を頑張るお話。 この世界の法律では、男性は二十歳までに5人と結婚をしなければならない。(高校卒業時点は3人) そんな法律があるなら、もういっそのこと高校在学中に5人と結婚しよう!となるのが今作の主人公である達也だ! この世界の経済は基本的に女性のみで回っており、男性に求められることといえば子種、遺伝子だ。 前世の影響かはわからないが、日本屈指のHENTAIである達也は運よく遺伝子も最高ランクになった。 顔もイケメン!遺伝子も優秀!貴重な男!…と、驕らずに自分と関わった女性には少しでも幸せな気持ちを分かち合えるように努力しようと決意する。 どうせなら、WIN-WINの関係でありたいよね! そうして、別居婚が主流なこの世界では珍しいみんなと同居することを、いや。ハーレムを目標に個性豊かなヒロイン達と織り成す学園ラブコメディがいま始まる! 主人公の通う学校では、少し貞操逆転の要素薄いかもです。男女比に寄っています。 外はその限りではありません。 カクヨムでも投稿しております。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

(完結)魔王討伐後にパーティー追放されたFランク魔法剣士は、超レア能力【全スキル】を覚えてゲスすぎる勇者達をザマアしつつ世界を救います

しまうま弁当
ファンタジー
魔王討伐直後にクリードは勇者ライオスからパーティーから出て行けといわれるのだった。クリードはパーティー内ではつねにFランクと呼ばれ戦闘にも参加させてもらえず場美雑言は当たり前でクリードはもう勇者パーティーから出て行きたいと常々考えていたので、いい機会だと思って出て行く事にした。だがラストダンジョンから脱出に必要なリアーの羽はライオス達は分けてくれなかったので、仕方なく一階層づつ上っていく事を決めたのだった。だがなぜか後ろから勇者パーティー内で唯一のヒロインであるミリーが追いかけてきて一緒に脱出しようと言ってくれたのだった。切羽詰まっていると感じたクリードはミリーと一緒に脱出を図ろうとするが、後ろから追いかけてきたメンバーに石にされてしまったのだった。

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

処理中です...