職業『精霊使い』に覚醒したら人類圏から追放されました(完結)

夜夢

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第4章 東の大陸編

04 出立準備

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 魚人族の里にきて一週間が経った。アーレスは毎日朝からリヴァイアサンと修行に行き、夕方からは人魚と楽しんでいた。おかげでほぼ全ての人魚がアーレスの種で新たな命を宿し、もうしばらくすれば人魚の数が単純に計算したとしても倍以上になる。

 アーレスは既に卵を産み落としたミューズの所にいた。

「人魚って卵から産まれるんだなぁ……」
「ええ。産むまでは早いですが、孵化まではもうしばらくかかります」
「なるほどな。しかし……ずいぶん産んだな。ひー……ふー……みー……五つか」
「中には七つ、八つ産む人魚もいますよ? 五つは平均です」

 それを聞いたアーレスは疑問を覚えた。

「一度にそんな産まれるのに人魚が少ないのは何故だ? 普通この数が産まれたらあっという間に増えると思うのだが」
「それは……人間のせいでもありますが、魔物のせいでもありますね。海の魔物は深い場所にいるほど強いので」
「強い……ねぇ」

 アーレスはリヴァイアサンとの修行を思い返すが、強いと思った魔物など皆無だった。

「里の周辺にいた魔物はこの一週間でほぼ狩り尽くしてしまったな」
「え?」
「いやほら、俺とリヴァイアサンが里の外で魔法の修行してただろ? あれの影響でサッパリ魔物の姿が見えなくなっちまってさ」
「クラーケンやダゴンも……ですか?」
「ああ。一匹もいないぞ」

 ミューズは改めてアーレスの力に驚いていた。

「強いとは思っていましたが……まさかここまで強いだなんて……」
「まあ、一応俺は魔王国バハートスの王だからな。弱くちゃ話にならんだろ」
「魔王国? ああ、魔族の国ができたのですか」
「まあな。お前達も来るか?」
「ありがたい話ですが……私達は水がなければ生きていけませんので」

 そこでアーレスは少し考え、一つ名案を思い付いた。

「あるぞ水」
「え?」
「魔族領にダンジョンがあってな、そこの最下層が魔王城になってるんだよ。確か地下九十五階層が地底湖になっていたはずだ。淡水でも大丈夫か?」
「え、ええ……。水ならなんでも……」
「よし、じゃあ一度見に行ってみよう。ミューズ、手を」
「え? え?」

 アーレスはミューズの手を取り、空間魔法で転移ゲートを開いた。

「こ、これは?」
「転移ゲートだ。行き先は魔族領のダンジョン地下九十五階だ。行くぞ」
「え、えぇぇぇぇっ!?」

 アーレスはミューズを腕に抱えゲートを潜る。

「な、なに……ここっ!?」
「地底湖だよ。ほら、水に降ろすぞ?」
「は、はいっ」

 アーレスはゆっくりとミューズを地底湖に降ろした。ミューズは浸かった瞬間水質が気に入ったようで、凄まじい勢いで泳ぎ回っていた。

「凄く綺麗な場所ですね! 魔物もいないようですし」
「魔王が管理していたダンジョンに魔物がいるはずないだろ? このダンジョンではかつて魔族達が暮らしていたらしいしな」
「今はいないの?」
「ああ。人間の国をぶっ潰してそこを拠点にしたんだ」
「人間を……それは素晴らしいわねっ! 私……あなたの事を誤解していましたわ。人間と敵対するならあなたは私達の同類ではないですか」
「俺にも色々あるんだよ。ちなみに人間は殺したいくらい嫌いだ」
「その意見には激しく同意するわ」

 そう言い、ミューズはアーレスに手を伸ばした。

「一度戻ってみんなに話しましょう。みんなが納得したら引っ越しね 
「まあ……普通に納得するだろ」

 そして再び転移ゲートで魚人族の里に戻り、ミューズはすぐに全ての人魚を集めた。

「──という場所があるのですが。皆さん、この際ですから新たな地に引っ越しませんか?」

 話を聞いた人魚達はそれぞれ顔を合わせながら不安そうにしている。

「本当に安全なのですか?」
「ええ、魔物もいないし、人間もいないわ」
「あの……食糧は……」
「淡水魚がたくさんいたわね。誰も狩らなかったせいかかなり立派な魚でしたわ」

 ミューズは矢継ぎ早に飛んでくる人魚達の問い掛けに全て対応していく。この判断力はさすがと言いたい。だがここで思わぬ人物が反対の意を示した。

「長様、私は移住に反対します」
「なぜ……?」

 この声を上げたのは守護隊長だった。

「私はその人間を信用していません。そもそも私達に新たな棲み家を与えてその人間に何の得があるのですか? 浅ましい人間が損得も考えずに取引を持ち掛けるなどありえないでしょう」

 守護隊長の主張を聞いた人魚達はまた少し不安を覚えたようだ。そこからミューズと守護隊長で意見が対立し、話は平行線になった。一向に話が進まない状況に苛立ったアーレスは守護隊長の肩を叩いた。

「な、何をする!」
「そんなに不安なら自分で確かめてきな。開け転移ゲート」
「へ? おわぁぁぁっ!? お、落ち──」

 アーレスは守護隊長の足元に転移ゲートを開き、両肩を思いっきり下に押した。守護隊長は転移ゲートを潜り抜け、地底湖の真上から水面へと落下していった。

「ミューズ、ちょっと行ってくるからこっちの意見をまとめておいてくれ」
「わかりました。あまり苛めないで下さいね?」
「それはあいつ次第だな。開け転移ゲート」

 アーレスはミューズに意見の取りまとめを任せ、再び地底湖へと戻った。

「……おい」
「へっ!?」

 アーレスが地底湖に転移すると先に転移していた守護隊長は楽しそうに水面に浮かんでいた。

「ずいぶん楽しそうじゃないか」
「た、楽しいわけないだろっ! いきなり空中から水面に叩き落とされたんだぞっ」
「ほ~。ならその手にある食いかけ。魚はなんだ?」
「うっ!?」

 守護隊長は慌てて魚を隠すが既に時遅し。しっかりと地底湖を満喫していた事がバレてしまった。

「べ、別に構わないだろう! そう、これは安全性を確かめたのだ! 貴様の言う事など信用ならんからな!」
「ほ~? そこまで言うなら仕方ない。あんただけあの里に残れば良いじゃないか。他の奴らは多分全員来るだろうからな」
「はあ? そんなわけ──おい貴様。まさか……」

 アーレスはニヤリと笑った。

「ああ、そうだ。あの里でまだ抱いてない人魚はあんただけだよ、ララァ」
「わ、私の名を気安く呼ぶなっ! やはり人間は信用ならんっ! 全ての人魚を抱いただと? 貴様に愛はないのか! 快楽さえ得られればそれで良いのだろう!」
「いやいや、だって俺ミューズから人魚を増やすように言われただろ。それはララァだって聞いてただろう」
「しかし嫌がる相手はダメだと──!」
「嫌がる奴はいなかったぜ」
「な、なんだと!?」

 アーレスは全ての人魚をどう落としていったか語った。

「どんなに嫌だろうがな、快楽には勝てないんだよ」
「なんだと?」
「俺はな、嫌がる人魚に見せつけるように毎日たっぷりと望んできた人魚を愛してやった」
「……は?」
「目の前で仲間が気持ち良さそうに孕んでいく姿を見ていると嫌がっていた人魚もやがて我慢がきかなくなり……自分から求めてくるようになった。そうやって俺はあんた以外を手にしたのさ」
「この……卑怯者! そんなずるい手で女を弄んで満足かっ!」
「弄ぶ? なら聞くが、あの里に不幸そうな人魚はいたか? 誰かから俺に無理矢理犯されたと相談されたか?」
「それは……」

 ララァは口ごもってしまった。確かに誰からも相談はつけていないし、不幸そうな人魚も見当たらなかった。

「いないだろ。みんな俺に抱かれて幸せになったんだよ」
「……そ、それがどうした! 他の奴らがどうなろうと私だけは──」
「なら一人あの里に残れば? 俺は無理に来てもらわなくて構わない。これから人魚はどんどん増えていくしな」
「うぅっ、わ、私は……長様の守護隊長……! 離れるわけには……」
「その長が俺を認めてんだよ。お前もいい加減認めろよ。ちょうど二人きりだ、お互い腹を割って話し合おうじゃないか」

 アーレスは湖岸に腰掛け、ララァと対話を試みるのだった。
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