仲間に裏切られた勇者、事実を知り奮い立つ! ~世界を救う勇者アインの物語~

夜夢

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第1章 はじまり

第19話 破壊され尽くした故郷

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 修練を重ね火、水、風、土の簡単な魔法が使えるようになった頃、二人はようやくリーリエの生まれ故郷であるハーチェット領に辿り着いた。

「そ……んな……」
「これは……酷い有り様だな」
「こんな──なんでっ! お父様やお母様が愛した土地がっ──!」

 町は破壊の限りを尽くされ、住民は一人もいなかった。そして元いた住民の代わりなのか、明らかに人とは違う異形の怪物が瓦礫の山を徘徊している。

「あれは劣等魔族だな。新しい皇帝の配下か何かか」
「ゆ、許せないっ! 町のみんなを返せっ!」
「あっ、待て!」

 怒りの感情に支配されたリーリエは後先考えず、アインの制止も聞かず魔族の群れに突撃していった。

《アァ? エサダ! ジブンカラクワレニキタゾ!》
《ギギギッ、ハラヘッテタンダァ~》
「あぁぁぁぁぁっ! 【ファイアーボール】!!」

 リーリエは嗤っている魔族に向かい覚えたての火魔法を放つ。だが魔族は軽く腕を一振りしただけでリーリエの放った火の玉を掻き消してしまった。

《ギギギッ、コイツヨワイ》
「そ、そんな……! 魔法が効かないっ!?」

 かなりの魔力を込め打ち出した魔法を掻き消され、顔面蒼白状態になっているリーリエに追い付いたアインは諭すように声を掛ける。

「このバカが! 魔法使いが前線に立ってどうするっ! それにちゃんと集中していないから魔力が拡散しているぞ! あれでは魔力の無駄使いだ!」
「アインさん……私の魔法が……」
「俺の後ろに下がってろ。本当の魔法を見せてやる」
「す、すみませんっ!」

 アインはリーリエをかばうように魔族と対峙する。

「劣等魔族、町を破壊してくれた礼だ。安らかに眠らせてやるよ」
《エサガフエタ! オレクウッ!!》
「食われるかっ! 【ソニックブレード】!!」
《《》》

 アインは前方にむけ扇状に疾風の刃を放つ。疾風の刃は魔族を容易く斬り刻み、一瞬で肉片へと変えた。

《コ、コイツアブナイ!! ナカマヨブ!》
「呼べよ、全員。この辺りから消し去ってやる!」
《ナメルナニンゲンッ!! オォォォォォォアッ!!》

 劣等魔族は空に向かい雄叫びをあげた。すると瓦礫の向こうからワラワラと劣等魔族が群れで姿を見せた。

「あ、あんなに沢山の魔族が……!」
「いくらこようが雑魚は雑魚だ。俺の背中から離れるなよ、リーリエ」
「は、はいっ!」

 最初の意気込みはどこかに消え、リーリエは震えながらアインの背中にしがみついていた。

《ハハハッ、オシマイダニンゲンッ! ホネマデクッテヤル!!》
「なら俺は骨まで消し飛ばしてやるよ。一歩も動かずになっ! こいっ、劣等種!!」
《カカレェェェェェェェェェッ!!》

 集まった劣等魔族が一斉に二人を目掛け飛び掛かってくる。抗う手段をもたないリーリエは目を瞑り死を覚悟したが、アインは変わらず魔族と対峙したまま、笑みすら浮かべていた。

「魔族は経験値が多く入るからな。ここらで一気にレベルアップといこうか。スキル【現実改変】」
《《 》》
「……え?」

 飛び掛かってきた劣等魔族は空中で停止し、その場から地面に落下しつつ土下座の姿勢に早変わりを見せた。

「ど、どうなってるの!? なんで急に……」

 困惑するリーリエに聖剣デュランダルを渡し、アインは劣等魔族達に向けこう宣言した。

「貴様ら、今から貴様ら全員に褒美を与える! 褒美は今後一切苦しまずに腹が減らない世界だ。ありがたく受け取れ」
《《》》
「さ、やれリーリエ」
「えぇぇぇぇ……」
《《》》

 リーリエはアインから受け取った聖剣デュランダルを使い劣等魔族の首を落としていった。

「えいっ!!」
《ウラヤマシィィィィッ!》
《ツギハオレヲッ!》
「ひぃぃぃぃ……」
「ほら、みんな喜んでるみたいだし早く殺ってやれよリーリエ。こいつらでレベルアップだ」
「うぅ、なんかいたたまれない……」
「何言ってるんだ。こいつらはハーチェット領を瓦礫に変えた奴らだぞ。もう忘れたのか」
「はっ! そ、そうでしたっ!」

 そこからは無慈悲な処刑が続いていった。ハーチェット領を支配していた魔族は一体残さずリーリエの手により葬り去られていった。その亡骸はアインが焼却処分していき、二人の手でハーチェット領に静寂が訪れる事になった。

「はわわわ……、ま、魔力が凄いことになってる気がします!」
「そうだな。今回のレベルアップでリーリエの魔力は十倍くらいに増えてる」
「じ、十倍ですか!?」
「魔族を倒すと大量の経験値が得られるんだよ。俺はいつでも経験値を得られるから今回はリーリエに譲ったんだよ。何せリーリエはこれからが大変だからな」
「え? た、大変とは?」

 アインはリーリエの肩に手を置き、当然のようにこう告げた。

「それはだな、ここハーチェット領を拠点にガーデン帝国と戦うんだよ」
「へ?」
「良いか? まずここを拠点にするだろ?」
「はい」
「そしたら後は建国宣言し、皇帝に宣戦布告するんだよ」
「は、はいっ!? 建国っ!?」
「そうだ。ただ皇帝を倒すだけなら一瞬で終わる。けど帝国兵の中には戦いたくない者もいるだろうし、無理矢理徴兵されている者もいるかもしれない。そこで建国だ。ちょうど良い具合にここには今何もない。これからこの地に要塞を作り、仲間を集めよう。そして真に帝国を憂う者を集めていくんだ。今後のガーデン帝国のためにな」

 リーリエの目が点になっている。

「あ、わかりました! アインさんが王になるんですね!」
「はぁ? 何を言っている。ここはハーチェット領だろう? お前がやるんだよリーリエ」
「な、なんで私なんですか!? 無理無理無理ぃぃぃぃっ!」
「無理じゃない。帝国民にもハーチェット領主の最後は伝わっているはずだ。戦争というのはただ相手を殺して終わりではないんだ。戦争はしている間より後が問題なんだよ。リーリエは魔族の手により家族を失った。そして虐げられている民に同じ悲しみを負わせないために立ち上がった。魔族の非道に対しこちらは道理を示し、正義であると主張しなければ国は正しき道に戻らないんだよ」

 アインの言葉を聞き、リーリエは恐る恐る聞き返した。

「あ、あの~……。それだともし戦争に勝ったら私が皇帝になるのでは……?」
「ん? そうだが何か?」
「ぶふっ!? な、何かじゃないですよ!? 皇帝候補なら他にもいるじゃないですか!」
「例えば?」
「そ、それは……公爵家とか侯爵家とか……」
「ふむ。そいつらは魔族の操り人形になっていないという保証は? 皇帝は国を乗っ取るために前皇帝に非道な真似をした奴だぞ。歯向かいそうな人物はもう何かしらされているのではないか? ハーチェット伯爵家が丸ごと滅ぼされたようにな」
「うっ……」

 帝国は広いため、未だ正しい情報が辺境まで届いていない。帝国の中枢が今どうなっているのかは謎のままだった。

「もし候補がいるとするならリーリエ以上に悲惨な目にあい、今も皇帝に抗い続け、正義の道を歩む者でなければならない。リーリエが皇帝を辞退したいならそんな人物を味方につけるんだな」
「ひぇぇぇ……。これは何としても探し出さないとっ!」

 皇帝という重荷を背負いたくないリーリエはこの戦で自分より皇帝に相応しい人物を探す事に燃えるのだった。
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