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第03章 バハロス帝国編
01 バハロス帝国へ
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エンドーサ王国を無事に守りきった蓮太は、最後に戦った親衛隊長の遺言を汲み、まだ幼い皇女の所へと向かっていた。
「まぁ……上手くハメられた感はいなめないけど……勝ち目がない事をわかっててタイマン挑んできた相手の最期の頼みくらい聞いてやらないとな」
聞いた話だと皇女はまだ七歳という事で、さすがの蓮太も落ち着いたものだった。ただ一つ懸念があるとすれば、幼い皇女は父と婚約者を奪った自分の事をどう思っているかだけだ。
「普通なら恨むよな。子どもに恨まれるのって結構キツイかもなぁ……。けどまぁ……戦の作法を破り奇襲してきたのは帝国だからな。その辺りの判断がついていれば良いが……」
蓮太はまず戦のあった国境まで転移し、そこから街道を通りバハロス帝国の帝都へと向かった。だがそこである異変に気付いた。
「あれ? この村もか……」
これまでに二つ村を通ってきたが、どの村ももぬけの殻だった。だが破壊された形跡や争った形跡もなかったため、蓮太は特に気にもとめていなかった。
「帝都にでも移動したんだろうな。帝国軍もここを通過したんだろうし。さ、次に行くか」
それからまたいくつか村や町を通ったがどこにも人はいない。そうして進む内についに帝都に到着してしまった。
「ここもか? 帝都までもぬけの殻とか……まさか逃げた? ふむ……【サーチ】」
蓮太は帝都全体にサーチをかけ生命反応があるか調べた。
「……城に二つ……っ! 一つが消えかかっているっ! 何かあったのかっ! くそっ!」
蓮太は力を解放し、凄まじい速さで生命反応のあった場所へ向け空を走った。
《くくくくっ、あぁ……美味い……美味いぞぉ……っ!》
「うっ……あぅぅぅ……っ、だ、誰か……っ」
ここは玉座の間。今ここで幼い皇女が異形の者に首を掴まれ持ち上げられている。
《はぁぁぁ……、やはり食事は若い女に限るっ! さあ、最後の一吸いだ。いい声で鳴きながら死んでいけ》
「うぅぅぅっ!」
どうやら異形の者は皇女の首を掴んだ手で皇女から生気を吸出しているようだ。
「その手を離しな」
《むっ!? なにっ!?》
「あうっ!」
蓮太は城の壁直前でスキル【短距離転移】を使い壁を通過し、さらにもう一度短距離転移で二人との距離を詰めた。そこから神速の切り上げで異形の者の腕を切断し、幼い皇女を抱え、異形の者から距離をとった。
《……ふんっ!》
異形の者は切断された傷口を一瞬見た後、気合いの一声と共に腕を再生させた。
「再生すんのかあの怪物。っと、まずいまずい。おい、これを飲め」
「むぐっ……!? んくっ……こくんっ。あ、はぁぁぁっ!」
蓮太は皇女の口にアイテムボックスから取り出した小瓶を突っ込み中身を飲ませた。
「こ、これは! 体力が戻って……!?」
「エリクサーだ。ちょっと危ないから退がってな」
「あ……は、はいっ」
皇女は真剣な表情で異形の怪物から目を離さない蓮太を見て一瞬で自分が邪魔だと判断し、その場から離れた。
《お前、人間か? あれだけ食いまくった俺の腕をアッサリ斬っちまうとは……》
「食いまくった? まさか帝国に人間が一人もいなかったのはお前の仕業か?」
《ああ、そうさ。人間は俺達魔族の餌よ。知ってるか? 生気を全て失った人間はよ、肉体を失い魂だけになるんだわ。わかりやすく言えばだな、生気っつーのは前菜でよ、魂はメインディッシュなんだわ》
「……知らねぇよ。まぁ、お前がどんだけ食ったか知らねぇがな、それは最後の晩餐だ。楽しめたか?」
それを聞いた魔族は口を歪ませ嗤った。
《ヒヒヒッ……、ヒハハハハッ! バッカじゃね? 魂を食いまくった魔族の強さを知らねぇとはな! まぐれで腕を斬り落としたくらいで調子にのってんじゃねぇよっ!》
「……ふぅ」
《あ? んだよ、その態度はよ?》
蓮太はやれやれと呆れ、ため息を吐いてみせた。
「馬鹿はお前だろ? 一に小数点以下を足しまくった所で大した違いはねぇだろ。兵力のない奴しか襲えないゴミ魔族が何言ってんだ? 臆病者だから兵士がいない所しか襲えなかったんだろう?」
《な、なんだとっ!! テメェ……誰が臆病者だゴラッ!!》
「顔に続いて耳まで悪いのか? 性格も悪そうだし、良い所一つもねぇじゃん」
「ふふっ」
挑発され、餌にも笑われた魔族はぶちギレた。
《調子くれてんじゃねぇぞゴラァァァァァァッ!!》
「お?」
魔族は一足飛びで蓮太と距離を詰め腕を振りかぶった。そして鋭い爪を伸ばし、蓮太に斬りかかる。
《斬り刻んだらぁぁぁぁぁぁっ!!》
「やってみな」
《死ねっ!!》
魔族は冷静さを失い、怒りに任せ蓮太の肩を目がけて攻撃を放った。だが蓮太は冷静にタイミングを計り、爪が当たる寸前に短距離転移で魔族の後ろへと転移し、背中に手を触れた。
「死ね、バーカ。スキル【分子分解】」
「えっ!?」
《なっ……か、身体が崩……があぁ……あぁぁぁ……っ》
魔族は自分が何をされたかわからないまま、塵となり消えた。すると消えた場所に小さな光る玉が現れ、空に向かって消えていった。
「ま、魔族を……倒した? ああ、皆さん……、救われたのですね……っ! 神よ……、迷える魂を御身の下へ……!」
皇女は地に膝をつき手を組んで祈りを捧げた。それを目にした蓮太は少し驚いていた。
「……まじか。あれで七歳だと? 俺が地球で七歳の時なんてまだ鼻水垂らしながら草むら走り回ってたぞ……」
やがて全ての光の玉が消えると、皇女はすっと立ち上がり蓮太の近くに歩み寄った。
「危ない所を助けていただきありがとうございました」
「あ、いや。危なかったな」
「はい。戦える者もおらず、私達はあの魔族にされるがままになっておりました。どなたかご存知ありませんが、感謝いたしますっ」
とても七歳とは思えない受け答えだった。それを受け、蓮太は皇女を子どもとは思わず、一人の人間として思う事にした。
「あ、これは失礼いたしました。私はバハロス帝国皇帝の娘、【ミリアリア・エン・バハロス】と申します。あなたは?」
「……俺は【レンタ・シヴァー】だ。生まれはノイシュタット、今はエンドーサで暮らしていた」
「エンドーサ……では……」
「そうだ。お前の父をエンドーサ王に引き渡し、婚約者である親衛隊長の命を奪ったのは俺だ」
「そう……でしたか」
ミリアリアは真っ直ぐ蓮太を見たまま、こう言った。
「わかりました。この度の戦は戦とよべるものではありませんでした。父は怒りに任せ戦の作法を破りました。それで負けたのですからこちらからは何も言う事はありません」
「……すごいな。本当に七歳か?」
「はい。生まれて七年です」
正直なところ、隣国の第二王女様とは比べ物にならないくらい賢い娘だった。
「それで……父と私の婚約者を討ったあなたはバハロスまで私を討ちに参ったのでしょうか? 私はあなたに一度救われた身、あなたが討ちたいと言うならば大人しく従います」
「いや、討ちにきたわけじゃない。君の婚約者とはちゃんとした一騎討ちで勝負したんだ。そして君の婚約者は君を案じて俺に君を託したんだ。だから迎えにきた」
「……なるほど。私の身はあなたのモノになったのですね。しかし……私はまだ幼く、期待には応えられませんので……せめて後五年は子作りを待っていただけると……」
「ぶっ!?」
蓮太はミリアリアの言葉に吹いた。
「す、するわけないだろっ!? いきなり何言ってんだ!?」
「しないのですか? レンタ様は私に何の魅力もかんじないと? それではこの先困ってしまいます……。私にはもう家族も民もいないので……」
「いや、捨てたりはしないけどさ」
「ありがとうございますっ! では私達は婚約関係にあると言う事でっ! あ……」
「おっと」
ミリアリアはグラッと態勢を崩した。蓮太は倒れないようにとミリアリアの身体を支えた。
「あ、安心したら魔族に襲われた精神的疲労が……」
「悪い、気がきかなかったな。部屋まで案内してくれ。少し休んだら詳しい話を聞きたい」
「わかりました。では私の部屋までお願いします」
蓮太はミリアリアを両腕で抱える。いわゆるお姫様抱っこだ。まだ幼いミリアリアは見た目通り軽かった。だがこの時、ミリアリアは蓮太を試していた。
(なるほど。レンタ様は魔族を圧倒できる力もあり、不躾に見えますが賢く優しさも持ち合わせているようですね。ならば私は……)
蓮太はミリアリアが自分を値踏みしていた事に気付かず、彼女を部屋まで連れて行き休ませるのだった。
「まぁ……上手くハメられた感はいなめないけど……勝ち目がない事をわかっててタイマン挑んできた相手の最期の頼みくらい聞いてやらないとな」
聞いた話だと皇女はまだ七歳という事で、さすがの蓮太も落ち着いたものだった。ただ一つ懸念があるとすれば、幼い皇女は父と婚約者を奪った自分の事をどう思っているかだけだ。
「普通なら恨むよな。子どもに恨まれるのって結構キツイかもなぁ……。けどまぁ……戦の作法を破り奇襲してきたのは帝国だからな。その辺りの判断がついていれば良いが……」
蓮太はまず戦のあった国境まで転移し、そこから街道を通りバハロス帝国の帝都へと向かった。だがそこである異変に気付いた。
「あれ? この村もか……」
これまでに二つ村を通ってきたが、どの村ももぬけの殻だった。だが破壊された形跡や争った形跡もなかったため、蓮太は特に気にもとめていなかった。
「帝都にでも移動したんだろうな。帝国軍もここを通過したんだろうし。さ、次に行くか」
それからまたいくつか村や町を通ったがどこにも人はいない。そうして進む内についに帝都に到着してしまった。
「ここもか? 帝都までもぬけの殻とか……まさか逃げた? ふむ……【サーチ】」
蓮太は帝都全体にサーチをかけ生命反応があるか調べた。
「……城に二つ……っ! 一つが消えかかっているっ! 何かあったのかっ! くそっ!」
蓮太は力を解放し、凄まじい速さで生命反応のあった場所へ向け空を走った。
《くくくくっ、あぁ……美味い……美味いぞぉ……っ!》
「うっ……あぅぅぅ……っ、だ、誰か……っ」
ここは玉座の間。今ここで幼い皇女が異形の者に首を掴まれ持ち上げられている。
《はぁぁぁ……、やはり食事は若い女に限るっ! さあ、最後の一吸いだ。いい声で鳴きながら死んでいけ》
「うぅぅぅっ!」
どうやら異形の者は皇女の首を掴んだ手で皇女から生気を吸出しているようだ。
「その手を離しな」
《むっ!? なにっ!?》
「あうっ!」
蓮太は城の壁直前でスキル【短距離転移】を使い壁を通過し、さらにもう一度短距離転移で二人との距離を詰めた。そこから神速の切り上げで異形の者の腕を切断し、幼い皇女を抱え、異形の者から距離をとった。
《……ふんっ!》
異形の者は切断された傷口を一瞬見た後、気合いの一声と共に腕を再生させた。
「再生すんのかあの怪物。っと、まずいまずい。おい、これを飲め」
「むぐっ……!? んくっ……こくんっ。あ、はぁぁぁっ!」
蓮太は皇女の口にアイテムボックスから取り出した小瓶を突っ込み中身を飲ませた。
「こ、これは! 体力が戻って……!?」
「エリクサーだ。ちょっと危ないから退がってな」
「あ……は、はいっ」
皇女は真剣な表情で異形の怪物から目を離さない蓮太を見て一瞬で自分が邪魔だと判断し、その場から離れた。
《お前、人間か? あれだけ食いまくった俺の腕をアッサリ斬っちまうとは……》
「食いまくった? まさか帝国に人間が一人もいなかったのはお前の仕業か?」
《ああ、そうさ。人間は俺達魔族の餌よ。知ってるか? 生気を全て失った人間はよ、肉体を失い魂だけになるんだわ。わかりやすく言えばだな、生気っつーのは前菜でよ、魂はメインディッシュなんだわ》
「……知らねぇよ。まぁ、お前がどんだけ食ったか知らねぇがな、それは最後の晩餐だ。楽しめたか?」
それを聞いた魔族は口を歪ませ嗤った。
《ヒヒヒッ……、ヒハハハハッ! バッカじゃね? 魂を食いまくった魔族の強さを知らねぇとはな! まぐれで腕を斬り落としたくらいで調子にのってんじゃねぇよっ!》
「……ふぅ」
《あ? んだよ、その態度はよ?》
蓮太はやれやれと呆れ、ため息を吐いてみせた。
「馬鹿はお前だろ? 一に小数点以下を足しまくった所で大した違いはねぇだろ。兵力のない奴しか襲えないゴミ魔族が何言ってんだ? 臆病者だから兵士がいない所しか襲えなかったんだろう?」
《な、なんだとっ!! テメェ……誰が臆病者だゴラッ!!》
「顔に続いて耳まで悪いのか? 性格も悪そうだし、良い所一つもねぇじゃん」
「ふふっ」
挑発され、餌にも笑われた魔族はぶちギレた。
《調子くれてんじゃねぇぞゴラァァァァァァッ!!》
「お?」
魔族は一足飛びで蓮太と距離を詰め腕を振りかぶった。そして鋭い爪を伸ばし、蓮太に斬りかかる。
《斬り刻んだらぁぁぁぁぁぁっ!!》
「やってみな」
《死ねっ!!》
魔族は冷静さを失い、怒りに任せ蓮太の肩を目がけて攻撃を放った。だが蓮太は冷静にタイミングを計り、爪が当たる寸前に短距離転移で魔族の後ろへと転移し、背中に手を触れた。
「死ね、バーカ。スキル【分子分解】」
「えっ!?」
《なっ……か、身体が崩……があぁ……あぁぁぁ……っ》
魔族は自分が何をされたかわからないまま、塵となり消えた。すると消えた場所に小さな光る玉が現れ、空に向かって消えていった。
「ま、魔族を……倒した? ああ、皆さん……、救われたのですね……っ! 神よ……、迷える魂を御身の下へ……!」
皇女は地に膝をつき手を組んで祈りを捧げた。それを目にした蓮太は少し驚いていた。
「……まじか。あれで七歳だと? 俺が地球で七歳の時なんてまだ鼻水垂らしながら草むら走り回ってたぞ……」
やがて全ての光の玉が消えると、皇女はすっと立ち上がり蓮太の近くに歩み寄った。
「危ない所を助けていただきありがとうございました」
「あ、いや。危なかったな」
「はい。戦える者もおらず、私達はあの魔族にされるがままになっておりました。どなたかご存知ありませんが、感謝いたしますっ」
とても七歳とは思えない受け答えだった。それを受け、蓮太は皇女を子どもとは思わず、一人の人間として思う事にした。
「あ、これは失礼いたしました。私はバハロス帝国皇帝の娘、【ミリアリア・エン・バハロス】と申します。あなたは?」
「……俺は【レンタ・シヴァー】だ。生まれはノイシュタット、今はエンドーサで暮らしていた」
「エンドーサ……では……」
「そうだ。お前の父をエンドーサ王に引き渡し、婚約者である親衛隊長の命を奪ったのは俺だ」
「そう……でしたか」
ミリアリアは真っ直ぐ蓮太を見たまま、こう言った。
「わかりました。この度の戦は戦とよべるものではありませんでした。父は怒りに任せ戦の作法を破りました。それで負けたのですからこちらからは何も言う事はありません」
「……すごいな。本当に七歳か?」
「はい。生まれて七年です」
正直なところ、隣国の第二王女様とは比べ物にならないくらい賢い娘だった。
「それで……父と私の婚約者を討ったあなたはバハロスまで私を討ちに参ったのでしょうか? 私はあなたに一度救われた身、あなたが討ちたいと言うならば大人しく従います」
「いや、討ちにきたわけじゃない。君の婚約者とはちゃんとした一騎討ちで勝負したんだ。そして君の婚約者は君を案じて俺に君を託したんだ。だから迎えにきた」
「……なるほど。私の身はあなたのモノになったのですね。しかし……私はまだ幼く、期待には応えられませんので……せめて後五年は子作りを待っていただけると……」
「ぶっ!?」
蓮太はミリアリアの言葉に吹いた。
「す、するわけないだろっ!? いきなり何言ってんだ!?」
「しないのですか? レンタ様は私に何の魅力もかんじないと? それではこの先困ってしまいます……。私にはもう家族も民もいないので……」
「いや、捨てたりはしないけどさ」
「ありがとうございますっ! では私達は婚約関係にあると言う事でっ! あ……」
「おっと」
ミリアリアはグラッと態勢を崩した。蓮太は倒れないようにとミリアリアの身体を支えた。
「あ、安心したら魔族に襲われた精神的疲労が……」
「悪い、気がきかなかったな。部屋まで案内してくれ。少し休んだら詳しい話を聞きたい」
「わかりました。では私の部屋までお願いします」
蓮太はミリアリアを両腕で抱える。いわゆるお姫様抱っこだ。まだ幼いミリアリアは見た目通り軽かった。だがこの時、ミリアリアは蓮太を試していた。
(なるほど。レンタ様は魔族を圧倒できる力もあり、不躾に見えますが賢く優しさも持ち合わせているようですね。ならば私は……)
蓮太はミリアリアが自分を値踏みしていた事に気付かず、彼女を部屋まで連れて行き休ませるのだった。
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