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第01話 怠惰の果てに
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ここはとある先進国のとある大都市。俺の名は【田中 陸人】。今年三十になるオッサンだ。
俺は子供の頃からのんびり屋やのろまなんて呼ばれ続けてきた。そのせいか義務教育を終えた後はひたすら家に籠り続ける日々を送っていた。
両親は俺が生まれた時からとにかく過保護で、俺が望めば何でも買い与え、宝のように愛してくれた。
だがそれも弟が生まれるまでだ。俺が十五で引きこもるようになったら親は慌てて子作りをはじめた。どうやら俺は見限られたのだろう。
両親はともに実業家で、金はたんまりあった。それこそ子供の一人が引きこもり、魔法のカードでガチャを天井まで回しても笑い飛ばせるくらいに金はあった。
しかしそれも子が立派な大人となり、跡を継いでくれるものと思うがゆえ。一人息子はそんな願いとは真逆の人間になってしまったがために、両親はもう一人子を作った。
弟は肥え太った俺とは違い、学力、スポーツ、芸術、あらゆる面で俺を軽々と追い越していった。俺が三十になった頃、弟は海外で大学を飛び級で卒業、そしてそのまま自ら起業し、両親と共にその資産をさらに増やしていった。
そんな弟を両親は可愛がり、いつしか俺には一切興味を示さなくなった。そんな俺に両親はカードを渡しこう言った。
「頼むから家から出ないでくれ。金ならいくら使っても良い。だから我が家の恥を晒さんでくれ……」
我が親ながら酷いセリフだった。ついに俺を恥だと言い切ったのである。まぁ、自覚はあるし、今さら外になんて出る気はない。金も別にもらわなくてもゲーム感覚で始めた株取引で家族の誰よりも稼いでいる。今の総資産は国の借金を全て肩代わりできるくらいはある。ちなみに国の銀行ではなく資産は全て海外の銀行に預けてある。
それを知らない家族は未だに俺が何もしない恥さらしだと思っているようだ。だがそれで良い。俺は人から何か強制させられるのが大っ嫌いだ。全て知られたら余計な期待をかけられ働かされるのは目に見えている。
弟は全てにおいて俺を越えていると錯覚しているようだが本当の所は違う。俺はやれるけどやらない。何故なら全てが面倒だからだ。
「人のために働くとか……社員の生活のために働くなんて真っ平ゴメンだね。俺は自分のためだけに動き、自分のためだけに稼ぐんだ。別に他人なんてどうでも良い。さて、今日も日課のゲームでも……ぐっ……うぁっ……!」
日課のゲーム画面を立ち上げた瞬間急に胸に激痛が走った。
「ッハ! ハァッ……! な、なんだ……これっ……! ぐうぅぅぅぅぅぅっ! く、苦しいっ……!」
俺は胸を押さえながら椅子から落下し、床に転がった。
「ハァッ……ハァッ……! だ、誰か……! た、助け……! があぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
そこで俺の意識は途絶えた。
俺はゆっくりと目を開いた。
「……た、助かった……のか?」
そんなはずはない。あの死ぬような苦しみが急に消えてなくなるなんてありえない。しかも、辺りを見ると明らかに自分のいた部屋ではない事がわかる。
「……もしかして……俺……死んだ?」
《ほっほ。中々理解が早いのう》
「んなっ!?」
突然背後から話し掛けられた俺はその場から勢いよく飛び退き、声の聞こえた方を振り返った。するとそこには立派な長い髭を蓄えた老人が杖を持ち浮かんでいた。
「と、とととと飛んでる!?」
《ほっほ。ここはワシの空間じゃ。浮かぶくらいわけはない》
「だ、誰なんだいったい……」
老人はニヤリと笑みを浮かべ俺の目の前にスッと移動してきた。
《ワシは神じゃ》
「か、神?」
《うむ。田中陸人よ、そなたは類い稀な才を持ちながらその才を全て自分が楽に生きるためだけに使っておったな?》
「……へ? な、何故それを?」
《ワシは神じゃ。この眼は全てを見通す眼、なんでもわかるのじゃよ》
俺は胡散臭いと思いつつ、老人に尋ねた。
「……では神様、俺は何故ここにいるのでしょうか?」
《うむ、お前は先ほど日頃の怠惰な生活ぶりのせいか、その若さで急性心筋梗塞で死んだのじゃ》
「あ……、や、やっぱり俺は死んだのか……」
自らが死んだと知り、落胆した。
《ほっほ。確かにお前は死んだ。じゃがその才をそのまま捨てるには少しばかり惜しくてのう。そこでじゃ、お前にもう一度だけチャンスを与えよう。次の世界では自分のためではなく人のために生きてみせよ。お前が人のために善行をはたらいた時、ワシからお前に力を授けよう》
これを受け俺は神にこう返した。
「神様、人のために生きるには力が必要です。新しい世界がどんな場所かは知りませんが、最初に力がなければ善行を積もうにも無理と言うもの。どうかそれを成すための力をお与え下さい」
《ふむ……。確かにお前がこれから行く世界は今までお前がいた世界とはかけ離れておる。人の今など簡単に消えてしまう世界じゃ》
……そんな危ない世界行きたくねぇ……とは言えなかった。
《……わかった。ではワシから最初のスキルを三つお前に付与してやろう。何か望む力はあるかの? 言っておくが、お前は赤ん坊から次の人生が始まるでな。【不老不死】は止めておけ》
選んだ瞬間に一生赤ん坊確定とかあり得ん。しかし何にするか……。どんな家に生まれるかわからない今、最低限生きるだけの力は必要だろう。だからと言ってあまりに有能過ぎると偉い人から妬まれたり良いようにこき使われてしまう。この加減がまたむずかしい。
《どうした、まだ決まらぬか?》
「最初のスキルは大事ですからね。危ない世界なのでしょう?」
《うむ。魔物や悪人がわんさかいる世界じゃな》
……頼むから地球にしてくんないかなぁ……。
しかしそれが聞き入れられないのは百も承知だ。どうやら既に行き先だけは確定しているらしい。俺は悩みに悩み、神に願った。
「決まりました」
《ほう、決まったか。申してみよ》
「はい、俺が願うスキルは…………」
俺は神にスキルを三つ願った。
《そ、そんなスキルで良いのか? もっとこう……【万物創造】やら【経験値万倍】とか……》
「いえ、さっき願った三つで大丈夫です」
《そ、そうか……。わかった、ではお前が新たな世界で産まれた時、今願った三つのスキルを与えてやろう。……そろそろ時間じゃ。お前の新たな人生、次こそは人のために動くのじゃぞ……。では去らばじゃ……》
「はい」
そして俺の意識は再び闇に染まり、新たな世界へと向かうのであった。
神は下界を見下ろしこう呟いた。
《我が世界を頼むぞ田中陸人よ。世界の命運はお前にかかっておる……。しかし……あのスキルでどうしようと謂うのだ? 全く……ワシですらどうなるか想像がつかんぞ……》
こうして、田中陸人の第二の人生が幕を開けるのであった。
俺は子供の頃からのんびり屋やのろまなんて呼ばれ続けてきた。そのせいか義務教育を終えた後はひたすら家に籠り続ける日々を送っていた。
両親は俺が生まれた時からとにかく過保護で、俺が望めば何でも買い与え、宝のように愛してくれた。
だがそれも弟が生まれるまでだ。俺が十五で引きこもるようになったら親は慌てて子作りをはじめた。どうやら俺は見限られたのだろう。
両親はともに実業家で、金はたんまりあった。それこそ子供の一人が引きこもり、魔法のカードでガチャを天井まで回しても笑い飛ばせるくらいに金はあった。
しかしそれも子が立派な大人となり、跡を継いでくれるものと思うがゆえ。一人息子はそんな願いとは真逆の人間になってしまったがために、両親はもう一人子を作った。
弟は肥え太った俺とは違い、学力、スポーツ、芸術、あらゆる面で俺を軽々と追い越していった。俺が三十になった頃、弟は海外で大学を飛び級で卒業、そしてそのまま自ら起業し、両親と共にその資産をさらに増やしていった。
そんな弟を両親は可愛がり、いつしか俺には一切興味を示さなくなった。そんな俺に両親はカードを渡しこう言った。
「頼むから家から出ないでくれ。金ならいくら使っても良い。だから我が家の恥を晒さんでくれ……」
我が親ながら酷いセリフだった。ついに俺を恥だと言い切ったのである。まぁ、自覚はあるし、今さら外になんて出る気はない。金も別にもらわなくてもゲーム感覚で始めた株取引で家族の誰よりも稼いでいる。今の総資産は国の借金を全て肩代わりできるくらいはある。ちなみに国の銀行ではなく資産は全て海外の銀行に預けてある。
それを知らない家族は未だに俺が何もしない恥さらしだと思っているようだ。だがそれで良い。俺は人から何か強制させられるのが大っ嫌いだ。全て知られたら余計な期待をかけられ働かされるのは目に見えている。
弟は全てにおいて俺を越えていると錯覚しているようだが本当の所は違う。俺はやれるけどやらない。何故なら全てが面倒だからだ。
「人のために働くとか……社員の生活のために働くなんて真っ平ゴメンだね。俺は自分のためだけに動き、自分のためだけに稼ぐんだ。別に他人なんてどうでも良い。さて、今日も日課のゲームでも……ぐっ……うぁっ……!」
日課のゲーム画面を立ち上げた瞬間急に胸に激痛が走った。
「ッハ! ハァッ……! な、なんだ……これっ……! ぐうぅぅぅぅぅぅっ! く、苦しいっ……!」
俺は胸を押さえながら椅子から落下し、床に転がった。
「ハァッ……ハァッ……! だ、誰か……! た、助け……! があぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
そこで俺の意識は途絶えた。
俺はゆっくりと目を開いた。
「……た、助かった……のか?」
そんなはずはない。あの死ぬような苦しみが急に消えてなくなるなんてありえない。しかも、辺りを見ると明らかに自分のいた部屋ではない事がわかる。
「……もしかして……俺……死んだ?」
《ほっほ。中々理解が早いのう》
「んなっ!?」
突然背後から話し掛けられた俺はその場から勢いよく飛び退き、声の聞こえた方を振り返った。するとそこには立派な長い髭を蓄えた老人が杖を持ち浮かんでいた。
「と、とととと飛んでる!?」
《ほっほ。ここはワシの空間じゃ。浮かぶくらいわけはない》
「だ、誰なんだいったい……」
老人はニヤリと笑みを浮かべ俺の目の前にスッと移動してきた。
《ワシは神じゃ》
「か、神?」
《うむ。田中陸人よ、そなたは類い稀な才を持ちながらその才を全て自分が楽に生きるためだけに使っておったな?》
「……へ? な、何故それを?」
《ワシは神じゃ。この眼は全てを見通す眼、なんでもわかるのじゃよ》
俺は胡散臭いと思いつつ、老人に尋ねた。
「……では神様、俺は何故ここにいるのでしょうか?」
《うむ、お前は先ほど日頃の怠惰な生活ぶりのせいか、その若さで急性心筋梗塞で死んだのじゃ》
「あ……、や、やっぱり俺は死んだのか……」
自らが死んだと知り、落胆した。
《ほっほ。確かにお前は死んだ。じゃがその才をそのまま捨てるには少しばかり惜しくてのう。そこでじゃ、お前にもう一度だけチャンスを与えよう。次の世界では自分のためではなく人のために生きてみせよ。お前が人のために善行をはたらいた時、ワシからお前に力を授けよう》
これを受け俺は神にこう返した。
「神様、人のために生きるには力が必要です。新しい世界がどんな場所かは知りませんが、最初に力がなければ善行を積もうにも無理と言うもの。どうかそれを成すための力をお与え下さい」
《ふむ……。確かにお前がこれから行く世界は今までお前がいた世界とはかけ離れておる。人の今など簡単に消えてしまう世界じゃ》
……そんな危ない世界行きたくねぇ……とは言えなかった。
《……わかった。ではワシから最初のスキルを三つお前に付与してやろう。何か望む力はあるかの? 言っておくが、お前は赤ん坊から次の人生が始まるでな。【不老不死】は止めておけ》
選んだ瞬間に一生赤ん坊確定とかあり得ん。しかし何にするか……。どんな家に生まれるかわからない今、最低限生きるだけの力は必要だろう。だからと言ってあまりに有能過ぎると偉い人から妬まれたり良いようにこき使われてしまう。この加減がまたむずかしい。
《どうした、まだ決まらぬか?》
「最初のスキルは大事ですからね。危ない世界なのでしょう?」
《うむ。魔物や悪人がわんさかいる世界じゃな》
……頼むから地球にしてくんないかなぁ……。
しかしそれが聞き入れられないのは百も承知だ。どうやら既に行き先だけは確定しているらしい。俺は悩みに悩み、神に願った。
「決まりました」
《ほう、決まったか。申してみよ》
「はい、俺が願うスキルは…………」
俺は神にスキルを三つ願った。
《そ、そんなスキルで良いのか? もっとこう……【万物創造】やら【経験値万倍】とか……》
「いえ、さっき願った三つで大丈夫です」
《そ、そうか……。わかった、ではお前が新たな世界で産まれた時、今願った三つのスキルを与えてやろう。……そろそろ時間じゃ。お前の新たな人生、次こそは人のために動くのじゃぞ……。では去らばじゃ……》
「はい」
そして俺の意識は再び闇に染まり、新たな世界へと向かうのであった。
神は下界を見下ろしこう呟いた。
《我が世界を頼むぞ田中陸人よ。世界の命運はお前にかかっておる……。しかし……あのスキルでどうしようと謂うのだ? 全く……ワシですらどうなるか想像がつかんぞ……》
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