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第1章
<10話>通学路の乱(其の3)
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走馬灯って知ってるだろうか。
人が死を悟った瞬間に、
今までに蓄積されてきた数多の記憶が
高速で脳内を駆け巡る、
というアレのことだよ。
一説では、
アレは単なる記憶の混乱ではなく、
今まで生きてきて得た知識から、
どうにかしてその『死』を
回避する方法を探しているのだそうだ。
かく言う僕にも、
三好さんに振り向かれた瞬間、
そして彼がボールケースから、
新たな凶器を取り出すのを見た瞬間、
走馬灯が脳内を駆け巡った。
そして幸運にも、
その中から適切な行動を
見つけ出すことに成功した。
焦りまくりの僕と比べて、
フセは対して焦った様子もなく、
『ねー、どーすんのこれ?』
などと欠伸をしながら聞いてきた。
流石に呑気すぎやしないかと思ったが、
ひょっとしたら
この世の生物では無いシンジュウには、
死への恐怖とか言う概念が
そもそもないのかもしれない。
🗒シンジュウに、恐怖の感情はない(?)
「ふっふっふ、安心しなよ。
今さっき、
僕のあらゆる知識を結集させた、
諸葛亮も腰を抜かす
天才的奇策を思いついたからさ。
だから、
いつでも走れるようにしといて。」
声を震わせながらそう言いつつ、
僕は世離を顕現させる。
三好さんはさして
驚いた様子も見せなかったが、
もうそんなことどうでもいい。
次の瞬間、僕は、
人類が長い歴史の中で編み出した、
偉大なる『最強の生き残り術』を、
実践した。
即ち、
くるりと後ろに向き直り、
脱兎のごとく逃げ出した。
ダッシュ! dash! DASH!
僕とフセは通学路をひたすら走る。
並走しているフセは、
あからさまにガッカリしている。
『天才的奇策ってコレのこと?
君、歴史上の偉大なる軍師たちに
近いうちに呪い殺されるんじゃない?
ついでに、出会ってから今まで、
私の中の君の株が
下がりまくりなんだけど。』
「うるさい!
あんな化け物みたいな人と
まともに戦って勝てるわけないだろ!
逃げられるなら、
逃げられなくなるギリギリまで、
逃げるに決まってる!」
ここで僕をカッコ悪いと
思った人に言っておきたいのは、
人類が今日まで生き残ってこれたのは、
ズバリ『逃げることができたから』
に他ならない。
ラノベじゃないんだから、
格上の相手に
勇ましく向かっていったところで、
結果は殆ど敗北だ。
それなら、
立ち向かって勇ましく儚く、
命を散らすよりは、
無様に逃げて生き残るべきだ。
それと同時に、
僕の尊敬する爺ちゃんのある小説の
主人公のセリフの、
ワンフレーズが心に浮かぶ。
『よくいい死に方、
とかいうけどな、
死ぬのにいいとかないんだよ。
どんだけ無様でも、
どんだけ往生際を悪くても、
生き残る方が良いに決まってる。』
そうだ、死んじゃダメだ。
死んだら終わる。死んだら何もない。
だから、どんなに汚くてもいい、
ーーー生きなくては。
僕達はそのまま走り続け、
そしてーーー
ーーー現在に至るのだ。
早い話が、丁度学校と家の中間くらいで
僕の体力が底をつき、
追い詰められた、
というのが現状だ。
極度の疲労(フセの分の肩代わり含む)
のために、
僕は肩で息をする。
だけどとりあえず、
人気の無いところに
誘い出すことは、成功した。
何せ三好さんの強さは勿論、
僕は僕で異能を使うのだ。
異能力者が
人気の多い学校前なんてところで
大立ち回りを繰り広げたら、
危ないどころか確実に死人が出る。
「信じてください、
僕は無実なんです!」
滝のように汗をかきながら
必死の形相で訴える僕とは対照的に、
平然とした表情で、
三好さんはヘラヘラと笑う。
「いやいや、こっちとしてもね、
こんなことはしたくないんだよ。
だけど、
さっきも言った通り、
シンジュウの宿り主を
傷だらけにするなんて、
一般人には絶対に無理だ。
犯人君しか考えられないんだよね。」
どうやら、会話で誤解を解くのは
殆ど諦めた方がいいようだ。
そもそも、
言っていること自体は
完璧に筋が通っているから、
「違います」と繰り返すだけじゃあ、
疑いは晴れないに決まっている。
なら、優先すべきは、
この力の原理の解明と、対策だ。
「フセ、あの人のシンジュウは何処?」
その質問をした瞬間、
フセは、
『ハァァァァァ~~~~・・・。』
と、呆れたように
長い長いため息をついた。
僕は憤慨して、まくしたてる。
「何呆れてんだよ!
ここまで15分以上、
僕達はここまで
並のオリンピック選手位の速度で
ずっと走ってる計算になるんだぞ!
それに汗ひとつかかずについてきて、
しかも殆ど腕のスナップの力だけで
野球ボールを投げて、
それで電柱に穴開けるなんて、
普通の人間が出来るわけないだろ!」
「うん、まあ君の気持ちはわかるよ。
オリンピックの短距離選手並の速度で
走れて、しかもそれを15分続けても
汗ひとつかいてなくて、
野球ボールで、
それもちゃんとした
投球モーションも無しに、
あんなに太いコンクリートの柱に
風穴開けるなんて、
普通じゃない、人間じゃない。
そう言いたいんだろ?」
そうだよ!と僕は怒鳴ってから、
「だからさっさと・・・」
だか、フセはそれを遮って発言する。
『シンジュウはいないよ。』
と短く言った。
「いないってどういうことだよ!
シンジュウは宿り主と、
そんなに見えないほど遠くまで
離れられないはずだろ!」
僕は、必死に困惑する。
僕は、真実を認めたくなくて、
辿り着いた結論が嘘であって欲しくて、
必死に困惑する。
『認めたくないのはわかるよ、
私だって正直ちょっと怖い。』
そしてフセは、短く吐き捨てた。
「あの男の人間離れしたあの所業は、
一切シンジュウの力を使ってない。
純粋な身体能力だけで行われてる。
あいつはね、
加護を持たない一般人だよ。』
人が死を悟った瞬間に、
今までに蓄積されてきた数多の記憶が
高速で脳内を駆け巡る、
というアレのことだよ。
一説では、
アレは単なる記憶の混乱ではなく、
今まで生きてきて得た知識から、
どうにかしてその『死』を
回避する方法を探しているのだそうだ。
かく言う僕にも、
三好さんに振り向かれた瞬間、
そして彼がボールケースから、
新たな凶器を取り出すのを見た瞬間、
走馬灯が脳内を駆け巡った。
そして幸運にも、
その中から適切な行動を
見つけ出すことに成功した。
焦りまくりの僕と比べて、
フセは対して焦った様子もなく、
『ねー、どーすんのこれ?』
などと欠伸をしながら聞いてきた。
流石に呑気すぎやしないかと思ったが、
ひょっとしたら
この世の生物では無いシンジュウには、
死への恐怖とか言う概念が
そもそもないのかもしれない。
🗒シンジュウに、恐怖の感情はない(?)
「ふっふっふ、安心しなよ。
今さっき、
僕のあらゆる知識を結集させた、
諸葛亮も腰を抜かす
天才的奇策を思いついたからさ。
だから、
いつでも走れるようにしといて。」
声を震わせながらそう言いつつ、
僕は世離を顕現させる。
三好さんはさして
驚いた様子も見せなかったが、
もうそんなことどうでもいい。
次の瞬間、僕は、
人類が長い歴史の中で編み出した、
偉大なる『最強の生き残り術』を、
実践した。
即ち、
くるりと後ろに向き直り、
脱兎のごとく逃げ出した。
ダッシュ! dash! DASH!
僕とフセは通学路をひたすら走る。
並走しているフセは、
あからさまにガッカリしている。
『天才的奇策ってコレのこと?
君、歴史上の偉大なる軍師たちに
近いうちに呪い殺されるんじゃない?
ついでに、出会ってから今まで、
私の中の君の株が
下がりまくりなんだけど。』
「うるさい!
あんな化け物みたいな人と
まともに戦って勝てるわけないだろ!
逃げられるなら、
逃げられなくなるギリギリまで、
逃げるに決まってる!」
ここで僕をカッコ悪いと
思った人に言っておきたいのは、
人類が今日まで生き残ってこれたのは、
ズバリ『逃げることができたから』
に他ならない。
ラノベじゃないんだから、
格上の相手に
勇ましく向かっていったところで、
結果は殆ど敗北だ。
それなら、
立ち向かって勇ましく儚く、
命を散らすよりは、
無様に逃げて生き残るべきだ。
それと同時に、
僕の尊敬する爺ちゃんのある小説の
主人公のセリフの、
ワンフレーズが心に浮かぶ。
『よくいい死に方、
とかいうけどな、
死ぬのにいいとかないんだよ。
どんだけ無様でも、
どんだけ往生際を悪くても、
生き残る方が良いに決まってる。』
そうだ、死んじゃダメだ。
死んだら終わる。死んだら何もない。
だから、どんなに汚くてもいい、
ーーー生きなくては。
僕達はそのまま走り続け、
そしてーーー
ーーー現在に至るのだ。
早い話が、丁度学校と家の中間くらいで
僕の体力が底をつき、
追い詰められた、
というのが現状だ。
極度の疲労(フセの分の肩代わり含む)
のために、
僕は肩で息をする。
だけどとりあえず、
人気の無いところに
誘い出すことは、成功した。
何せ三好さんの強さは勿論、
僕は僕で異能を使うのだ。
異能力者が
人気の多い学校前なんてところで
大立ち回りを繰り広げたら、
危ないどころか確実に死人が出る。
「信じてください、
僕は無実なんです!」
滝のように汗をかきながら
必死の形相で訴える僕とは対照的に、
平然とした表情で、
三好さんはヘラヘラと笑う。
「いやいや、こっちとしてもね、
こんなことはしたくないんだよ。
だけど、
さっきも言った通り、
シンジュウの宿り主を
傷だらけにするなんて、
一般人には絶対に無理だ。
犯人君しか考えられないんだよね。」
どうやら、会話で誤解を解くのは
殆ど諦めた方がいいようだ。
そもそも、
言っていること自体は
完璧に筋が通っているから、
「違います」と繰り返すだけじゃあ、
疑いは晴れないに決まっている。
なら、優先すべきは、
この力の原理の解明と、対策だ。
「フセ、あの人のシンジュウは何処?」
その質問をした瞬間、
フセは、
『ハァァァァァ~~~~・・・。』
と、呆れたように
長い長いため息をついた。
僕は憤慨して、まくしたてる。
「何呆れてんだよ!
ここまで15分以上、
僕達はここまで
並のオリンピック選手位の速度で
ずっと走ってる計算になるんだぞ!
それに汗ひとつかかずについてきて、
しかも殆ど腕のスナップの力だけで
野球ボールを投げて、
それで電柱に穴開けるなんて、
普通の人間が出来るわけないだろ!」
「うん、まあ君の気持ちはわかるよ。
オリンピックの短距離選手並の速度で
走れて、しかもそれを15分続けても
汗ひとつかいてなくて、
野球ボールで、
それもちゃんとした
投球モーションも無しに、
あんなに太いコンクリートの柱に
風穴開けるなんて、
普通じゃない、人間じゃない。
そう言いたいんだろ?」
そうだよ!と僕は怒鳴ってから、
「だからさっさと・・・」
だか、フセはそれを遮って発言する。
『シンジュウはいないよ。』
と短く言った。
「いないってどういうことだよ!
シンジュウは宿り主と、
そんなに見えないほど遠くまで
離れられないはずだろ!」
僕は、必死に困惑する。
僕は、真実を認めたくなくて、
辿り着いた結論が嘘であって欲しくて、
必死に困惑する。
『認めたくないのはわかるよ、
私だって正直ちょっと怖い。』
そしてフセは、短く吐き捨てた。
「あの男の人間離れしたあの所業は、
一切シンジュウの力を使ってない。
純粋な身体能力だけで行われてる。
あいつはね、
加護を持たない一般人だよ。』
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