シンジュウ

阿綱黒胡

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第1章

<11話>通学路の乱(其の4)

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ヤバイヤバイヤバイ!
僕の頭が全力で警報を鳴らす。

シンジュウの力を使っているなら、
体力を余分に消費するから、
『限界』があるけれど、
あれが一切の特殊な力を
借りていないとなると、
最早無効化とかは考えない方がいい。

というか、寧ろそっちの方が逆に怖い。
だって、今までの行動は、
どう見ても人間のなせる技じゃない。
この人、シンジュウはいなくても、

人間であることは間違いない。

とは言っても、
もうすぐこの農業地帯を出て、
住宅街に突入してしまう。

本当に早く何とかしなくちゃ!

しかし、
ここで僕にある疑問が浮かんだ。

そもそも傷だらけになった本人の斯波は
三好さんに何と言ったのだろうか?
僕を貶めたいのなら、
嘘をついて
三好さんに僕を襲わせるより
探偵である三好さんに
警察に通報してもらう方が
よっぽど楽だし、ダメージも大きい。

それに第1、あんなに頭の良い人が、
こんな暴力が絡むやり方を
取るとは思えない。
だって、
何のメリットも無いじゃないか。

「し、斯波には
話を聞いてないんですか!?」
もし帰った後に、
僕が犯人だと嘘をつかれていたら、
もう打つ手なしだ。

そうでないのなら・・・。

しかし、三好さんは、あっけらんかんと
「へ?聞いてないけど?
帰って倒れるみたいに
寝ちゃったからね。
だけど常識的に考えて
君しかいないだろ。」

・・・聞いていなかった。
この人本当に探偵なのだろうか。

などと呆れている場合じゃないけど、
彼女から話を聞いていないなら、
嘘をつかれていないのなら、
これが三好さんの独断行動なら、


僕はダッシュしながら携帯を取り出し、
連絡先欄を光の速さでスクロールし、
其の中の一つを、
画面を突き破らんばかりの勢いで
タッチする。

破壊音に包まれる
現状とは打って変わって、
平和なコール音が鳴り響く。

繋がらなければ死ぬ、
向こうが僕を貶めるつもりなら死ぬ、
携帯を落としても壊されても死ぬ、
コール中に追いつかれても死ぬ。

早く早く早く!頼む頼む頼む!

「はいもしもし、どうしたの?」
携帯電話から、
斯波の可愛らしい声が聞こえた。

前まで敬語だったのに、
どうやらこの子、
完全に僕への警戒心を
解いてくれてるようだ。

しかし今は、
それを喜んでる場合じゃない。

僕は短く、しかしはっきりと、
震える口を動かす。

「誤解で三好さんに襲われてる!

助けて!」

電話口の彼女も、聞こえてくる轟音から
何となくこの現状を察したらしい。

「叔父さんの方に携帯向けて!」
僕はこの指示に従い、
数メートル先まで迫っていた
三好さんに携帯を突き出す。
何をするのかと思えば、
葉月はたった一言、

「叔父さん、やめて!」と叫んだ。

それだけで、本当にたったそれだけで、
三好さんは止まった。

「ちょっと貸して。」などと言って
僕から携帯を奪い取って
呑気に姪と通話する探偵を見ながら、
呆れからか、疲れからか、
僕はその場にへたり込むのだった。

後日談というか、その後というか、
僕は結局、
三好さんに軽いノリで謝られ、
探偵事務所の名刺を渡されて、
その場から解放された。

シンジュウ探偵に、
シンジュウの力を凌駕する人間、
どうやら僕は、
とんでもない人達とつながりを持って
しまったらしい。

『まあまあ、そう深く考えないで。
誤解解けてよかったじゃない。』
帰宅後、ガブガブと水を飲みながら、
フセにそう諭されたが、
僕にはまた
別のことが引っかかっていた。

斯波の襲撃犯のことだ。
其のことで、
フセとの出会いを思い出す。
思えば、フセも血だらけだった。

シンジュウとその宿り主を
攻撃する存在、
いつか僕も襲いにくるのだろうか。

そんな柄にもないことを考えながら、
僕はふと窓の外を見る。

そこには、
何故かあった。

「・・・おいフセ、何これ?」
彼は悪びれもせずに答える。
『ああ、なんか売ってて
面白そうだったから、買っちゃった。
大丈夫だよ、お金は払ったから。』
成る程たしかに、
財布から野口英夫が
1人消えていた。

おそらく勝手に
僕の財布から1000円抜いて
店に置き、代わりに
花を持ってきたんだろう。

📄シンジュウは、見えていなくても
物体に干渉することができる。
成る程なかなか賢い犬だ。
・・・って、
「買っちゃったじゃないよ!
僕のお金勝手に使うな!
最近金欠なのに~!
しかもお釣りももらわずに・・・。

お金返せ!」

僕達は疲れも忘れて夜もふけたなか、
取っくみ逢いに興じるのだった。

喧嘩が終わってフセが寝入った後、
僕は何となく気になって、
この花の花言葉を調べてみた。

どうやらこれ、
シャコバサボテンというらしい。

花言葉は、『波乱万丈』。
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