シンジュウ

阿綱黒胡

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第1章

<12話>修理屋『スクラップ』(其の零)

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4月30日といえば、
世間一般的には平日だ。
みんな学校や職場へ行く。

朝7時、店のガレージを開けると、
ワイワイという声とともに、
目の前の通学路を
楽しそうに喋りながら
歩く集団が見える。

親に手を引かれた幼稚園児、
ランドセルを背負った小学生、
友人と話しながら歩く中学生に、
イヤホンをつけた高校生、
背筋を伸ばして歩く社会人。

そんなよりどりみどりの年代の中で
共通している点は、
『朝は慌ただしい』ということだろう。
どこかみんな忙しない。

その点、日の高い間は、
学校がない定時制はそれが無くていい。

「おう、一平、起きたか。
早いな、朝飯できてるぞ。」
振り返ると、
おたまを握りしめた
大柄でヒゲの濃い男が立っていた。
まあわかると思うが、俺の親父だ。

「サンキュー、親父。」
俺はそう言いながら、
店の奥の居住スペースに駆け込む。
畳の敷かれた居間には、
湯気の立つご飯と味噌汁、
こんがりと焼かれた塩鮭に、
歯ごたえのある漬物が並んでいた。
俺の向かいにも茶碗があるが、
そちらはすでに空だった。
どうやら親父は、
俺が起きる前に済ませたらしい。

「今日の注文は?」
俺は白御飯を頬張りながら聞く。
「電子レンジ2台とラジコン、
電気ストーブと原付だな。
駆け込みもあるだろうから、
これよりもっと多いと思うが・・・。」
成る程、今日は中々上々だ。
「じゃあ、原付と電子レンジ1台、
俺がやっておくよ。」
俺がニコニコ顔で答えると、
親父は「いつもすまんな。」
と申し訳なさそうに謝ってきた。

俺は笑顔で、
「気にすんなよ。」と対応する。
母さんが亡くなってから、
親父はずっと男手一つで、
俺を育ててきてくれたのだ。
俺だってもう16歳、
できることはやってあげたい。

おっと、これだけじゃ、
これを読んでるあんたらは、
混乱するかもしれないな。

俺、羽柴一平と俺の親父は、
ここ天原市で、家業として
修理屋『スクラップ』
を営んでいる。

種類は基本どんなものでも受け付け、
実際はバイクに車におもちゃなど、
なんでもござれだ。

この市にここまで本格的な修理業者は
ここしかないし、
店の名前とは裏腹に、
俺も親父を腕は確かで、
今まで直せなかったものはない。
(といっても、
それを胸を張って言えるのは親父だけで
俺はまだまだ未熟だから、
ちょっとした
したりしているのだが・・・。)

というわけで、この店は市民からの
信頼も厚く、
収益もかなり見込めているため、
俺たちはそれなりに
潤った生活を送る事が出来ている。

嬉しいことだが、
それと比例して毎日かなりの数の
注文が届き、
親父だけでは間に合わないから、
こうして俺が手助けしているのだ。

どーせ俺は定時制高校で夜からだから、
朝~昼は退屈極まりないし、
(元々俺はあまり寝ない)
それに我が家のルールで、
『自分で直したもので
貰ったお金の1割は、
自分の懐に入れていい。』
というのだから、
親孝行と小遣い稼ぎを、
両立してやろうというわけだ。

今日も結構稼げそうだ。
そう思いながらふと皿を見ると、
とっておいた塩鮭の最後の一切れが
煙のように消えて無くなっていた。

俺は親父が居間から出て行ったのを
確認してから、
「おい!自分の分食べた後は、
俺の朝ごはんとるなって、
いつも言ってるだろ!」と怒鳴る。

すると天井から返事が聞こえる。

『はあ?あんなピーナッツ1皿で、
ほんまに足りると思ったんか?
足りるわけないやろ。
私かて肉とか魚とか食べたいねん。
たまにはええやろ。』

再度怒鳴りつけてやろうと思ったが、
ここはぐっとこらえる。

ここでこいつと口喧嘩を展開して、
親父にバレたら事だし、
それにこいつの、
コマチの機嫌を損ねれば、
今日の仕事に差し支える。

「・・・わかったよ。
ただし、その分きっちり
手伝ってもらうぞ。」

朝餉を済ませた俺は、外に出て、
自分の担当の修理品を、
『秘密の場所』に運び込む。

中学校の裏にある、
数年前に廃棄された倉庫、
ここなら誰にも見つかるまい。

「・・・よし。
こんなもんでいいかな。」
俺はチョークを取り出して
原付と電子レンジを線で囲っていく。

そして、


某幽波紋漫画でラッシュがあるだろ?
あんな感じでなんの躊躇もなく、
ただただ殴り続ける。
気分的には掛け声を出したいところだが
このやり方は企業秘密なので我慢する。

ものの10秒ほどで、
原付と電子レンジは
完全にスクラップになった。

「コマチ~、コマチ~、
ちょっと手伝って~。」
俺がひそひそ声で呼びかけると、
俺の右肩に一羽のカラスがとまった。
『はいはい、わかったわかった。
さっさと終わらそ。
私テレビ見たいねん。』

俺はスクラップを円の中心に置くと、
『ドン!』と床に両手をついた。
次の瞬間、円の中が光に包まれ、
それと同時に煙で満たされる。

10数秒後、
煙が晴れた円の中にあったのは、
新品のようにピカピカな
電子レンジと原付だった。

「よし、OK!
次は・・・。」

ここまで読んだらもうわかると思うが、
そう、俺はただの人間じゃ無い。
あんたらは知らないだろうが、
『シンジュウ』と呼ばれる存在を
宿すものだ。

ーーーーーーーーーーーーーーーーー
4月30日、この日の夜、
学校から帰ってきて
のんびりと過ごしていた
僕は、携帯の着信に飛び上がった。
『いや、驚きすぎでしょ。』
とフセにツッコミを入れられながら
携帯の電話を見ると、
『三好善一』とあった。
若干の恐怖を覚えつつ電話をとると、
「やーやー、こんばんわ!
夜遅くにごめんね~!
いや~、葉月の怪我が治ったから、
お酒解禁したんだけど、
やっぱりビールっていいね!」
とハイテンションな声が聞こえた。
・・・ちょっと酔ってんだろうな。

「君、今週の日曜日暇?
ちょっと仕事を
手伝ってもらいたいんだけど。」
・・・一般人に手伝ってもらって
大丈夫なもんなんだろうか。
「因みにどんな仕事ですか?」
僕が恐る恐る聞くと、
「ん、ああ、大した事じゃ無いよ。
君らが葉月と会った廃倉庫あるだろ、
なんかね、誰もいないはずの
あそこで、昼夜問わず
謎の光と煙が目撃されまくってて、
なんか謎の円ができてるし、
怒号みたいな声が聞こえるから、
怖いから調査してほしいって。」

・・・成る程ね~。
たしかにそれ程大した事ない
「・・・って大した事あるでしょ!
要するに怪現象
調査しろって事でしょ!
嫌ですよ怖い!」

って言うか、
つい最近知り合ったばかりの
おっさんのために、
どうしてそんなことせにゃならんのだ。

「頼むよ、用事入っちゃって、
どうしても行けないんだ。」
「嫌ですよ怖い!」
「報酬半分あげるから。」
「嫌ですよ怖い!」
「すぐ終わるって。」
「嫌ですよ怖い!
好き好んで1人で
幽霊に遭遇したいわけないでしょ!」

「1人じゃないよ?」
と三好さんは怪訝そうに言った。
「葉月も一緒だけど。」

「行かせていただきます。」

隣でフセがボソッと呟いた、
『君一生モテないと思う。』
という言葉が、
僕の胸をぐさりと突き刺した。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「しかし謎の光と煙かあ。
これって・・・。」
僕の疑問にフセが答える。
『うん、まあ間違いなく
シンジュウだね。
それもかなり古くからいるタイプだ。』

「どんな加護だろう。」
するとフセは不思議そうに、
『あれ、わからなかったの?
君らでも知ってると
思うんだけどなあ。』
嫌、煙と光だけじゃなあ・・・
と思っていると、
突然僕の頭にある言葉が浮かんだ。

いや、
あれは漫画の中だけの存在で、
実際は失敗してるし・・・。
いや待てよ、
もし失敗したのが一般人で、
シンジュウの宿り主がやってるのを見て
やってみようと
思ったのだとしたら・・・。
と、その時、再度三好さんから
電話がかかってきた。
でると、
「言い忘れたけど、
なんか黒フードの謎の人物が
出入りしてるんだって。
なんでもリヤカーに
大量のスクラップを乗せて入ってって、
出てくるときには、
ピカピカ新品の
バイクやらレンジやら乗せて
出て行くらしいよ、
不思議だよねえ。」
そう言って電話は切れた。

円、光、煙、スクラップが新品に・・・

『うん、正解だね。』
フセは笑顔で語りかける。
『煙とか光とかは、
恐らく
出るもので、
それをたまたま目撃されたんだ。
つまり、えーと・・・。』
「もうわかったよ、フセ。」

もうここまでくると認めるしかない。
確信できた。
まさか本当にいたとは・・・。

「僕らの今回の相手は、
僕等が錬金術師って言ってる存在だ。」




























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