シンジュウ

阿綱黒胡

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第1章

<22話>図書委員会(其の2)

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「天原中学校で、最も有名な人物は?」
と聞かれれば、
大抵の生徒・教師は、
本多沙良先輩の名を挙げるだろう。

彼女は、『最強』である。

容姿端麗、成績優秀、
襲ってきた不良3人組を
秒殺して病院送りにする
高度な身体能力を持ち、
模試を受ければ全国1位2位は当たり前、
「気が向いたから」という理由で、
大会3日前に入部した
部活の大会に出場すれば、
個人競技は言うまでもなく、
団体競技でも、
チームメイトとまるで何年と一緒にいるかの様なチームプレーを発揮し、
それが野球だろうが剣道だろうが、
サッカーだろうがダンスだろうが、
なんでもござれの万能少女。
ありとあらゆる大会で
他の優勝候補をことごとくぶっ潰して
当たり前のように全国大会に出場し、
何回彼女をテレビで見たか、
もう数えるのも面倒くさい。

彼女が最優秀賞を受賞した
数えきれない程の楽譜や作文、俳句は、
全てが提出3分前に書かれた物である。

我が天原中学校の名を、
様々な分野で全国に轟かせたのは、
何を隠そう彼女なのだ。

彼女は、『最恐』である。

何者かがイタズラで
彼女の家に毎日の様に
動物の死体を送りつけてくる、
という事件が発生した際、
付着していた頭髪を
知り合いの大学教授の元に持って行って
検査を行い、犯人を独自に割り出し、
逮捕に貢献したのは先輩だが、
直ぐには通報せず、逆にその犯人に
1ヶ月間釘や針を突き刺しまくった
お喋り機能付き人形を送り続け、
犯人をノイローゼにしたのも先輩だ。

教室の鍵が壊れて
1クラス丸々教室に閉じ込められた際、
業者が来るより早く
ピッキングで助け出したのは先輩だが、 
理不尽かつ横暴な態度を
生徒に取り続け、
先輩を脅して手を出そうとした
教育連盟の重鎮の息子の男性教師を、
学校に人が来ないGWを狙って
3日間もの間監禁し、
汚職を洗いざらいぶちまけさせて
その教師の退職に追い込んだのも、
また先輩である。
(最も、これは未だに教師側には
犯人を特定できておらず、
先輩の評価が下がることはなかった。)

彼女に敵と認識されて、
無事で済んだ人間はいない。
そのため、尊敬とともに、
畏怖の情も少なからず抱かれている。

彼女は、『最狂』である。

『陰気の巣窟』と呼ばれている
自身が委員長を務めている
図書委員会を利用して、
その裏で『超常現象研究会』
などという珍妙な組織を作り、
彼女の気に入った生徒たち
(殆どの場合、
立場の弱いいじめられっ子や、
影の薄い孤立した生徒)を引き込み、
日夜自身の知的欲望を満たすため、
怪奇行動を行なっているのだ。

狂っていなければ、
真夜中2時に「花火をやろう!」
とか言って部員を呼び出して、
公園で粉塵爆発を
実践したりなんかしない
(周りに何もない
広場みたいなところでやったから、
火事になるような事は無かったが、
見ていた近隣の住民に通報され、
僕達は暗黒の中、
警察に見つからないように息を殺して
帰宅することとなった。

もう完全に犯罪者のソレじゃねえかよ、
まあ、行動は補導モンだけど。

因みに、結局帰宅後に親に見つかって、
すこぶる怒られた。)

狂っていなければ、
「狼を探しに行くぞ!」と言って、
傷だらけになりながら野良犬を
とっ捕まえたりなんかしない。
(お陰で、僕達は
咬み傷だらけになった。
狂犬病になったら
どうするつもりだったんだろう。

勿論犬はすぐに逃がした。)

そうだ、狂っているに違いない。

狂っていなければ、
強姦魔であるはずの僕を、
被害者と同じ女性でありながら、
委員会をあげて、
教師や相手の親すら敵に回して、
擁護したりはしないだろうから。

1年前、冤罪をかけられて孤立し、
侵入した屋上で1人、
人生に終止符を打つか迷っていた
僕の前に、先輩は現れた。

「よお、1年坊。
何してんだ、こんなとこで。」
当時2年生の本多先輩は、
ヘラヘラ笑いながらそう言った。

「・・・見てわかんないんですか、
死ぬかどうか迷ってるんですよ。

僕の人生なんて、
真っ暗闇の道みたいなもんなんです。

誰も一緒に行っちゃくれない
最低最悪の道を、
たった1人で歩くくらいなら、
僕はリセットを選びますよ。

それともなんですか、
解決してくれるとでも言うんですか?」

僕は魂の抜けた顔でそう言った。

「ふーん。」
本多先輩はそういうと、
屋上の柵から身を乗り出した僕に
ツカツカと歩み寄り、
「お前、アタシの超常現象研に入れ。」

命令された。

数秒間の沈黙、そして僕は一言。
「は?」

「いや、あの、え?は?」
挙動不審になる僕は眼中にないのか、
先輩は勝手に続ける。

「お前の事は全然知らねーが、
なんとなーく気に入った。

要するに1人が怖くて
しょーがねーんだな。

お前の人生だから、最終的には
死ぬも生きるもお前の勝手だがな、
この言葉でもう少しだけ、
この地獄みてえな世界を生きようって
気が湧いたなら、
ウチの研究会に来い。

まあ、今はアタシしかいねーけど。

だけどな、
アタシはアタシを信じてくれる奴なら、
たとえそれが
世界中から尊敬される聖人だろうが、
世界中から嫌悪される悪人だろうが、
喜んで手をにぎるぜ。

だからお前の
『解決してくれるのか。』
と言う問いに対する、
アタシの返答はこうだ。」

そして、一呼吸置いて、
先輩は高らかに叫んだ。

「解決は出来ない!
だけど、
アタシのことを信じてくれるなら、
その最低最悪の道とやら、
一緒に歩いてやる!」

一瞬、沈黙。
静寂を破ったのは、
僕の吹き出す声だった。
ひとしきり笑った後、
笑い泣きの涙を拭きながら、
「いいんですか?
僕は世間じゃ変態なんですよ?」
と聞く。
先輩は間髪入れずに、
「でも冤罪なんだろう?」
僕は頷く。
「ならアタシにとってはお前は、
冤罪と必死に戦う、健気な後輩だ。
アタシにとって世間は、
可愛い後輩を無実の罪で貶める、
アタシの敵だ。

言ったろ?
アタシのことを信じてくれる奴なら、
どんな奴だろうと、アタシも信じる。

お前は、アタシを信じてくれる?」

先輩は僕の目をしっかり見つめて、
ハキハキとこう言った。

もう、僕の答えは決まっていた。
「ええ、信じますよ。
超常現象研究会でしたっけ?
加入を希望します。

1年4組、義経赤斗です。
宜しくお願いします。」

「2年2組、本多沙良だ。
宜しく頼む。」

その名を聞いた瞬間、
彼女が遥か天上の人であると知り、
僕はつい先刻働いた、
数々の無礼を思い出し、
記念すべき僕の活動の第一弾は、
屋上での美しき土下座となった。

何はともあれ、
ここから、
超常現象研究会はスタートしたのだ。

そしてあれから1年、
シンジュウを宿した僕と、
僕の後から入ってきた
超常現象研究会の仲間たち、
そして本多先輩は、
『シンジュウ』と言う存在によって、
思いもよらなかった方向に、
複雑に絡み合って行くのだけれど、
そんなことは、
1年生の時の僕も、
そして勿論通学中の今の僕も、
知る由も無いことなのだ。












































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