シンジュウ

阿綱黒胡

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第1章

<25話>『ナイト』・ストーリー・イン・アマバラ(其の2)

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何故、世間一般的に、
怪異・妖怪・魑魅魍魎と
呼ばれる類の存在は、
大抵夜中に出現するのか。

本当の理由は、
調べた事無いから知らないけれど、多分
『人がソレを一番怖がってくれる
時間帯だから。』だと思う。

人は、本質的に暗闇を怖がる。
何故か?それは「見えない」からだ。

たとえば、
真っ暗の夜の街を歩いていて、
建物の影の暗闇から、
いきなり「やあ」なんて言われたら、
たとえその存在の正体が、
何年も連れ添った知人だったとしても、
一旦は多少の恐怖は感じるだろう。

人は、分からないものを怖がる。
『幽霊の正体見たり枯れ尾花』
なんて言葉があるくらいに、
人は分からないものに
本能的な恐怖を感じるのだ。

だから、

いくら僕がシンジュウ能力者だろうと、
暗闇は怖くて当然なのだ!

「うううう、
やだよお、怖いよお、帰りたいよお。」
『ギャーピーうるさいなあ、
夜しか目撃例がないんだから、
しょうがないだろ。』

ただ今時刻は午前1時過ぎ。
僕達は『騎士』を捜索すべく、
親が寝静まったのを見計らって、
外へ繰り出した。
天原市はそこまで大きな地区では
無いので、
コンビニもないこんな住宅街は、
現在死んだ様に静まり返っている。

「考えてみれば、
こんな時間に外に出るのは
初めてかもしれないな・・・。」
のムードというのは、
案外良いものだった。

なんて事を考えていると、
フセがめんどくさそうに、
『ムードに浸るのはいいけど、
ちゃんとコース考えてるの?
明日休みだからっていっても、
こんな時間に外で歩いてるのは、
ガッツリ補導対象だぜ?』
「・・・まあね。」

確かに、
こんな事で補導されて、
内申点を下げられるのはなかなか嫌だ。
そんなにゆっくりはできないな。

「さてと・・・。」
僕は資料を広げ、
携帯の地図アプリを起動する。

そこまで広くないとは言っても、
あてもなく街を一回りなんかしてたら
マジで夜が明けてしまうので、
作戦が重要だ。

そこで僕は取り敢えず、
目撃例がある場所を片っ端から
回ってみることにした。
『そんな上手いこと
行くかなあ・・・。』
フセはイマイチ不満らしいが、
どうせ中学生が個人の力で
出来ることなんて、こんなものだ。

「はいはい、グチグチ言わない。」
そう言って僕は走り出した。

ーーー結論から言おう。
1時間、
走りに走って全ての現場を見た結果、
一切の手がかりは掴めなかった。

『ほらみろほらみろ、
プロの大人が血眼で探しても
尻尾すら掴めないのに、
こんな事で見つかる訳ないんだ。
疲れ損じゃん、馬鹿だね~。』
「うるせえな・・・僕には・・・これが・・・精一杯・・・なんだよ。」
自販機で買った水を飲んで、
ようやく喋れるようになった
疲労困憊の僕は、
フセの嘲笑を聴きながら、
道路にへたり込んだ。

確かに無謀な事ではあったが、
ここまで手がかりが見つからないとは。

警察の捜査が入っているから、
証拠品なんかは、
全部持っていかれちゃったのだろうか。

いや、そもそも、
何の特殊技能もない僕が、
こんな方法で探せる訳ないのだ。

・・・まあ、いいや。

僕は地図の現場のところに印を付ける。
そしてそのまま丸めて、
後ろポケットに突っ込んだその時、
「・・・何してるんですか?」
という声がして、僕は顔を上げる。

背の低いツインテールの女の子が、
僕の目の前に仁王立ちしていた。

北畠凛。
1年生にして全国3位にまで上り詰めた
天原中学校陸上部の実力者にして、
超常現象研究会ウチのメンバーの1人、
北畠隼人君の双子の姉。

学校のヒーローである彼女は、
汚い物を見るような目で
僕を見下ろしていた。

多分、の影響だろう。
斯波によって僕の無罪は証明されたけど学校のアイドルを転校に追い込んだ僕は
女子にとってはかなりの有名人だし。

・・・悪い方の意味で。

「・・・ちょっと野暮用でね。
君はこんな時間にトレーニング?
お疲れ様。」
僕からの労いの言葉に、
「・・・もう帰る途中ですけどね。」
とぶっきらぼうに答えて、
凛さんは自販機で水を購入した。

「こんな時間に用事って、
何する気なんですか?

良からぬ事してたら、
『騎士』に粛清されちゃいますよ?
朝っぱらから焼死体とか、
私見たくないんですけど。」
「へえ、『騎士』を信じてるのか。
意外だね。」.

隼人君が言うには、彼女は超ド級の
現実主義者だった筈だけど。
「そりゃ信じますよ。
だって、変質者に襲われて、
に助けられた女子中学生って、
私なんですから。」
「え!?」と思わず僕は、
素っ頓狂な声を上げる。
凛さんは明らかに不服そうだった。
「えっ、あっ、そのっ、ごめん。」
大慌てで謝る僕。
しかし・・・。
これ、聞き込みのチャンスじゃないか?
「ね、ねえ、良かったら、
どんな感じだったか教えてくれない?」
「貴方にだけは嫌です。」
キッパリと断られた、ショック。
「・・・諦めるか。」『そうだね。』
僕はフセと顔を見合わせる。

「・・・じゃあもう・・・。」
凛さんが何か言おうとした時、
突然凛さんの尻ポケットから、
着信音が鳴り響いた。
彼女は即座に電話をとる。
「もしもし、うん?
無理だよ!今外なんだから!
あんたの先輩も
目の前にいるし・・・。
っていうかそもそも、
アンタなんで外にいるの!?
今日の担当はアタシでしょ!?」

そんなことを言いながら、
彼女は闇の中に駆けて行った。

再び1人と1匹になり、数秒沈黙。
「・・・帰るか。」
僕の一言で、僕達は立ち上がる。
ここで、僕は目の前に
不自然なゴミが
落ちていることに気がついた。

ピンクの水滴がついた、
溝の入った小さな小さな透明カップ。
なんか昔見たことあるような、
これって確か・・・。
「昆虫ゼリー?」
硬直した僕を、フセが
怪訝そうな顔で見つめる。
『いや、流石にこの時期に
昆虫ゼリーはないでしょ。
お菓子の方のカップゼリーじゃない?』
僕は首を横に振る。
「間違いないよ。
小学校の時に飼ってたカブトに
あげてたのと、全く同じやつだから。」

いや、まあ確かに最近結構暑いけど、
幾らなんでも5月に
カブトやクワガタなんて
採れるもんなんだろうか。

それに第1、この辺でそういう虫が
取れるところは、無い筈なんだけどな。

この辺のホームセンターでは、
カブトやクワガタは売ってないし、
平泉国有林は、木の種類が違うから、
カブトやクワガタは採れないし。
小学校の時に飼ってたやつも、
帰省をした時に
採ったのを持って帰ってきただけだ。

そこでフセが割り込んできた。
『ねえ、これって
私達が最初に来た時には、
落ちてなかったよね?』
確かに、僕達がゼエゼエいいながら
水を飲んでいた時には、
こんな物落ちていなかった。
それ自体はかなり小さいけれど、
幾ら何でもこんな真ん前に落ちてたら
流石に気づく。

とすると、答えは1つ。
「・・・落としてったってことか?
凛さんが?」
『まだわかんないけどね。
そうだとしても、
そもそも何でそんなもの持ってたのか、
っていう疑問も残るし。』
「・・・一応持って帰ろう。
今日は何も起こらなかったし。」
僕はゼリーカップの液体を
服の袖で拭き取り、ポケットに入れ、
立ち上がったその時だった。

「あー、もう!
わかった、やるわよ!
でもどうなっても知らないからね!」
という怒鳴り声が前方から
響いたその直後に、
バサっ、と小さいけど鈍い音がして、
僕は下げた目線を前へ戻す。

僕の目に飛び込んできたのは、
十数メートル先の
街灯の下で昏倒する、凛さんだった。




▶︎セキトハコンランシテウゴケナイ
1秒経過。
▶︎セキトハコンランシテウゴケナイ
2秒経過。
▶︎セキトノコンランガトケタ!



「う、うぇぅぉあ!?」
自分でも意味不明な奇声をあげながら、
僕は大慌てで彼女に駆け寄る。

幸いにして息はしていたし、
脈もしっかりとあった。

さっきの何の前触れもなく
倒れたところから見ても、
なんというか、
失神というか、
というか・・・。

って、そんなどうでもいいこと、
考えてる場合じゃない!

「と、と、と、
とにかく救急車!」
僕は震える手で携帯電を取り出し、
半泣きになりながらダイヤルする。

混乱、混乱、混乱、混乱。

救急車を呼んだら、まず間違いなく、
僕がこんな真夜中に
外をウロチョロしている理由も、
問いただされるに違いない。
救急隊員に見つかったら、
補導は免れないだろう。

でも。だからといって
いきなり気絶した後輩を目の前にして、
呼ばないなんて選択肢、ある訳ないし。

「フ、フセどうしよう!?」
弱り切った僕は、
横で丸まっているフセに対策案を問う。

『場所だけ伝えて逃げたら?』
「気絶してる女の子1人を
夜中の路上に
ほったらかしていけるか!」
『三好とか葉月ちゃんに連絡。』
「寝てるよ!今午前2時前だぞ!?」
『親でも警察でも、大人に連絡。』
「今度補導食らったら、
どんな目にあうか
想像つかないんだよ!」
『じゃあもう諦めな。』
「もっと真面目に考えてよ!」

これは完全なる逆ギレだ。
哀れフセ、ごめんよ。

そんなことをしているうちに
電話が繋がってしまい、
病院の職員の人が
落ち着いた調子で語りかけてきた。

僕はなんとか答えなくてはと、
さらにパニックになる。

「ええと、ええとはい、救急です!
場所は・・・、
ええと天原市の・・・、
あーええーあー・・・。

あ、自動販売機ですか!?
それならすぐ後ろnガン!

うわああああああ、
携帯落としたああああ!」

学校とかではよく、
『非常時にこそ、
落ち着いて行動しましょう。』
などと習うけれど、
あれ、初見でやるには
メチャクチャ難しいじゃん!
無理に決まってじゃんそんなの!

『それは君の緊急時の対応力が
著しく欠如しているからだよ・・・。
てか何わけわかんないこと考えてだよ、
もうちょっと落ち着きなよ。』
などとフセが言うけれど、
眼の前で後輩が倒れてんのに
落ち着くとか、絶対無理!

大慌てで携帯を拾おうとすると、
次の瞬間、僕より早く、
しなやかでだけど、
しっかりと筋肉のついた足を持つ
何者かが携帯を拾い上げて、
通話を切ってしまった。

「・・・すみません、
大丈夫ですから。」
みると、
覚醒したらしき凛さんが
僕の目の前に立っていた。

「き、気がついたんだ!
良かった・・・。」
安堵の溜息をもらしながら、
僕が腕の力を緩めた瞬間に、
「・・・大丈夫なんで。
もう行きますね。」
そういうと凛さんは
そのまま自身の家の方へ、
軽快に走りながら行ってしまった。

「・・・何だったんだ、今の。」
僕とフセは顔を見合わせる。

結局今日の深夜徘徊で得たのは、
冷たい水と疲労だけだった。

僕とフセはトボトボと家に帰り、
ポケットのゼリーカップの事も忘れて
ベットに潜り込んで、
死んだように眠った。

そして翌日、
大幅に寝坊した僕は、
『またも騎士出現』のニュースを見て、
『騎士』を取り逃がしたことを知り、
寝起き早々、本多先輩から
大目玉を食らうのだった。






































































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