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第1章
<27話>『ナイト』・ストーリー・イン・アマバラ(其の4)
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土曜日の朝、
羽柴さんから連絡を受けた僕は、
すぐにフセを叩き起こした。
(僕が羽柴さんから連絡を受ける前、
先輩に説教を食らっている時も、
フセは呑気にグースカ眠っていた)
「お、おいフセ!
羽柴さんが[騎士]と接触したって!」
しかしフセは僕の報告に一言、
呆れたように返した。
『で?』
『で?』はないだろ、『で?』は。
と僕は思ったが、
確かに考えてみると、
正体が露見してわけではなく、
精々昨日の出現場所が
正確にわかった程度なので、
今のままでは
ネットの目撃情報より
多少信頼できる程度だ。
今のままでは、ね。
僕は颯爽と携帯電話を取り出した。
そう、僕の友達には、いるじゃないか!
人や物の記憶を読めるという、
ぶっ壊れスペックを持つ探偵が!
「斯波を現地に連れて行って、
場所の記憶を読んでもらえばいいんだ!
そうすれば足取りだって掴めるし、
なんなら顔もわかるかも!」
そう高らかに叫んで、
僕は鼻歌交じりに斯波に電話した。
ーーー「え、葉月?
あいつなら別の事件を追ってて、
今は家にいないよ。
シンジュウがらみの事件だって
言ってたから、
しばらくはそっちにかかりっきりの
つもりなんじゃないかな?
え、何?[騎士]?
何その面白そうなの!
葉月の代わりに俺g」
「大丈夫ですありがとうございます。」
僕は速攻で電話を切った。
携帯に繋がらなかったから、
探偵事務所の電話番号を
ネットで調べてかけてみたけれど、
結局ダメだった。
・・・どうやらそう簡単には
行かないらしい。
『そりゃそうだよ、
いくらあの作者だって、
流石に展開の面白さくらい、
少しは考えるさ。』
「誰だよバカって・・・。」
もうこうなれば自分でやるしかない。
メンバーの力は借りられない。
迂闊に話して接触されでもしたら、
それこそ彼らは、
無事では済まないだろう。
内密に、僕だけで、
コトを終わらせなくてはならない。
僕は金曜日に帰宅してから
うっちゃらかしていた
スクールバッグをひっくり返し、
中からメモとシャーペンを取り出す。
「取り敢えず情報をまとめてみよう。」
僕はメモにサラサラと、
入手した情報を書き出す。
・出現の時間帯は夜中
・氷を操る能力であることは確定、
火傷を負わせていることから、
熱も操れる可能性アリ
・防御力はかなりのもの
・本体の掛け声とともに変身する
・・・こんなところか。
すっくないなあ。
こんなもので見つかる訳がない、
そう思っていた僕の考えを覆したのは、
フセの一言だった。
『そもそもさ、不思議なんだよね。』
フセの唐突な発言に
僕は首をかしげる。
「何が?」
『いや、
『加護』には種類があるってのは、
もう君もわかってると思うんだけど、
ああいう宿り主を何かに変身させる、
っていうのは、
要するに葉月ちゃんのとこのピノと、
逆バージョンってことだよね?』
「逆?」
全然理解が追いつかない僕。
フセは『ええとね。』と話を続ける。
『つまり、
シンジュウが宿り主の姿を借りて行動するんじゃなくて、
シンジュウの本来の姿を借りて、宿り主が行動するってことじゃん。』
「ふむふむ・・・ハ!?
どういう事!?
フセには犬じゃない本当の姿が
あるっていうこと!?」
『うん。
あれ?言ってなかったっけ?』
「言ってないよ!
何こんな場違いなシーンで
とんでもないこと暴露してんだよ!」
🗒シンジュウには、本当の姿がある。
『まあ、それは必要になったら話すよ。
それより今は、
こっちの問題を考えなくちゃ。』
「・・・。」
明らかにはぐらかした。
僕はその事を物凄く不審に思ったけれど
問い詰めて教えてくれる
フセじゃないので、
渋々その話題を切り上げた。
『で、さっき言った、
宿り主が変身するってやつさ、
あれ、普通は無理な筈なんだよ。』
「無理?どうして?」
『いや、そりゃ単純に、
宿り主に負担がかかりすぎるからさ。
えーと、わかりやすくいうとね。
葉月ちゃんの場合は、
確かに中身はピノになるけれど、
外見は葉月ちゃんなわけじゃん?
つまり中身を変えてるわけ。
中身を変えるだけなら、
結構楽なんだよ、
私でもやろうと思えば出来なくもない。
ほら、前に私は、
人の可視化のオンオフが
切り替えられるっていったでしょ?
あんな感じで、あの兎は、
自分の体を葉月ちゃんの体に合わせて、
チャンネルを変えてるんだよ。
長い付き合いだと
憑依しやすいってのは、
その人のチャンネルを知り尽くしてて、
絶妙な調整が出来るからってことさ。
だからピノには全然負担がかからないし
憑依される宿り主には、
それなりの負担は行くけれど、
まあそこまで
気にするほどのものでもない。
だけど、あの<騎士>の場合は違う。
あいつは外を変えてる。
つまり、シンジュウの外見で、
中身が宿り主なんだ、
シンジュウに宿り主が憑依してる状態なんだぜ?
こっちは滅茶苦茶難しいんだ。
何せ人間は、
チャンネル変えられないんだから、
負担をモロに受けることになる。
四角い棒を、
三角の穴に無理矢理ねじ込む
ようなもんさ。
やったら最悪ショック死だよ。』
「成る程ねえ、そりゃ無理・・・。」
・・・いや、待てよ。
いや、まさか、そんなこと有り得ない。
まさか、
凛さんが突然倒れた理由がそれだなんてあるわけないよな・・・。
「なあ、フセ。
もし、仮に、仮にだよ。
『2人がかりで』
シンジュウの体に逆憑依をやったら、
その負担は半減したりする?」
フセはさらりと答えた。
『いや、
そんなケース見たことないから、
はっきりとは言えないけどね、
そりゃ1人の負担は、
減るんじゃないかな。
100キロの石を2人で持てば、
それぞれ50キロずつになって、
結果的に軽くなるみたいに。
でも無理だよ、
シンジュウは1人に1柱なんだぜ。』
当然だろ、というような
顔をするフセの前で、
僕は1人狼狽する。
「そうだよな、1人につき1柱だよな。
そんな事、あるわけないよな。
でも、もしさ、もしもだけどさ、
遺伝子レベルで全く同じ人間が2人いたとしたら?」
僕はさらに質問する。
『そりゃあ、
理論上は可能なんじゃない?
だけど、あくまで理論上は、だよ。
君が言ってるのは、要するに、
双子のケースならってことだろ?
無理だよ、
だって例え一卵性の双子でも、
普通なら個別の人間として
カウントされるんだから、
共有なんて不可能だよ。』
「あくまで普通なら、だろ?
なら、『普通じゃない双子』なら、
どうなんだ?」
『異性一卵性双生児』
という存在、
即ち男女ペアの双子というのが、
この世には非常に少数ながら存在し、
そして僕の後輩、
北畠隼人と北畠凛は、
まさに、
その『異性一卵性双生児』なのだ。
彼らが産まれた時には
随分とメディアに取り上げられた
という話は
両親から聞いたことがあるし、
実際問題
『超人』の本多先輩がいるから、
存在が霞んでいるだけで、
彼らも学校ではそれなりの有名人だ。
(まあ、片割れである凛さんの、
陸上での活躍が凄すぎる、
っていうのも少なからずあるんだけど)
そして、
『異性一卵性双生児』というのは、
染色体が他の人より多いとかで、
クラ・・・なんとか症候群、
とかいう病気を発症するのだそうだ。
僕は携帯を取り出し、検索する。
そうそう、
『クラインフェルター症候群』だった。
この病気は、
内面的には癌とか糖尿病とかの
リスクをあげるのだけれど、
外見的には、
手足や身長が異常に高くなる、
というものがあるのだそうだ。
隼人君は、
2mをゆうに超える、
異常な程の高身長だ。
もしも、もしもだけれど、
この病気の、
まだ解明されていない部分に、
シンジュウを共有できる体になる
というような症状が、
あったのだとしたら?
怖い。
真実を知るのが、怖い。
だけど。
「やらなくちゃ・・・いけないよね。
やめさせなきゃ・・・いけないよね。」
僕はそう呟き、
メッセージアプリをタップする。
連絡先欄をスクロールして、
彼の連絡先を画面に映し出す。
一呼吸。
二呼吸。
『赤斗、大丈夫か?
無理をすることはないさ、
三好のオッさんにでも連絡を・・・。』
フセの言葉を、僕は遮る。
三好さんじゃダメなんだ、
羽柴さんでもダメなんだ、
どんな人でもダメなんだ。
だって、だって僕は、
「・・・先輩なんだから。」
僕は携帯のコールボタンを押した。
羽柴さんから連絡を受けた僕は、
すぐにフセを叩き起こした。
(僕が羽柴さんから連絡を受ける前、
先輩に説教を食らっている時も、
フセは呑気にグースカ眠っていた)
「お、おいフセ!
羽柴さんが[騎士]と接触したって!」
しかしフセは僕の報告に一言、
呆れたように返した。
『で?』
『で?』はないだろ、『で?』は。
と僕は思ったが、
確かに考えてみると、
正体が露見してわけではなく、
精々昨日の出現場所が
正確にわかった程度なので、
今のままでは
ネットの目撃情報より
多少信頼できる程度だ。
今のままでは、ね。
僕は颯爽と携帯電話を取り出した。
そう、僕の友達には、いるじゃないか!
人や物の記憶を読めるという、
ぶっ壊れスペックを持つ探偵が!
「斯波を現地に連れて行って、
場所の記憶を読んでもらえばいいんだ!
そうすれば足取りだって掴めるし、
なんなら顔もわかるかも!」
そう高らかに叫んで、
僕は鼻歌交じりに斯波に電話した。
ーーー「え、葉月?
あいつなら別の事件を追ってて、
今は家にいないよ。
シンジュウがらみの事件だって
言ってたから、
しばらくはそっちにかかりっきりの
つもりなんじゃないかな?
え、何?[騎士]?
何その面白そうなの!
葉月の代わりに俺g」
「大丈夫ですありがとうございます。」
僕は速攻で電話を切った。
携帯に繋がらなかったから、
探偵事務所の電話番号を
ネットで調べてかけてみたけれど、
結局ダメだった。
・・・どうやらそう簡単には
行かないらしい。
『そりゃそうだよ、
いくらあの作者だって、
流石に展開の面白さくらい、
少しは考えるさ。』
「誰だよバカって・・・。」
もうこうなれば自分でやるしかない。
メンバーの力は借りられない。
迂闊に話して接触されでもしたら、
それこそ彼らは、
無事では済まないだろう。
内密に、僕だけで、
コトを終わらせなくてはならない。
僕は金曜日に帰宅してから
うっちゃらかしていた
スクールバッグをひっくり返し、
中からメモとシャーペンを取り出す。
「取り敢えず情報をまとめてみよう。」
僕はメモにサラサラと、
入手した情報を書き出す。
・出現の時間帯は夜中
・氷を操る能力であることは確定、
火傷を負わせていることから、
熱も操れる可能性アリ
・防御力はかなりのもの
・本体の掛け声とともに変身する
・・・こんなところか。
すっくないなあ。
こんなもので見つかる訳がない、
そう思っていた僕の考えを覆したのは、
フセの一言だった。
『そもそもさ、不思議なんだよね。』
フセの唐突な発言に
僕は首をかしげる。
「何が?」
『いや、
『加護』には種類があるってのは、
もう君もわかってると思うんだけど、
ああいう宿り主を何かに変身させる、
っていうのは、
要するに葉月ちゃんのとこのピノと、
逆バージョンってことだよね?』
「逆?」
全然理解が追いつかない僕。
フセは『ええとね。』と話を続ける。
『つまり、
シンジュウが宿り主の姿を借りて行動するんじゃなくて、
シンジュウの本来の姿を借りて、宿り主が行動するってことじゃん。』
「ふむふむ・・・ハ!?
どういう事!?
フセには犬じゃない本当の姿が
あるっていうこと!?」
『うん。
あれ?言ってなかったっけ?』
「言ってないよ!
何こんな場違いなシーンで
とんでもないこと暴露してんだよ!」
🗒シンジュウには、本当の姿がある。
『まあ、それは必要になったら話すよ。
それより今は、
こっちの問題を考えなくちゃ。』
「・・・。」
明らかにはぐらかした。
僕はその事を物凄く不審に思ったけれど
問い詰めて教えてくれる
フセじゃないので、
渋々その話題を切り上げた。
『で、さっき言った、
宿り主が変身するってやつさ、
あれ、普通は無理な筈なんだよ。』
「無理?どうして?」
『いや、そりゃ単純に、
宿り主に負担がかかりすぎるからさ。
えーと、わかりやすくいうとね。
葉月ちゃんの場合は、
確かに中身はピノになるけれど、
外見は葉月ちゃんなわけじゃん?
つまり中身を変えてるわけ。
中身を変えるだけなら、
結構楽なんだよ、
私でもやろうと思えば出来なくもない。
ほら、前に私は、
人の可視化のオンオフが
切り替えられるっていったでしょ?
あんな感じで、あの兎は、
自分の体を葉月ちゃんの体に合わせて、
チャンネルを変えてるんだよ。
長い付き合いだと
憑依しやすいってのは、
その人のチャンネルを知り尽くしてて、
絶妙な調整が出来るからってことさ。
だからピノには全然負担がかからないし
憑依される宿り主には、
それなりの負担は行くけれど、
まあそこまで
気にするほどのものでもない。
だけど、あの<騎士>の場合は違う。
あいつは外を変えてる。
つまり、シンジュウの外見で、
中身が宿り主なんだ、
シンジュウに宿り主が憑依してる状態なんだぜ?
こっちは滅茶苦茶難しいんだ。
何せ人間は、
チャンネル変えられないんだから、
負担をモロに受けることになる。
四角い棒を、
三角の穴に無理矢理ねじ込む
ようなもんさ。
やったら最悪ショック死だよ。』
「成る程ねえ、そりゃ無理・・・。」
・・・いや、待てよ。
いや、まさか、そんなこと有り得ない。
まさか、
凛さんが突然倒れた理由がそれだなんてあるわけないよな・・・。
「なあ、フセ。
もし、仮に、仮にだよ。
『2人がかりで』
シンジュウの体に逆憑依をやったら、
その負担は半減したりする?」
フセはさらりと答えた。
『いや、
そんなケース見たことないから、
はっきりとは言えないけどね、
そりゃ1人の負担は、
減るんじゃないかな。
100キロの石を2人で持てば、
それぞれ50キロずつになって、
結果的に軽くなるみたいに。
でも無理だよ、
シンジュウは1人に1柱なんだぜ。』
当然だろ、というような
顔をするフセの前で、
僕は1人狼狽する。
「そうだよな、1人につき1柱だよな。
そんな事、あるわけないよな。
でも、もしさ、もしもだけどさ、
遺伝子レベルで全く同じ人間が2人いたとしたら?」
僕はさらに質問する。
『そりゃあ、
理論上は可能なんじゃない?
だけど、あくまで理論上は、だよ。
君が言ってるのは、要するに、
双子のケースならってことだろ?
無理だよ、
だって例え一卵性の双子でも、
普通なら個別の人間として
カウントされるんだから、
共有なんて不可能だよ。』
「あくまで普通なら、だろ?
なら、『普通じゃない双子』なら、
どうなんだ?」
『異性一卵性双生児』
という存在、
即ち男女ペアの双子というのが、
この世には非常に少数ながら存在し、
そして僕の後輩、
北畠隼人と北畠凛は、
まさに、
その『異性一卵性双生児』なのだ。
彼らが産まれた時には
随分とメディアに取り上げられた
という話は
両親から聞いたことがあるし、
実際問題
『超人』の本多先輩がいるから、
存在が霞んでいるだけで、
彼らも学校ではそれなりの有名人だ。
(まあ、片割れである凛さんの、
陸上での活躍が凄すぎる、
っていうのも少なからずあるんだけど)
そして、
『異性一卵性双生児』というのは、
染色体が他の人より多いとかで、
クラ・・・なんとか症候群、
とかいう病気を発症するのだそうだ。
僕は携帯を取り出し、検索する。
そうそう、
『クラインフェルター症候群』だった。
この病気は、
内面的には癌とか糖尿病とかの
リスクをあげるのだけれど、
外見的には、
手足や身長が異常に高くなる、
というものがあるのだそうだ。
隼人君は、
2mをゆうに超える、
異常な程の高身長だ。
もしも、もしもだけれど、
この病気の、
まだ解明されていない部分に、
シンジュウを共有できる体になる
というような症状が、
あったのだとしたら?
怖い。
真実を知るのが、怖い。
だけど。
「やらなくちゃ・・・いけないよね。
やめさせなきゃ・・・いけないよね。」
僕はそう呟き、
メッセージアプリをタップする。
連絡先欄をスクロールして、
彼の連絡先を画面に映し出す。
一呼吸。
二呼吸。
『赤斗、大丈夫か?
無理をすることはないさ、
三好のオッさんにでも連絡を・・・。』
フセの言葉を、僕は遮る。
三好さんじゃダメなんだ、
羽柴さんでもダメなんだ、
どんな人でもダメなんだ。
だって、だって僕は、
「・・・先輩なんだから。」
僕は携帯のコールボタンを押した。
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