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第1章
<30話>決闘(其の3)
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「勿論殺すのは無しだ。」
僕はこの『決闘』を提案する際に、
前提条件としてこう言った。
理由はとっても単純だ。
僕は後輩を殺すのは絶対に嫌だったし、
僕も殺されるのは絶対に嫌だから。
だけど逆に言えばそれは、
相手に向かって
「殺さなきゃ何してもいいよ。
手加減なしでおいで。」
という保証書を
相手の顔面に叩きつけてしまった、
ということでもある。
どうやら相手さんは、
『自分たちの正体を知った相手を、
殺さない程度に殺す』スタンスで、
僕との決闘を飲んだらしい。
僕の好きな漫画風にいうならば、
再起不能させる気満々、
ということらしかった。
凛さんと隼人君、否、『赤い騎士』は、
突撃する僕に向かって、
右手から炎を放射してきた。
『「うぉぉ!?」』
前方から迫ってくる轟炎に、
僕とフセは完全に面食らい、
それぞれ右と左に避ける。
僕はなんとか避けることができたけど、
フセの耳には炎がかすった。
その瞬間、
僕の右耳にも激痛が走る。
『「いっ!」』
僕達は思わず呻き声をあげる。
かすっただけでコレとか、
まともに食らったら丸焼け確定だ。
「ってか何でお前が痛がってんだよ!
ダメージや疲れは、
僕にフィードバックするんだろ!」
『シンジュウの干渉に限って、
私にもダメージがいくんだよ!
君にも同等のが行くけどね!』
「そんなこと聞いてないぞ!」
『ごめん言うの忘れてた!』
「ふざけんな!」
🗒シンジュウによる攻撃で
シンジュウが傷つけられた時は、
シンジュウ・宿り主の
両方にダメージが入る。
僕はよろける体をなんとか立て直すと、
そのまま後ろに思い切り跳び、
まずは距離を取る。
「・・・まずは、
あの炎をなんとかしなくちゃ。
『斬馬の形』!」
その瞬間、
僕の腕から血が抜かれる感覚があり、
刀が長い大剣に変わる。
「「な、何それ!?」」
彼らはかなり戸惑いながら、
再度火炎を放射する。
僕は咄嗟に斬馬刀を地面に突き立て、
その影に身を隠す。
それと同時に、
火炎は斬馬刀にぶち当たった。
「・・・ッッ!」
とんでもなく熱いけれど、
なんとか堪える。
すると突然、放射が止んだ。
コレを逃す手はあるまい、
僕は斬馬刀を強引に引き抜くと、
そのまま再度突進する。
彼らは攻撃をしてこない。
どうやら一定量の炎を消費すると、
少し間隔を置かなくては
ならないらしい。
その隙に、僕は一気に距離を詰め、
そのまま刀を振り上げ、
前に思いっきり振り下ろす。
そして呟く。
「刃換装!『幽の刃』!」
発言した次の瞬間、
『世離』は身をよじって回避した
凛さんの左肩に命中した。
「痛っ・・・!
ああああああああ!」
そして凛さんの左腕は、
ダランと力なく垂れ下がり、
プランプランと揺れる。
凛さんは体制を崩して地面に倒れこむ。
すると左腕は、
まるで吸い込まれるように、
地面を透過した。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
コレだけだと何が起こったか
まるでわからないと思うので、
『世離』について説明しておこう。
この刀の特殊能力の1つである、
『非物質化』というのは、
早い話が『切ったものの幽霊化』だ。
この刀で斬られると、
切った面のところから、
最近の末端にかけて
(例えば人間の左肩なら
左手の指の先まで)、
物質は『非物質化』する。
この『非物質化』を人体に行うと、
痛みの自然治癒による緩和が
一切されなくなり、
斬られた方は和らがない痛みを延々と
味わい続ける事になるのだけれど、
『非物質化』の真の恐ろしさは、
そんな生ぬるいものじゃない。
『非物質化』されたものには、
この世のあらゆるものが干渉できなくなるのだ。
わかりやすく彼らの今の状況で
説明するのならば、
まず左腕の感覚が一切無くなり、
左腕を全く動かせ無くなる。
というか、
左腕がある感覚、というのが無くなる。
『そこにあるのに、無いみたいに。』
思えるようになってしまうのだ。
当然僕が能力を解除しない限り、
彼らは未来永劫、
左腕を動かすことはできない。
次に、あらゆる物に干渉できなくなる。
早い話が、
『あらゆる物を透過する。』様になる。
非物質化されたものには、
どんな物だろうと決して触れられない。
非物質化されたコップに水を注げば、
それはそのまま床に溢れるし、
非物質化された腕で地面を押しても、
一切の抵抗なく腕が地面を突き抜け、
肩の関節部分が地面に激突するという
奇天烈な経験をする事になる。
正直僕は、この力が怖い。
例えばこの刀で、
相手を頭のてっぺんから股間にかけて
一刀両断したならば、
体の中心を正確に刺し貫いたならば、
その人は、
『全身非物質化状態』になったその人は
果たしてどうなってしまうのだろうか。
わからない、
だからものすごく怖い。
だから僕は、
いつも切断力を持たせているのだ。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「「な、わ、私僕の左手が・・・!?
な、何よコレ!?
う、動かない!感覚もない!
な、何をした!?」」
困惑する彼らに、
僕は無表情で近づいていく。
「「く、来るな!」」
[赤い騎士]は、
僕に向かって使える右手を向けると、
またもや火炎を放射した。
「・・・ワンパターンなんだよ。」
『・・・ワンパターンなんだよね。』
さっきのは
不意打ちだったから食らったけれど、
正直シンジュウを宿した事により、
身体能力が
化け物じみている僕にとっては、
進行方向がわかる火炎放射なんて、
造作もなく避けられるものである。
僕は一気に距離を詰めると、
そのまま残りの右手、
そして両脚に、
それぞれ刀を差し込んだ。
「「ギャアアアアアアアア!」」
甲高い悲鳴が、
周りにある鉄骨やなんかに反射して、
だだっ広い夜の空き地に響き渡る。
後輩の悲鳴を聞くというのは、
決して気持ちのいいものでは無い。
僕は後で彼らに土下座しようと
心に決めた。
「・・・コレで君らはもう動けない、
僕達の勝ちだ。
さあ、変身を解除しろ。
さも無いともっと痛い目にあうよ。」
しかし[騎士]は、
僕の言葉を完全に無視して、
拳を地面に叩きつけた。
(正確には、
腕ごと拳は非物質化していたので、
地面を透過するだけだったのだけれど)
そして一言、
「「やるんならやれよ!」」
「あっそうやっていいんだふーん。」
僕が三度目に刀を振り上げた、
その時だった。
突如として変身が解除され、
大柄な騎士の体は、
元の凛さんの小さな体に戻った。
ん?あれ?
抵抗する気満々だったんじゃ・・・?
そんなことを思った次の瞬間、
『負けを認めます!
この勝負、あなた方の勝ちです!
私たちが悪かった事例は、
ちゃんと何らかの形で償いをします!
だからどうか、
坊っちゃんとお嬢様には、
手を出さないでください!
これも善行の一環だと思い、
手を貸した私が悪いのです!
傷つけるのならどうか私を!』
などという初老の男性の声が、
僕の足元から聞こえた。
ギョッとして足元に目をやると、
さっきの甲虫が、
まるで土下座のような格好で
凛さんの前にいた。
そこに凛さんが割って入った。
「ちょっとオウミ!
私達はまだ戦える!」
彼女は大声で訴える。
「そうだよ!まだ行けるって!」
後ろでは、
意識を取り戻したらしい隼人君が、
同じく後方から怒鳴っていた。
『何を言っているのですか2人とも!
これは決闘のはずです!
降参した時点で2人の負けなのです!』
「「勝手に降参したのはお前だろ!」」
『ああしなければ死んでいたかも
しれないのですよ!?』
「「いいや、勝ってたね!」」
『嘘を仰らないでください!
あのまま戦っていれば、
どんなにひどい事になっていたか』
突如始まる甲虫と双子の口喧嘩を、
僕とフセは
呆然と見ているしかなかった。
「・・・あれが、
隼人君達のシンジュウ?」
『・・・みたいだねえ。』
僕の今まで触れたシンジュウは、
(少なくとも声は)若い奴しか
いなかったので、
あんな老執事みたいな
シンジュウがいるとは驚きだった。
あれじゃあ、
完全にお爺ちゃんと孫達だ。
「あ、あのさー・・・。」
このままボーっとしていれば、
彼らの口論は
夜明けまで続きそうだったので、
僕は勇気を振り絞って口を開く。
『ああ、蔑ろにして申し訳ありません。
今この2人を説得しますので、
その後でしたら、
煮るなり焼くなりなんなりと!』
「いや、そんなことしないって。」
「なんと!
では・・・ハッ!
まさかお嬢様を一晩・・・!?
そ、それだけは!」
「いやしないったら!」
「で、ではまさかの
坊っちy」「しないっつってんだろ!」
柄にもなくキレてしまった。
このシンジュウ、
しっかりはしているようだけれど、
ピノとは違う、
別の意味で怒りの琴線を刺激してくる
タイプのようだ。
「何もしないよ。
ただ当初の約束通り、
もう『騎士』は
本当に必要な時以外やめること!
いいね!?」
『そ、そんなもので
許して頂けるのですか!
もちろんでございます!』
「「おい!
勝手に話進めんな!」」
本人達の意向は
完全に無視だったものの、
何とか僕の目的は達成できた。
シンジュウに勝手に話を纏められて、
ギャーギャー騒いでいる
双子(特に凛さん)を
苦笑いをしながら見つつ、
僕の日曜日の夜は更けていった。
めでたしめでたし。
・・・とはいかないのが、
シンジュウを宿した者達の、
運命というものらしい。
突然、さっきまで騒いでいた凛さんが、
消えた。
と、思ったら、
はるか前方で爆音が聞こえた。
僕達はその方向を見やる。
そこにあったのは、
積み上げられた鉄柱に叩きつけられ、
再びぐったりと地面に倒れこむ、
凛さんの姿だった。
「凛!」 「凛さん!」 『お嬢様ぁ!』
僕たちは三者三様
(シンジュウも含めてるから、
正確には2者1柱3様だけれど)
に彼女の名前を呼ぶ。
「な、何が起こ・・・。」
隼人君はそこまで喋ったところで、
物凄いスピードで吹っ飛び、
止めてあった
ダンプカーに激突した。
衝撃でダンプが傾く。
『ぼ、坊っちゃま!』
オウミとかいうシンジュウは、
律儀に隼人君の分の名前を呼び、
僕をキッと睨む(感じがした)が、
すぐにその視線は消えた。
おそらく僕とフセの動揺っぷりを見て、
犯人は僕たちではないことを
察したのだろう。
「な、な、な・・・。」
これは一体・・・
何が起こってるんだ!?
『セキト、来るぞ!』
その怒鳴り声で僕はハッと我に帰る。
その瞬間、
僕も突き飛ばされた。
ただし、双子と違うのは、
僕を突き飛ばしたのは、
『謎の何か』ではなく、
甲虫を咥えたフセだったことだ。
僕は2人と同じ様に吹っ飛んだが、
柔らかいスポンジ材に当たったことで、
ノーダメージ・・・だったのだが、
直後にフセが甲虫ごと
僕の腹めがけてすっ飛んできたため、
腹部にはそれなりのダメージを負った。
『アイツだ!
アイツが一瞬であの子達と、
私達を殴り飛ばしたんだ!
畜生!気づかなかった!』
甲虫を口から離したフセは、
悪態を吐きに吐きまくる。
僕は数秒前までいた方向を見る。
そこには、
1人の背の高い女性が立っていた。
ヘソ出しTシャツにジーパン、
そして何より目立つ、
街灯の光を反射する銀髪。
ここに来る前に、
人通りは散々確認してきたのだ。
どうやって一瞬で
あそこに行けたんだ!?
瞬間移動でもしてきたのか!?
「うーん、
[騎士]がここにいるって聞いて来たら、
3人いたから
取り敢えず全員ぶん殴ってみたけど、
一体誰が[騎士]なのかしら?」
などとブツブツと呟きながら、
女性はクルリと
僕の方を向いて、
ビシッ!と指をさし、言った。
満面の笑みで。
「ねえ、シンジュウも連れてるし、
貴方が[騎士]?」
これが僕と、
『シンジュウ討伐の専門家』、
三好夏との、記念すべき
ファーストコンタクトだった。
僕はこの『決闘』を提案する際に、
前提条件としてこう言った。
理由はとっても単純だ。
僕は後輩を殺すのは絶対に嫌だったし、
僕も殺されるのは絶対に嫌だから。
だけど逆に言えばそれは、
相手に向かって
「殺さなきゃ何してもいいよ。
手加減なしでおいで。」
という保証書を
相手の顔面に叩きつけてしまった、
ということでもある。
どうやら相手さんは、
『自分たちの正体を知った相手を、
殺さない程度に殺す』スタンスで、
僕との決闘を飲んだらしい。
僕の好きな漫画風にいうならば、
再起不能させる気満々、
ということらしかった。
凛さんと隼人君、否、『赤い騎士』は、
突撃する僕に向かって、
右手から炎を放射してきた。
『「うぉぉ!?」』
前方から迫ってくる轟炎に、
僕とフセは完全に面食らい、
それぞれ右と左に避ける。
僕はなんとか避けることができたけど、
フセの耳には炎がかすった。
その瞬間、
僕の右耳にも激痛が走る。
『「いっ!」』
僕達は思わず呻き声をあげる。
かすっただけでコレとか、
まともに食らったら丸焼け確定だ。
「ってか何でお前が痛がってんだよ!
ダメージや疲れは、
僕にフィードバックするんだろ!」
『シンジュウの干渉に限って、
私にもダメージがいくんだよ!
君にも同等のが行くけどね!』
「そんなこと聞いてないぞ!」
『ごめん言うの忘れてた!』
「ふざけんな!」
🗒シンジュウによる攻撃で
シンジュウが傷つけられた時は、
シンジュウ・宿り主の
両方にダメージが入る。
僕はよろける体をなんとか立て直すと、
そのまま後ろに思い切り跳び、
まずは距離を取る。
「・・・まずは、
あの炎をなんとかしなくちゃ。
『斬馬の形』!」
その瞬間、
僕の腕から血が抜かれる感覚があり、
刀が長い大剣に変わる。
「「な、何それ!?」」
彼らはかなり戸惑いながら、
再度火炎を放射する。
僕は咄嗟に斬馬刀を地面に突き立て、
その影に身を隠す。
それと同時に、
火炎は斬馬刀にぶち当たった。
「・・・ッッ!」
とんでもなく熱いけれど、
なんとか堪える。
すると突然、放射が止んだ。
コレを逃す手はあるまい、
僕は斬馬刀を強引に引き抜くと、
そのまま再度突進する。
彼らは攻撃をしてこない。
どうやら一定量の炎を消費すると、
少し間隔を置かなくては
ならないらしい。
その隙に、僕は一気に距離を詰め、
そのまま刀を振り上げ、
前に思いっきり振り下ろす。
そして呟く。
「刃換装!『幽の刃』!」
発言した次の瞬間、
『世離』は身をよじって回避した
凛さんの左肩に命中した。
「痛っ・・・!
ああああああああ!」
そして凛さんの左腕は、
ダランと力なく垂れ下がり、
プランプランと揺れる。
凛さんは体制を崩して地面に倒れこむ。
すると左腕は、
まるで吸い込まれるように、
地面を透過した。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
コレだけだと何が起こったか
まるでわからないと思うので、
『世離』について説明しておこう。
この刀の特殊能力の1つである、
『非物質化』というのは、
早い話が『切ったものの幽霊化』だ。
この刀で斬られると、
切った面のところから、
最近の末端にかけて
(例えば人間の左肩なら
左手の指の先まで)、
物質は『非物質化』する。
この『非物質化』を人体に行うと、
痛みの自然治癒による緩和が
一切されなくなり、
斬られた方は和らがない痛みを延々と
味わい続ける事になるのだけれど、
『非物質化』の真の恐ろしさは、
そんな生ぬるいものじゃない。
『非物質化』されたものには、
この世のあらゆるものが干渉できなくなるのだ。
わかりやすく彼らの今の状況で
説明するのならば、
まず左腕の感覚が一切無くなり、
左腕を全く動かせ無くなる。
というか、
左腕がある感覚、というのが無くなる。
『そこにあるのに、無いみたいに。』
思えるようになってしまうのだ。
当然僕が能力を解除しない限り、
彼らは未来永劫、
左腕を動かすことはできない。
次に、あらゆる物に干渉できなくなる。
早い話が、
『あらゆる物を透過する。』様になる。
非物質化されたものには、
どんな物だろうと決して触れられない。
非物質化されたコップに水を注げば、
それはそのまま床に溢れるし、
非物質化された腕で地面を押しても、
一切の抵抗なく腕が地面を突き抜け、
肩の関節部分が地面に激突するという
奇天烈な経験をする事になる。
正直僕は、この力が怖い。
例えばこの刀で、
相手を頭のてっぺんから股間にかけて
一刀両断したならば、
体の中心を正確に刺し貫いたならば、
その人は、
『全身非物質化状態』になったその人は
果たしてどうなってしまうのだろうか。
わからない、
だからものすごく怖い。
だから僕は、
いつも切断力を持たせているのだ。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「「な、わ、私僕の左手が・・・!?
な、何よコレ!?
う、動かない!感覚もない!
な、何をした!?」」
困惑する彼らに、
僕は無表情で近づいていく。
「「く、来るな!」」
[赤い騎士]は、
僕に向かって使える右手を向けると、
またもや火炎を放射した。
「・・・ワンパターンなんだよ。」
『・・・ワンパターンなんだよね。』
さっきのは
不意打ちだったから食らったけれど、
正直シンジュウを宿した事により、
身体能力が
化け物じみている僕にとっては、
進行方向がわかる火炎放射なんて、
造作もなく避けられるものである。
僕は一気に距離を詰めると、
そのまま残りの右手、
そして両脚に、
それぞれ刀を差し込んだ。
「「ギャアアアアアアアア!」」
甲高い悲鳴が、
周りにある鉄骨やなんかに反射して、
だだっ広い夜の空き地に響き渡る。
後輩の悲鳴を聞くというのは、
決して気持ちのいいものでは無い。
僕は後で彼らに土下座しようと
心に決めた。
「・・・コレで君らはもう動けない、
僕達の勝ちだ。
さあ、変身を解除しろ。
さも無いともっと痛い目にあうよ。」
しかし[騎士]は、
僕の言葉を完全に無視して、
拳を地面に叩きつけた。
(正確には、
腕ごと拳は非物質化していたので、
地面を透過するだけだったのだけれど)
そして一言、
「「やるんならやれよ!」」
「あっそうやっていいんだふーん。」
僕が三度目に刀を振り上げた、
その時だった。
突如として変身が解除され、
大柄な騎士の体は、
元の凛さんの小さな体に戻った。
ん?あれ?
抵抗する気満々だったんじゃ・・・?
そんなことを思った次の瞬間、
『負けを認めます!
この勝負、あなた方の勝ちです!
私たちが悪かった事例は、
ちゃんと何らかの形で償いをします!
だからどうか、
坊っちゃんとお嬢様には、
手を出さないでください!
これも善行の一環だと思い、
手を貸した私が悪いのです!
傷つけるのならどうか私を!』
などという初老の男性の声が、
僕の足元から聞こえた。
ギョッとして足元に目をやると、
さっきの甲虫が、
まるで土下座のような格好で
凛さんの前にいた。
そこに凛さんが割って入った。
「ちょっとオウミ!
私達はまだ戦える!」
彼女は大声で訴える。
「そうだよ!まだ行けるって!」
後ろでは、
意識を取り戻したらしい隼人君が、
同じく後方から怒鳴っていた。
『何を言っているのですか2人とも!
これは決闘のはずです!
降参した時点で2人の負けなのです!』
「「勝手に降参したのはお前だろ!」」
『ああしなければ死んでいたかも
しれないのですよ!?』
「「いいや、勝ってたね!」」
『嘘を仰らないでください!
あのまま戦っていれば、
どんなにひどい事になっていたか』
突如始まる甲虫と双子の口喧嘩を、
僕とフセは
呆然と見ているしかなかった。
「・・・あれが、
隼人君達のシンジュウ?」
『・・・みたいだねえ。』
僕の今まで触れたシンジュウは、
(少なくとも声は)若い奴しか
いなかったので、
あんな老執事みたいな
シンジュウがいるとは驚きだった。
あれじゃあ、
完全にお爺ちゃんと孫達だ。
「あ、あのさー・・・。」
このままボーっとしていれば、
彼らの口論は
夜明けまで続きそうだったので、
僕は勇気を振り絞って口を開く。
『ああ、蔑ろにして申し訳ありません。
今この2人を説得しますので、
その後でしたら、
煮るなり焼くなりなんなりと!』
「いや、そんなことしないって。」
「なんと!
では・・・ハッ!
まさかお嬢様を一晩・・・!?
そ、それだけは!」
「いやしないったら!」
「で、ではまさかの
坊っちy」「しないっつってんだろ!」
柄にもなくキレてしまった。
このシンジュウ、
しっかりはしているようだけれど、
ピノとは違う、
別の意味で怒りの琴線を刺激してくる
タイプのようだ。
「何もしないよ。
ただ当初の約束通り、
もう『騎士』は
本当に必要な時以外やめること!
いいね!?」
『そ、そんなもので
許して頂けるのですか!
もちろんでございます!』
「「おい!
勝手に話進めんな!」」
本人達の意向は
完全に無視だったものの、
何とか僕の目的は達成できた。
シンジュウに勝手に話を纏められて、
ギャーギャー騒いでいる
双子(特に凛さん)を
苦笑いをしながら見つつ、
僕の日曜日の夜は更けていった。
めでたしめでたし。
・・・とはいかないのが、
シンジュウを宿した者達の、
運命というものらしい。
突然、さっきまで騒いでいた凛さんが、
消えた。
と、思ったら、
はるか前方で爆音が聞こえた。
僕達はその方向を見やる。
そこにあったのは、
積み上げられた鉄柱に叩きつけられ、
再びぐったりと地面に倒れこむ、
凛さんの姿だった。
「凛!」 「凛さん!」 『お嬢様ぁ!』
僕たちは三者三様
(シンジュウも含めてるから、
正確には2者1柱3様だけれど)
に彼女の名前を呼ぶ。
「な、何が起こ・・・。」
隼人君はそこまで喋ったところで、
物凄いスピードで吹っ飛び、
止めてあった
ダンプカーに激突した。
衝撃でダンプが傾く。
『ぼ、坊っちゃま!』
オウミとかいうシンジュウは、
律儀に隼人君の分の名前を呼び、
僕をキッと睨む(感じがした)が、
すぐにその視線は消えた。
おそらく僕とフセの動揺っぷりを見て、
犯人は僕たちではないことを
察したのだろう。
「な、な、な・・・。」
これは一体・・・
何が起こってるんだ!?
『セキト、来るぞ!』
その怒鳴り声で僕はハッと我に帰る。
その瞬間、
僕も突き飛ばされた。
ただし、双子と違うのは、
僕を突き飛ばしたのは、
『謎の何か』ではなく、
甲虫を咥えたフセだったことだ。
僕は2人と同じ様に吹っ飛んだが、
柔らかいスポンジ材に当たったことで、
ノーダメージ・・・だったのだが、
直後にフセが甲虫ごと
僕の腹めがけてすっ飛んできたため、
腹部にはそれなりのダメージを負った。
『アイツだ!
アイツが一瞬であの子達と、
私達を殴り飛ばしたんだ!
畜生!気づかなかった!』
甲虫を口から離したフセは、
悪態を吐きに吐きまくる。
僕は数秒前までいた方向を見る。
そこには、
1人の背の高い女性が立っていた。
ヘソ出しTシャツにジーパン、
そして何より目立つ、
街灯の光を反射する銀髪。
ここに来る前に、
人通りは散々確認してきたのだ。
どうやって一瞬で
あそこに行けたんだ!?
瞬間移動でもしてきたのか!?
「うーん、
[騎士]がここにいるって聞いて来たら、
3人いたから
取り敢えず全員ぶん殴ってみたけど、
一体誰が[騎士]なのかしら?」
などとブツブツと呟きながら、
女性はクルリと
僕の方を向いて、
ビシッ!と指をさし、言った。
満面の笑みで。
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