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第1章
<32話>兎探偵 斯波葉月の事件簿(其の零)
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私は自分の母親について、
一切のいい思い出がありません。
私の苗字である『斯波』は、
お父さんの方の苗字なのですが、
お父さんは私が生まれる前に
すぐに交通事故で
亡くなってしまったそうなので、
私はそもそも顔を知りません。
そういう訳で、
私は7歳まで、お母さん1人に
育てられていました。
でも、
どうやらお母さんが好きだったのは
お父さんであって、
私では無かったみたいでした。
お父さんが亡くなってから、
お母さんは家に何回も
男の人を連れ込みました。
そしてその度に、
私は外に出されました。
お母さんが男の人と、
暖房の効いた部屋で談笑している間、
私は肌着1枚で、
公園で寒さに震えていました。
お母さんが高級そうなお店で、
男の人と一緒に
美味しいイタリア料理を食べている間、
私は家で、
いつ買ったのかもわからない、
カビの生えかけた
食パンを齧っていました。
私が怪我をして泣いてしまい、
男の人に
うるさいと言われて殴られた時、
お母さんはそれを止めようともせず、
お酒を飲みながら笑っていました。
そんな幸福の欠片もないような人生を、
リタイアすることを選ばなかったのは、
三好叔父さんとピノがいたからです。
ピノと出会ったのは、
いつも通り「邪魔」と言われて、
夜の街にシャツ1枚で放り出されて、
公園のベンチで泣いていた時でした。
ふと、側で声がしたんです。
『君、いっつもここで泣いてるよね。
どんな事情があんの?』
声の方向を見ると、
そこには
白い毛並みの兎がいました。
今考えるとそれなりの恐怖は
感じても良さそうなのですが、
その頃の私は何も感じませんでした。
それだけ、
追い詰められていたのでしょう。
「お母さんが、
邪魔だって言うから・・・。」
『友達の家にでも、
泊めてもらえばいいじゃん。』
「友達なんか、いないもん。」
当時、私は保育園にも、
幼稚園にも通っていませんでした。
だから、人との付き合いといえば、
本当に母親くらいだったのです。
兎は私をじっと見つめて、言いました。
『・・・君、そのお母さんから、
殴られたりしてるだろ。
打撲痣がある。』
「・・・。」
『あ、そっちのは
痣がでかくて色が濃いな。
ってことはお母さんの恋人にもか?』
「・・・。」
『それで、
お母さんが恋人イチャつくために、
君を外に放り出したってわけか。
いや、もっと日常的に虐待されてるな。
うっわ、もっとひどい傷が
お腹にある!
これアイロンか
なんか押し付けられたろ!
これ治らないかもな・・・。
それに、あんまりご飯食べてないだろ、
明らかに痩せ細ってるぜ。
たまのご飯もコンビニかなんかか。』
兎はそう言って、私の現状を
ズバズバと当てていきました。
『こんな寒いとこで震えてないで、
友達の家とか行ったらい・・・。
え!?
保育園にも
幼稚園にも行ってないのかよ!?
しかもお前の母親頭おかしいだろ!
なんで娘放置して
自分は男と遊び呆けてんだよ!
うっわ、
今日は自分だけあったかい部屋で
ぬくぬく談笑してやがるのか!
おい葉月、
お前こんなんだと、
本当に殺されちまうぞ!』
兎はズバズバと言いました。
一方で私は、
話してもいない真実を
まくしたてられて、
私は呆然とするしかありませんでした。
「な、なんでわかるの!?」
『フッフッフ、
僕にはそういう力があるのさ。
君にもあげようか?
僕の出す条件をのんでくれるならね。』
「何!?何!?条件って!?」
私は寒さも忘れて、
興奮気味に兎に詰め寄りました。
『僕の『宿り主』になってよ。
そしたらこの力もあげるし、
前払いとして、明日の夜には、
あったかいご飯と可愛い洋服が
手に入ることを保障しよう!』
私は少し考えた後、
「うん!」とコクンとうなづきました。
『本当に!?よろしくね!』
私ははじめて友達ができて、
ルンルン気分で聞きました。
「君なんていう名前なの!?」
兎は少し困ったように、
『僕にはまだ名前が無いんだ。』
と言いました。
さて、困りました、
名前が無ければこれからの友達生活に、
支障をきたします。
私は辺りを見渡しました。
すると、空箱が落ちていました。
6つ入りの、プチアイス。
幼き日の私は閃きました。
「・・・ピノ!
そうだ、貴方はピノ!」
私は嬉しそうにそう叫びました。
『え、なにそれ!
滅茶苦茶イカした名前じゃん!
それにしよう!それで決まり!』
兎も思いのほか気に入ったようでした。
(後から名前の由来を伝えたら、
一瞬物凄い複雑な顔をして、
『・・・まあいいや。
別に嫌いじゃないし』と言われました。)
『もう遅いから帰りなよ。
勿論僕も連れて帰ってね。
早く寝なよ、多分明日は早いから。』
「え、でも・・・。
兎なんか飼わせてくれる訳が・・・。」
『大丈夫。』
そういうと、兎、じゃなくてピノは、
茶色い帽子に変身しました。
『鹿撃帽っていうんだよ。
被って帰りな。
大丈夫、
明日の朝には全てが好転する。』
これがピノとの出会いでした。
そのまま家に帰った私を出迎えたのは、
お母さんとその恋人の、
鉄拳制裁だったのですが、
ピノの言葉を信じていた私は、
なんとかそれを耐え抜き、
眠りにつきました。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
その日の夜、私は何処かに
電話をかける夢を見ました。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
そして次の日の朝4時くらいに、
私は物凄く大きな物音で、
叩き起こされました。
男の人2人の罵声と、
絶え間ない破壊音が聞こえます。
私が慌てて布団(といってもボロ切れ同然でしたけれどね)
から起き上がろうとしたその時、
だれか女の人が走り寄ってきて、
私を抱きしめ、耳を塞ぎました。
見るとその人は制服を着ていて、
中学生か高校生なんだろうと、
当時の私は推測しました。
その直前に、
「その子に見せるな!」という声が、
聞こえたような気がします。
女の人は
「大丈夫だからね。
もう大丈夫だからね。」
と繰り返しながら、
私を力強く抱きしめていました。
その後、破壊音が落ち着いた後、
私はあれよあれよと外に連れ出されて
車に乗せられました。
出発する前に、お母さんはずっと
「戻ってこい!」と怒鳴っていました。
だけどなぜか、いつものように、
戻る気にはなりませんでした。
車の中で、女の人が話してくれました。
自分達がお母さんの兄妹とであること、
虐待されていた連絡を受けて、
私を保護しに来たこと、
そして、私はこれから、
このおじさんの家に住むこと。
着いた先は、
私が住んでいたのとさして変わらない、
ごく普通のアパートでした。
「じゃあ、兄さん。
私は後始末があるからこれで。
ちゃんと面倒見てあげなさい、
放置したら殺すわよ?」
そして私の方を向いて、
「辛かったね、もう大丈夫。
これからはこのおじさんと暮らすのよ。
私は夏、天才中学生のおねーさん。
で、こっちが兄の善一。
大学の研究所やめて、
今日から私立探偵になった馬鹿兄貴よ。
血縁上は、
貴方の叔父さんと叔母さん、
ってところかしら。
こっちのごついおっさんの方は、
『三好叔父さん』って呼んであげて。
私の方は、『夏おねいちゃん』
って言いなさい。
それに、貴方はどうやら
シンジュウの宿り主みたいね。
それならなお都合がいいわ。
これからの貴方の幸せは、
私と兄さんが保障するからね。
馬鹿兄貴の収入は、
不定期になるけれど、
一応蓄えはいっぱいあるから、
生活に困ることは無いと思うわ。
私は今はまだ一人暮らしじゃないから、
貴方を預かるのは難しいけれど、
出来ないことはないから、
もしも
コイツに愛想が尽きたら、
私の方にいらっしゃい。
まあ、どうにかしてあげるわ。」
私は唖然としながらも、
とりあえず口を開きました。
「あ、ありがとうございます。
叔母s・・・。」
ものすごい力で頭を掴まれました。
「な、夏おねいちゃん・・・。」
「よろしい。
じゃあ兄さん、あとよろしく。」
そう言って女の人は去って行きました。
後には
私と、叔父さんだけが残されました。
「よし、じゃあまずは、
何か食べに行こうか!
まだ朝ごはん食べてないから
お腹すいただろう!
さあ行こう!」
なんて、
勝手に話を進められてます。
「・・・あ、あの。」
私は口を開きました。
「ど、どうしてわかったんですか?
私が、
その・・・虐待されてるって。」
すると叔父さんは不思議そうな顔で、
「え?
君が電話してきたんじゃん。
『助けて』って。」
タネを明かすと、
ピノを連れて帰ったその日の夜は、
殴られた疲労で、
帽子をかぶったまま寝てしまったので、
私に憑依したピノが、
寝ているお母さんから、
叔父さんやおねいちゃんの存在、
そしてその連絡先を
『加護』で盗み見て、
夜中にこっそり電話していたのです。
しかし当時の私は、
そんなこと知る由も無いわけで。
「さあ、とにかく行こう!」
叔父さんはそう言って、
私の手を強く握りました。
その瞬間、
私の中に流れ込んできたのは、
「ご飯を食べたら、
服を買ってあげよう。」
「あー、でも、俺研究所やめた
ばっかだからなあ。
蓄えはあるけど、
『実は私立探偵なんだ!』
なんて言ったらどんな顔されるかな?」
「まさか27で保護者になるとはな!
最近人生のマンネリ化が
酷いと思ったら
こんなスーパーサプライズが、
用意されてたなんてな!」
私は思わず吹き出しました。
「あの、探偵なんですか?
しかも今日からって・・・。」
叔父さんは目を丸くしました。
「あ、うん。
いやー、前に勤めてた研究所の、
上司がそれはもう嫌なやつでさー。
俺の頭にコーヒーかけてきたから、
ふん縛って
コーヒー豆の袋にそいつの頭突っ込んで
そのままやめてきちゃった。」
私は声を上げて笑いました。
ピノは渋い顔をしています。
「あの、よかったらその探偵業、
私にも手伝わせてください。
大したことは出来ないけれど。」
ひとしきり笑ったあと、
私は三好さんにそう言いました。
「おっ、それはありがたいねえ。
君の横にいるシンジュウ、
『記憶を読む』とか、
そういう系の『加護』なのかな?
だとしたら、
俺の最高のサポーターに
なってくれそうだ。」
この時の私は、
まだシンジュウの知識が浅かったので、
叔父さんの体質については、
特に言及はしませんでした。
かくして、
『白兎探偵事務所』は、
スタートしたのです。
そして7年の月日が経ち、
無事に中学生になった私は、
初めて1人の探偵として、
とある『シンジュウ』絡みの事件に、
立ち向かうこととなるのです。
一切のいい思い出がありません。
私の苗字である『斯波』は、
お父さんの方の苗字なのですが、
お父さんは私が生まれる前に
すぐに交通事故で
亡くなってしまったそうなので、
私はそもそも顔を知りません。
そういう訳で、
私は7歳まで、お母さん1人に
育てられていました。
でも、
どうやらお母さんが好きだったのは
お父さんであって、
私では無かったみたいでした。
お父さんが亡くなってから、
お母さんは家に何回も
男の人を連れ込みました。
そしてその度に、
私は外に出されました。
お母さんが男の人と、
暖房の効いた部屋で談笑している間、
私は肌着1枚で、
公園で寒さに震えていました。
お母さんが高級そうなお店で、
男の人と一緒に
美味しいイタリア料理を食べている間、
私は家で、
いつ買ったのかもわからない、
カビの生えかけた
食パンを齧っていました。
私が怪我をして泣いてしまい、
男の人に
うるさいと言われて殴られた時、
お母さんはそれを止めようともせず、
お酒を飲みながら笑っていました。
そんな幸福の欠片もないような人生を、
リタイアすることを選ばなかったのは、
三好叔父さんとピノがいたからです。
ピノと出会ったのは、
いつも通り「邪魔」と言われて、
夜の街にシャツ1枚で放り出されて、
公園のベンチで泣いていた時でした。
ふと、側で声がしたんです。
『君、いっつもここで泣いてるよね。
どんな事情があんの?』
声の方向を見ると、
そこには
白い毛並みの兎がいました。
今考えるとそれなりの恐怖は
感じても良さそうなのですが、
その頃の私は何も感じませんでした。
それだけ、
追い詰められていたのでしょう。
「お母さんが、
邪魔だって言うから・・・。」
『友達の家にでも、
泊めてもらえばいいじゃん。』
「友達なんか、いないもん。」
当時、私は保育園にも、
幼稚園にも通っていませんでした。
だから、人との付き合いといえば、
本当に母親くらいだったのです。
兎は私をじっと見つめて、言いました。
『・・・君、そのお母さんから、
殴られたりしてるだろ。
打撲痣がある。』
「・・・。」
『あ、そっちのは
痣がでかくて色が濃いな。
ってことはお母さんの恋人にもか?』
「・・・。」
『それで、
お母さんが恋人イチャつくために、
君を外に放り出したってわけか。
いや、もっと日常的に虐待されてるな。
うっわ、もっとひどい傷が
お腹にある!
これアイロンか
なんか押し付けられたろ!
これ治らないかもな・・・。
それに、あんまりご飯食べてないだろ、
明らかに痩せ細ってるぜ。
たまのご飯もコンビニかなんかか。』
兎はそう言って、私の現状を
ズバズバと当てていきました。
『こんな寒いとこで震えてないで、
友達の家とか行ったらい・・・。
え!?
保育園にも
幼稚園にも行ってないのかよ!?
しかもお前の母親頭おかしいだろ!
なんで娘放置して
自分は男と遊び呆けてんだよ!
うっわ、
今日は自分だけあったかい部屋で
ぬくぬく談笑してやがるのか!
おい葉月、
お前こんなんだと、
本当に殺されちまうぞ!』
兎はズバズバと言いました。
一方で私は、
話してもいない真実を
まくしたてられて、
私は呆然とするしかありませんでした。
「な、なんでわかるの!?」
『フッフッフ、
僕にはそういう力があるのさ。
君にもあげようか?
僕の出す条件をのんでくれるならね。』
「何!?何!?条件って!?」
私は寒さも忘れて、
興奮気味に兎に詰め寄りました。
『僕の『宿り主』になってよ。
そしたらこの力もあげるし、
前払いとして、明日の夜には、
あったかいご飯と可愛い洋服が
手に入ることを保障しよう!』
私は少し考えた後、
「うん!」とコクンとうなづきました。
『本当に!?よろしくね!』
私ははじめて友達ができて、
ルンルン気分で聞きました。
「君なんていう名前なの!?」
兎は少し困ったように、
『僕にはまだ名前が無いんだ。』
と言いました。
さて、困りました、
名前が無ければこれからの友達生活に、
支障をきたします。
私は辺りを見渡しました。
すると、空箱が落ちていました。
6つ入りの、プチアイス。
幼き日の私は閃きました。
「・・・ピノ!
そうだ、貴方はピノ!」
私は嬉しそうにそう叫びました。
『え、なにそれ!
滅茶苦茶イカした名前じゃん!
それにしよう!それで決まり!』
兎も思いのほか気に入ったようでした。
(後から名前の由来を伝えたら、
一瞬物凄い複雑な顔をして、
『・・・まあいいや。
別に嫌いじゃないし』と言われました。)
『もう遅いから帰りなよ。
勿論僕も連れて帰ってね。
早く寝なよ、多分明日は早いから。』
「え、でも・・・。
兎なんか飼わせてくれる訳が・・・。」
『大丈夫。』
そういうと、兎、じゃなくてピノは、
茶色い帽子に変身しました。
『鹿撃帽っていうんだよ。
被って帰りな。
大丈夫、
明日の朝には全てが好転する。』
これがピノとの出会いでした。
そのまま家に帰った私を出迎えたのは、
お母さんとその恋人の、
鉄拳制裁だったのですが、
ピノの言葉を信じていた私は、
なんとかそれを耐え抜き、
眠りにつきました。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
その日の夜、私は何処かに
電話をかける夢を見ました。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
そして次の日の朝4時くらいに、
私は物凄く大きな物音で、
叩き起こされました。
男の人2人の罵声と、
絶え間ない破壊音が聞こえます。
私が慌てて布団(といってもボロ切れ同然でしたけれどね)
から起き上がろうとしたその時、
だれか女の人が走り寄ってきて、
私を抱きしめ、耳を塞ぎました。
見るとその人は制服を着ていて、
中学生か高校生なんだろうと、
当時の私は推測しました。
その直前に、
「その子に見せるな!」という声が、
聞こえたような気がします。
女の人は
「大丈夫だからね。
もう大丈夫だからね。」
と繰り返しながら、
私を力強く抱きしめていました。
その後、破壊音が落ち着いた後、
私はあれよあれよと外に連れ出されて
車に乗せられました。
出発する前に、お母さんはずっと
「戻ってこい!」と怒鳴っていました。
だけどなぜか、いつものように、
戻る気にはなりませんでした。
車の中で、女の人が話してくれました。
自分達がお母さんの兄妹とであること、
虐待されていた連絡を受けて、
私を保護しに来たこと、
そして、私はこれから、
このおじさんの家に住むこと。
着いた先は、
私が住んでいたのとさして変わらない、
ごく普通のアパートでした。
「じゃあ、兄さん。
私は後始末があるからこれで。
ちゃんと面倒見てあげなさい、
放置したら殺すわよ?」
そして私の方を向いて、
「辛かったね、もう大丈夫。
これからはこのおじさんと暮らすのよ。
私は夏、天才中学生のおねーさん。
で、こっちが兄の善一。
大学の研究所やめて、
今日から私立探偵になった馬鹿兄貴よ。
血縁上は、
貴方の叔父さんと叔母さん、
ってところかしら。
こっちのごついおっさんの方は、
『三好叔父さん』って呼んであげて。
私の方は、『夏おねいちゃん』
って言いなさい。
それに、貴方はどうやら
シンジュウの宿り主みたいね。
それならなお都合がいいわ。
これからの貴方の幸せは、
私と兄さんが保障するからね。
馬鹿兄貴の収入は、
不定期になるけれど、
一応蓄えはいっぱいあるから、
生活に困ることは無いと思うわ。
私は今はまだ一人暮らしじゃないから、
貴方を預かるのは難しいけれど、
出来ないことはないから、
もしも
コイツに愛想が尽きたら、
私の方にいらっしゃい。
まあ、どうにかしてあげるわ。」
私は唖然としながらも、
とりあえず口を開きました。
「あ、ありがとうございます。
叔母s・・・。」
ものすごい力で頭を掴まれました。
「な、夏おねいちゃん・・・。」
「よろしい。
じゃあ兄さん、あとよろしく。」
そう言って女の人は去って行きました。
後には
私と、叔父さんだけが残されました。
「よし、じゃあまずは、
何か食べに行こうか!
まだ朝ごはん食べてないから
お腹すいただろう!
さあ行こう!」
なんて、
勝手に話を進められてます。
「・・・あ、あの。」
私は口を開きました。
「ど、どうしてわかったんですか?
私が、
その・・・虐待されてるって。」
すると叔父さんは不思議そうな顔で、
「え?
君が電話してきたんじゃん。
『助けて』って。」
タネを明かすと、
ピノを連れて帰ったその日の夜は、
殴られた疲労で、
帽子をかぶったまま寝てしまったので、
私に憑依したピノが、
寝ているお母さんから、
叔父さんやおねいちゃんの存在、
そしてその連絡先を
『加護』で盗み見て、
夜中にこっそり電話していたのです。
しかし当時の私は、
そんなこと知る由も無いわけで。
「さあ、とにかく行こう!」
叔父さんはそう言って、
私の手を強く握りました。
その瞬間、
私の中に流れ込んできたのは、
「ご飯を食べたら、
服を買ってあげよう。」
「あー、でも、俺研究所やめた
ばっかだからなあ。
蓄えはあるけど、
『実は私立探偵なんだ!』
なんて言ったらどんな顔されるかな?」
「まさか27で保護者になるとはな!
最近人生のマンネリ化が
酷いと思ったら
こんなスーパーサプライズが、
用意されてたなんてな!」
私は思わず吹き出しました。
「あの、探偵なんですか?
しかも今日からって・・・。」
叔父さんは目を丸くしました。
「あ、うん。
いやー、前に勤めてた研究所の、
上司がそれはもう嫌なやつでさー。
俺の頭にコーヒーかけてきたから、
ふん縛って
コーヒー豆の袋にそいつの頭突っ込んで
そのままやめてきちゃった。」
私は声を上げて笑いました。
ピノは渋い顔をしています。
「あの、よかったらその探偵業、
私にも手伝わせてください。
大したことは出来ないけれど。」
ひとしきり笑ったあと、
私は三好さんにそう言いました。
「おっ、それはありがたいねえ。
君の横にいるシンジュウ、
『記憶を読む』とか、
そういう系の『加護』なのかな?
だとしたら、
俺の最高のサポーターに
なってくれそうだ。」
この時の私は、
まだシンジュウの知識が浅かったので、
叔父さんの体質については、
特に言及はしませんでした。
かくして、
『白兎探偵事務所』は、
スタートしたのです。
そして7年の月日が経ち、
無事に中学生になった私は、
初めて1人の探偵として、
とある『シンジュウ』絡みの事件に、
立ち向かうこととなるのです。
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