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第1章
<35話>兎探偵 斯波葉月の事件簿(其の3)
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「あ、葉月ちゃんじゃん!
マジ久しぶりィ!」
下校中、
田沼先輩に呼び止められました。
「あ、こんにちは田沼先輩・・・。
ランニング・・・ですか?」
「うんそうそう!
さっきまでズッッッット
この辺走ってて、今休憩チュー。
ホンット疲れるんだよね~これ!
マジ勘弁して!って感じ?
あ、そうそう、
いつも最上の勉強、
見てくれてありがとね。
あいつバスケはうまいんだけどさ、
それにパラメーター全振りしてっから、
他はからっきしなんだよね~。
試合は3回に1回は遅刻するし、
中学生なのに
分数小数の区別ついてなかったし、
『動きやすい私服で来て』って言われて
水着で来た時は流石に引いたわー。
それに、
1日に1回は忘れ物するし。
今日の朝だって部室に
『ノート忘れたー!』とか言って
走りこんできたしぃ。
日常生活送れてるのは、
葉月ちゃんと深尾くんのお陰だよー!
ホンット、マジ感謝!」
先輩は横長の瞳孔が入った目を
キラキラと輝かせながら
私にまくしたてます。
私は思わず苦笑します。
みーちゃん、本当に大丈夫・・・?
あ、紹介するのを忘れてましたね。
田沼灯先輩は、
私達より1つ上の3年生で、
みーちゃんが所属する、
バスケットボール部のキャプテンで、
色々と、
謎の多い人として知られています。
と言うのも、
田沼先輩は2年生の半ばくらいまでは、
不登校だったのです。
いきなり登校してきたと思ったら、
いきなりバスケットボール部に入部、
凄まじい実力で、
入部1ヶ月でチームのレギュラーに
踊り出ちゃったそうです。
なんでも脚力が凄まじいらしく、
ダンクシュートさえ
できるのだとか・・・。
性格はいわゆる『ギャル』でして、
同じくバスケ部の時期エースと言われる
みーちゃんとよく一緒にいる私は、
どうやら好かれちゃってる
みたいなのです。
決して悪い人ではありませんし、
私も嫌いではないのですが、
いかんせんテンションが
苦手というか、なんというか・・・。
「そ、それでは、失礼します。
用事があるので・・・。」
「え、ヨージあるの?マジで!?
ごめん引き止めちゃって!
行って行って!」
「い、いや、そんな大したことじゃ
ないんですけど・・・。
(お煎餅買いに行くだけだし・・・。)
先輩こそ、
抜けちゃって大丈夫なんですか?」
「まあ、大丈夫大丈夫!
今日実は練習無いしぃ。」
と、先輩がそう行った瞬間、
「「「あ、いたー!!!」」」
という声が聞こえてきました。
声のする方を向くと、
バスケ部らしきユニフォームを着た、
十数人の人達が、
後方から物凄い勢いで駆けてきます。
「・・・先輩、
ひょっとして練習抜けd」
「そ、そろそろ行かなきゃ!
バイバ~イ!!」
先輩は猛スピードで、
バスケ部員達と反対方向に
走り去って行きました。
「・・・お煎餅買って、帰ろ。」
100mほど行ったところで、
隠れていた部員に
捕獲されている先輩を見ながら、
私は呟きました。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
私と叔父さんの住んでいる、
住居兼探偵事務所は、
中学校からバスに揺られて10分、
バス停から徒歩10分の所にある、
(ちなみにバス停から学校までは、
私の足で大体15分くらいです。)
マンション『八岐ハイツ』の1室です。
間取りは2LDKで、家賃は月7万円。
叔父さんは私を引き取る前は、
何処かの国立研究所に勤務していたので
実は結構蓄えがあるのですが、
(ただし、
家賃以外で貯金に手をつけるのは、
『1日3食が食べられなくなった時』か、
『私の学費』の2つだけ、
とおじさんは明言しています。)
マンションについた私は、
入り口近くの駐輪場に止められている、
巨大な真っ黒のバイクを見つけました。
車体には大きな炎のシールが
貼り付けられています。
こんなバイクに乗っている人で
このマンションに用がある人は、
おそらくあの人を置いていません。
「あら、ヨウちゃん、お帰り。
会うのは1年ぶりだったかしら、
大きくなったわね。」
家の扉を開けるとそこには、
大量のビールの空き缶に囲まれた、
床に倒れ伏して眠る叔父さんと、
ダボダボの寝巻き姿で、
お酒を飲む夏おねいちゃんがいました。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「転勤であっちこっち行く傍で
色んな魑魅魍魎を
ボコりまくっていたのだけれど、
最近『騎士』って、出てきたでしょう?あれが思ったより遠くの方まで
噂が行き届いてたのよ。
で、厄介なことになる前に
芽を摘んどこうと思って、
天原市に戻ってきたの。
でも私お金がないから、
ホテルとかには、
あんまり連泊できないのよね。
それならと思って、兄さんに頼んで、
ここに泊めてもらえることに
なったってわけ。
ごめんなさいね、
少しの間だけお世話になるわ。」
「ふ~ん。
あ、おねいちゃん、ご飯は?」
「もう食べたから大丈夫よ、
ありがとう。」
私は自分の晩御飯を作りながら、
お酒をラッパ飲みする
おねいちゃんと会話をします。
叔父さんは料理が苦手なので、
ご飯の支度は専ら私です。
ここで私は思い出したように、
「あ、そういえばアズは・・・。」
と言いかけたところで、
『あ、ヨウちゃん・・・。』
という静かな声が窓からしました。
私が窓に視線をやると、
窓の外で足にカゴをぶら下げた、
一羽の鷹が羽ばたいていました。
この鷹こそが、
おねいちゃんのシンジュウ、
アズなのです。
私が窓を開けると、
アズは滑るようにして
部屋に入ってきました。
「アズ、久しぶり。
・・・外で何やってたの?」
『善一が酔っ払って、
水が欲しいっていうから、
向かいの自販機で買ってきた・・・。』
・・・シンジュウをパシリに使うとは、
なかなかレベルが高いですね。
『ゴメンね、
疲れて帰ってきたのに、
こんなことになっちゃってて・・・。
あ、そうだ、
お小遣いあげる・・・。』
「い、いいよいいよ困ってないから!
それよりそっちの
必要経費の足しにしなよ!
全国回ってて大変なんでしょ?」
アズはなぜだか知りませんが、
私には妙に優しいのです。
ここでピノが突っかかります。
『ふん、お前パシリに使われてるのか。
いつまでたっても半人前だな。』
『いつまでたっても
精神年齢5歳のヤツに、
言われたくない・・・。』
『あんだとぉ!?』
『こんな低レベルなガキに宿られて、
ヨウちゃんも可哀想に・・・。』
『おい、表出ろや。』
「ちょっと、何やってんの!?」
そしてなぜだか知りませんが、
ピノには妙に毒舌なのです。
「・・・ん?なにそれ?お煎餅?」
ここでおねいちゃんは、
私が机の上に置いた
袋に気がつきました。
「ちょうどおつまみが
無くなっちゃったのよね。
一枚もらっていいかしら?」
というが早いか、
袋に手を伸ばします。
私は思わず
「ストッーーープ!」
と叫んでしまいました。
おかげでおねいちゃんの手は
ビクッ!と震えた後に、
「ごめんなさい。」という一言と共に
止まったのですが、
予想通りの質問が、
おねいちゃんの口から飛び出しました。
「ところで葉月、
貴方いつからお煎餅好きになったの?」
そうなんです、私は昔から
お煎餅があまり好きでは無いのです。
むしろ苦手な方なのです。
知り合いが、苦手な食べ物を
わざわざお金出して買ってきたら、
そりゃ不審にも思います。
「え、えと、
ピノが食べたいって言ったんだよ!」
苦しい言い訳ですが、
叔父さんや
おねいちゃんのやり方は
(おねいちゃんは特に)
とっても暴力的なので、
出来れば関わらせたくありません。
「ふーん。」
おねいちゃんはそう言って、
また晩酌に戻りました。
私はできた料理を並べて、
黙々と食べ始めます。
今日は早く寝なきゃいけないんです。
うかうかしてたら
先を越されてしまいますから。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「ふぅ・・・。」
晩御飯を食べ終わり、
食器を洗ってから
お風呂に飛び込んだ私は、
浴槽に肩まで身体を沈めながら、
思わず溜息をつきました。
帰ってきたのは4時だというのに、
あの後、食器の後片付けやら勉強やら、
色々と用事を済ませていたら、
あっという間に、
7時になってしまいました。
約束の時間は午前2時なので、
(ちなみに場所は、
まさかのあの廃倉庫でした)
一刻も早く寝なければなりません。
『よう、葉月。
疲れてるみたいだな、
夜の調査は 代わってやろうか?』
「貴方が行くと、
絶対一悶着起こすでしょ。
ダメだよ。
ちゃんと起こしてよ?
・・・て言っても、
今日は本当に疲れたなあ。」
本当に今日は色々ありました。
色んな人に絡まれるし、
おねいちゃんは押しかけてくるし。
・・・それにしても。
「なんだか最近、
シンジュウと異常なまでに
関わってる気がするなあ。」
私が善一叔父さんに引き取られてから、
7年間の間に、
私が出会ったシンジュウ及び宿り主は、
2人だけだったのですが、
ここ1ヶ月だけで、
なんとすでに2人に出会っています。
どうなるんだろ、私の人生・・・。
『そうだね。
やっぱり、
[旅人]がいなくなったのが、
デカかったんだろうなあ。
後継人も見つかってないみたいだし、
不在のうちに、
変なこと起きなきゃいいんだけど。』
「[旅人]?」
『ん?ああ、何でもないよ。
そろそろ出たら?』
「あ、うん。」
私はピノの助言に従って、
お風呂から上がると、
手っ取り早く寝間着を着て、
寝室へと向かいます。
その途中でリビングを除くと、
死んだように眠っている叔父さんに、
おねいちゃんが
布団を投げつけるようにして、
かけていました。
「あら、もう寝るの?」
こっちに気づいたおねいちゃんが、
話しかけてきます。
「あ、うん、
ちょっと朝イチで
調べたいことがあるから。」
「あら、そう。」
私はそのまま寝室に向かおうとした時、
私はふと、深尾くんからもらった
チケットのことを思い出しました。
「ねえ、おねいちゃん、
ここのシンジュウとその宿り主、
どのくらいまで把握してる?」
おねいちゃんは少し考える仕草をして、
「そうねえ、面識があるのは、
貴方と『ヤブ医者』と『人形使い』、
くらいかしらね。
修理屋さんとこの息子さんには、
会ったことないから。」
「あ、じゃあ、
もし柴犬のシンジュウ
連れた男の子に会ったら、
これ渡しといてもらえない?」
そう言って私は、
「羽柴さんの時、
守ってくれた時のお礼です。
ぜひ行ってみてください。
斯波葉月」
というメモと一緒に、昼間にもらった
チケットを差し出しました。
「ああ、兄さんが言ってた柴犬の子ね。
私も一度挨拶しとこうと
思って探してたのよ。
わかった、会ったら渡しておくわ。
近いうちに会いに行くと思うし。」
直接渡した方がいいんでしょうけれど、
私は家を知らないし、
多分これから市内を
縦横無尽に駆け巡るであろう
おねいちゃんの方が、
ひょっとしたら会うことも
あるんじゃないかと思ったのです。
義経君なら苗字も珍しいし、
そもそもシンジュウ連れた人なんて
そうそういないはずです。
「ありがとう!
じゃあもう一枚は
おねいちゃんに・・・。」
「ああ、大丈夫よ。
ここでの用事が終わったら、
すぐに遠出して
1ヶ月は帰ってこないし、
そもそも私コーヒー嫌いだし。
ヨウちゃんが行っておいで。」
「なんかごめんなさい・・・。」
「謝らなくていいの!」
「じゃあ、おやすみなさい。」
「はい、おやすみ。」
時計を見ると9時、当初の予定より
1時間くらい遅れていたので、
私は大慌てで自分の寝室に走り込み、
目覚ましはかけられないので
「ちゃんと起こしてよ!」
とピノに釘を刺して、
そのまま眠りに落ちていったのでした。
(ちなみにチケットなのですが、
後日騎士の件を解決したらしき
おねいちゃんに聞くと、
「大丈夫よ。
ちゃんとぶん殴った時に、
こっそりポケットに
入れておいたから。」
というなんとも物騒な答えが飛び出し、
私はもう2度と
この人に頼み事はしないと、
心に決めたのでした。)
マジ久しぶりィ!」
下校中、
田沼先輩に呼び止められました。
「あ、こんにちは田沼先輩・・・。
ランニング・・・ですか?」
「うんそうそう!
さっきまでズッッッット
この辺走ってて、今休憩チュー。
ホンット疲れるんだよね~これ!
マジ勘弁して!って感じ?
あ、そうそう、
いつも最上の勉強、
見てくれてありがとね。
あいつバスケはうまいんだけどさ、
それにパラメーター全振りしてっから、
他はからっきしなんだよね~。
試合は3回に1回は遅刻するし、
中学生なのに
分数小数の区別ついてなかったし、
『動きやすい私服で来て』って言われて
水着で来た時は流石に引いたわー。
それに、
1日に1回は忘れ物するし。
今日の朝だって部室に
『ノート忘れたー!』とか言って
走りこんできたしぃ。
日常生活送れてるのは、
葉月ちゃんと深尾くんのお陰だよー!
ホンット、マジ感謝!」
先輩は横長の瞳孔が入った目を
キラキラと輝かせながら
私にまくしたてます。
私は思わず苦笑します。
みーちゃん、本当に大丈夫・・・?
あ、紹介するのを忘れてましたね。
田沼灯先輩は、
私達より1つ上の3年生で、
みーちゃんが所属する、
バスケットボール部のキャプテンで、
色々と、
謎の多い人として知られています。
と言うのも、
田沼先輩は2年生の半ばくらいまでは、
不登校だったのです。
いきなり登校してきたと思ったら、
いきなりバスケットボール部に入部、
凄まじい実力で、
入部1ヶ月でチームのレギュラーに
踊り出ちゃったそうです。
なんでも脚力が凄まじいらしく、
ダンクシュートさえ
できるのだとか・・・。
性格はいわゆる『ギャル』でして、
同じくバスケ部の時期エースと言われる
みーちゃんとよく一緒にいる私は、
どうやら好かれちゃってる
みたいなのです。
決して悪い人ではありませんし、
私も嫌いではないのですが、
いかんせんテンションが
苦手というか、なんというか・・・。
「そ、それでは、失礼します。
用事があるので・・・。」
「え、ヨージあるの?マジで!?
ごめん引き止めちゃって!
行って行って!」
「い、いや、そんな大したことじゃ
ないんですけど・・・。
(お煎餅買いに行くだけだし・・・。)
先輩こそ、
抜けちゃって大丈夫なんですか?」
「まあ、大丈夫大丈夫!
今日実は練習無いしぃ。」
と、先輩がそう行った瞬間、
「「「あ、いたー!!!」」」
という声が聞こえてきました。
声のする方を向くと、
バスケ部らしきユニフォームを着た、
十数人の人達が、
後方から物凄い勢いで駆けてきます。
「・・・先輩、
ひょっとして練習抜けd」
「そ、そろそろ行かなきゃ!
バイバ~イ!!」
先輩は猛スピードで、
バスケ部員達と反対方向に
走り去って行きました。
「・・・お煎餅買って、帰ろ。」
100mほど行ったところで、
隠れていた部員に
捕獲されている先輩を見ながら、
私は呟きました。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
私と叔父さんの住んでいる、
住居兼探偵事務所は、
中学校からバスに揺られて10分、
バス停から徒歩10分の所にある、
(ちなみにバス停から学校までは、
私の足で大体15分くらいです。)
マンション『八岐ハイツ』の1室です。
間取りは2LDKで、家賃は月7万円。
叔父さんは私を引き取る前は、
何処かの国立研究所に勤務していたので
実は結構蓄えがあるのですが、
(ただし、
家賃以外で貯金に手をつけるのは、
『1日3食が食べられなくなった時』か、
『私の学費』の2つだけ、
とおじさんは明言しています。)
マンションについた私は、
入り口近くの駐輪場に止められている、
巨大な真っ黒のバイクを見つけました。
車体には大きな炎のシールが
貼り付けられています。
こんなバイクに乗っている人で
このマンションに用がある人は、
おそらくあの人を置いていません。
「あら、ヨウちゃん、お帰り。
会うのは1年ぶりだったかしら、
大きくなったわね。」
家の扉を開けるとそこには、
大量のビールの空き缶に囲まれた、
床に倒れ伏して眠る叔父さんと、
ダボダボの寝巻き姿で、
お酒を飲む夏おねいちゃんがいました。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「転勤であっちこっち行く傍で
色んな魑魅魍魎を
ボコりまくっていたのだけれど、
最近『騎士』って、出てきたでしょう?あれが思ったより遠くの方まで
噂が行き届いてたのよ。
で、厄介なことになる前に
芽を摘んどこうと思って、
天原市に戻ってきたの。
でも私お金がないから、
ホテルとかには、
あんまり連泊できないのよね。
それならと思って、兄さんに頼んで、
ここに泊めてもらえることに
なったってわけ。
ごめんなさいね、
少しの間だけお世話になるわ。」
「ふ~ん。
あ、おねいちゃん、ご飯は?」
「もう食べたから大丈夫よ、
ありがとう。」
私は自分の晩御飯を作りながら、
お酒をラッパ飲みする
おねいちゃんと会話をします。
叔父さんは料理が苦手なので、
ご飯の支度は専ら私です。
ここで私は思い出したように、
「あ、そういえばアズは・・・。」
と言いかけたところで、
『あ、ヨウちゃん・・・。』
という静かな声が窓からしました。
私が窓に視線をやると、
窓の外で足にカゴをぶら下げた、
一羽の鷹が羽ばたいていました。
この鷹こそが、
おねいちゃんのシンジュウ、
アズなのです。
私が窓を開けると、
アズは滑るようにして
部屋に入ってきました。
「アズ、久しぶり。
・・・外で何やってたの?」
『善一が酔っ払って、
水が欲しいっていうから、
向かいの自販機で買ってきた・・・。』
・・・シンジュウをパシリに使うとは、
なかなかレベルが高いですね。
『ゴメンね、
疲れて帰ってきたのに、
こんなことになっちゃってて・・・。
あ、そうだ、
お小遣いあげる・・・。』
「い、いいよいいよ困ってないから!
それよりそっちの
必要経費の足しにしなよ!
全国回ってて大変なんでしょ?」
アズはなぜだか知りませんが、
私には妙に優しいのです。
ここでピノが突っかかります。
『ふん、お前パシリに使われてるのか。
いつまでたっても半人前だな。』
『いつまでたっても
精神年齢5歳のヤツに、
言われたくない・・・。』
『あんだとぉ!?』
『こんな低レベルなガキに宿られて、
ヨウちゃんも可哀想に・・・。』
『おい、表出ろや。』
「ちょっと、何やってんの!?」
そしてなぜだか知りませんが、
ピノには妙に毒舌なのです。
「・・・ん?なにそれ?お煎餅?」
ここでおねいちゃんは、
私が机の上に置いた
袋に気がつきました。
「ちょうどおつまみが
無くなっちゃったのよね。
一枚もらっていいかしら?」
というが早いか、
袋に手を伸ばします。
私は思わず
「ストッーーープ!」
と叫んでしまいました。
おかげでおねいちゃんの手は
ビクッ!と震えた後に、
「ごめんなさい。」という一言と共に
止まったのですが、
予想通りの質問が、
おねいちゃんの口から飛び出しました。
「ところで葉月、
貴方いつからお煎餅好きになったの?」
そうなんです、私は昔から
お煎餅があまり好きでは無いのです。
むしろ苦手な方なのです。
知り合いが、苦手な食べ物を
わざわざお金出して買ってきたら、
そりゃ不審にも思います。
「え、えと、
ピノが食べたいって言ったんだよ!」
苦しい言い訳ですが、
叔父さんや
おねいちゃんのやり方は
(おねいちゃんは特に)
とっても暴力的なので、
出来れば関わらせたくありません。
「ふーん。」
おねいちゃんはそう言って、
また晩酌に戻りました。
私はできた料理を並べて、
黙々と食べ始めます。
今日は早く寝なきゃいけないんです。
うかうかしてたら
先を越されてしまいますから。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「ふぅ・・・。」
晩御飯を食べ終わり、
食器を洗ってから
お風呂に飛び込んだ私は、
浴槽に肩まで身体を沈めながら、
思わず溜息をつきました。
帰ってきたのは4時だというのに、
あの後、食器の後片付けやら勉強やら、
色々と用事を済ませていたら、
あっという間に、
7時になってしまいました。
約束の時間は午前2時なので、
(ちなみに場所は、
まさかのあの廃倉庫でした)
一刻も早く寝なければなりません。
『よう、葉月。
疲れてるみたいだな、
夜の調査は 代わってやろうか?』
「貴方が行くと、
絶対一悶着起こすでしょ。
ダメだよ。
ちゃんと起こしてよ?
・・・て言っても、
今日は本当に疲れたなあ。」
本当に今日は色々ありました。
色んな人に絡まれるし、
おねいちゃんは押しかけてくるし。
・・・それにしても。
「なんだか最近、
シンジュウと異常なまでに
関わってる気がするなあ。」
私が善一叔父さんに引き取られてから、
7年間の間に、
私が出会ったシンジュウ及び宿り主は、
2人だけだったのですが、
ここ1ヶ月だけで、
なんとすでに2人に出会っています。
どうなるんだろ、私の人生・・・。
『そうだね。
やっぱり、
[旅人]がいなくなったのが、
デカかったんだろうなあ。
後継人も見つかってないみたいだし、
不在のうちに、
変なこと起きなきゃいいんだけど。』
「[旅人]?」
『ん?ああ、何でもないよ。
そろそろ出たら?』
「あ、うん。」
私はピノの助言に従って、
お風呂から上がると、
手っ取り早く寝間着を着て、
寝室へと向かいます。
その途中でリビングを除くと、
死んだように眠っている叔父さんに、
おねいちゃんが
布団を投げつけるようにして、
かけていました。
「あら、もう寝るの?」
こっちに気づいたおねいちゃんが、
話しかけてきます。
「あ、うん、
ちょっと朝イチで
調べたいことがあるから。」
「あら、そう。」
私はそのまま寝室に向かおうとした時、
私はふと、深尾くんからもらった
チケットのことを思い出しました。
「ねえ、おねいちゃん、
ここのシンジュウとその宿り主、
どのくらいまで把握してる?」
おねいちゃんは少し考える仕草をして、
「そうねえ、面識があるのは、
貴方と『ヤブ医者』と『人形使い』、
くらいかしらね。
修理屋さんとこの息子さんには、
会ったことないから。」
「あ、じゃあ、
もし柴犬のシンジュウ
連れた男の子に会ったら、
これ渡しといてもらえない?」
そう言って私は、
「羽柴さんの時、
守ってくれた時のお礼です。
ぜひ行ってみてください。
斯波葉月」
というメモと一緒に、昼間にもらった
チケットを差し出しました。
「ああ、兄さんが言ってた柴犬の子ね。
私も一度挨拶しとこうと
思って探してたのよ。
わかった、会ったら渡しておくわ。
近いうちに会いに行くと思うし。」
直接渡した方がいいんでしょうけれど、
私は家を知らないし、
多分これから市内を
縦横無尽に駆け巡るであろう
おねいちゃんの方が、
ひょっとしたら会うことも
あるんじゃないかと思ったのです。
義経君なら苗字も珍しいし、
そもそもシンジュウ連れた人なんて
そうそういないはずです。
「ありがとう!
じゃあもう一枚は
おねいちゃんに・・・。」
「ああ、大丈夫よ。
ここでの用事が終わったら、
すぐに遠出して
1ヶ月は帰ってこないし、
そもそも私コーヒー嫌いだし。
ヨウちゃんが行っておいで。」
「なんかごめんなさい・・・。」
「謝らなくていいの!」
「じゃあ、おやすみなさい。」
「はい、おやすみ。」
時計を見ると9時、当初の予定より
1時間くらい遅れていたので、
私は大慌てで自分の寝室に走り込み、
目覚ましはかけられないので
「ちゃんと起こしてよ!」
とピノに釘を刺して、
そのまま眠りに落ちていったのでした。
(ちなみにチケットなのですが、
後日騎士の件を解決したらしき
おねいちゃんに聞くと、
「大丈夫よ。
ちゃんとぶん殴った時に、
こっそりポケットに
入れておいたから。」
というなんとも物騒な答えが飛び出し、
私はもう2度と
この人に頼み事はしないと、
心に決めたのでした。)
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ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。
「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」
そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。
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