シンジュウ

阿綱黒胡

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第1章

<40話>幽霊屋敷(其の1)

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「幽霊屋敷?」
「はい、そうです。
面白そうだと思いませんか?」

期末テストを控えた
6月終わりのある日の昼休み、
いつも通り小説を読みふけっていた僕に
隼人君が声をかけてきた。

「ほら、通学路近くに、
古臭い廃家があるじゃ無いですか。
あそこ、出るって有名なんですよ。

夏休みに入ったら、
研究会の方が忙しくなるって、
前に先輩言ってたでしょう?
だから、今のうちに
ちょっと調べておきたくって。」
僕は本を閉じて、返事をする。
「いや、構わないけど、
どうして研究会で提案しないのさ。

大人数で調べた方が楽だろうに。」

隼人君は肩をすくめる。
「いや、それも考えたんですけどね、
でも義経先輩、
朝のニュース見たでしょ?

朝にL◯NEの方を覗いてみたんですけど
研究会の方は、
今あっちで大盛り上がりですよ。

まあ、そりゃそうなりますよね。
なんの変哲も無い住宅街で、

なんて発見されちゃったら。

あ、木っ端微塵って言っても
肉片の1つ1つは
結構デカイんですよ?
顔とかもしっかり残ってるし。」

「まあ、朝のニュースは見たから、
知ってはいるけどさぁ。

なんだっけ?新種の熊だっけ?
勘弁して欲しいよなぁ。」

しかも割と近所なんだからたまらない。
これのせいで、家族仲良く
数秒間沈黙したものだ。
せっかく珍しく早起きしたのに、
朝の団欒も何もあったもんじゃない。

「あ~、でも少し前から、
天原市内の周辺で、
嘘か真か、
惨殺死体が相次いで見つかってるって
都市伝説が流行ってますよ。

案外それなんじゃないですかねぇ。」

「いや、幽霊とかの類ならいざ知らず、
そんな殺人犯がもし実在するなら、
少しもメディアに
取り上げられないなんておかしいだろ。

君達のことですら、
ネットニュースにはなったんだから。」

まあ、不審者扱いだったけど。
そう言いそうになって、
僕は慌てて口を押さえた。

隼人君は目をキラキラと輝かせながら、
「いやいやいやいや、でもですよ!?

先輩も僕も超常現象研でしょう!?
そういう都市伝説とかって、
なんか燃えるじゃないですか!
会ってみたいじゃないですか!」

まあ、確かに僕もそう思う。
しかし、だ。
「いや、もう最近は思わないよ。」
「なんでですか!?」
隼人君が吠える。

「だって、現在天原市内で
最もポピュラーな都市伝説の正体が
今目の前にいるもん。」

沈黙。

「ああ、話がそれちゃった。
それで、結局どうするんですか?」
5秒ほど経過した後に放たれた
隼人君のその言葉に、
僕は少し首を捻ったあと、

「フセ、どうする?」

とりあえず
相棒に意見を求めることにした。

『いいんじゃない?
やってやればさ。

どうせやること無いんだろう?
可愛い後輩の頼みじゃ無いか。』
「それもそうか。」

僕は隼人君の方へ向き直る。

「どうせ研究会の
夏休みに入ってからだし、
確かに、
期末テスト以外は特に行事もないしね。

うん、わかった。
テスト期間1週間前に入るまでに、
何度か調査しておこう。」
「本当ですか!?
ありがとうございます!

じゃあ、今日の放課後、
お願いしますね!」
僕は驚いた。

「え、今日!?」
隼人君は怪訝そうな顔で
「ダメですか?」と言ってきた。
「いや、まあ、
ダメでは無いけどさぁ。

凛さんは?
もし君の力が必要になった時、
使えないんじゃ正直困るぜ。」

すると隼人君はことも無さげに答えた。
「ああ、大丈夫ですよ。

件の怪物、鑑定した結果、
どうも他の誰かと戦った結果、
ああなったらしいんですよ、
それもワンパンで。

そんで殺した奴が、
まだ逃走中らしくて、
未だに警戒令出されてるんです。

だから、しばらく部活禁止で、
早く帰れってことらしくて。

凛は基本部活以外は
家で寝てますから、
事情を話せば大丈夫だと思います。
それに、先輩の方が
強かったじゃないですか。」

・・・なんなら幽霊なんかより、
そんな奴がいるかもしれない
街をうろつく方が、百倍怖いんだが。

まあ、
例えそいつにエンカウントしても、
最悪三好さんでも呼べばいいか。

『案外あの人が犯人なんじゃない?』
「まっさかぁ。
流石にないでしょう。」
フセの冗談を、僕は笑い飛ばした。

ここで、隼人君は、
僕の読んでいる小説に目を向けた。
「あ、それ八房連太郎の
『神の日記』じゃないですか!
うちの親、大好きなんですよ!

この人の本、結構痛烈な社会批判が
特徴的なんですよねぇ。

しかも、
顔を知っているのは誰もいない、
いつも出版社に、
傑作を送ってくるだけで、
絶対に表舞台には出ない、
そんな人だったらしいですね。

まぁ、この人はどっちかっていうと、
の方も有名ですけど。

随分ボロボロですけど、
好きなんですか?」
「ん、え、ああ。
まあね。」

僕は浮ついたような返事をした。
隼人君はさらに語りかけてくる。
「にしても、
随分古いの好きなんですね。

この本も随分古いな・・・、
っていうかこれ、
よく見たらサイン入りじゃないですか!

これマニアにでも売ったら
確実に10万いきますよ!」

この瞬間、僕は無意識に、
「あのさぁ・・・。」
と怒りのこもった声を出した。
隼人君はギョッとする。

「す、すみません!
なんか変なこと言いました!?」
ここで僕は我に返り、
大慌てで
「いや、ごめん、なんでもない!」
と取り繕った。

死んだ自分の祖父がくれたもん、
そんな理由で売れるわけねぇだろ。

そう言いかけて、
僕は慌てて口を噤んだのだ。

隼人君はこれ以上はマズイと思ったのか

「それじゃ、放課後、
校門の前集合で!
凛には話をつけておきます。

直接行きますから、
くれぐれも帰らないで下さいよ!」
という言葉を残し、
足早に自分の教室に戻っていった。

隼人君が見えなくなった後、
僕は椅子にもたれて天井を見る。

「幽霊屋敷、ねぇ・・・。」

じいちゃんがいれば、
きっとこんな話、喜んだんだろうな。

あの人、幽霊とか妖怪とか神様とか、
大好きだったから。

「・・・もう少し、
話したかったんだけどな。」

僕は右手で形見の万年筆を玩びつつ、

祖父を思い出しながら、
休み時間終了のチャイムを聞いた。













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