シンジュウ

阿綱黒胡

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第1章

<41話>幽霊屋敷(其の2)

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あれよあれよという間に放課後である。

隼人君が言っていた
『幽霊屋敷』というものは、
天原中学校から
歩いて20分くらいの住宅街の中にある、
なんの変哲も無い普通の家だった。

ただ今時刻は午後5時
(一応直接行ったのだけれど、
僕が図書室に本を借りに言ったので、
ちょっと遅くなった。)
夏なので、辺りはまだまだ明るいが、
家は完全に雨戸が閉めきられていて、
恐らく中は真っ暗だろう。

『「・・・ここ?」』
僕とフセの問いに、
隼人君は答える。
「・・・ここですね。

っていうか、
なんでずっと右手で
ダンベル上げ下げしてんすか?」

隼人君は案の定、
移動中の僕の筋トレにつっこんできた。
「ああ、これ?
夏さんにボロ負けしてから、
ちょっと鍛えるようにしたんだ。

『世離』ももう少し
使いこなせるようになったんだぜ?

まあ、そんなことは置いといて・・・

・・・なんかというか、
手入れされてなさすぎだろ。」

そう、早い話が、
この家、無茶苦茶汚いのだ。

庭には草が生い茂っていて、
家そのものも古びてきている。

長年人が住んでいないのは一目瞭然、
しかし・・・。

「なんで誰も住んでないんだ?
ここ、住宅街のど真ん中だぞ?
すぐに買い手がつきそうだし、
なんなら取り壊せばいいじゃないか。

それに業者が売り物を
手入れしないってのも、
おかしな話だし。」

すると、
いつのまにか
隼人君の腕にとまっていたオウミが、
『おっしゃる通りでございます。
私もそう思うのですが・・・。』
と僕に同調した。

その会話を聞いていた隼人君は、
呆れたように
「先輩、
僕の話、聞いてなかったんですか?

幽霊が出るって言いましたよね、
ほら、見てくださいよ、これ。」
と言いながら、
何処かのサイトのコピーと思しき
わら半紙を突き出した。

僕とフセ、そしてオウミは、
覗き込むように
紙に書かれている内容を見た。

「天原市、呪いの家。
3回目の取り壊し工事中断。

約10人がノイローゼに。」
そんな見出しが、
そのコピーにはデカデカと載っていた。

内容の方を読んでみると、
「刀を持った侍の霊を見た。」
「深夜2時にラップ音が鳴る。」
「夜中にこの家の前を通ると、
『帰れ、帰れ』
という声が聞こえる。」
「ブツブツとお経を唱える声がする。」

などなど、
何処かで見たことがある気がする、
数々の怪奇現象が、
さも怖いように書かれていた。

『「本当に大丈夫か?これ。
嘘臭すぎるでしょ。」』
僕とフセが同時に発言する。


これに対し、隼人君は怒鳴るように
「大丈夫ですって!
ちゃんと何件も
目撃情報があるんですから!
とりあえず、
入って見なきゃ
わからないじゃないですか!」
と半ば投げやりに僕達を説き伏せ、
オウミを腕にとまらせたまま、
中に入っていってしまった。

僕は
「ちょちょちょ!
ちょっと待って!」
などという
先輩にあるまじき情けない声と共に、
その後を追った。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
中も、
なんでことのない普通の家だった。

結構暗くて、
ザ・心霊スポット、
と言った感じだったが、
僕は研究会のおかげで
心霊スポットなんて行き飽きてるし
(流石に幽霊には
未だ出会ったことないから、
恐怖はあるにはあるのだけれど)
隼人君も
そういうのを怖がるタイプでは
無いみたいだった。

って言うか、それより怖いのが、
「これ不法侵入じゃねえの?
しかも土足だし。」

僕はスマホのライトに照らされた
玄関先を調べながら、
ずんずん先へ行く隼人君に声をかける。

「大丈夫ですよ。
ここ有名な心霊スポットなんですから。

みんなやってますよ?」

すかさずオウミがツッこむ。
『坊っちゃま、その
『赤信号みんなで渡れば怖くない』
論理は、私としては
正直いかがなものかと・・・。』

結局不法侵入だった。
しかしフセは、
『大丈夫だよ。
ここまでうっちゃらからされてる
っていうことは、
業者も滅多に来ないってことでしょ?』と軽く隼人君に同調した。

結局は犯罪は犯罪のようだが、
まあ何か壊しさえしなければ、
誰にも迷惑はかけてないし、
いらんこと言って怒らせて、
氷漬けにでもされたらたまらないので、
僕はこれ以上言及するのをやめた。

玄関近くを粗方調べ終えたところで、
「じゃあ、
僕達は2階に上がってみますから、
先輩は一階の奥の方、お願いします。」
の言葉と共に、
隼人君は軽快に階段を
登っていってしまった。

残された僕は、
奥のリビングに入っていく。

ここも特になんの変わりもない。
僕はぐるっと周りをライトで・・・。

「・・・ん?」
ここで僕は台所近くに、
奇妙な黒い塊があるのを見つけた。

恐る恐る近づいていくと、

「・・・狸?」
『・・・狸、だよねえ。』

塊の正体は、
よく店先にあるような狸の置物だった。
正体がこの世のものだったのは
安心したけれど、
しかしなんでこんなもんが居間に?

僕が腕を組んで唸っていると、
不意に、フセが前脚で、
埃をかぶった狸を撫で回し始めた。

「おい、何やってんだよ・・・」

汚いぞ、そう言おうとした次の瞬間、

『・・・フッ、ヒヒッ、グフ・・・。』

僕は後ろに飛び退いた。
今の声、明らかに、

僕は冷や汗を感じながら、フセに問う。
「お、おい、この狸今・・・。」
焦りまくる僕を馬鹿にするように、
フセは冷静に、
『え、わかんなかったの?
まあいいや、こいつはね・・・。』
と何か話そうとした瞬間、

「ウギャアアアアアアアアア!!!
出たああああああああああああ!!」

耳をつんざくような悲鳴が、
2階から聞こえた。

それも僕の、真上から。
「今のって!?」
『ホエザルじゃないの?』
「そんなわけあるかぁ!
どう考えても隼人君だろうが!
ていうか第一、
ホエザルは日本にいねえよ!」

僕はフセを怒鳴りつけつつ、
居間を飛び出し、階段を駆け上がる。

今なお悲鳴が聞こえて来る
部屋に飛び込むと、そこには、

床にへたりこむ隼人君、そして、


「カエレ、カエレ・・・。」
侍が刀を振り上げる。

「ヤバイ!」
僕はトップスピードで
隼人君に近寄ると、その襟首を掴み、
彼の腕にとまっていたオウミごと、
引きずるようにして攻撃を避ける。

侍の刀は、空を切った。

僕は大慌てで侍から距離をとると、
扉の方を見て、絶句した。

なんと扉には、
あの狸の木彫りがあったのだ。

どういうことだ!?
アレは、一階にあったはずだろ!

木彫りが自力で登ってきたとしか、
考えられないが、
今僕をここまで狼狽させているのは、
狸どころじゃない。

「カエレ、カエレ・・・。」
侍はこちらをゆっくりと振り向き、
また刀を突きつける。

よく見ると、体が半透明だった。
これぞ、ザ・幽霊・・・、
とか言ってる場合じゃない!

下手すりゃ僕達も仲間入りだ。

「ココハ・・・、
アルジサマノ・・・、
シロナルゾ・・・。」
侍はまだブツブツ言っている。

本当は、より戦闘能力の高い
隼人君に戦って欲しかったけれど、
生憎当人は、
僕の後ろで腰を抜かしている。

やるしかなさそうだった。

「来い、『世離』!」
僕は『世離』を握りしめ、
侍と向かい合って構える。

しばらくの間、向かい合ったまま沈黙。

・・・妙だ。

(なんで、切りかかって来ないんだ?)

剣での戦いの場合、
互いの死地が重なった時、
両者が打ち込めず打ち込まれない、
そんな境地があるらしいが
(確か『相抜』とか言ったか)、
それは前提条件として、
双方が両程度の実力
(それも多分どっちも達人級で)
なければならない筈だ。

しかし今は、
片や剣術の申し子であろう侍、
片や技術もへったくれもない、
現代の中学生だ。
そんなことになるはずが無い。

「・・・お。」
侍が言葉を発した。
僕は思わず身構える。

次の瞬間、


「お待ちしておりました!!
上様ぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」


侍は、そう言って

そしてさらに沈黙の後、

「「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」」

僕と隼人君の叫び声が、
古びた家に響いたのだった。



































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