シンジュウ

阿綱黒胡

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第1章

<43話>狸侍と『妖刀・世離』(其の2)

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僕は1つ大きな間違いを犯した。

幽霊屋敷には、
あの日は行くべきではなかった。

別に屋敷は逃げないのだから、
夏休みにでも行けば良かったのだ。
それでなくとも、
もう少し後でも良かったのだ。

「赤斗殿!」
甚右衛門が僕に話しかける。
『赤斗の兄貴!』
平五郎が僕に話しかける。
『赤斗。』
フセが僕に話しかける。

「『『テストできた?』』」

僕は答える。

「できたわけねえだろ!!!!」

そうだ、
あの日には絶対に行くべきでなかった。

よりにもよって、

行くべきではなかったのだ!

1人と1柱からの
怒涛のような質問責めを
テスト期間中みっちり受けたおかげで
全く勉強できなかった僕は、
テストの点数を予想してうなだれつつ、
あの日のことを深く後悔しながら、
下校していた。

「まあまあ、
そんなに落胆しなくても。

ほら、国語はいつも
学年トップクラスなんでしょう?

じゃあ大丈夫じゃないですか。」

ちょうど所用を伝えるために
電話していた隼人君が、
必死に励ましてくれるが、
そんなもん焼け石に水だ。
、ね・・・。

他のやつはまるでゴミなんだよ・・・。
数学に至っては
必死で勉強しても
40点以下なんてザラだし・・・。」
「・・・。」

隼人君が言葉に詰まった。
沈黙が続く。

「そ、そうだ、先輩!
前におっしゃっていた、
って、
一体なんなんですか!?」

鉛のように重くなった空気を
打破したのは、
それに耐えかねたらしき
隼人君の一言だった。

そこで僕も思い出した。

「そうだ、先輩に、
隼人君に説明しといてやれって
言われてたんだった。

ていうかそのために
電話かけたんだった。

ごめんごめん。」
少しだけ心が軽くなった。

「ええとね、
天原市が毎年
大規模な野外活動イベントを
やってるのは知ってる?」
「はい、知ってますよ。
去年も参加しましたから。

凛のとこも、
陸上部全員で参加するそうですよ。

ていうかアイツ、
今日もこの辺走ってんすよ。
一応オウミも一緒ですけど、
部活禁止になるレベルで
この辺危ないのになぁ・・・。」
隼人君が電話口でそう呟く。

僕達の住む天原市の近くには、
験山しるしやまという山があり、
そこでは毎年、
天原市、およびその近隣の市町村の
小中高生を対象にした、
キャンプが行われているのだ。

結構大規模なキャンプで、
参加者も3桁を超える。

確か凛さんのとこのように
部活ぐるみで参加するところも
多かったはずだ。

「それでね、超常現象研は
そのボランティアに抜擢されたのさ。

それだけの大人数だから、
当然有志の大学生や社会人だけじゃ
運営の手が回らないらしくて。

結構大変だけど、
まあ、楽しいよ。

普段話す機会のないような人と、
普段話すことのないような話ができるし
雀の涙ほどとはいえ、
一応バイト代も出るしね。」
「仕事って、
どういうことするんですか?」
「レクリエーション進行の手伝いと
小学生たちの引率、朝の布団畳みに
ゴミ拾い、朝食の手伝いに皿洗い。」
「雑用じゃないすか。」
「当たり前だろ、中学生だぞ。」

まあ、強いていうならば、
不審者対策には
一役買えるかもしれない。

「ほう、今の時代でも、
山籠りをするのでござるな。」
「そんな厳しいもんじゃない。」
僕は甚右衛門にツッこむ。

『赤斗の兄貴!
ご飯は、
どんなものが出るでヤンスか?』
「知らねえよ・・・。」
僕は平五郎の問いに、
半ば呆れるように答える。
『基本オイラは
なんでもいけるでヤンスけど、
狸汁だけは無理でヤンス。

そこんとこよろしくでヤンス。』
「心配しなくても、
そんなもんでねぇよ!」

すると、今まで空気だったフセも、
会話に割り込んでくる。
『へえ、なかなか面白そうじゃない。』

(斯波や羽柴さんだって
参加するかもしれないし、
保護者もスタッフで参加可能だから、
斯波が来るなら
三好さんや夏さんも来るかもしれない。)

僕はそんなことを思った。

「確かに、なかなか楽しそうですね。」
「実際楽しいよ。
ええとね、去年は・・・。」
そんな話をしていた時だった。

「あの~、すみません。
天原中学生の生徒さんですか?」
突如として後ろから聞こえてきた声に、
僕は振り向く。

そこには、とても背の低い男がいた。

相当走ってきたのか、
足を曲げて息を弾ませている。
肩からは下げたバックのチャックは
中身が確認できるほど空いている。

「すみません。

ちょっとした用事で、
市役所にまで行きたいんですけど、
道が分からなくて。

生憎携帯の電池も切れてしまって、
ナビも使えなくて・・・。」
男は笑顔でそう言う。

市内の人ではない様子だ。
ここから市役所までは結構あるので、
確かに来たことがなければ、
ナビがあっても
ちょっとしんどいかもしれない。

「ちょっと待ってくださいね。」
そう言って、
僕は携帯電話に向き直る。

勿論、この会話を切り上げるためだ。
「あ、ごめんごめん、連絡終わり。
詳しいことは、
先輩たちから終業式の日に
説明があると思うから。
そんじゃ、よろしく。」
「わかりました、
わざわざありがとうございました。」
そう言って電話は切れた。

「あ、じゃあ案内しますよ。
どうぞついてきて下さい。」
そういって僕が
来た道を引き返し始めると、
「申し訳ありません。」
の一声と共に、
目線を下にむけたまま僕についてきた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
男の前に立って進むこと数分、
半分くらいきたところで、
突然、その人ははた足を止めた。

前を歩いていた僕も、
大慌てで止まる。
「どうしたんですか?
まだ市役所は
見えてませんけど・・・。」

もし場所が分からないのであれば、
ここから行くのも結構厳しいだろう。
「ああ、もう大丈夫ですよ。
ありがとうございます。」
振り返った僕に、
男は笑顔でそう告げる。

「大丈夫って・・・。
それにここは一時的に
住宅街から離れているので
人気もほとんどないですよ。

それに、迷うとしたら、
ぶっちゃけここからなんですけど。」

僕達が声をかけられた場所から
ここまではほぼ一本道、
むしろここからもう少し行ったところで
何本かに道が分かれており、
そこが迷うところなのだ。

しかし男性は、
「ええ、もう大丈夫です。
ありがとうございました。」
を繰り返す。

この人、
本当は道わかってたんじゃないのか?

そう思うが、
まさか口に出すわけにもいかず、
「はあ・・・。
お役に立てたのなら何よりです。」
そう言って僕が、
きた道を引き返さんとしたその時、
「ああ、最後に1つ。」
その男性は言った。

「君が義経良太郎さんの孫の赤斗君?」
なんだ、じいちゃんの知り合いか。
僕は答えた。
「はい、そうですけど。」
男性はうんうんとうなづいた。
「そっかそっか、じゃあ、

。」

「赤斗殿、お逃げくだされ!
こいつ、何かおかしいでござる!」
「・・・え?」
甚右衛門の声に、僕が反応した瞬間、

僕は、ゼリー状の何かに、
身体を絡めとられた。

「あ・・・が・・・ゴボッ!」
息が苦しい、
もがこうにも身動きが全然取れない。
まるでスライムに包まれている様だ。

『赤斗!』
「おット、うゴクなヨ、犬コロ。」
声が響く。

信じがたいが、
あの男がこのスライムみたいな怪物に、
変身し、僕を背後から捕らえたらしい。

「赤斗殿!
今お助けするでござる!」
そう言って甚右衛門が
怪物に飛びかかるが、
そこは幽霊の悲しきところ、
ものの見事に透過した。

どうやら自分で
なんとかするしかないらしい。
(妖刀・・・世離!)

息苦しさを堪えて頭の中で念じると、
僕の愛刀が姿を現す。

こいつで斬りつければ、
非物質化で抜け出せる!
僕は最後の力でそれを握り込み、
前に向けて突き出した!

が・・・僕の渾身の一撃は、
ただスライムの腹から、
刀を突き出しただけだった。

スライムは嘲笑う様に言う。
「ざんネンだッタナア、坊や。
俺はかナリ上位の方でネェ。



ニシても、
こんなノがイまの『旅人』ナノかぁ。

拍子抜けダなぁ。」

よ、世離が・・・、
き・・・かな・・・い・・・。

視界がぼやけ、
もがく力も無くなってくる。

やがて・・・意識が・・・。














「・・・ギャアアアア!!」
突如として聞こえてきた悲鳴に、
僕は意識を取り戻す。

出血するスライム、そして、
出血元である


甲虫が抜け、さらに血が出る。
怪物がのたうちまわりながら、
デロリと僕を解放し、
僕は地面に転がった。

「・・・ランニングしてたら
見つけたんですけど、
どんなマニアックなプレイ
してるんですか、先輩」

アスファルトに伏して
ゴホゴホ咳込む僕の前に立ったのは、
オウミを右手に持った凛さんだった。















 




























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