シンジュウ

阿綱黒胡

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第1章

<68話>即席!シンジュウ探偵団!

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「今日放課後、秘密の会合!
遅れたらブッとばしちゃうゾ(ハート)。」

激動の中間テストを終えた10月半ば、
鳥肌が総立ちするようなメールが、
本田先輩から送られてきた。

「・・・また、
シンジュウ関連じゃ、ないだろうな?」

早朝朝4時、
甚右衛門との鍛錬場所に向かうべく、
靴紐を結びながら、僕はぼやいた。

本来3年生は、
受験シーズン真っ只中のはずだが、
(武蔵先輩は殆ど顔を出さなくなった)
この人は、確か推薦もらってたんだっけ。
この人、高校に行ったら、
どうなるんだろうなぁ。

「いいでござるよ、赤斗殿!
少しずつですが、
着実に成長しております!」
「どうも・・・。」

いつも通り、1時間たっぷり、
甚右衛門に打ち込み、または打ち込まれ、
僕は痛みを耐えつつ地面に寝転がった。

甚右衛門は褒めてくれているが、
正直、成長している実感が、
微塵も感じられない。

「1ヶ月くらい経つけど、
君に1発も打ち込めないんだけど・・・。」
「たかが1ヶ月で卑屈になるのは、
早すぎるでござる!

数発防げているだけでも、
大きな進歩でござる!」

甚右衛門の太刀筋はまさに化け物で、冗談抜きで、瞬きの間に斬撃が飛んでくる。

それを数発防げているのは、確かに進歩かもしれないが、百数十発分の数発だ。真剣持ってたらどっち道細切れなので、自信にはならない。

すると、それをじっと見ていたフセ達が、ポツリと呟いた。

『これ、駄目だね。』
『そうでヤンスね。』

慈悲の欠片も見当たらないその言葉が、僕の心をえぐり取る。

「・・・そりゃ、ないでしょ。」
『いや、違う、
君だけに言ったんじゃない。』

フセはくるりと向き直った。

『甚右衛門、ここから、花鳥流を習得させるのは、正直無理があるよ。
一個に絞った方がいい。』

「しかし、フセ殿、一つと申されましても、
正直申しまして、殆どの剣術の会得は、
まだまだ年数が・・・。」

甚右衛門は言いにくそうに呟くが、
どうやら僕は絶望的にセンスがないらしい。

するとフセは、ニヤリと笑い
(というような気がした。)

『何発か防げるようになったんだろ?

確かに、あいつにはセンスがない。
けど、たった一つだけ、
おあつらえむきのがあるじゃないか。』
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「・・・一体明日から、何が始まるんだ。」

やつれ顔で身体を引きずりながら、
僕は通学路を歩く。
『明日からのお楽しみさ。
頭ん中覗いたら、君の漫画本ズタズタにするからな?』
「ひっでぇ・・・。」

「おはようゴザイマス!赤斗クン!」
突如、僕の背後から明るい声が響いた。

「・・・おはようゴザイマス。」
僕は棒読みで返事をする。

最近、上杉はやたらと
僕に絡んでくるようになった。
特に登下校なんかは、
周りの目なんか気にしないで、
溌剌と僕に声をかけてくる。

僕とまともに話してくれて、
おまけに秘密まで知っている
数少ない友達を、
無下にするわけにもいかないし、
別に僕も彼女のことは、
特別嫌いというわけではないのだけれど、

「なんでアイツが・・・。」
「◯ねよマジで・・・。」

周りからの突き刺すような視線と殺意に満ちた囁きに、僕は思わず顔を伏せた。

上杉は、結構整った顔の女の子で、彼女に心を奪われた男は数知れない。
斯波の時と同じく、僕にはあまりに不釣り合いな美少女だ。

それにもう一つ、どうしても払拭できない理由がある。

・・・今、ノロケんなと思った、そこの貴方。

もし、『少し前に殺し合った』美少女が、突然自分と親しくしようとしてきたら、
「こんな可愛い女の子と一緒にいられるなんて、嬉しい!」ってなります?

・・・少なくとも僕の場合は、過去に僕を半殺しにし、射程圏内なら指一つ動かさずに人間の喉を掻っ切れる少女に対しては、そんな感情は、まだ抱けない。

「最近どう?」
「本当に楽しいデス!あの京極って人、料理が美味しいんデスヨ!」

目をキラキラさせながら彼女は語る。
長年、から離れていた彼女にとって、僕らの言う何気ない日常は、きっとものすごく幸せなことなんだろう。

彼女は今、幸せそうにしている。
そこに関してだけは、僕は、彼女を助けて良かったと、心底思えるのだ。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「よし、じゃあ集会の前に、新しいメンバーを紹介する!」
「上杉エリナ、デス!
よろしくお願いシマス!」

時間は放課後、場所は図書室。
高らかに宣言する本田先輩の横で頭を下げる上杉を見て、僕はひっくり返りそうになった。

僕は机の上の百足を掴む。
「おい、百足。なんで止めなかった?」
『・・・私は、エリナに従うのみ。』
「冗談じゃない!」

あの戦いの後に気づいたことだが、彼女は僕に組み伏せられた時も、息ひとつ乱れていなかった。

確かに、あの女の人の言う通り、対シンジュウ戦において、彼女の『加護』は殺傷能力に著しく欠けるかもしれない。
けどそれは、あくまでの話だ。

ひょっとすると上杉は、僕より何倍も長い時間、『加護』を行使できるのではないか?
僕が勝てたのは、甚右衛門のおかげで短期決戦に持ち込めたからで、上杉の真の戦い方は
ではないか?
彼女は本来、そういう戦法をとっていたのではないか?

それに気づいて、ベットでガタガタ震えていたもんだけれど。

というか、あの女の人誰だったんだ?
あの時感じたは一体・・・?

「おい赤斗、聞いてんのか?」

先輩に声をかけられ、僕は思考からはじき出された。

「すみません、ぼーっとしてました。」
「おいおい。よし、じゃあ改めて、手元の資料を見てくれ。」

僕は先輩が作ってきたらしき資料を手に取る。

『学生校内連続失踪事件』

表紙には、でかでかとそう書かれていた。

「「警察に任せましょう。」」
僕と隼人くんは同時に言い放つ。
「わあ、面白そう!」「デスネ!」
嬉しそうに上杉と新井が叫ぶ。

「ここでは研究するのは、都市伝説とか、そういった類のはずでしょ!
こんなの明らかに警察の領分じゃないですか!」

吠える隼人くん宥めつつ、先輩は口を開く。

「確かに、文字だけみりゃそう思うよな。
中身も見てみな。」

めくった先には、失踪者の名前と、失踪した日付、場所なんかがつらつらと書いてある。

しかし、

「・・・いくらなんでもおかしい。」

僕達は、先輩に言われるまで、この事件の事を知らなかった。
つまり、ニュースにも取り上げられないレベルと思っていたけれど、


資料を見る限り、20人以上が失踪している。
どう考えても規模が大きい。
ここまでになれば、被害届の1つや2つ、出て然るべきだ。失踪者の親は何をしてるんだ?

もしくは、何かの圧力が存在するのか。

「な、おかしいだろ。
そんで、被害者にも一切共通点がない。犯人は、身代金を要求してくるわけでもない。

完全に目的不明の事件だ。」

さらっている理由はなんだ?身代金目的じゃないなら、人身売買?それだとしても、犯行を天原市に限定する必要がない。

「・・・やりましょう!
なんだか、やる気が起きました!」

僕はにっこりと笑って言った。
「いや、子供だけでなんとかできるわけないじゃないですか!」

叫ぶ隼人くんを引きずるように、彼を部屋の隅に連れて行き、囁く。

「いいか、よく聞け隼人君。
まず、上杉は・・・。」
「『磁力を操作する』シンジュウ能力者でしょ。知ってますよ、机に百足がいましたし、オウミを腕に引っ付けてたら、休み時間にわざわざ声かけてきましたから。」

・・・もっととんでもないんだけど、言ったら卒倒するかもしれない。

「と、とにかく、彼女はかなり『加護』の扱いに長けてるんだ。

君も思ったかもしれないけど、今回の相手はシンジュウ能力者の可能性が高い。
下手に警察が手を出すと、被害が拡大する恐れがあると思うんだ。
3人のシンジュウ能力者がいるここは、犯人に対抗しうる力は十分あるんじゃないか?」

隼人君は考え込むように口をつぐんだ。

「おし、決まりだな!
被害は、北側を中心に拡大している。

一番最近被害者が出たのは・・・ここだな。」

僕達はそこを覗き込み、思わず声をあげそうになった。

先輩が指差した先には、「私立社中学校」の文字があったのだから。






























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