シンジュウ

阿綱黒胡

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第1章

<69話>事件の秋

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「ああああああもう!わからん!」

叔父さんの怒鳴り声で、私達は目を覚ましました。

時計を見ると、今は午前3時。
布団で寝れば、絶対に7時間は眠る私ですが、どうやら勉強中に眠ってしまったらしく真下には涎のついたノートがありました。

『よう、おはよう。起きると思ったぜ。』
横でゲームをしているピノを尻目に、私は
なんとかパジャマに着替え、ベットに潜り込みますが、当然全く眠れません。

「・・・ホットミルクでも飲もう。」

ゲーム中のピノを抱きかかえて部屋を出ると
今にはまだ明かりがついていて、

「悪い、起こしちまったか。」
「・・・まだ起きてたんですか?」

写真と睨めっこしている叔父さんに、私は声をかけました。

「ある程度寝たので気にしないでください。
それより、そんなに難解な事件なんですか?今回の。」
私はミルクの入ったカップを机に置き、代わりに机の上の写真を手にとりました。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「息子を探していただきたいんです。」

そう言って叔父さんよりも少し年上くらいの夫婦が事務所を訪ねてきたのは、ほんの1週間前のこと。

「2週間前に、行方不明になったっきりなんです。
警察も証拠がないだとか、まるで頼りにならなくて・・・。」
泣き崩れる女性を、男性が宥めます。

白兎探偵事務所は、探偵と名乗ってはいるものの、誰かを捜索する、なんてのは殆どありません。
よっぽど切羽詰まっているのでしょう。
「わかりました、お受けしましょう!
安心して下さい、息子さんは必ず戻って来ますよ!」

叔父さんは決意した顔でそういいました。

「ありがとうございま・・・。」
「「すみません、依頼をしたいのですが!」」

突如このムードを破った2組の夫婦によって、被捜索者は3人に増えたのです。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
そして、今に至ります。

「でも、何で警察はまともに動かないんでしょうか?
ニュースになってないのもおかしいし。」
「管轄が違うからさ。
まさか、対策課の存在を世に公表するわけにもいかないだろ。
情報統制もそのためだな。」

うーん、と叔父さんは伸びをしました。

「・・・てことは、シンジュウですか?」
「多分そうだろう。
まず、公表しないのもおかしいし、それに、この資料、情報が少なすぎる。」

ピノがゲームをしながら、
『オッさん、自分の実力が足りないからって何でもかんでもシンジュウのせいにするのは、ちょっとちげーんじゃねえの?』
「人と話すときは、ゲームから目を離しなさい!」

私がピノからゲームを取り上げると同時に、叔父さんは口を開きました。
「しかしもしそうだとしても、こんなことをこの町でする理由がわからん。

何でわざわざ天敵のいるところで、こんな派手な動きをするんだ・・・?」

資料から見るに、誘拐された人達の親御さんには、犯人から一切の接触はないようです。
身代金目的でないのならば、一体・・・?

私は、資料を眺め、失踪者の写真と目を合わせました。
尊高校1年、桐野玲奈。
天岩戸中学2年の瀬野俊樹、3年の葛山涼。

その疑問は、朝の登校中まで続きました。
「・・・月。葉月!」
みーちゃんに叫ばれて、私は我に帰りました。

「どうしたの?なんか悩み事?」
「・・・え、あ、うん、あはははは。」

こんな時、アカくんならどうするのかな。
私がそんなことを思いながらバスを降りると

「ねえ、何あれ・・・。」
「こっわ・・・。」

サングラスにマスクをし、柴犬を連れた人物が、校門をじっと見つめるように立っていました。

「・・・なにやってんの?義経君。」
「・・・なんで!?」

常人に見えない柴犬連れてる男の子なんて、君しかいないからだよ。
それを伝えると、義経君は、「盲点だった・・・。」と頭を掻きました。

今日は土曜日で、公立の学校はお休みです。
「・・・アレのこと聞きに来たの?失踪事件。」
義経君が大きく口を開けたあたり、どうやら図星のようです。
『葉月ちゃん、実は私達も、情報を持ってるんだ。君も、何か知ってるんじゃないのか?

情報を交換しよう、自衛の術は必要だ。』
どうしたものかと私が困っていると、
「おい斯波!
何をしている、早く校舎にはいらんか!」
もたもたしすぎたようです。私は肩をビクッと震わせつつ、
「養老公園、15時ね!」
とだけ告げて、その場を後にしました。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「・・・成る程、つまり、学生の間で調べてるんだ。」

時刻は15時過ぎ。
養老公園の木製の机に向かい合って座って、私達は情報交換をしていました。

「それでその先輩の予想によると、次に狙われるのは、斯波の学校の生徒らしいんだ。」
「あの人が凄い人だってのは、夏休みの一件で私もよくわかってる。」

私は、義経君が渡してくれた資料をめくり、
「でも、義経君達には手を引いてほしい。」

毅然としてそう言い放ちました。

「・・・なんで?」
「1つ、この一件は叔父さんに持ち込まれた依頼であって、私にこれをどうこうする権利はないから。
もう1つは、子供だから。
義経君も、その会のメンバーの人達も。」

私は、目を鋭くして、
「義経君、ひょっとしてさ、自分は何度も、シンジュウ能力者と戦ってるから、今回も何とかなるとか思ってるんじゃない?」

義経君は、言葉をつまらせつつ、
「・・・実際に僕は、何人も・・・。」
「そんな考えじゃ、いつか後悔するよ。
何人も?相手は殆ど子供でしょ?大人は、義経君が思ってるよりずっと聡明だよ。」

私は目線を落として、
「自分からシンジュウに飛び込んで行くのは、やめたほうがいいよ。」

義経君は、変な風になった空気を噛みしめるように
「・・・力があるなら、それを誰かのために使うのは、義務だと思う。」
「・・・そんなに強くないよ。
私も、義経君も。」

義経君は、黙って席を立ち、そのまま行ってしまいました。
後に残った私は、大きな溜息をつきました。

「・・・なんであんな言い方しかできないんだろう・・・。
私だって子供なのに・・・。」
『あれくらいビシッと言ってやった方がいいんだよ!』

私は、重い気持ちのまま席を立ちました。




















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