我が家と異世界がつながり、獣耳幼女たちのお世話をすることになった件【書籍化決定!】

木ノ花

文字の大きさ
76 / 90
第二章

第76話 女神ミレイシュの奇跡をお裾分けしよう

しおりを挟む
 タリクくんの話を聞いた、その日の夕方。
 我が家へ帰ってきてからというもの俺は、しょんぼりとした獣耳幼女たちに元気を出してもらおうと構い倒した。あまりにしつこいから、三人ともコタツから脱走するほどだ。

 その後を追いかけ、捕まえたら抱き上げて頬ずりして回る。そうこうしているうちに、居間に明るい笑い声が戻ってくる。

 サリアさんは、フィーナさんと一緒にテレビに夢中だ。
 暴れん坊の将軍を観賞しながら、その素晴らしさを力説していた。

 長々と話を聞かされるエルフのお姫様は、お気に入りの緑茶をすすりながらのんびり相槌を返す。なんともバランスの良い二人だ。

 しばらくしたら、俺は晩ごはんの準備に取り掛かる。
 今日のメニューは、うちの母直伝の『鶏の唐揚げ』に決めてある。これで、獣耳幼女たちのご機嫌も最高潮へ達するに違いない。

 異世界から戻ってきてすぐ、塩コショウをまぶした鶏肉を漬け込んでおいたので準備もバッチリだ。

 つけ汁は、しょう油、酒、生姜、にんにく、それにマヨネーズを少々加えた。 
 衣は、片栗粉と小麦粉のダブル。それをしっかりまぶしたら、たっぷりの油で揚げていく。数分経ったらバットの上で休ませ、また油の中に戻す。我が家は二度揚げなのだ。

 エマたちのお手伝いはナシ。油をたくさん使って危ないからね。それでも香ばしい匂いに釣られたのか、台所の入口から三つの頭がこちらを覗き込んでいる。ぴくぴく動く獣耳がなんとも可愛らしい。

 今日からフィーナさんも一緒なので、六人分を手際よく揚げていく。みんなたくさん食べるから、よそのご家庭よりもだいぶ大盛りだ。
 出来上がったら、コタツに座って『いただきます!』とみんなで手を合わせる。

 さて、味のご感想は……サリアさんの「美味いッ!」の怒号めいた称賛を皮切りに、フィーナさんからも「素晴らしい……!」と感嘆の声が上がる。

 獣耳幼女たちは、それぞれのキッズフォークに刺した唐揚げを掲げつつ飛び跳ねていた。大絶賛で嬉しいけど、食事中は暴れないようにね。

 俺が「熱いからやけどしないようにね」と注意を促せば、『じゃあ食べさせて』とすぐにみんなが集まってくる。

 結局、いつも通り身を寄せ合って賑やかに晩ごはんを平らげる。
 もちろんサリアさんもそばにいる。せっかく大きいコタツを買ったのに、使う場所は相変わらず偏りっぱなし。

 フィーナさんは、ニコニコと微笑みながらすごい勢いで唐揚げを食べ続けている。白米も抵抗なさそうだ。
 
 ごちそうさまと空いた皿の片付けをしたら、コタツでお茶を飲みながらまったりタイム。獣耳幼女たちはりんごジュースだ。
 そこで俺は、頭の片隅で輪郭を帯び始めていた考えを思い切って口にした。

「ねえ、みんな。近々、サナちゃんを我が家へ招待してもいいかな?」

「サナちゃん! わたし、またあいたい!」

 真っ先に反応したのは、俺の膝の上をゲットしたエマ。くるりとこちらへ向き直り、飛び跳ねるみたいに体を揺らす。

 それに続き、左右に座るリリとルルも『いつおうちにくるの!?』と騒ぎ出す。
 いつにしようか。もうすぐ年末だから、なるべく早い方がいいかもね。

「それでね、サナちゃんはちょっと病気にかかっているみたいなんだ。お咳が止まらなくなったりして、とっても大変みたい」

「おせき……? つらい?」

 エマは一転して、心配そうにヘーゼルの瞳を揺らす。
 この子は、本当に心が優しい。そのうえ、お姉ちゃんとして二人の妹を守り通すだけの強さを持ち合わせている。間違いなく天使だ。
 
 もちろん、リリとルルも心配してくれている。この子たちも心が優しく、天使である。つまり、天使の三姉妹なのである。

 それはさておき、俺はその症状をわかりやすく説明した。
 お母さんの話では、サナちゃんは小さな頃から喘息を抱えており、なかなか改善しないらしい。

 本人は小学一年生だが、発作のせいでクラスの輪に馴染めず、現在は自宅学習が続いている。
 
「年端もいかぬ子どもが……それは、おつらいでしょうね」

「私は病にかかったことがないからわからんが、体も小さかったな。今度は一緒に肉をたくさん食べるべきか」

 フィーナさんは真剣に話を聞いてくれていた。サリアさんも友だちとして、手を差し伸べたいと考えているようだ。が、ふと口に肉を詰め込まれるサナちゃんの幻想が脳裏に……ありがたいけど、お肉はほどほどにね。うちの子たちほどは食べられないだろうから。

「とにかく、俺としては喘息を治してあげたいと思うんだ。みんなはどう? サナちゃんに、元気になってもらいたくない?」

『なってもらいたいっ!』

 俺の膝の上に座ったまま、エマはまたも小さく飛び跳ねる。
 リリとルルも、勢いよくこちらへ乗りかかってきて――三人は声を合わせ、間髪入れず元気いっぱいにお返事してくれた。
 サリアさんとフィーナさんも、笑顔で頷いてくれている。

「じゃあ決定だね。みんなで一緒に、サナちゃんを元気にしちゃおう!」

『するっ!』

 またも揃って答えてくれる獣耳幼女たち。その頭を順番に撫で回しながら、俺は具体的な方策について検討する。

 異世界の生命薬を使うのは確定である。だが、発光現象などでサナちゃんに違和感を抱かせたくない。加えて、一回で治してしまったらご家族が不審がるかもしれない。

 そのあたり、どうにか上手く調整できないかサリアさんとフィーナさんを中心に話し合う。
 
「サクタローさんは、すごいなぁ」

「俺じゃなくて、迷宮で見つかるお薬がすごいんだよ。それに、エマたちがいてくれたから手に入れることができるんだ」

 始まりはこの子たちだ。困窮に苛まされながらも必死にもがき、その無垢な祈りに女神ミレイシュが応えてくれた。そして、今の賑やかで和やかな生活がある。
 三人を抱きしめて左右にグイグイ揺らせば、きゃっきゃと楽しげな声が上がる。

「それと、これはまだ未定なんだけど……聖堂で炊き出しもやろうと思うんだ。ちょっとでも孤児たちの助けになればいいなって」

 ゴルドさんたちにも相談したいから、これはまだ少し先の話になる。
 それでも、まずは実際に孤児たちと向き合ってみたい。もちろん炊き出し自体も目的だ。手の届くところにいる子どもだけでも助けられたらいい。

「だから、みんなも一緒にメニューを考えてくれない?」

「やるっ! わたし、がんばるっ! うぅ、ううぅ~……」

 エマが張り切って立候補してくれる。しかしその直後、ぽろぽろと涙をこぼし始めた。慌ててその頬を手で拭い、俺は「急にどうしたの?」と尋ねる。

「たって、サクタローさんはやっぱり神さまよりすごくて、フェアリープリンセスみたい……!」

 泣き笑いしながら言うエマ。きっと興奮がピークを超え、感極まってしまったのだろう。
 すぐにリリが「またないてる!」と、俺のマネをして頬を手で拭ってあげていた。ルルも、よくわかっていなさそうな顔をしながらも体を優しくさすってくれている。

 でも、アラサーの俺がフェアリープリンセスかあ……思わず苦笑いを浮かべながら、また三人をぎゅっと抱きしめる。
 
 楽しそうだと思ったのか、サリアさんが「私もいるぞ!」と覆いかぶさってきた。ニコニコと微笑むフィーナさんの表情が、なんとも優しげだ。

 うちの獣耳幼女たちが最優先なのは揺るがないし、これ以上誰かを我が家へ招くこともないだろう。とはいえ、『このまま自分たちだけ幸せに暮らしました』ってのはどうにも寝覚めが悪い。
 
 だから、女神ミレイシュの奇跡をほんの少しだけお裾分けしよう。できそうなことだけ、無理せずちょっぴり頑張ってみましょうか。
しおりを挟む
感想 78

あなたにおすすめの小説

一夜の過ちで懐妊したら、幼なじみの冷酷皇帝に溺愛されました

由香
恋愛
没落貴族の娘・柳月鈴は、宮廷で医官見習いとして働いていた。 ある夜、皇帝即位の宴で酒に酔い、幼なじみだった皇帝・李景珩と再会する。 遠い存在になったはずの彼。 けれど、その夜をきっかけに月鈴の運命は大きく動き出す。 冷酷と恐れられる皇帝が、なぜか彼女だけには甘すぎて――。

異世界に転生してチートを貰ったけど、家族にハメられて敵国の捕虜になったら敵国の王子に求婚されました。

naturalsoft
恋愛
私は念願の異世界転生でチートをもらって旅立った。チートの内容は、家事、芸術、武芸などほぼ全ての能力がそつなくプロレベルに、こなせる万能能力だった。 しかし、何でも1人でやってしまうため、家族に疎まれて殺されそうになりました。そして敵国の捕虜になったところで、向こうの様子がおかしくて・・・? これは1人で何でもこなしていた弊害で国が滅ぶ寸前までいったお話です。

婚約破棄された令嬢、気づけば王族総出で奪い合われています

ゆっこ
恋愛
 「――よって、リリアーナ・セレスト嬢との婚約は破棄する!」  王城の大広間に王太子アレクシスの声が響いた瞬間、私は静かにスカートをつまみ上げて一礼した。  「かしこまりました、殿下。どうか末永くお幸せに」  本心ではない。けれど、こう言うしかなかった。  王太子は私を見下ろし、勝ち誇ったように笑った。  「お前のような地味で役に立たない女より、フローラの方が相応しい。彼女は聖女として覚醒したのだ!」

もうすぐ帰って来る勇者様と私の結婚式が3日後ですが、プロポーズされていないといくら言っても誰も信じてくれません

まつめ
恋愛
3日後に村をあげての盛大な結婚式がある。それはもうすぐやって来る勇者様と自分の結婚式。けれど勇者様は王都の聖女様と結婚すると決まっている。私は聖女様の代わりに癒し手として勇者様を治療してきた、だから見事魔王を打ち破って帰って来た時、村人達は私が本物の聖女だと勘違い。私がいくら否定しても誰も聞いてはくれない。王様との謁見を終えてもうすぐ勇者様が村に帰って来る。私は一度も好きだと言われてないし、ましてや結婚しようとプロポーズも受けていない。村人達はお祭り騒ぎで結婚式の準備は加速していく。どうしようと困っているのに、心の奥底で「もしかしたら……」と大好きな勇者様が自分を選んでくれる未来を淡く期待して流されてしまう私なのだった。どうしよう……でもひょっとして私と結婚してくれる?

「わざわざ始まるまでまたないで、今のうちに手を打ったってよくない?」

イチイ アキラ
恋愛
アスター公爵令嬢エステルは、夢をみる。それは先を映す夢。 ある日、夢をみた。 この国の未来を。 それをアルフレッド王太子に相談する。彼女を愛して止まない婚約者に。 彼は言う。 愛する君とぼくの国のためなら、未来を変えるのも仕方なくない?

夫が「未亡人を我が家で保護する」と言ってきました【完結】

星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
伯爵夫人カタリナの前に、夫が“行くあてのない未亡人”を連れて帰ってきた。 夫は「保護だ」と言い張り、未亡人を家に住まわせようとするが──その素性には不審な点が多すぎた。 問いただしても夫は曖昧な説明ばかり。 挙げ句の果てには「ずっと家にいればいい」「家族になればいいだろう」と、未亡人を第2夫人にする気満々。 家を守るため、カタリナは未亡人の身元を調査する。 そして判明するのは……? ⚠️ 本作は AI の生成した文章を一部に使っています。

最安もふもふ三匹に名前をつける変な冒険者ですが、この子たちの力を引き出せるのは私だけです ~精霊偏愛録~

Lihito
ファンタジー
精霊に名前をつける冒険者は、たぶん私だけだ。 うさぎのノル、狐のルゥ、モモンガのピノ。三匹とも最安の契約で、手のひらに乗るサイズ。周りからは「手乗り精霊で何ができる」と笑われている。 でも、この子たちへの聞き方を変えるだけで、返ってくる答えはまるで違う。三匹の情報を重ねれば、上位の精霊一体では見えないものが見える。 上位パーティが三度失敗した大型討伐。私は戦わない。ノルに地中を、ピノに上空を、ルゥに地上を調べさせて、答えを組み上げる。 ——この世界の精霊の使い方、みんな間違ってませんか?

【完結】子爵令嬢の秘密

りまり
恋愛
私は記憶があるまま転生しました。 転生先は子爵令嬢です。 魔力もそこそこありますので記憶をもとに頑張りたいです。

処理中です...