我が家と異世界がつながり、獣耳幼女たちのお世話をすることになった件【書籍化決定!】

木ノ花

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第二章

第77話 ぽかぽかな夜とサナちゃんをお招きする準備

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 なんにせよ、具体的に動き出すのは明日以降。
 エマが泣き止んだ後も、俺は色々と考えながら過ごした。

 晩ごはんの唐揚げの余韻や盛り上がりもすっかり落ち着き、コタツの温もりに包まれた我が家の居間には、とても穏やかなひとときが流れていた。

 しばらくして、ふと時計を確認すれば……もういい時間だ。窓の外も真っ暗。冬の冷たい空気が、ガラスを白く曇らせている。

 俺の膝のうえでご機嫌だったエマは、こくりこくりと舟を漕ぎ始めている。いつもピコピコと動いている獣耳も、今はへにょんと元気がない。

 左右に座るリリとルルも同様で、ぐでっとこちらへもたれかかったまま夢の世界へ旅立とうとしている。今日はお昼寝してないもんね。

 ふわぁ、と大きなあくびをするサリアさん。
 フィーナさんも眠たそう。つけっぱなしのテレビへ目を向けてはいるものの、内容は素通りに違いない。

 今日は色々とあったし、みんな疲れているみたいだから早めに寝るとしよう。ただし、ちゃんと寝支度を整えてからね。

 体温ぽかぽかの獣耳幼女たちを連れ、俺はお風呂へ向かう。ルルは全身脱力して抵抗していたが、抱っこして連行だ。

 浴室へ入ったらささっと髪と体を洗い、しっかりお湯に浸かる。ここでもまた三人とも寝落ちしそうになっていたが、頑張って起きていてもらった。

 パジャマに尻尾を通すまで、だいたい一時間ほど。
 俺が和室に布団を敷くと、獣耳幼女たちが真っ白なシーツの上にころころと転がる。サリアさんとフィーナさんはまだ入浴中だけど、このまま先に寝かしつけてしまおう。

 ふかふかなお布団に入れば、たちまち寝息が聞こえてくる……のがいつものパターンだけど、今日はちょっと様子が違った。

「さむいから、みんなでねよう! マモノがきたらたいへん!」

 エマの突然の提案に、リリとルルは両手を上げて大賛成。さらに三人は、俺の腕をぐいぐいと引っ張り、自分たちの布団へ引きずり込もうとする。

 この子たちは普段、仲睦まじく一枚の布団に収まっている。固まって眠るのが孤児院時代からの習慣らしい。しかし冷えが厳しい今夜は、全員で身を寄せ合うのだとか。サリアさんたちも誘う気満々だ。

 俺としても、仲間に入れてもらえてとっても嬉しい。
 でもね、くっつき過ぎてちょっと窮屈じゃない?

「本当にこのまま寝るの? 狭くない?」

「もっとくっついて! さむいよるは、こわいマモノにつれてかれちゃうのよ!」

「ん、こわいのやっ!」

 リリとルルも、しきりにマモノ……魔物が怖いという。
 気になって尋ねてみれば、どうやら孤児院にいた頃の話らしい。

 寒い冬の夜に命を落とした子がおり、『凍える夜には恐ろしい魔物がやってきて魂を連れていってしまう』と教えられたようだ。

 異世界の迷信なのだろう。だが、孤児院では実際に子どもが亡くなっている。相当劣悪な環境だったに違いない……それでも、うちの獣耳幼女たちが無事で良かったと思わずにはいられない。極めて不謹慎なのはわかっている。

 掛け布団の端から獣耳がちょこちょこと覗く。順番に指先でこしょこしょすれば、キャッキャと無邪気にはしゃぎだす。

 心から思う。こんなにも純真無垢な天使たちが、これ以上人生の理不尽に晒されなくて本当に良かった。もっと酷い目に遭っていたら……なんて想像するだけで、瞳がぐっと熱を持つ。

 俺は思わず布団に潜り込み、ガバッと三人まとめて抱きしめた。同時に、くぐもった『きゃー!』という楽しげな叫びが胸元で響く。

 本当に出会えてよかった。それもこれも、女神ミレイシュのお導きあってのこと。また明日にでもお供え物を用意しようかな。

 とにかく、今夜は固まって寝るとしよう。
 お風呂上がりのサリアさんとフィーナさんも、エマたちに請われて笑顔で応じていた。反対側でくっついて眠るようだ。

 それにしてもフィーナさん……スウェットがぜんぜん似合ってないな。
 本人は布団の心地よさに大感動して気にしていないが、流石にエルフのお姫様にはミスマッチすぎる。いつまで我が家に滞在するかは未定だが、近いうちしっくりくる部屋着を取り寄せますね。

 ふかふかぽかぽかのお布団でぐっすり眠り、一夜が明ける。
 俺はいつものように、エマとリリが体の上に飛び乗ってきた衝撃で目を覚ます。

 ちらっと時計を見れば、まだ明け方すぎ……懐に潜り込んできたルルを抱きしめながら、まどろむような温もりにしがみつく。

 だが、そう長く浸らせてはもらえない。
 エマとリリに、今日は強力な援軍がいた。

「ふふ、そうやって起こすのですね。では、失礼して。サクタローさん、朝ですよ。エマとリリがお腹をすかせています。私も温かいお茶をいただきたいですね」

 ずしり、と今度は掛け布団越しに大人の重みが加わる。
 俺の体に腰掛け、柔らかな笑い声を上げるのはフィーナさんだ。どうやら彼女も早起きが苦ではないタイプらしい。

 仕方ない、観念してそろそろ起きますか。
 ルルはいやいやと身を捩っていたが、その体ごと持ち上げて布団から抜け出す。さっきまであれだけ抵抗していたのに、抱っこされてニッコリご機嫌だ。いつも体温ぽかぽかだね、キミは。

 部屋の暖房をつけ、厚着をさせた獣耳幼女たちとフィーナさんを連れて台所へ。サリアさんはまだゴロゴロしているから放置だ。

 朝ごはんのメニューは……チーズトーストにサラダ、それとフルーツにしようかな。飲み物はそれぞれご要望どおりに。

 色々と初見のフィーナさんの疑問に答えながら手際よく調理を進め、湯気をたてる皿を居間のコタツへ運ぶ。

 ここでサリアさんもちゃっかり起き出してきて、みんなで『いただきます』をする。すぐにこちらへ甘えにやってきた獣耳幼女たちに食べさせたり、飲み物を注いだりと今日も大忙し。

 さほど時間もかからず、コタツの上はきれいに片付く。
 これで朝の団らんも一区切り。そこで俺は、昨夜眠る前にふと思いついた提案を口にした。

「この後、みんなにはトランプやウノのルールを覚えてもらいます!」

 訂正。提案ではなく決定である。
 近々、サナちゃんを我が家へお招きする予定だ。その際に、みんなで遊べるようルールなどを習得してもらいたい。

 ただ喘息を治すだけじゃなく、せっかくなら楽しい時間を過ごしてほしいからね。
 どれもルール自体はそう複雑ではないから、実際にやりながら教えたらすぐ覚えられるだろう。

 まずはトランプ。獣耳幼女たちとサリアさんは、大のお気に入りの『フェアリープリンセス・絵合わせカード』で馴染みがあるだろうし、ほぼルールが同じ神経衰弱からやってみよう。

 みんなに実物を見せながら一通り説明し、シャッフルしたカードをコタツの上に並べる。そして、しばらくゲームを進めると……。

「どうしてだッ! なぜ私のめくるカードは揃わない!? サクタロー殿、これ勝手に位置が変わってるんじゃないか?」

 うがーっ、と吠えながら頭をかきむしるサリアさん。グレーアッシュのもふもふ尻尾が苛立たしげに背後で揺れている。

 さっきからぜんぜんちがうカードをめくっているから、そりゃあ揃わないでしょうよ。そもそもアナタ、最初は『私が負けるはずない!』とか言って意気込んでいましたよね。

 聞けば、異世界にもトランプと似た遊具があるらしい。ギャンブルなどはこれが主流で、散々やり尽くしたと豪語していた……大負けして奴隷堕ちした過去を忘れてしまったのだろうか。

 ニコニコと微笑むフィーナさんも同様。国元で似たようなゲームを嗜んだことがあるとかで、覚えが早くて器用っぽい。

 獣耳幼女たちも、初体験ながら驚くほど健闘している。俺が少しだけヒントを出しているものの、ひと際物覚えのいいリリを中心に協力してカードをしっかり回収していた。

 結果、完全にサリアさんの一人負け状態。何度仕切り直してもトップが入れ替わるだけ。

 失礼を承知で言うと、今のところルルとどっこいの記憶力です……みんな少し手加減してあげましょうね。最優の探索者にして無双の餓狼が泣いちゃうから。すでに半泣きだから。

 しかし、次のババ抜きでもサリアさんの一人負けが続く。
 獣耳幼女たちは、どんなカードを引いたか表情や尻尾にすぐ出てしまう。だから、上手くジョーカーを渡すことはできたのだが……。

「ふふふ。早くお引きなさい、サリア!」

「くぬぬ……フィーナのその顔は、こっちが数字に違いな――がぁぁあああッ! またジョーカーを掴ませたな!」

 獣耳幼女が引いてしまったジョーカーをフィーナさんがことごとく回収し、再びサリアさんへと押し付ける展開が繰り返されていた。

 結局、何度ババ抜きをやってもサリアさんは勝つことができなかった。
 最後はトランプを天へ向かって放り投げ、後ろに倒れ込んでノックダウン。獣耳幼女たちが大喜びでその体にのっかり、尻尾をフリフリしながらじゃれついていた。

 ちょうどいい頃合いでトランプを切り上げ、今度はみんなで庭へ移動する。
 サナちゃんに縄跳びを見せるため練習したい、とエマが言い出したのだ。なんと健気で可愛らしいことか。

 ここで圧巻の十一重跳びを披露し、サリアさんが見事に威厳を取り戻す。記録更新だ。

 そのお隣では、二重跳びに挑戦したフィーナさんが足を引っ掛けて芝生に転倒し、「ふぎゃっ!?」とお姫様らしからぬ声を漏らしていた。その後、得意げな獣耳幼女たちに飛び方のレクチャーを受けていた。

 俺はというと、スマホを片手にみんなの写真を撮るので大忙し。これまでもちょこちょこ撮ってきたけれど、そろそろアルバム制作に取り掛かるべきか。

 それはともかく、ぼちぼちいい時間になってきた。
 お昼ごはん軽く食べたら、今日はみんなでお出かけする予定だ。本人が強く希望したので、フィーナさんも一緒だ。

 目的地は、有名チェーンのドーナツショップ!
 これも予行演習みたいなものだ。サナちゃんと遊ぶときにおやつとして出す予定なのだが、うちの子たちが初めてだとビックリしちゃうからね。

 そんなわけで、お昼は量を控えめにしておこうね。
 さあて、みんなはどのドーナツが好きかな?
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