我が家と異世界がつながり、獣耳幼女たちのお世話をすることになった件【書籍化決定!】

木ノ花

文字の大きさ
39 / 71
第一章

第39話 のんびりした朝とマヨネーズ

しおりを挟む
 ここ数日のこと。
 俺は朝、決まって三つの小さな衝撃とのしかかるような軽い重みを感じて、心地よい眠りから覚醒する。

 もちろん今日もそう。ゆっくりまぶたを持ち上げれば、エマとリリの満面の笑みが視界に飛び込んでくる。俺の胴体にちょこんと乗って、こちらを覗き込んでいるのだ。続いてこの二人は、楽しげに獣耳をピコピコ動かしながらだいたいこう言う。

「神さ……ちがった! サクタローさん、あさだよ!」

「おきて! はやくゴハンのじゅんびしないと!」

 リビングに置いてある時計を見れば、まだ朝の六時前。
 昨晩は、フェアリープリンセスの塗り絵に夢中でけっこう遅くまで起きていたというのに……うちの獣耳幼女たちは、ほぼ日の出とともに目を覚ますのだ。

 さらにここで、掛け布団がもぞもぞ動く。
 犯人は、末妹のルル。この子だけは朝が弱いみたいで、いつもこうして懐に潜り込んでくる。姉二人に起こされなければ、いつまでも眠りこけているに違いない。

 しかもやたら体温がポカポカで、肌寒い秋の朝にはとても魅力的。だから、俺はルルを腕に抱き込んで二度寝の体勢に入るのだ……が、エマとリリが許してくれるはずもなく、今度はグイグイと体を揺すられる。

「おきてー、サクタローさん! ルルもおきるのよ! みんなであさのゴハンたべよう!」

「ほら、はやくー!」

 俺はルルを抱えるように体を丸め、「もう少しだけ……」と抵抗する。
 しかし、妨害が止むことはない……ならば、強硬手段だ。うす目で二人の位置を確認し、ガバっと上体を起こして布団の中へ引きずり込む。
  
 そのまま幼女たちを腕の中でもみくちゃにすれば、『きゃー!』と楽しげにはしゃぐ声が聞こえてきて――よし、やっと目が覚めてきたな。そろそろ動くか。
 上体を起こし、俺は伸びをしながら穏やかに告げる。

「三人とも、おはよう。朝ご飯の準備しようね」

「はい! わたし、おてつだいします!」

「リリも! ほうちょうつかっていい?」

 髪をボサボサにしたエマとリリも布団から這い出てきて、元気いっぱいお手伝いに立候補してくれる。当然、包丁はダメです。ルルは……無言の抵抗なのか、うつ伏せのまま動こうとしない。黒い尻尾が不機嫌そうに揺れていて、とても可愛い。

 リビングに敷いた反対側の布団では、この騒ぎをものともせずにサリアさんが眠りこけている。この人はご飯ができれば勝手に起きてくるだろうから、それまで放っておくことにした。

 さて、メニューは何にしようかな。
 我が家の朝はパンがメインなので、それと目玉焼きを付けて……あ、ハムが余っていたっけ。レタスも使っちゃいたいから、バターロールをサンドにしてしまおう。

 デザートにはフルーツを用意する。
 飲み物は牛乳だ。子どもの成長にいいって聞くしね。

 その前に、まずは着替えだ。けっこう寒くなってきたから、風邪をひかないように幼女たちに温かい格好をさせないと。機能性重視のルームウェアでも新しい服だと大喜びしてくれた。

 それが終わったら、揃ってキッチンへ移動する。さみしくなったようで、ルルもちゃんとついてきている。

「じゃあ、エマたちはこの葉っぱを食べやすいサイズにむしってボウルに入れてね。できるかな?」

「はい! いっぱいむしります!」

「できるっ! そんなのかんたんよ!」

 真剣な顔でお返事してくれるエマと、腰に両手を当てて自信満々なリリ。ルルは、俺の足にしがみついて顔をくしくし擦り付けている……これ、目ヤニを取っているな。あとで顔を洗おうね。
 
 とにかく、三人にはレタスをちぎっていてもらおう。その間に、俺は手早く調理を進めていく――凝ったメニューじゃないから、完成まではそう時間もかからなかった。
 料理を盛った皿を持ち、みんなでリビングへ戻る。

「待ちわびていたぞ。早く食べよう」

 予想通り、サリアさんがローテーブルの自分の席でちゃっかり待機していた。
 グレーアッシュの長い髪もボサボサで、すっかりお気に入りのスウェットと相まって残念美人感がハンパない。

 そういえば、今日あたり彼女の服も届くはずだ。他にも、食品やらを大量に注文したんだよな。幼女たちの物もまたいっぱい買ったし、貯金がマッハで減っていく……いい加減、日本円を稼ぐ目処くらいつけないと。 

「……まあ、とりあえず食べようか」

「サクタロー、これなに? ほっぺみたいでへんなの!」

 すべての皿をテーブルに運び、それぞれ自分の席につく。するとリリが、マヨネーズのボトルをぷにぷにしながら首を傾げた。触り心地が頬と似ているように感じたらしい。

 好みがあるだろうから、足りなければプラスできるように持ってきたのだ――けれど、ちょっと失敗だったみたい。

「う、美味い……なんだこのタレは!? サクタロー殿、この白いタレはなんなのだ!」

「卵黄と油、それに酢を混ぜた調味料だよ。レモン汁でもいいけど、けっこう簡単に作れるんだよね」

 揃って『いただきます』を言ってすぐ、パンにかじりついたサリアさんが、目を見開きながら問いかけてきた。マヨネーズがすこぶるお口に合ったようだ。

 エマたちも一心不乱に食べ進めている。好物らしく、あのルルが俺に甘えるのを忘れるほどだ。ちょっと寂しいけど、みんな気に入ってくれたのなら嬉しい。明日は、ツナマヨトーストでも作ってあげようかな。

 それはそうと、ただのバターロールにマヨネーズを塗りたくって食べなくても……結局、明日の分のパンまで綺麗に平らげて朝食はフィニッシュとなった。
 おまけに腹ごなしのまったりタイム中、サリアさんがあらぬことを言い出す。

「私は、マヨネーズの素晴らしさをラクスジットに広めたいと思う。いや、あちらで作って大々的に売り出すべきか」

 また一人、この世にマヨラーが誕生した。でも、卵のサルモネラ菌が怖いからやめとこうね。下手すれば、食中毒を出しまくって大問題になる。加熱殺菌はできるかもだけど、現地での生産は色々とハードルが高そうだ。
しおりを挟む
感想 59

あなたにおすすめの小説

授かったスキルが【草】だったので家を勘当されたから悲しくてスキルに不満をぶつけたら国に恐怖が訪れて草

ラララキヲ
ファンタジー
(※[両性向け]と言いたい...)  10歳のグランは家族の見守る中でスキル鑑定を行った。グランのスキルは【草】。草一本だけを生やすスキルに親は失望しグランの為だと言ってグランを捨てた。  親を恨んだグランはどこにもぶつける事の出来ない気持ちを全て自分のスキルにぶつけた。  同時刻、グランを捨てた家族の居る王都では『謎の笑い声』が響き渡った。その笑い声に人々は恐怖し、グランを捨てた家族は……── ※確認していないので二番煎じだったらごめんなさい。急に思いついたので書きました! ※「妻」に対する暴言があります。嫌な方は御注意下さい※ ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇なろうにも上げています。

異世界に召喚されたけど、戦えないので牧場経営します~勝手に集まってくる動物達が、みんな普通じゃないんだけど!?~

黒蓬
ファンタジー
白石悠真は、ある日突然異世界へ召喚される。しかし、特別なスキルとして授かったのは「牧場経営」。戦えない彼は、与えられた土地で牧場を経営し、食料面での貢献を望まれる。ところが、彼の牧場には不思議な動物たちが次々と集まってきて――!? 異世界でのんびり牧場ライフ、始まります!

異世界ネットスーパー始めました。〜家事万能スパダリ主夫、嫁のために世界を幸せにする〜

きっこ
ファンタジー
家事万能の主夫が、異世界のものを取り寄せられる異世界ネットスーパーを使ってお嫁ちゃんを癒やしつつも、有名になっていく話です。 AIと一緒に作りました。私の読みたいを共有します 感想もらえたら飛んで喜びます。 (おぼろ豆腐メンタルなので厳しいご意見はご勘弁下さい) カクヨムにも掲載予定

過労死した家具職人、異世界で快適な寝具を作ったら辺境の村が要塞になりました ~もう働きたくないので、面倒ごとは自動迎撃ベッドにお任せします

☆ほしい
ファンタジー
ブラック工房で働き詰め、最後は作りかけの椅子の上で息絶えた家具職人の木崎巧(キザキ・タクミ)。 目覚めると、そこは木材資源だけは豊富な異世界の貧しい開拓村だった。 タクミとして新たな生を得た彼は、もう二度とあんな働き方はしないと固く誓う。 最優先事項は、自分のための快適な寝具の確保。 前世の知識とこの世界の素材(魔石や魔物の皮)を組み合わせ、最高のベッド作りを開始する。 しかし、完成したのは侵入者を感知して自動で拘束する、とんでもない性能を持つ魔法のベッドだった。 そのベッドが村をゴブリンの襲撃から守ったことで、彼の作る家具は「快適防衛家具」として注目を集め始める。 本人はあくまで安眠第一でスローライフを望むだけなのに、貴族や商人から面倒な依頼が舞い込み始め、村はいつの間にか彼の家具によって難攻不落の要塞へと姿を変えていく。

卒業パーティでようやく分かった? 残念、もう手遅れです。

ファンタジー
貴族の伝統が根づく由緒正しい学園、ヴァルクレスト学院。 そんな中、初の平民かつ特待生の身分で入学したフィナは卒業パーティの片隅で静かにグラスを傾けていた。 すると隣国クロニア帝国の王太子ノアディス・アウレストが会場へとやってきて……。

私を棄てて選んだその妹ですが、継母の私生児なので持参金ないんです。今更ぐだぐだ言われても、私、他人なので。

百谷シカ
恋愛
「やったわ! 私がお姉様に勝てるなんて奇跡よ!!」 妹のパンジーに悪気はない。この子は継母の連れ子。父親が誰かはわからない。 でも、父はそれでいいと思っていた。 母は早くに病死してしまったし、今ここに愛があれば、パンジーの出自は問わないと。 同等の教育、平等の愛。私たちは、血は繋がらずとも、まあ悪くない姉妹だった。 この日までは。 「すまないね、ラモーナ。僕はパンジーを愛してしまったんだ」 婚約者ジェフリーに棄てられた。 父はパンジーの結婚を許した。但し、心を凍らせて。 「どういう事だい!? なぜ持参金が出ないんだよ!!」 「その子はお父様の実子ではないと、あなたも承知の上でしょう?」 「なんて無礼なんだ! 君たち親子は破滅だ!!」 2ヶ月後、私は王立図書館でひとりの男性と出会った。 王様より科学の研究を任された侯爵令息シオドリック・ダッシュウッド博士。 「ラモーナ・スコールズ。私の妻になってほしい」 運命の恋だった。 ================================= (他エブリスタ様に投稿・エブリスタ様にて佳作受賞作品)

オネエ伯爵、幼女を拾う。~実はこの子、逃げてきた聖女らしい~

雪丸
ファンタジー
アタシ、アドルディ・レッドフォード伯爵。 突然だけど今の状況を説明するわ。幼女を拾ったの。 多分年齢は6~8歳くらいの子。屋敷の前にボロ雑巾が落ちてると思ったらびっくり!人だったの。 死んでる?と思ってその辺りに落ちている木で突いたら、息をしていたから屋敷に運んで手当てをしたのよ。 「道端で倒れていた私を助け、手当を施したその所業。賞賛に値します。(盛大なキャラ作り中)」 んま~~~尊大だし図々しいし可愛くないわ~~~!! でも聖女様だから変な扱いもできないわ~~~!! これからアタシ、どうなっちゃうのかしら…。 な、ラブコメ&ファンタジーです。恋の進展はスローペースです。 小説家になろう、カクヨムにも投稿しています。(敬称略)

突然伯爵令嬢になってお姉様が出来ました!え、家の義父もお姉様の婚約者もクズしかいなくない??

シャチ
ファンタジー
母の再婚で伯爵令嬢になってしまったアリアは、とっても素敵なお姉様が出来たのに、実の母も含めて、家族がクズ過ぎるし、素敵なお姉様の婚約者すらとんでもない人物。 何とかお姉様を救わなくては! 日曜学校で文字書き計算を習っていたアリアは、お仕事を手伝いながらお姉様を何とか手助けする! 小説家になろうで日間総合1位を取れました~ 転載防止のためにこちらでも投稿します。

処理中です...