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第一章
第39話 のんびりした朝とマヨネーズ
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ここ数日のこと。
俺は朝、決まって三つの小さな衝撃とのしかかるような軽い重みを感じて、心地よい眠りから覚醒する。
もちろん今日もそう。ゆっくりまぶたを持ち上げれば、エマとリリの満面の笑みが視界に飛び込んでくる。俺の胴体にちょこんと乗って、こちらを覗き込んでいるのだ。続いてこの二人は、楽しげに獣耳をピコピコ動かしながらだいたいこう言う。
「神さ……ちがった! サクタローさん、あさだよ!」
「おきて! はやくゴハンのじゅんびしないと!」
リビングに置いてある時計を見れば、まだ朝の六時前。
昨晩は、フェアリープリンセスの塗り絵に夢中でけっこう遅くまで起きていたというのに……うちの獣耳幼女たちは、ほぼ日の出とともに目を覚ますのだ。
さらにここで、掛け布団がもぞもぞ動く。
犯人は、末妹のルル。この子だけは朝が弱いみたいで、いつもこうして懐に潜り込んでくる。姉二人に起こされなければ、いつまでも眠りこけているに違いない。
しかもやたら体温がポカポカで、肌寒い秋の朝にはとても魅力的。だから、俺はルルを腕に抱き込んで二度寝の体勢に入るのだ……が、エマとリリが許してくれるはずもなく、今度はグイグイと体を揺すられる。
「おきてー、サクタローさん! ルルもおきるのよ! みんなであさのゴハンたべよう!」
「ほら、はやくー!」
俺はルルを抱えるように体を丸め、「もう少しだけ……」と抵抗する。
しかし、妨害が止むことはない……ならば、強硬手段だ。うす目で二人の位置を確認し、ガバっと上体を起こして布団の中へ引きずり込む。
そのまま幼女たちを腕の中でもみくちゃにすれば、『きゃー!』と楽しげにはしゃぐ声が聞こえてきて――よし、やっと目が覚めてきたな。そろそろ動くか。
上体を起こし、俺は伸びをしながら穏やかに告げる。
「三人とも、おはよう。朝ご飯の準備しようね」
「はい! わたし、おてつだいします!」
「リリも! ほうちょうつかっていい?」
髪をボサボサにしたエマとリリも布団から這い出てきて、元気いっぱいお手伝いに立候補してくれる。当然、包丁はダメです。ルルは……無言の抵抗なのか、うつ伏せのまま動こうとしない。黒い尻尾が不機嫌そうに揺れていて、とても可愛い。
リビングに敷いた反対側の布団では、この騒ぎをものともせずにサリアさんが眠りこけている。この人はご飯ができれば勝手に起きてくるだろうから、それまで放っておくことにした。
さて、メニューは何にしようかな。
我が家の朝はパンがメインなので、それと目玉焼きを付けて……あ、ハムが余っていたっけ。レタスも使っちゃいたいから、バターロールをサンドにしてしまおう。
デザートにはフルーツを用意する。
飲み物は牛乳だ。子どもの成長にいいって聞くしね。
その前に、まずは着替えだ。けっこう寒くなってきたから、風邪をひかないように幼女たちに温かい格好をさせないと。機能性重視のルームウェアでも新しい服だと大喜びしてくれた。
それが終わったら、揃ってキッチンへ移動する。さみしくなったようで、ルルもちゃんとついてきている。
「じゃあ、エマたちはこの葉っぱを食べやすいサイズにむしってボウルに入れてね。できるかな?」
「はい! いっぱいむしります!」
「できるっ! そんなのかんたんよ!」
真剣な顔でお返事してくれるエマと、腰に両手を当てて自信満々なリリ。ルルは、俺の足にしがみついて顔をくしくし擦り付けている……これ、目ヤニを取っているな。あとで顔を洗おうね。
とにかく、三人にはレタスをちぎっていてもらおう。その間に、俺は手早く調理を進めていく――凝ったメニューじゃないから、完成まではそう時間もかからなかった。
料理を盛った皿を持ち、みんなでリビングへ戻る。
「待ちわびていたぞ。早く食べよう」
予想通り、サリアさんがローテーブルの自分の席でちゃっかり待機していた。
グレーアッシュの長い髪もボサボサで、すっかりお気に入りのスウェットと相まって残念美人感がハンパない。
そういえば、今日あたり彼女の服も届くはずだ。他にも、食品やらを大量に注文したんだよな。幼女たちの物もまたいっぱい買ったし、貯金がマッハで減っていく……いい加減、日本円を稼ぐ目処くらいつけないと。
「……まあ、とりあえず食べようか」
「サクタロー、これなに? ほっぺみたいでへんなの!」
すべての皿をテーブルに運び、それぞれ自分の席につく。するとリリが、マヨネーズのボトルをぷにぷにしながら首を傾げた。触り心地が頬と似ているように感じたらしい。
好みがあるだろうから、足りなければプラスできるように持ってきたのだ――けれど、ちょっと失敗だったみたい。
「う、美味い……なんだこのタレは!? サクタロー殿、この白いタレはなんなのだ!」
「卵黄と油、それに酢を混ぜた調味料だよ。レモン汁でもいいけど、けっこう簡単に作れるんだよね」
揃って『いただきます』を言ってすぐ、パンにかじりついたサリアさんが、目を見開きながら問いかけてきた。マヨネーズがすこぶるお口に合ったようだ。
エマたちも一心不乱に食べ進めている。好物らしく、あのルルが俺に甘えるのを忘れるほどだ。ちょっと寂しいけど、みんな気に入ってくれたのなら嬉しい。明日は、ツナマヨトーストでも作ってあげようかな。
それはそうと、ただのバターロールにマヨネーズを塗りたくって食べなくても……結局、明日の分のパンまで綺麗に平らげて朝食はフィニッシュとなった。
おまけに腹ごなしのまったりタイム中、サリアさんがあらぬことを言い出す。
「私は、マヨネーズの素晴らしさをラクスジットに広めたいと思う。いや、あちらで作って大々的に売り出すべきか」
また一人、この世にマヨラーが誕生した。でも、卵のサルモネラ菌が怖いからやめとこうね。下手すれば、食中毒を出しまくって大問題になる。加熱殺菌はできるかもだけど、現地での生産は色々とハードルが高そうだ。
俺は朝、決まって三つの小さな衝撃とのしかかるような軽い重みを感じて、心地よい眠りから覚醒する。
もちろん今日もそう。ゆっくりまぶたを持ち上げれば、エマとリリの満面の笑みが視界に飛び込んでくる。俺の胴体にちょこんと乗って、こちらを覗き込んでいるのだ。続いてこの二人は、楽しげに獣耳をピコピコ動かしながらだいたいこう言う。
「神さ……ちがった! サクタローさん、あさだよ!」
「おきて! はやくゴハンのじゅんびしないと!」
リビングに置いてある時計を見れば、まだ朝の六時前。
昨晩は、フェアリープリンセスの塗り絵に夢中でけっこう遅くまで起きていたというのに……うちの獣耳幼女たちは、ほぼ日の出とともに目を覚ますのだ。
さらにここで、掛け布団がもぞもぞ動く。
犯人は、末妹のルル。この子だけは朝が弱いみたいで、いつもこうして懐に潜り込んでくる。姉二人に起こされなければ、いつまでも眠りこけているに違いない。
しかもやたら体温がポカポカで、肌寒い秋の朝にはとても魅力的。だから、俺はルルを腕に抱き込んで二度寝の体勢に入るのだ……が、エマとリリが許してくれるはずもなく、今度はグイグイと体を揺すられる。
「おきてー、サクタローさん! ルルもおきるのよ! みんなであさのゴハンたべよう!」
「ほら、はやくー!」
俺はルルを抱えるように体を丸め、「もう少しだけ……」と抵抗する。
しかし、妨害が止むことはない……ならば、強硬手段だ。うす目で二人の位置を確認し、ガバっと上体を起こして布団の中へ引きずり込む。
そのまま幼女たちを腕の中でもみくちゃにすれば、『きゃー!』と楽しげにはしゃぐ声が聞こえてきて――よし、やっと目が覚めてきたな。そろそろ動くか。
上体を起こし、俺は伸びをしながら穏やかに告げる。
「三人とも、おはよう。朝ご飯の準備しようね」
「はい! わたし、おてつだいします!」
「リリも! ほうちょうつかっていい?」
髪をボサボサにしたエマとリリも布団から這い出てきて、元気いっぱいお手伝いに立候補してくれる。当然、包丁はダメです。ルルは……無言の抵抗なのか、うつ伏せのまま動こうとしない。黒い尻尾が不機嫌そうに揺れていて、とても可愛い。
リビングに敷いた反対側の布団では、この騒ぎをものともせずにサリアさんが眠りこけている。この人はご飯ができれば勝手に起きてくるだろうから、それまで放っておくことにした。
さて、メニューは何にしようかな。
我が家の朝はパンがメインなので、それと目玉焼きを付けて……あ、ハムが余っていたっけ。レタスも使っちゃいたいから、バターロールをサンドにしてしまおう。
デザートにはフルーツを用意する。
飲み物は牛乳だ。子どもの成長にいいって聞くしね。
その前に、まずは着替えだ。けっこう寒くなってきたから、風邪をひかないように幼女たちに温かい格好をさせないと。機能性重視のルームウェアでも新しい服だと大喜びしてくれた。
それが終わったら、揃ってキッチンへ移動する。さみしくなったようで、ルルもちゃんとついてきている。
「じゃあ、エマたちはこの葉っぱを食べやすいサイズにむしってボウルに入れてね。できるかな?」
「はい! いっぱいむしります!」
「できるっ! そんなのかんたんよ!」
真剣な顔でお返事してくれるエマと、腰に両手を当てて自信満々なリリ。ルルは、俺の足にしがみついて顔をくしくし擦り付けている……これ、目ヤニを取っているな。あとで顔を洗おうね。
とにかく、三人にはレタスをちぎっていてもらおう。その間に、俺は手早く調理を進めていく――凝ったメニューじゃないから、完成まではそう時間もかからなかった。
料理を盛った皿を持ち、みんなでリビングへ戻る。
「待ちわびていたぞ。早く食べよう」
予想通り、サリアさんがローテーブルの自分の席でちゃっかり待機していた。
グレーアッシュの長い髪もボサボサで、すっかりお気に入りのスウェットと相まって残念美人感がハンパない。
そういえば、今日あたり彼女の服も届くはずだ。他にも、食品やらを大量に注文したんだよな。幼女たちの物もまたいっぱい買ったし、貯金がマッハで減っていく……いい加減、日本円を稼ぐ目処くらいつけないと。
「……まあ、とりあえず食べようか」
「サクタロー、これなに? ほっぺみたいでへんなの!」
すべての皿をテーブルに運び、それぞれ自分の席につく。するとリリが、マヨネーズのボトルをぷにぷにしながら首を傾げた。触り心地が頬と似ているように感じたらしい。
好みがあるだろうから、足りなければプラスできるように持ってきたのだ――けれど、ちょっと失敗だったみたい。
「う、美味い……なんだこのタレは!? サクタロー殿、この白いタレはなんなのだ!」
「卵黄と油、それに酢を混ぜた調味料だよ。レモン汁でもいいけど、けっこう簡単に作れるんだよね」
揃って『いただきます』を言ってすぐ、パンにかじりついたサリアさんが、目を見開きながら問いかけてきた。マヨネーズがすこぶるお口に合ったようだ。
エマたちも一心不乱に食べ進めている。好物らしく、あのルルが俺に甘えるのを忘れるほどだ。ちょっと寂しいけど、みんな気に入ってくれたのなら嬉しい。明日は、ツナマヨトーストでも作ってあげようかな。
それはそうと、ただのバターロールにマヨネーズを塗りたくって食べなくても……結局、明日の分のパンまで綺麗に平らげて朝食はフィニッシュとなった。
おまけに腹ごなしのまったりタイム中、サリアさんがあらぬことを言い出す。
「私は、マヨネーズの素晴らしさをラクスジットに広めたいと思う。いや、あちらで作って大々的に売り出すべきか」
また一人、この世にマヨラーが誕生した。でも、卵のサルモネラ菌が怖いからやめとこうね。下手すれば、食中毒を出しまくって大問題になる。加熱殺菌はできるかもだけど、現地での生産は色々とハードルが高そうだ。
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