本当の友達

とう

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1話

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キーンコーンカーンコーン……

4時限目の授業終了のチャイムがなり、先生が終わりの挨拶をする。皆は待ってましたと言わんばかりに弁当をバックから取り出して席を立つ。いつも一緒に食べているメンバーで集まり、机を移動してグループを作る。これがいつもの光景だ。だから俺もいつも通り弁当を取り出し、教室から出る。

「今日は雨か……」

誰にも聞こえないようにボソッと呟く。窓の外を見ると、ザァーっという音を出しながら絶え間なく降り続いている。俺はいつも誰もこない屋上で弁当を食べているが、流石に雨の中食べるのは無理だ。

(どこで食うかなぁ~……)

などと考えながら廊下を歩っていると、どこからか女子の話し声が聞こえてきた。

『ねぇ、私喉乾いたんだけど~』
『そ、そうだね』
『はぁ~?それだけ?』
『えっ……?』
『私達“友達”だよね?だったら困っている私を助けようとはしないの?』
「……私、飲み物買ってくる』
『流石佳奈!分かってる~』

その会話の後、教室のドアがガラっという音を立て開く。すると、教室の中から黒髪のショートヘアの女子が出てきた。その女子は小走りで廊下を走り、階段を降りていく。恐らく“友達”という言葉を利用してパシリにされているのだろう。

(まっ、俺には関係ねぇけどな)

そういえば2階に空き教室があったはずだ。掃除はするも、それは年末の大掃除の時だけだ。確か鍵も開いているはず。今日はそこにするか……と階段を降りる。降りて突き当たりにその教室はある。俺はドアを開け、空き教室へ入る。

(カビ臭っ……)

換気などは滅多にしないためかカビの臭いが俺の鼻を刺激し、思わず顔をしかめる。まぁ今日だけ……と割り切り座る場所を探す。幸いにも、机や椅子はそのままだから座る場所には困らない。さて、どこに座ろうか……

「…………」
「っ……!?」

あたりを見渡したら、教室の角の席に女子が座っていた。誰もいないと思っていた手前、その女子に気づいた時は本当に驚いた。驚きすぎて、後ずさった俺の犠牲になった椅子で起用室が散乱してしまった。あの子って確か……教室から出てきた黒髪ショートヘアの女の子だ。みると、少し様子が変だという事に気づく。

(泣いてる……?)

それは、彼女の様子からも明らかだ。その子は、椅子に座り、不規則に肩が上下させ、たまに鼻をすするグスッという音も聞こえる。明らかに泣いているのだ。どうしようかと悩んだ挙句、そっとしといた方が良いという判断した。そっと教室から出ようとすると……

「……ねぇ」
「!?」

突然振り向き、声をかけられた。

「っ……!」

俺は思わず息を飲んだ。遠目では分からなかったが、普段から手入れされているのか、とても綺麗な黒髪、大きめの瞳をしていて、涙で少しまつ毛が濡れているのさえ美しい。眉毛もきちんと手入れされて整っている。俗に言う美少女というやつだ。泣いている子に……その前に美少女に声をかけられるなんて思わなかった。どう返したものかと悩んでいる間にも彼女は言葉を繋げる。

「あなたは……友達とかいないの……?」
「…………」

“友達“……か。正直俺はそんなもの必要ないと思っている。友達という曖昧な関係は、ちょっとした事ですぐに崩壊する。「ずっと友達!」なんて虚言もいいところだ。それに、俺たち3年は今年高校受験だ。わざわざ友達を作って「一緒の高校行こう!」なんて、受験の敵を増やすのと同義だ。だから……

「俺はそんなもの欲しくない」
「……!」

正直な答えを返した。その返答に彼女は驚いたような顔をした。そりゃそうだ。「友達なんていらない」なんて普通じゃないんだから。しかし、その後の彼女の行動は、俺の予想の斜め上を行っていた。

「ねぇ……私の友達になってよ!」
「……俺の話聞いてた?」
「聞いてたよ」

この子はバカなのだろうか?相手が欲しくないものを何故わざわざ与える?彼女の行動は俺の思考を狂わしていく。

「私、あなたみたいな友達が欲しかったの!表面だけの言葉じゃなくて、心の底からの言葉を伝えてくれるあなたみたいな人が!」
「…………」

要するにこの子は、心から思っている事を言ってくれる人と友達になりたいって事か?この世界にはとんだ物好きがいたものだ。俺はそんな奴でも友達になるのはゴメンだ。
それに……

「そんな奴、そこら中に五万といるだろ。そっちを当たれ」
「やだ!君がいい!」

言っていることがまるで子供だ。駄々をこね、自分が欲しい物を手に入れるまで絶対に諦めない。近所にそういう子供がいたからよく分かる。こうなったら凄くめんどくさいと……。

「でもな、俺は絶対に友達とかいう関係は作らないと心に決めて……」
「それでもなるの!」

俺の悪あがきも虚しく彼女は諦めない。とりあえず適当に返して何処かへ行こう……もうすぐ昼休みも終わってしまうし。それに、ここで断るほうが面倒な事になりそうだ。どうせ、すぐに終わる関係なのだから。

「……分かったよ。でも、日中は話しかけんなよ」
「……!!」

彼女の顔は分かりやすいほど輝いていた。その眩しい笑顔に浄化されそうになったが、なんとか堪える。さっ、早くここから出るか……と教室から出ようとしたら……

「明日もここで待ってるから!」
「……え?」

俺は判断を間違えたようだ。……友達になった方がめんどくさい事になった……。

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