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第22話 反撃の狼煙と、影の声
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私の宣戦布告とも言えるソロ配信から一夜が明けた。
ネットの世界は二つの大きな流れに分かれていた。一つは私の行動を「裏切り」とみなしナイト様を擁護する声。もう一つは謎の人物『Kage』の投稿に呼応し私の「翼」を応援しようとする小さなしかし熱い声だ。
SNSはさながら戦場のようだった。
ナイト様のファンたちは組織的に私を批判するコメントを拡散し始める。
『ルルはナイト様を踏み台にした』
『恩を仇で返すとはこのことだ』
『ユニットを楽しみにしてたのにがっかり』
その言葉の刃は的確に私の心を傷つけようとしてくる。
けれどもう私の心は折れなかった。
なぜならその何倍もの速さで『Kage』さんの言葉が拡散されていたからだ。
『caged bird (かごの鳥)のさえずりはどんなに美しくともどこか悲しく響く』
この一文は独り歩きを始め私の状況を的確に表す言葉として多くの人の心に届いていた。私のファンたちはこの言葉を旗印に反論を繰り広げてくれる。
『ルルちゃんは何も間違ってない!』
『自分の道を選んだだけだ!』
『Kageさんの言う通り。俺たちはソロのルルが見たいんだ!』
私はその激しい論争をただ静かに見つめていた。
これはもう私一人の戦いではない。
私のそして私を信じてくれるみんなの戦いなのだ。
その時ナイト様が動いた。
彼は自身のSNSに一本の動画を投稿した。
それは彼が別の人気女性VTuberと親しげに談笑している短い動画。そして添えられた一文。
『近々彼女と素晴らしいお知らせができるかも。お楽しみに』
その投稿はあまりにもあからさまだった。
私への当てつけ。そして世間へのアピール。
ルルなどいなくても自分には代わりがいくらでもいるのだと。自分こそがこの世界の中心なのだと。
その幼稚でしかし効果的な精神攻撃。
彼のファンは熱狂し私をさらに貶める。
『ナイト様さすが!』
『ルルなんかに構ってる暇はないよね!』
私はスマートフォンの画面を閉じた。
胸が苦しい。
けれど下を向いている暇はない。
私には守るべき場所がある。そして会うべき人がいるのだから。
◇
カフェ『夕凪』はいつもと変わらない穏やかな空気に包まれていた。
私が「おはようございます」とドアを開けるとカウンターの中でカイくんが顔を上げた。
「……はよ」
彼の声は平坦だった。けれどその瞳の奥に私を気遣う色が滲んでいるのを私は見逃さなかった。
彼はネットの状況を全て知っている。
そして私が今どんな気持ちでここに立っているのかもきっと分かってくれている。
その暗黙の理解が何よりも私の心を温めた。
その日のバイトは不思議なほど穏やかだった。
私たちは必要なこと以外話さない。でもその沈黙は心地よかった。
時折彼が私にだけ聞こえるような小さな声でぼそりと言う。
「……顔色悪いぞ」
「だ、大丈夫です!」
「……無理すんなら勝手にしろ」
その天邪鬼な優しさ。
私は彼のそんな不器用なところがたまらなく好きだと思った。
その自分の気持ちにはっきりと気づいてしまった瞬間私の顔に熱が集まる。
私は慌てて彼に背を向けた。
この心臓の音を彼に聞かれてはいけない。
バイトが終わり帰り支度をしていると彼が私に声をかけた。
「……本城さん」
「は、はい!」
「……これ」
彼が差し出したのは店のロゴが入った小さなコーヒー豆の袋だった。
「……試作品。家で飲めよ」
「え、でも……」
「いいから。……感想今度聞かせろ」
彼はそう言うと私の返事を待たずにさっさと自分の荷物をまとめて店を出て行ってしまった。
私は一人バックヤードに取り残される。
手のひらに残るコーヒー豆の温かい感触。
その温かさが私の戦うためのエネルギーに変わっていく。
ありがとうカイくん。
私は心の中でそう呟いた。
◇
その夜カイは自室で一つの決意を固めていた。
ナイトのやり方は汚い。そして効果的だ。彼はルルを業界で孤立させじわじわと追い詰めていくつもりだろう。
『Kage』として言葉を発し続けるだけでは足りない。
もっと大きなインパクトが必要だ。
ナイトの作った流れを断ち切る一撃が。
カイは埃をかぶっていたあの箱を再び開けた。
そしてカラスの仮面を手に取る。
彼は新しいアカウントで一つの告知を投稿した。
『今夜十一時。少しだけ話をする』
たったそれだけの一文。
けれどその告知は『Kage』を支持するファンの間で瞬く間に拡散されていった。
カイは配信機材をセットする。
アバターはない。カメラも使わない。
ただ声だけ。
この仮面の下から彼の本当の声を世界に届けるのだ。
心臓が激しく脈打つ。
怖い。
けれどそれ以上に彼女を守りたいという想いが彼を突き動かしていた。
約束の時間。
彼は仮面を装着した。
そして配信ソフトの『配信開始』ボタンを震える指で押した。
画面は真っ黒。
そこに彼の声だけが響き渡る。
『……聞こえているか』
それはセバスチャンでもなく相田カイでもない。
低く静かでけれど不思議な力強さを持った声。
『Kage』の第一声だった。
その頃私はアパートの部屋でその告知を見ていた。
『Kage』さんが配信をする。
私は祈るような気持ちでその時間を待った。
そして聞こえてきた彼の声。
その声を聞いた瞬間私は息を呑んだ。
どこかで聞いたことがあるような声。
でも誰なのか分からない。
ただその声は私の心の一番深い場所に真っ直ぐに届いた。
それは私の知らない誰かの声。
けれどなぜだろう。
その声は世界で一番安心できる声のように感じられた。
物語は新たな局面を迎える。
影の声が世界に響き渡った時二人の運命はもう一度大きく交差しようとしていた。
ネットの世界は二つの大きな流れに分かれていた。一つは私の行動を「裏切り」とみなしナイト様を擁護する声。もう一つは謎の人物『Kage』の投稿に呼応し私の「翼」を応援しようとする小さなしかし熱い声だ。
SNSはさながら戦場のようだった。
ナイト様のファンたちは組織的に私を批判するコメントを拡散し始める。
『ルルはナイト様を踏み台にした』
『恩を仇で返すとはこのことだ』
『ユニットを楽しみにしてたのにがっかり』
その言葉の刃は的確に私の心を傷つけようとしてくる。
けれどもう私の心は折れなかった。
なぜならその何倍もの速さで『Kage』さんの言葉が拡散されていたからだ。
『caged bird (かごの鳥)のさえずりはどんなに美しくともどこか悲しく響く』
この一文は独り歩きを始め私の状況を的確に表す言葉として多くの人の心に届いていた。私のファンたちはこの言葉を旗印に反論を繰り広げてくれる。
『ルルちゃんは何も間違ってない!』
『自分の道を選んだだけだ!』
『Kageさんの言う通り。俺たちはソロのルルが見たいんだ!』
私はその激しい論争をただ静かに見つめていた。
これはもう私一人の戦いではない。
私のそして私を信じてくれるみんなの戦いなのだ。
その時ナイト様が動いた。
彼は自身のSNSに一本の動画を投稿した。
それは彼が別の人気女性VTuberと親しげに談笑している短い動画。そして添えられた一文。
『近々彼女と素晴らしいお知らせができるかも。お楽しみに』
その投稿はあまりにもあからさまだった。
私への当てつけ。そして世間へのアピール。
ルルなどいなくても自分には代わりがいくらでもいるのだと。自分こそがこの世界の中心なのだと。
その幼稚でしかし効果的な精神攻撃。
彼のファンは熱狂し私をさらに貶める。
『ナイト様さすが!』
『ルルなんかに構ってる暇はないよね!』
私はスマートフォンの画面を閉じた。
胸が苦しい。
けれど下を向いている暇はない。
私には守るべき場所がある。そして会うべき人がいるのだから。
◇
カフェ『夕凪』はいつもと変わらない穏やかな空気に包まれていた。
私が「おはようございます」とドアを開けるとカウンターの中でカイくんが顔を上げた。
「……はよ」
彼の声は平坦だった。けれどその瞳の奥に私を気遣う色が滲んでいるのを私は見逃さなかった。
彼はネットの状況を全て知っている。
そして私が今どんな気持ちでここに立っているのかもきっと分かってくれている。
その暗黙の理解が何よりも私の心を温めた。
その日のバイトは不思議なほど穏やかだった。
私たちは必要なこと以外話さない。でもその沈黙は心地よかった。
時折彼が私にだけ聞こえるような小さな声でぼそりと言う。
「……顔色悪いぞ」
「だ、大丈夫です!」
「……無理すんなら勝手にしろ」
その天邪鬼な優しさ。
私は彼のそんな不器用なところがたまらなく好きだと思った。
その自分の気持ちにはっきりと気づいてしまった瞬間私の顔に熱が集まる。
私は慌てて彼に背を向けた。
この心臓の音を彼に聞かれてはいけない。
バイトが終わり帰り支度をしていると彼が私に声をかけた。
「……本城さん」
「は、はい!」
「……これ」
彼が差し出したのは店のロゴが入った小さなコーヒー豆の袋だった。
「……試作品。家で飲めよ」
「え、でも……」
「いいから。……感想今度聞かせろ」
彼はそう言うと私の返事を待たずにさっさと自分の荷物をまとめて店を出て行ってしまった。
私は一人バックヤードに取り残される。
手のひらに残るコーヒー豆の温かい感触。
その温かさが私の戦うためのエネルギーに変わっていく。
ありがとうカイくん。
私は心の中でそう呟いた。
◇
その夜カイは自室で一つの決意を固めていた。
ナイトのやり方は汚い。そして効果的だ。彼はルルを業界で孤立させじわじわと追い詰めていくつもりだろう。
『Kage』として言葉を発し続けるだけでは足りない。
もっと大きなインパクトが必要だ。
ナイトの作った流れを断ち切る一撃が。
カイは埃をかぶっていたあの箱を再び開けた。
そしてカラスの仮面を手に取る。
彼は新しいアカウントで一つの告知を投稿した。
『今夜十一時。少しだけ話をする』
たったそれだけの一文。
けれどその告知は『Kage』を支持するファンの間で瞬く間に拡散されていった。
カイは配信機材をセットする。
アバターはない。カメラも使わない。
ただ声だけ。
この仮面の下から彼の本当の声を世界に届けるのだ。
心臓が激しく脈打つ。
怖い。
けれどそれ以上に彼女を守りたいという想いが彼を突き動かしていた。
約束の時間。
彼は仮面を装着した。
そして配信ソフトの『配信開始』ボタンを震える指で押した。
画面は真っ黒。
そこに彼の声だけが響き渡る。
『……聞こえているか』
それはセバスチャンでもなく相田カイでもない。
低く静かでけれど不思議な力強さを持った声。
『Kage』の第一声だった。
その頃私はアパートの部屋でその告知を見ていた。
『Kage』さんが配信をする。
私は祈るような気持ちでその時間を待った。
そして聞こえてきた彼の声。
その声を聞いた瞬間私は息を呑んだ。
どこかで聞いたことがあるような声。
でも誰なのか分からない。
ただその声は私の心の一番深い場所に真っ直ぐに届いた。
それは私の知らない誰かの声。
けれどなぜだろう。
その声は世界で一番安心できる声のように感じられた。
物語は新たな局面を迎える。
影の声が世界に響き渡った時二人の運命はもう一度大きく交差しようとしていた。
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