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第十二話 迷子のリザードマンと卵粥
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北風が吹き荒れる寒い日のことだった。陽だまり亭の扉がおそるおそるほんの少しだけ開いた。隙間から覗いていたのは小さな緑色の顔。それはまだ子供のリザードマンだった。
体長は湊の腰ほどもなくその琥珀色の瞳は不安げに揺れている。いつも店に来るあの無口なリザードマンとよく似ているが明らかに幼い。彼は店の中をきょろきょろと見回し誰かを探しているようだった。
「どうしたんだい? 迷子かな?」
湊が優しく声をかけると子供のリザードマンはびくっと体を震わせ後ずさりしそうになる。その時カウンターの隅に座っていたいつものリザードマンが静かに立ち上がった。彼は子供に近づくとその小さな頭を大きな手でそっと撫でた。子供はそれで安心したのか彼の足元にぴたりと寄り添う。どうやら親子かそれに近い関係らしい。
子供は長旅で疲れているのか、それともお腹が空いているのかぐったりとしている。何か温かくて体に優しいものを食べさせてやりたい。湊は厨房に立つとお粥を作ることにした。
米に似た穀物をことことと土鍋で煮込む。米粒がふっくらと開き全体がとろりとしてきたら、味付けは岩塩だけでごく薄く。そこに溶き卵をそっと流し入れた。卵がまるで雲のようにふわふわと固まる。仕上げに刻んだ香味野菜を少しだけ散らした。
「卵粥」の完成だ。病気の時に食べるようなこれ以上なくシンプルな料理。だが今の彼にはきっとこれが一番だろう。
小さな器によそったお粥を子供の前に置いてやる。温かい湯気と共に優しい卵の香りが立ち上った。子供は最初はどうしていいか分からない様子だったが、親のリザードマンがスプーンで一口すくってやるとおそるおそる口を開けた。
その瞬間子供の不安げだった瞳が少しだけ和らいだ。
温かいお粥が冷えた体を内側からゆっくりと温めていく。卵の優しい甘さと米の滋味が疲れた心と体に染み渡る。それは故郷の巣穴で母親が作ってくれた料理を思い出させるような、懐かしくて安心する味だった。
子供はもう一口もう一口と小さな口でお粥を頬張り始めた。その姿を親のリザードマンはただ静かに、だがどこか愛情のこもった目で見守っている。
やがて器が空になる頃には子供の顔にはすっかり生気が戻っていた。そして湊の方を見てぺこりと小さな頭を下げた。それは言葉にならない精一杯の「ありがとう」だった。
親のリザードマンも湊に一つ頷いてみせると子供の手を引き静かに店を出て行った。きっと無事に家に帰れるだろう。
湊は空になった器を片付けながら胸が温かくなるのを感じていた。
特別な料理じゃなくてもいい。ただ相手を思う気持ちがあればそれは最高の「ひだまり飯」になるのだ。
陽だまり亭は今日も迷える小さな旅人の心をそっと温めたのだった。
体長は湊の腰ほどもなくその琥珀色の瞳は不安げに揺れている。いつも店に来るあの無口なリザードマンとよく似ているが明らかに幼い。彼は店の中をきょろきょろと見回し誰かを探しているようだった。
「どうしたんだい? 迷子かな?」
湊が優しく声をかけると子供のリザードマンはびくっと体を震わせ後ずさりしそうになる。その時カウンターの隅に座っていたいつものリザードマンが静かに立ち上がった。彼は子供に近づくとその小さな頭を大きな手でそっと撫でた。子供はそれで安心したのか彼の足元にぴたりと寄り添う。どうやら親子かそれに近い関係らしい。
子供は長旅で疲れているのか、それともお腹が空いているのかぐったりとしている。何か温かくて体に優しいものを食べさせてやりたい。湊は厨房に立つとお粥を作ることにした。
米に似た穀物をことことと土鍋で煮込む。米粒がふっくらと開き全体がとろりとしてきたら、味付けは岩塩だけでごく薄く。そこに溶き卵をそっと流し入れた。卵がまるで雲のようにふわふわと固まる。仕上げに刻んだ香味野菜を少しだけ散らした。
「卵粥」の完成だ。病気の時に食べるようなこれ以上なくシンプルな料理。だが今の彼にはきっとこれが一番だろう。
小さな器によそったお粥を子供の前に置いてやる。温かい湯気と共に優しい卵の香りが立ち上った。子供は最初はどうしていいか分からない様子だったが、親のリザードマンがスプーンで一口すくってやるとおそるおそる口を開けた。
その瞬間子供の不安げだった瞳が少しだけ和らいだ。
温かいお粥が冷えた体を内側からゆっくりと温めていく。卵の優しい甘さと米の滋味が疲れた心と体に染み渡る。それは故郷の巣穴で母親が作ってくれた料理を思い出させるような、懐かしくて安心する味だった。
子供はもう一口もう一口と小さな口でお粥を頬張り始めた。その姿を親のリザードマンはただ静かに、だがどこか愛情のこもった目で見守っている。
やがて器が空になる頃には子供の顔にはすっかり生気が戻っていた。そして湊の方を見てぺこりと小さな頭を下げた。それは言葉にならない精一杯の「ありがとう」だった。
親のリザードマンも湊に一つ頷いてみせると子供の手を引き静かに店を出て行った。きっと無事に家に帰れるだろう。
湊は空になった器を片付けながら胸が温かくなるのを感じていた。
特別な料理じゃなくてもいい。ただ相手を思う気持ちがあればそれは最高の「ひだまり飯」になるのだ。
陽だまり亭は今日も迷える小さな旅人の心をそっと温めたのだった。
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