俺だけのひだまり飯~転職先は、ワケあり魔物たちのまかない処でした~

みぃた

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第七十一話 ホープン村の新しい客

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嵐が過ぎ去り陽だまり亭とホープン村が手を取り合って再建を成し遂げてから、季節は穏やかに巡っていた。森と村を隔てていた見えない壁はすっかりなくなり、今では村の子供たちが森の浅瀬でピクシーと遊ぶ姿や、主婦たちが珍しいキノコを求めて陽だまり亭を訪れることも珍しくなくなっていた。

「ミナトさん、この間の串焼きのタレを少し分けてもらえないかね。うちの亭主が、あれじゃないと肉を食わんようになってしまってね」
「ミナト殿、うちの畑で採れた新しいイモなんだが、何かうまい食い方を教えてくれんか」
陽だまり亭のカウンターは人間と魔物がごく自然に隣り合う、不思議で温かい空間へと変わっていた。湊にとってそれは夢見ていた光景そのものだった。

そんなある日、一人の少年が緊張した面持ちで店の扉を叩いた。収穫祭の時に一番に串焼きを食べてくれた村長の息子ティムだった。しかし今日の彼の様子はいつもと違う。その手には使い古された小さな料理ナイフが握られていた。
「あ、あの、ミナトさん……! 俺を弟子にしてくだせえ!」
ティムは深々と頭を下げた。彼は収穫祭で食べたあの串焼きの味が忘れられず、そして何より料理を通じて人間と魔物の心を繋いだ湊の姿に強い憧れを抱いたのだという。

「弟子なんてとんでもないよ。俺はただのしがない料理人だ」
湊は困って頭を掻いた。しかしティムの瞳は真剣そのものだった。そのまっすぐな眼差しはかつて料理の道に光を見出した自分自身の姿と重なって見えた。
「……分かった。弟子は無理だけど料理仲間としてなら大歓迎だ。まずは厨房の掃除と野菜の皮むきから教えてあげるよ」
「本当かい!? ありがとう、師匠!」
こうして陽だまり亭に初めての人間の料理人見習いが誕生した。

ティムは真面目で物覚えが良かった。最初はオークの兄弟の大きさに怯えたりスライムの不思議な生態に驚いたりしていたが、持ち前の明るさと素直さですぐに店の仲間たちと打ち解けていった。
彼が一番最初に湊から教わった料理は「おにぎり」だった。
この世界には米に似た粘り気の少ない穀物しかない。しかし炊き方を工夫し少し潰すように握ることで形を保つことができる。
中には具材として甘辛く煮た岩トツゲの肉そぼろを入れ、周りには太陽の塩を薄くまぶす。仕上げに香りの良い葉で包めば完成だ。

「うわあ、すげえ! ただの米がこんなに美味しくなるなんて!」
ティムは自分で握った不格好なおにぎりを頬張り目を輝かせた。
その純粋な感動の表情を見て湊は料理を教えることの喜びを初めて知った。
「料理の基本は食べる人を思う気持ちだよ。誰に食べさせたいか、その人がどうしたら喜んでくれるか。それを考えるのが一番大事なスパイスなんだ」
湊の言葉をティムは真剣な顔で心に刻みつけていた。

陽だまり亭に新しい風が吹き始めた。
それは未来へと温かい味を繋いでいく希望の風だった。
しかしその平穏な日々の水面下で森全体を脅かす静かな異変が進行していることを、まだ誰も知らなかった。
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