俺だけのひだまり飯~転職先は、ワケあり魔物たちのまかない処でした~

みぃた

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第七十二話 森の嘆きと消えた色彩

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異変に最初に気づいたのは植物の専門家であるフローラだった。
彼女は王宮の菜園と陽だまり亭の森を行き来し植物の共同研究を進めていたのだが、ある日深刻な顔で湊に告げた。
「ミナトさん、おかしいわ。森の植物たちが元気を失くしている……」

彼女に言われて注意深く森を観察してみると確かに変化は明らかだった。
あれほど鮮やかな七色を放っていた虹色ベリーは色褪せくすんでいる。
ミントに似たハーブはその清涼な香りを失い葉は黄色く変色し始めていた。
それは特定の植物だけでなく森の様々な種類の草木に見られる現象だった。
森全体がまるで重い病にかかったかのようにその生命力を失いつつあったのだ。

その影響は陽だまり亭の食卓にも現れ始めた。
野菜は味が薄くなり果物は甘みを失った。
最も深刻だったのはスライムだった。彼は色褪せた虹色ベリーを食べてもその体を鮮やかな赤に染めることができない。彼の十八番だった虹色ゼリーが作れなくなってしまったのだ。
スライムは自分の能力が失われたことにショックを受け、カウンターの隅で小さくなって震えている。

「一体何が起こっているんだ……」
湊は途方に暮れた。
原因が分からない。病気なのかそれとも何かの呪いなのか。
見習い魔法使いのリオが魔法的な観点から調査を進めたが、邪悪な魔力の痕跡は一切見つからなかった。

そんな中一つの奇妙な客が陽だまり亭を訪れた。
全身を硬い水晶のような鱗で覆われた美しい魔物だった。彼は水晶竜(クリスタル・リザード)という非常に珍しい種族で、鉱物を主食としているという。
彼は店のメニューを一瞥すると悲しそうな顔で言った。
「……ここには私が食べられるものがないようだ。美しいものが何一つない」
彼はそう言うと何も注文せずに店を去っていこうとした。

美しいものしか食べられない。
その言葉に湊ははっとした。
森の植物たちが失ったもの。それは「色彩」であり「美しさ」だ。
もしかしたらこの森の病はただ栄養が失われているだけではないのかもしれない。
「お待ちください!」
湊は水晶竜を呼び止めた。
「今あなたのために最高の”美しい”料理をお作りします。どうか少しだけお時間をいただけませんか」

湊の脳裏に一つの料理が閃いていた。
それは王宮の晩餐会で貴族たちを驚かせたあの野菜のテリーヌ。
幸いフローラが管理する王宮の菜園はまだこの異変に侵されてはいない。彼女に頼んで最高の状態の色彩豊かな野菜をいくつか分けてもらった。
湊はその野菜たちを使い持てる技術の全てを注ぎ込んでテリーヌを作り始めた。
これはただの料理ではない。失われた森の色彩を取り戻すための祈りを込めた一皿だった。
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