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運命の十人・パリークシャ・ダラ その八
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「……課長、以外とあっさり話を受け入れたわね?」
結奈が不思議そうに言った。
「たぶん紀氏悠真が何かを話していたんでしょう」美咲が答える。
「彼が全部を伝えていたとしたら、私たちの話以上に現実離れしていたはずです」
「そうかもね……あの人、一体何者なんだろう」
光が小さくつぶやく。
「その悠真って人に、直接話を聞けたら早いんじゃない?」
陽菜が冗談めかして言う。
「そんなこと、できるわけないでしょ」
愛莉が苦笑いする。
「でも……なんとなく、呼べそうな気がするの。
頭の中にはっきり声のかけ方が浮かんでるんだもの」
陽菜の言葉に他の四人も思わず顔を見合わせた。
確かに、それぞれの胸の奥にも同じような“感覚”があった。
「……もしかしたら、本当にできるかもしれない。
でも今はやめておいたほうがいいわ」
結奈が静かに言った。
「どうしてです?警部」陽菜が首をかしげる。
「答えはこれよ」
結奈が指さした先――病室のドアが軽くノックされた。
ドアが開き、柔らかな声が響く。
「美咲、よかった……本当に目が覚めたのね」
一人の女性と二人の男性が入ってくる。
美咲の家族のようだった。
続けてもう一組の家族が姿を見せた。
「光、大丈夫か?」
「兄さん……お父さん、お母さん……」
「よかった、本当に無事で」
家族たちの声が、病室の空気をやさしく包み込む。
「加藤さん、わかった?皆んなの見舞いが落ち着いてからにしましょう」
「……はい、わかりました」
陽菜は小さくうなずいた。
家族や友人、知人たちが次々と見舞いに訪れ、
それも一段落した頃。
静まり返った病室で、結奈がゆっくりと口を開いた。
「そろそろ……彼を呼ぼうと思うのだけれど、どうかしら?」
四人は言葉もなく、静かにうなずく。
結奈は深く息を吸い、心の中で浮かんだ名をそっと口にした。
「チャーヤー……紀氏悠真」
その瞬間、結奈の影が淡く揺らぎはじめ、空気が震える。
黒い光が形を取り、人の姿へと変わっていく。
「呼んだか?」
現れたのは、紛れもなく悠真だった。
「うそ……本当に出てきたの?」
陽菜が息をのむ。
「それで、俺に何の用だ?」
悠真の低い声が響く。
「あなたに、いくつか聞きたいことがあるの」
結奈が静かに言った。
「構わない。どうせ、いずれ話すつもりだった。それで、何を知りたい?」
結奈は一歩進み出て問いかける。
「なぜ、私たち五人の意識だけが、先に戻ったのか……教えて下さい」
悠真は少し間を置き、淡々と答えた。
「君たちはすでに“力”を解放している。
だから俺とのつながりが深くなり、回復も早かった。残る五人はまだ力を解放していない――
ただ、それだけのことだ」
「つながり……?」
結奈が眉を寄せる。
「あなたとつながることで、回復が早まるということ?」
「そのとおりだ」
悠真は視線を伏せる。
「俺は“クレーシャ”――不老不死のアジャラアスラだ。
力を解放した君たちには、すでにその力の一部が流れ込んでいる。」
「クレーシャ……不老不死……?」
美咲が思わずつぶやく。
「クレーシャって、私たちが戦ったあの人たちのこと?あなたは彼らの仲間なの?」
悠真はゆっくりと首を振った。
「確かに同じ存在ではあるが、仲間ではない。
むしろ敵対している」
「なぜ……?」
美咲が問い返す。
「簡単なことだよ」
悠真は微かに笑みを浮かべた。
「俺は――人間が好きなんだ」
その言葉に部屋の空気が静かに震える。
美咲の胸の奥で、なにかが音を立てて揺れた。
「質問いい?」
光が口を開いた。
「その……不老不死って、あなたはいったい何歳なの?」
「正確には覚えていない」
悠真は少し遠くを見るような目をした。
「けれど、少なくとも千年は生きていると思う。
……いや、 “死ねない”というほうが近いかもしれない」
その声には、静かな哀しみがにじんでいた。
光は理由もなく胸が熱くなり、言葉を失った。
「ところで、私たちはこれからどうすればいいの?」
陽菜が不安げに悠真へ問いかけた。
「その件について、まずは謝らせてほしい。
君たちを巻き込んでしまった。
でもあの時は…ああするしかなかったんだ」
悠真の声には、深い後悔の色が滲んでいた。
「私のせいですね。
私があなたをあの場に留まらせたから…。
あなたは関わるなって言っていたのに」
美咲が申し訳なさそうにうつむく。
「佐藤さん、自分を責めないで」
結奈がそっと声をかける。
その表情は、仲間を思いやる優しさに満ちていた。
「君たちには、これから厳しい現実と向き合ってもらうことになる。
――“闇狩人”として、クレーシャと呼ばれる存在に立ち向かう覚悟が必要だ」
悠真の言葉に場の空気が重く沈む。
「それは…避けられないことなんですか?」
光が問う。
「ああ、そうだ」
悠真は短く答える。
「納得できません、たしかにあなたから力を分けてもらいました。
でも、だからといって、なぜ私たちが戦わなければならないんですか?」
光の声には、怒りと戸惑いが入り混じっていた。
「千年という長い時間の中で、俺には仲間がいた。
君たちと同じように戦いに巻き込まれ、力を得た者たちが、職業、年齢、性別もバラバラだったが、皆、“誰かを守りたい”という思いだけで共に戦ってくれた」
「その人たちは…どうなったんですか?」
光が静かに尋ねる。
「それぞれの道を歩んでいったよ。
戦いの果てに命を散らした者もいれば、闇狩人を引退した後、穏やかに人生を終えた者もいる。今も引退して生きている仲間は、三人だけだ」
「一般人と違って、私たちは警察官です。
だから戦えということですか?」
光が問い返す。
「そうは言っていない。
俺の仲間の中にも、君と同じ考えの者は何人もいた。
強制するつもりはない。
ただ―運命というものは、時に理不尽にその人間を選ぶんだ」
悠真のその言葉に、光は黙り込んだ。
納得はできなかったが(運命がその人間を選ぶ)
という言葉の意味が、少しだけ理解できる気がしていた。
結奈が不思議そうに言った。
「たぶん紀氏悠真が何かを話していたんでしょう」美咲が答える。
「彼が全部を伝えていたとしたら、私たちの話以上に現実離れしていたはずです」
「そうかもね……あの人、一体何者なんだろう」
光が小さくつぶやく。
「その悠真って人に、直接話を聞けたら早いんじゃない?」
陽菜が冗談めかして言う。
「そんなこと、できるわけないでしょ」
愛莉が苦笑いする。
「でも……なんとなく、呼べそうな気がするの。
頭の中にはっきり声のかけ方が浮かんでるんだもの」
陽菜の言葉に他の四人も思わず顔を見合わせた。
確かに、それぞれの胸の奥にも同じような“感覚”があった。
「……もしかしたら、本当にできるかもしれない。
でも今はやめておいたほうがいいわ」
結奈が静かに言った。
「どうしてです?警部」陽菜が首をかしげる。
「答えはこれよ」
結奈が指さした先――病室のドアが軽くノックされた。
ドアが開き、柔らかな声が響く。
「美咲、よかった……本当に目が覚めたのね」
一人の女性と二人の男性が入ってくる。
美咲の家族のようだった。
続けてもう一組の家族が姿を見せた。
「光、大丈夫か?」
「兄さん……お父さん、お母さん……」
「よかった、本当に無事で」
家族たちの声が、病室の空気をやさしく包み込む。
「加藤さん、わかった?皆んなの見舞いが落ち着いてからにしましょう」
「……はい、わかりました」
陽菜は小さくうなずいた。
家族や友人、知人たちが次々と見舞いに訪れ、
それも一段落した頃。
静まり返った病室で、結奈がゆっくりと口を開いた。
「そろそろ……彼を呼ぼうと思うのだけれど、どうかしら?」
四人は言葉もなく、静かにうなずく。
結奈は深く息を吸い、心の中で浮かんだ名をそっと口にした。
「チャーヤー……紀氏悠真」
その瞬間、結奈の影が淡く揺らぎはじめ、空気が震える。
黒い光が形を取り、人の姿へと変わっていく。
「呼んだか?」
現れたのは、紛れもなく悠真だった。
「うそ……本当に出てきたの?」
陽菜が息をのむ。
「それで、俺に何の用だ?」
悠真の低い声が響く。
「あなたに、いくつか聞きたいことがあるの」
結奈が静かに言った。
「構わない。どうせ、いずれ話すつもりだった。それで、何を知りたい?」
結奈は一歩進み出て問いかける。
「なぜ、私たち五人の意識だけが、先に戻ったのか……教えて下さい」
悠真は少し間を置き、淡々と答えた。
「君たちはすでに“力”を解放している。
だから俺とのつながりが深くなり、回復も早かった。残る五人はまだ力を解放していない――
ただ、それだけのことだ」
「つながり……?」
結奈が眉を寄せる。
「あなたとつながることで、回復が早まるということ?」
「そのとおりだ」
悠真は視線を伏せる。
「俺は“クレーシャ”――不老不死のアジャラアスラだ。
力を解放した君たちには、すでにその力の一部が流れ込んでいる。」
「クレーシャ……不老不死……?」
美咲が思わずつぶやく。
「クレーシャって、私たちが戦ったあの人たちのこと?あなたは彼らの仲間なの?」
悠真はゆっくりと首を振った。
「確かに同じ存在ではあるが、仲間ではない。
むしろ敵対している」
「なぜ……?」
美咲が問い返す。
「簡単なことだよ」
悠真は微かに笑みを浮かべた。
「俺は――人間が好きなんだ」
その言葉に部屋の空気が静かに震える。
美咲の胸の奥で、なにかが音を立てて揺れた。
「質問いい?」
光が口を開いた。
「その……不老不死って、あなたはいったい何歳なの?」
「正確には覚えていない」
悠真は少し遠くを見るような目をした。
「けれど、少なくとも千年は生きていると思う。
……いや、 “死ねない”というほうが近いかもしれない」
その声には、静かな哀しみがにじんでいた。
光は理由もなく胸が熱くなり、言葉を失った。
「ところで、私たちはこれからどうすればいいの?」
陽菜が不安げに悠真へ問いかけた。
「その件について、まずは謝らせてほしい。
君たちを巻き込んでしまった。
でもあの時は…ああするしかなかったんだ」
悠真の声には、深い後悔の色が滲んでいた。
「私のせいですね。
私があなたをあの場に留まらせたから…。
あなたは関わるなって言っていたのに」
美咲が申し訳なさそうにうつむく。
「佐藤さん、自分を責めないで」
結奈がそっと声をかける。
その表情は、仲間を思いやる優しさに満ちていた。
「君たちには、これから厳しい現実と向き合ってもらうことになる。
――“闇狩人”として、クレーシャと呼ばれる存在に立ち向かう覚悟が必要だ」
悠真の言葉に場の空気が重く沈む。
「それは…避けられないことなんですか?」
光が問う。
「ああ、そうだ」
悠真は短く答える。
「納得できません、たしかにあなたから力を分けてもらいました。
でも、だからといって、なぜ私たちが戦わなければならないんですか?」
光の声には、怒りと戸惑いが入り混じっていた。
「千年という長い時間の中で、俺には仲間がいた。
君たちと同じように戦いに巻き込まれ、力を得た者たちが、職業、年齢、性別もバラバラだったが、皆、“誰かを守りたい”という思いだけで共に戦ってくれた」
「その人たちは…どうなったんですか?」
光が静かに尋ねる。
「それぞれの道を歩んでいったよ。
戦いの果てに命を散らした者もいれば、闇狩人を引退した後、穏やかに人生を終えた者もいる。今も引退して生きている仲間は、三人だけだ」
「一般人と違って、私たちは警察官です。
だから戦えということですか?」
光が問い返す。
「そうは言っていない。
俺の仲間の中にも、君と同じ考えの者は何人もいた。
強制するつもりはない。
ただ―運命というものは、時に理不尽にその人間を選ぶんだ」
悠真のその言葉に、光は黙り込んだ。
納得はできなかったが(運命がその人間を選ぶ)
という言葉の意味が、少しだけ理解できる気がしていた。
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