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家族の団らんと来訪者
しおりを挟むすでに父と義兄は席に着いていた。
席一つ分空けて座っている二人に違和感を覚え、首を傾げる。
私の記憶では、父と義兄はいつも離れた席に座っていた。
それどころか特別の場合以外、義兄が家族と食事をすること自体なかったはずだ。
貴族の家では当たり前の光景であり、そのことを疑問に思ったのはこの家に来た当初だけだった。
ゴシゴシと目元をこすってから、もう一度二人を見る。やはり一つ席を空けているけれど、仲良く並んで座っている。
私は動揺を隠して、まずは二人に挨拶をすることにした。
「……おはようございます。お父様、お義兄様」
「おはよう、アイリス。ところで、今日のドレス、素晴らしくよく似合っているね」
「ありがとうございます」
父は私のことをいつもサラリと褒めてくる。けれど私は褒められることに慣れることが出来ず、頬を赤らめるばかりだ。
「シルヴィスもそう思うだろう?」
父が和やかに義兄へ話題を振る。
このあとの展開を予想して私は冷や汗をかいた。
義兄が眉根を寄せ、鋭い視線を私のドレスに向ける。
「…………そうですね。とても美しいと思います」
「!?!?!?」
義兄はきっと無言のまま席を立ってしまうだろう、という私の予想は見事裏切られた。
(聞きまちがい……? いいえ、確かにお義兄様は私のドレスを褒めたわね)
今までにない展開に呆然としながら二人から離れた席に座ろうとすると、父が手招きしてくる。
確かに少し遠すぎたかもしれない、と思いながら近づくと父が席を立ち私の手を掴んだ。
「こちらにおいで」
「えっ?」
手を引かれて、父と義兄の間に座らされる。いったい何が起きているのだろう。
「今朝はアイリスが好きな物ばかり揃えたんだ」
「は、はい」
食卓に並んでいるのは、香ばしく焼いたベーコンにとろとろのオムレツ、ニンジンのドレッシングがかかったサラダとふわふわの白いパン、それに添えられたベリーのジャム……確かに私の好物ばかりだ。
「いただきます」
義兄が隣にいることで、緊張のあまり指先が震える。
私は何とかパンを掴んで小さく千切りジャムを塗る。
「美味しい?」
「美味しいです」
(味なんてわかりません!!)
父が嬉しそうに質問してきたので何とか返事をしたけれど、私は内心それどころではない
義兄は今、どんな顔をしているのだろう。気になるけれど、怖くて左側に座る義兄のほうを向くことができない。
「ひっ!?」
そのとき、左の頬に唐突に何かが触れた。驚いて頬を押さえながら左を向くと、兄がジャムで汚れたナプキンを手にしていた。
「……頬にジャムがついていた」
「えっ、あの!?」
「はは、シルヴィスは案外過保護だね」
「……そうでしょうか」
信じられない気持ちで義兄を見つめる。
義兄は私の瞳をジッとのぞき込んでから、スッと視線を逸らした。
(この人の中身、やっぱりお義兄様じゃないのでは!?)
私の頬についたジャムを拭き取ってくれるなんて、義兄がしないであろう行動でも五本の指に入るだろう。
そのあと、父がいろいろ話しかけてきたけれど、まったく頭に入らず、好きな物ばかりのはずの朝食の味もまったくわからなかった。
そして、三人が食べ終わろうというとき、執事長から予想外の来訪の報せがあった。
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