やり直し令嬢ですが、私を殺したお義兄様がなぜか溺愛してきます

氷雨そら

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告白

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「君さぁ……」

 父がジト目で義兄を見つめた。

「確かに君の幼い頃の境遇には同情するし、もしかしたら僕だって一歩踏み出す勇気を無くすかもしれない。でもさ、婚約までした相手に気持ちの一つも伝えないなんて」
「……そうですね。きっと、伝えていたなら、違う方法で守ろうと思ったなら、違ったのでしょうが……」
「夢の中の出来事であろうと他人事のように思うことなどできないし、アイリスにとっては実際に体験した出来事なんだ。やはり今の君にも責任が生じるのかもしれない。それでも君の繰り返している言い訳は、全部過去の、あるいは夢の中の話だ」

 ……いないもののように扱われた六年間も、胸を貫かれた瞬間の熱さも私の中で完全に消えることなどない。

(それでも、私はずっと……)

「お義兄様、私はずっと」
「待ってくれ」

 義兄は私の手を引いた。
 部屋を出る瞬間、父のほうをチラリと見ると嬉しそうに、少し寂しそうに笑っていた。

 けれど、義兄はグイグイと私の手を引いて足早に歩き、そのまま外に出た。

 美しく咲いた初夏の薔薇を縫うように歩き続ける。

 息が上がった頃たどり着いた、庭の奥には、領地のお屋敷と同じ、淡い紫の薔薇が咲いていた。

「……こんなにたくさん、本当に見事ですね」

 淡い紫色の薔薇を前にして、義兄が笑みを浮かべた。

「この薔薇が好きなんだ、君の瞳の色と同じだから」
「……それは」

 義兄は薔薇を一輪積むと、棘を取り始めた。私は少しもどかしく感じながら、義兄の指先を見つめる。

 ややあって、義兄は私に薔薇を差し出した。

「一目見たときからきっと、その瞳に恋い焦がれていた」
「お義兄様」

 私も初めて月みたいな金色の瞳を見たときから、心惹かれていた。

「愛してる……どんなときも」
「私も大好きです、お義兄様……いいえ、シルヴィス様」
「第三王子から君を守るためなんて言い訳だ。どうか俺と婚約してくれないか」

 涙がこぼれて、息が苦しくて、返事をすることができない。
 それでも、肯定を伝えたくて義兄に抱きついて必死に首を縦に振る。

 そっとおとがいを持ち上げられて、唇に触れるだけの遠慮がちな口づけが落ちてきた。

「返事を聞かせてくれないか? 初めてちゃんと気持ちを伝えたから、少し不安なんだ」
「ふふ……嬉しいです、お義兄様」

 ついつい、いつものように呼んでしまうと、少しだけ口の端を歪めた義兄の顔が近づいてきた。
 次の瞬間落ちてきた口づけは、息が苦しくなるほど、深くて長かった。

 こうして私たちは、形だけでなく正式な婚約者になったのだった。
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