婚約破棄されて幽閉された毒王子に嫁ぐことになりました。

氷雨そら

文字の大きさ
1 / 30

国のために力を使い果たした聖女と婚約破棄



「力を失った聖女に用はない! 婚約破棄だ」

 王太子殿下から賜ったのは、ここまで命を懸けてお仕えしてきた褒美どころか、一方的な婚約破棄だった。
 そして、ミシェルは世間知らずだが、これから自分が置かれる状況くらいはわかる。
 王太子殿下の婚約者として、そして聖女として知りすぎてしまった王国の秘密。

 婚約破棄されて、王太子の婚約者という立場を失えば、行く末はもちろん……。

「――――だが、今までの功績を考慮して、温情を与えよう。第一王子シグル・ウェツナーの婚約者として、これからの人生を過ごすとよい」

 王太子の後ろには、淡いブラウンのふんわりとした髪に、緑色の小動物のような瞳をした可愛らしい伯爵令嬢。
 父が宰相まで上り詰めた伯爵令嬢ララ・リームに対し、何の後ろ盾も持たない聖女、しかも与えられた力のほとんどを王国のためにすでに使い果たしてしまったミシェルが敵うはずなかった。

 たとえ、この国の王太子には、代々聖女が妻に迎えられるのが決まりなのだとしても。

(第一王子殿下の婚約者? 表に現れたことのない第一王子。実際に存在していたの?)

 ミシェルは、困惑を隠すことが出来なかった。
 先代の正妃から生まれた第一王子。
 この国に定められた法によれば、王位継承者は第一王子であるはずなのに……。

 丁重でありながら、有無を言わさない力でミシェルは腕をつかまれて、連れていかれる。
 それは、いつもミシェルが祈りを捧げていた王宮の祭壇のさらに奥。
 立ち入りが許されていなかった、扉の向こうは地下へ向かう長い階段だ。

(この場所に、いつも何かが運び込まれていたのは知っているわ。でも、いったいこの下には何が)

「ここまでです……。ミシェル様、この先はおひとりで」
「え、ええ」

 気の毒さを隠しきれないとでもいうような騎士の声音は、震えている。
 いつも、ともに戦場で戦ってきたのだ。もしかしたら、泣いているのかもしれない。

 階段の下には、暗いその場所にはそぐわない重厚で豪奢な扉があった。
 そっと、その扉に触れれば、鍵もかかっていなかったらしく、すぐに扉は開く。

 そこには、執事姿の男が一人、優雅な礼をしていた。
 淡い水色の髪の毛は、人間にはない色合いだ。長い髪を後ろに結び、金色の瞳をしている。

「お待ちしておりました。聖女ミシェル様」
「……私は、もう力を持たないわ。……だから聖女ではないの」
「そうでしょうか? 我が主にとっては、唯一の力をお持ちでしょう」

(この人……。人間ではないのね。精霊の類だわ)

 王族の中には、精霊と契約を交わし、その力を借りることが出来る存在がいる。
 それは、数世代に一度しか現れない、王族の中でも希少な力のはずだ。
 ミシェルはさらに混乱した。だって、おかしい。第一王子で、しかも精霊と契約できるような力の持ち主が、こんな場所にいるなんて。

 そう、まるで幽閉されているみたいではないか。
 けれど、ミシェルの予想に反して、室内はあまりに豪華で、王族にふさわしいものだった。
 そして、部屋の奥にいるのは、黒い瞳に黒い髪。初代王と同じ色合いをした、人外の美貌を持つ男性だ。

 ただし、その瞳は生気を宿していないように暗い。
 そして、ミシェルにほんの少し視線を向けただけで、興味がないように逸らされてしまう。

「ミシェル・リンドナーと申します。あの……。婚約者としてこちらに」

 まったく歓迎されていないのが、肌でひしひしと感じられる。
 それくらい、第一王子らしき人物の瞳に、ミシェルの姿は映らない。
 あえて、興味を持たないようにしている、そのようにミシェルには感じられた。

「――――気の毒に。できる限り、俺から離れているといい。それでも……」

 その意味は分からないけれど、少しだけ香るのは、毒だ。
 たぶん、この場所に人間は長くいることが出来ない。
 毒への耐性を持っていない人間であれば、3日間ももてばいいほうだろう。

 不思議なことに、そこで暮らす第一王子は、無事なように見えるが。

「…………好きに過ごすといい。カルラに言えば、何であろうと手に入る」

 それだけ言うと、第一王子は、部屋の一番奥の豪華な椅子に座った。
 少しでも、距離をとろうとでもいうように。
感想 19

あなたにおすすめの小説

追放聖女の再就職 〜長年仕えた王家からニセモノと追い出されたわたしですが頑張りますね、魔王さま!〜

三崎ちさ
恋愛
メリアは王宮に勤める聖女、だった。 「真なる聖女はこの世に一人、エミリーのみ! お前はニセモノだ!」 ある日突然いきりたった王子から国外追放、そして婚約破棄もオマケのように言い渡される。 「困ったわ、追放されても生きてはいけるけど、どうやってお金を稼ごうかしら」 メリアには病気の両親がいる。王宮で聖女として働いていたのも両親の治療費のためだった。国の外には魔物がウロウロ、しかし聖女として活躍してきたメリアには魔物は大した脅威ではない。ただ心配なことは『お金の稼ぎ方』だけである。 そんな中、メリアはひょんなことから封印されていたはずの魔族と出会い、魔王のもとで働くことになる。 「頑張りますね、魔王さま!」 「……」(かわいい……) 一方、メリアを独断で追放した王子は父の激昂を招いていた。 「メリアを魔族と引き合わせるわけにはいかん!」 国王はメリアと魔族について、何か秘密があるようで……? 即オチ真面目魔王さまと両親のためにお金を稼ぎたい!ニセモノ疑惑聖女のラブコメです。 ※小説家になろうさんにも掲載

聖女様と間違って召喚された腐女子ですが、申し訳ないので仕事します!

碧桜
恋愛
私は花園美月。20歳。派遣期間が終わり無職となった日、馴染の古書店で顔面偏差値高スペックなイケメンに出会う。さらに、そこで美少女が穴に吸い込まれそうになっていたのを助けようとして、私は古書店のイケメンと共に穴に落ちてしまい、異世界へ―。実は、聖女様として召喚されようとしてた美少女の代わりに、地味でオタクな私が間違って来てしまった! 落ちたその先の世界で出会ったのは、私の推しキャラと見た目だけそっくりな王(仮)や美貌の側近、そして古書店から一緒に穴に落ちたイケメンの彼は、騎士様だった。3人ともすごい美形なのに、みな癖強すぎ難ありなイケメンばかり。 オタクで人見知りしてしまう私だけど、元の世界へ戻れるまで2週間、タダでお世話になるのは申し訳ないから、お城でメイドさんをすることにした。平和にお給料分の仕事をして、異世界観光して、2週間後自分の家へ帰るつもりだったのに、ドラゴンや悪い魔法使いとか出てきて、異能を使うイケメンの彼らとともに戦うはめに。聖女様の召喚の邪魔をしてしまったので、美少女ではありませんが、地味で腐女子ですが出来る限り、精一杯頑張ります。 ついでに無愛想で苦手と思っていた彼は、なかなかいい奴だったみたい。これは、恋など始まってしまう予感でしょうか!? *カクヨムにて先に連載しているものを加筆・修正をおこなって掲載しております

冷酷騎士団長に『出来損ない』と捨てられましたが、どうやら私の力が覚醒したらしく、ヤンデレ化した彼に執着されています

放浪人
恋愛
平凡な毎日を送っていたはずの私、橘 莉奈(たちばな りな)は、突然、眩い光に包まれ異世界『エルドラ』に召喚されてしまう。 伝説の『聖女』として迎えられたのも束の間、魔力測定で「魔力ゼロ」と判定され、『出来損ない』の烙印を押されてしまった。 希望を失った私を引き取ったのは、氷のように冷たい瞳を持つ、この国の騎士団長カイン・アシュフォード。 「お前はここで、俺の命令だけを聞いていればいい」 物置のような部屋に押し込められ、彼から向けられるのは侮蔑の視線と冷たい言葉だけ。 元の世界に帰ることもできず、絶望的な日々が続くと思っていた。 ──しかし、ある出来事をきっかけに、私の中に眠っていた〝本当の力〟が目覚め始める。 その瞬間から、私を見るカインの目が変わり始めた。 「リリア、お前は俺だけのものだ」 「どこへも行かせない。永遠に、俺のそばにいろ」 かつての冷酷さはどこへやら、彼は私に異常なまでの執着を見せ、甘く、そして狂気的な愛情で私を束縛しようとしてくる。 これは本当に愛情なの? それともただの執着? 優しい第二王子エリアスは私に手を差し伸べてくれるけれど、カインの嫉妬の炎は燃え盛るばかり。 逃げ場のない城の中、歪んだ愛の檻に、私は囚われていく──。

完【恋愛】婚約破棄をされた瞬間聖女として顕現した令嬢は竜の伴侶となりました。

梅花
恋愛
侯爵令嬢であるフェンリエッタはこの国の第2王子であるフェルディナンドの婚約者であった。 16歳の春、王立学院を卒業後に正式に結婚をして王室に入る事となっていたが、それをぶち壊したのは誰でもないフェルディナンド彼の人だった。 卒業前の舞踏会で、惨事は起こった。 破り捨てられた婚約証書。 破られたことで切れてしまった絆。 それと同時に手の甲に浮かび上がった痣は、聖痕と呼ばれるもの。 痣が浮き出る直前に告白をしてきたのは隣国からの留学生であるベルナルド。 フェンリエッタの行方は… 王道ざまぁ予定です

〖完結〗終着駅のパッセージ 

苺 迷音
恋愛
過去、使用人に悪戯をされそうになった事がきっかけとなり、分厚い眼鏡とひっつめた髪を編み帽で覆い、自身の容姿を隠すようになった女性・カレン。 その事情を知りながらも夫ローランは、奇妙で地味な姿の妻を厭い目を逸らし続けた。 婚姻してからわずか三日後の朝。彼は赴任先の北の地へと旅立ちその後、カレンの元へと帰省してきたのは、片手で数えるほどだった。 孤独な結婚生活を送る中。 ある冬の日に、ローランの上官であり北の地を治める領主ハルシオン公爵が、カレン夫妻の邸にやってきた。 始まりは、部下の家族を想う上司としての気遣いだった。 他愛もない会話と、節度を守ったやり取り。ほんの僅かな時間を重ねていく。 そのうちに、お互いに灯り始めた小さな心の想い。 だが二人は、それを決して明かさず語ることはなかった。 それから一年ほどたった冬の夜。 カレンから届いた手紙に、たった一度だけハルシオンは返事を書く。 そこには彼の想いが書かれてあった。 月日は流れ、カレンとローランが婚姻して三年目の冬の日。 カレンはひとつの決意と想いを胸に、北へ向かう汽車に乗った。 ※微さまぁか、もしくはざまぁになっていないかもしれないです。 ※舞台は近世・産業革命初頭を基にした架空世界だと思っていただけましたら有難いです。 稚拙な作品ではありますがご覧くださいましたら凄く嬉しいです。よろしくお願い致します。

【完結】私は聖女の代用品だったらしい

雨雲レーダー
恋愛
異世界に聖女として召喚された紗月。 元の世界に帰る方法を探してくれるというリュミナス王国の王であるアレクの言葉を信じて、聖女として頑張ろうと決意するが、ある日大学の後輩でもあった天音が真の聖女として召喚されてから全てが変わりはじめ、ついには身に覚えのない罪で荒野に置き去りにされてしまう。 絶望の中で手を差し伸べたのは、隣国グランツ帝国の冷酷な皇帝マティアスだった。 「俺のものになれ」 突然の言葉に唖然とするものの、行く場所も帰る場所もない紗月はしぶしぶ着いて行くことに。 だけど帝国での生活は意外と楽しくて、マティアスもそんなにイヤなやつじゃないのかも? 捨てられた聖女と孤高の皇帝が絆を深めていく一方で、リュミナス王国では次々と異変がおこっていた。 ・完結まで予約投稿済みです。 ・1日3回更新(7時・12時・18時)

聖女解任ですか?畏まりました(はい、喜んでっ!)

ゆきりん(安室 雪)
恋愛
私はマリア、職業は大聖女。ダグラス王国の聖女のトップだ。そんな私にある日災難(婚約者)が災難(難癖を付け)を呼び、聖女を解任された。やった〜っ!悩み事が全て無くなったから、2度と聖女の職には戻らないわよっ!? 元聖女がやっと手に入れた自由を満喫するお話しです。

巻き込まれではなかった、その先で…

みん
恋愛
10歳の頃に記憶を失った状態で倒れていた私も、今では25歳になった。そんなある日、職場の上司の奥さんから、知り合いの息子だと言うイケメンを紹介されたところから、私の運命が動き出した。 懐かしい光に包まれて向かわされた、その先は………?? ❋相変わらずのゆるふわ&独自設定有りです。 ❋主人公以外の他視点のお話もあります。 ❋気を付けてはいますが、誤字脱字があると思います。すみません。 ❋基本は1日1話の更新ですが、余裕がある時は2話投稿する事もあります。