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もう一度会えたなら 4
ティアーナは、困惑していた。
それもそのはず、例えば目の前にいる素晴らしき壮年の執事。
「どうなさいましたか、何か甘いものでもお出しいたしましょうか、姫様」
完ぺきだ、完ぺきなる執事。
ロンド国の王城にすら、こんなに見た目も立ち居振る舞いも百点満点の執事はいなかった。
「ええ、少しいただこうかしら」
その時、金色の光が視界を遮る。
また、きてしまった。ティアーナは、諦めとともに、未来視に目をこらした。
***
「あなた、どうなさったの?」
振り返った、白銀の髪の女性。
それは、おそらく執事の奥方に違いない。
執事、ロバートは彼女に笑いかけている。
差し出された、赤い薔薇。
そう、今日は二人の結婚記念日らしい。
「まあ、何十年も仕事ばかりだったあなたがこんなことをするなんて、どんな風の吹き回し?」
「君がどんなに愛しいか、伝えたりないと思いましてね」
「まぁ……」
二人は手を取り合って微笑み合う。
問題はこの先だ。未来視の途中で、目をそらすことは、残念ながらできないのだから。
***
ティアーナは、思いのほか情熱的に奥方を愛する執事を虚無の瞳で見つめた。
「……結婚記念日に、赤い薔薇を渡せば、確実に奥様はよろこばれるでしょう」
「どうして、私の結婚記念日など」
「ええ、少しばかり小耳にはさみまして」
執事、ロバートが、思い悩んでいると耳にしたのは事実だ。
自分がこれっぽっちも知らないことを、未来視で視ることはまずない。
そもそも、今は執事をしているロバートとは、前世、子ども時代からお世話になっていて、浅からぬ付き合いがある。
その対象に対して、何かの懸念事項があったり、ものすごく興味を持っているときに、未来視は頻繁に訪れる。
「それにしても……」
「どうしたんだ?」
「うっひゃあ!!」
おかしな叫び声を上げてしまったので、笑われると思ったティアーナは、次の瞬間大きく美しい蜂蜜色の瞳を見開く。
「っ、…………」
なぜか、ティアーナを見下ろすライハルトは、傷ついたような、遠くにいる誰かを探しているような表情をしていた。
「あ、あの……。私なにか粗相をしましたか?」
先ほどの叫び声を粗相というなら、その通りに違いない。
けれど、ライハルトの表情と、先ほどの妙な声は結びつくことがない。
「あ……。失礼、知人が驚いたときにそっくりだったもので」
「そ、そうですか」
その知人というのは、十中八九、前世のティアーナ、つまり公爵令嬢ミリティアなのではないかという気がした。
それは、あまりに自意識過剰な考えだろうか。
けれど、これはいけない状況だ。だって、最近ライハルトと接触すると、決まって発動してしまうのだ。
もちろん、本日もティアーナの視界は、金色の光に包まれた。
***
未来視を覗いているときは、たまたまその場面を見ている第三者という認識が強い。
まるで、水鏡の中に映り出す光景を見ているようなものだ。
それなのに、ライハルトに関する未来視だけは、いつも違った……。
未来視の中では、いつもティアーナはライハルトの目の前に立っている。
ロンド王国が陥落する直前も、ティアーナはライハルトの姿を見た。
黒い騎士服、遙か高い背、あまりに迫力あるその姿に、あの時は眠れぬ夜を過ごしたものだ。
それなのに……。
「ティア……」
振り返ったライハルトが笑う。
まるで、輝かしくて懐かしい、あの日々、そうだったように。
この場面が未来視なのだということなど忘れ、ティアーナはただライハルトを見つめるしかできなかった。
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