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伝説の大魔法 2
しおりを挟む鏡には私の姿がうっすらと写っている。
今から舞踏会にでも行くような姿だ。
たくさん重ね付けられたアクセサリーは、普段使いとしては浮いていたが、ドレス姿には合っている。
――でも、やっぱり指輪は多すぎるわね。
だが、今考えるべきはアクセサリーについてではない。
鏡には私の姿と二重に重なるように、カナン様の姿が映し出されていた。
さらに、彼の腕に絡まるように女性が一人……。
「第五王女イリア殿下……」
「ほら見て! お父さまに女の人がくっついてるの! 許せないの!」
「そうだったのね」
ここは浮気を疑う場面なのかもしれない。
――しかし、彼はこの上なく迷惑そうな、嫌そうな、節足動物でも見るような視線を彼女に向けている。
彼はあまり嫌そうな顔を浮かべることがない。
私たちと一緒にいるときは、色々な表情を浮かべるのだが、基本は無表情なのだ。
そんな彼が、煩わしさや嫌悪感を隠し通せていない……相当嫌がっている。
確かに女性がカナン様の腕に絡んでいることに良い気分はしないが、間違いなく浮気はない……あんな顔しているのを見てしまったら誤解できない。
カナン様がさりげなく腕を振り解いて距離を取ろうとしている。
恋愛に関しては、カナン様はとてもわかりやすいのである。
「あのね、お父様は……」
そのとき、開いたままの扉の向こうから叔父様の声が聞こえてきた。
「ただいま~」
「叔父様!」
「変わりない? リーベルン先生が来たそうだね? カナン君が心配して、一度様子を見に帰ってもらえないかと連絡してきたけ……おぉう……伝説の大魔法……」
のんびりと帰ってきた叔父様は、シェリアがマリルの力を借りて展開した魔法を見て顔を引き攣らせた。
そういえば、この魔法を見たのはまだ私とカナン様だけなのだ。
カナン様は死にそうだったし……叔父様がこんなに顔を引き攣らせるのは初めて見た。
――だからって、伝説の大魔法ってなんなの。
シェリアは私から離れると、叔父様に駆け寄った。
「叔父様っいいところに帰ってきたの! 一緒にお留守番しようね~?」
「ん? 留守番……? そういえば、フィアーナその格好……どこかに出かけるのか?」
「叔父様、実は……」
「お母さまはね、お城に行くんだよ! 風の精霊さん――いっくよぉ!」
「お城って……あっ、フィアーナ!!」
まるで音楽を指揮するようにシェリアが右手を高く挙げた。
すると、緑の光が突風を巻き起こした。
バランスを崩しながら鏡のほうに顔を向ける。
――カナン様が目を見開いた。彼でもあんなに慌てることがあるのか……。
カナン様は魔法を打ち消そうとしたのか杖に手をかけたが……今から魔法陣を描いても間に合わないだろう。
「――気をつけてね。陛下に連絡しておくから」
叔父様は状況を全て理解したのだろう 。
ひどくげんなりした顔で私に手を振った。
私の体はさらに大きく傾いて、鏡に押し込まれてしまう。
まるで沼に沈むような感覚――私の体は、鏡の向こう側へと押し出されたのだった。
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