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貴賓室の商談会 1
しおりを挟む――これはどんな状況か。いや、ほかに言いようがない。これは商談会だ。
前髪を下ろしているから、本来は金地金のごとく輝く瞳は露わになっていない。
それでも彼の周囲は輝いていた。積み上げられた金貨で。
「今期の流行りは赤で決まりです」
「まあ……でも、赤いドレスなんて派手すぎないかしら? それに似合わないと思うの」
「ご心配なく。赤と言っても多種多様。アルフレド商会は、百色の赤から夫人にピッタリの色、そして夫人の清楚な美しさをより際立たせるデザインをご提案するでしょう」
「ふふ……お上手ね」
彼は何気ない仕草で前髪を掻き上げて微笑む。前髪を上げて金色の瞳を露わにすれば、彼の美貌はある意味王国一だ。
――しかし彼は己の美貌に無自覚だ。
私にはカナン様が一番格好よく見えるが、見目の好みは人それぞれ。
可愛らしくそれでいて年を重ね以前よりも知的さを感じるようになった叔父様は、無敵なのである。
寝不足のために浮かんだ隈すら、アンニュイな魅力を際立たせていた。
「――この布とこの布それぞれに手を置いていただけませんか?」
夫人が手を置く。彼女の表情に驚愕が浮かぶ。
「お気づきですね。どちらの色が似合うか、一目瞭然です」
「不思議ね、こちらの布の上に置いた方が肌が明るく綺麗に見えるわ」
「化粧品にも生かせます。そちらのご提案もできますが、それはぜひ店舗に来ていただければと……」
叔父様は、ドレスにも化粧品にも造詣が深い。
現在は魔石を中心に商いをしているけれど、カナン様を魔塔から解放するためにお金を払って以前の店舗を閉める前は、女性向けの商品も多く扱っていた。
「叔父さま!」
「――ああ、姪たちが来たようです」
叔父様は、シェリアに微笑みかけた。
彼女が駆け寄ってくると、膝をついて抱き上げる。
「それにしても、こんなに小さな子どもが可愛いとは思いませんでした」
貴族夫人たちは、叔父様とシェリアを囲った。
「そちらのドレスは?」
「アルフレド商会で扱っているのですか? 可愛いけれどずいぶん着やすそうですね」
「――実は、母と子ども、あるいは家族全員でコーディネートできるのです」
「そういえば……ジェーン様と色違いですね」
「ええ……」
再び貴族夫人たちは騒ぎになった。
社交界で、いかに目立つかということが彼女たちにとっての最重要事項なのだ。
「何をしている? フィアーナもこっちにおいで」
「ええ……」
「化粧の実演をご覧に入れます」
「……え」
そこから先、私は化粧品の実演販売のモデルにされた。
* * *
貴族夫人が去って行く。
どれほど売り上げたのか……私が来る前からだいぶ売っていたから、相当な額だ。
「どうして、王城で商売を……」
「え? 陛下に言ったら許可が下りたから?」
「――それで、どうして魔石を並べているんですか?」
叔父様はドレスや化粧品を片付けると、続いて魔石を並べ始めた。
魔石には見覚えがある。すべて、私が鑑定したものだ。
「鑑定書付きの魔石」
「ああ、もちろん。偽物の魔石を売ることなどない。アルフレド商会が取り扱う魔石は、高品質、多属性――新しいお客様がいらっしゃったようだ」
続いて貴賓室に現れたのは、魔術師様たちだった。
彼らは魔力が強く、故に魔力のコントロールのため、または強力な魔法を行使する際に精霊から力を借りるために高品質な魔石を必要とするのだ。
いつの間にやら、シェリアの頭に乗っていたマリルまで魔石に近づいている。
しばらくの間、アルフレド商会臨時出張所……とでも言えばいいのか。
とにかく叔父様は、商品を売って売って売りまくったのだった。
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