消えた幼なじみが騎士団長になっていた

氷雨そら

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異世界で幼なじみともう一度

幼馴染デートと壁ドン


 ✳︎ ✳︎ ✳︎


 夜になり、明日が楽しみすぎたリリアは、女子寮の窓辺にてるてる坊主を飾ってしまった。

「何これ……。
なにかの呪い?ちょっと怖いよ?」

 てるてる坊主は、パール先輩には不評だった。

(明日天気にしておくれ♪)

 リリアはそのあと、夜遅くまで真剣に服を選んだ。はじめてのデート…?

(いやいや、幼なじみが『明日は一緒に遊ぼうぜ』って感じのノリだったわ)

 そこで、神殿に通うかいつも騎士服を着ていたせいで、ほとんど服を持っていないことに気がついた。

 悩むほども持ってない服なのに散々迷い、結局のところここに来たとき着ていたシンプルな紺色のワンピースに落ち着いた。

(うん。街に行ったら服を買おう)


  ✳︎ ✳︎ ✳︎


 その日、早く目が覚めたリリアは、いつも訓練ではポニーテールにしているブロンドの髪をハーフアップにまとめる。そして、ふわふわな裾飾りがお気に入りの白いケープを羽織った。

(浮かれすぎて、待ち合わせ1時間前についてしまう。これは恥ずかしい……えっ?)

 背の高い、すごく目立つ大人な男性が既に待ち合わせの噴水前に立っていた。

(き、騎士の正装? うわー、それで良かったのかぁ。私だけ気合入れてきたみたいで恥ずかしい!)

 このまま、走り去って自分も騎士服に着替えてこようかと逡巡していると、こちらに気づいたレオンが全力で走ってくる。



 ――――七瀬っ!



 街で偶然会うと、いつも木下くんは飼い主を見つけた犬くらいの勢いで七瀬のところに走ってきた。

「リリアッ!」

 そして、少し困ったように見えてしまう、七瀬の大好きな笑顔で笑うのだ。

(そう、今みたいに)

「……ずいぶん来るのが早い、ね?」
「はは。リリアもな。……しかし、なんだ。私服姿、かわいいな? 俺は急遽、夜に王宮に呼び出されてしまって。クソっあのタヌキ、ゆるさん。……こんな格好で悪い」

(誰のことかわからないけど、そんなふうに言ってはいけない相手な気がする)

「そっか。良かったぁ。私だけ気合入れて恥ずかしいって、思っちゃったよ」
「……気合、入れてくれたのか? うれしいな」
「ひぅ」

 元幼なじみの言葉の破壊力がすごい。イヤイヤ、七瀬の方が年上だったはず。ここは落ち着いて。

「でもね、神殿通いか騎士団の訓練ばかりだったから、服をほとんど持ってないんだよ」
「ふーん。まぁ、騎士は式典もパーティーも制服で済むところがあるからな。じゃ、行き先は決まりだな」

 連れて行かれた服飾店は、下が宝石店、上が高級そうな洋服店になっていた。

(騎士の初給料頂いたけど、こんな高そうな店、買えるかな?)

「ちょっと、待っていて?」

 リリアから離れてお店のオーナーらしい女性と話すレオン団長。すると、チラッとこちらを見て笑顔になったオーナーがこちらに近づいてくる。

「これは、磨きがいありそうだわ。私にお任せください」

 そのあとは、サイズを測られ、着せ替え人形のように、上から下までトータルコーディネートされた。

 最終的に、全体的にブラウンでまとめられた、裾がふんわりしているレースの襟が上品なワンピース、膝上の靴下。踵の少し高い靴でレオンの前に立っていた。

「レオン団長?! この店、ゼロが一つか二つ違うよ? こんなの買えないよ」
「もう、払ってあるから平気」
「ん? 何言って……。そんなのダメに決まってるでしょう?!」
「受け取ってよ」

 リリアが頬を膨らませながら首を振ると、レオンは、また困ったように笑って言った。

「……じゃあ、騎士になったお祝いに。すごく似合う。このまま着ていこう?」
「……うぅ。ずるいよ」


 ✳︎ ✳︎ ✳︎


 結局リリアは、買ってもらった服を着て街を歩いている。さっきから通行人がチラチラとこちらを見ている。

(流石に騎士団長さまと歩いていたら目立つよね)

「ちっ。可愛くしすぎたか」
「え?」

 なんでもない、とレオン団長が微笑む。

 そのあと行ったのは、キラキラ光る不思議なスイーツのお店だった。クリームも沢山のっていて、とても美味しい。

「七瀬は甘いもの好きだっただろ?いつか一緒に来たいって思ってたんだ」

 レオン団長はコーヒーを飲んでいる。木下くんと同じで、甘いものはあまり食べないようだ。

 1日がとても早く感じた。だって、2人は幼い頃から一緒にいるだけで楽しかったのだから。

「あとこれ」

 帰り道、リリアは首から何か掛けられた。胸元を見ると、ピーコックブルーの宝石がついたペンダントだった。

「えっ、何コレ?」
「魔石。かなりの攻撃魔法を防いでくれる。絶対に肌身離さずつけておいて」
「え。……ま、せ、き?」

 こんな大きい魔石。攻撃魔法を防ぐ?王都にちょっとした家が建ってしまうのでは?

「守るって約束したから。癒し手は、遠距離から一番に狙われる」
「それは分からないでもないけど、だからっていくらなんでもコレはダメだよ」

 レオン団長が真顔になる。

「……これだけは絶対に譲れない。お願いだからつけていて」
「でも」

 レオン団長は、ピーコックブルーが美しい魔石を掴んでリリアの襟元からそっと押し込んだ。

「七瀬から離されて、もう今からリリアまでいなくなるのはきっと耐えられない。……団長命令なのだと思ってくれていいから」

 俯いたレオン団長。そんなふうに弱みを見せることなんてほとんどないと、リリアは知っている。

「レオン団長……」

 七瀬だって、木下くんから引き離されて泣くしかなかった。それが嫌で仕事に打ち込み続けた。

「分かった。強くなって立派な癒し手になったら、今度は私が買ってあげるね」
「……そっか。リリアらしいな。でも、団長命令だ。外したらお仕置きだから?」

 リリアの肩越しにレオン団長が壁に手をつく。

(こっこれは、この体勢は、かの有名な…!?)

 楽しい気分が一転。恐ろしいほど高級な贈り物と、元幼なじみからのまさかの壁ドンに、複雑な気持ちでリリアは震えた。
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