消えた幼なじみが騎士団長になっていた

氷雨そら

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異世界で幼なじみともう一度

幼ななじみは誓う たとえそれがフラグかもしれなくても


 ✳︎ ✳︎ ✳︎


 公示が終わると、各自準備のために訓練は解散になった。

「随分落ち着いてるね。初陣となればもっと普通は動揺するものだけど」

 ルード副団長が、腰をかがめてリリアを覗き込みながら話しかけてきた。

「初陣の話は聞いていたので」
「はぁ。やっぱりか。詳細は言ってないにしても、公示前に情報を流すなんて軍法会議スレスレだ」

 リリアはあまりのことに、血の気が引いていくのを感じた。

(たしかに、重要機密を漏らせば罰せられてもおかしくない)

「まあ、仕方がない。このことは他の人間には言ってはいけないよ?」
「……はい」

 リリアは、冷たい汗が背中を流れるのを感じた。騎士団長が軍法会議なんて王国が揺らぐほどの大スキャンダルだ。

(騎士団長まで登り詰めた人が、そんなこと分からないはずないのに)

「でも、俺は個人的には良い変化だと思ってるから」
「え? それって……」

 ルード副団長は、少しだけためらってから口を開いた。

「俺と団長は騎士学校の同期だけど、とにかくあいつは強かった。でも、戦場での戦い方は……」


 ✳︎ ✳︎ ✳︎


 公示が終わったら説明すると言っていたから、リリアは今朝会った場所で待っている。木下くんは、七瀬がたぶんここに来るだろうと思って待っていると、必ずそこに来てくれた。

(ここで待っていたら、たぶんレオン団長は来てくれる。……でも)

 先ほどのルード副団長の話が、頭から離れない。


 ――――戦場での戦い方は、いつも最前線に飛び込んでたよ。それってまるで……。


 リリアは、首を振ってルード副団長が最後に言った言葉を振り払った。看護師の仕事に打ち込むしかなかった。
 それは七瀬の気持ち。それでも、木下くんを失った七瀬には育った環境の中で、友人もいたし家族もいた。


 ――――七瀬から離されて、もう今からリリアまでいなくなるのはきっと耐えられない。


 リリアは、思わずレオン団長につけてもらったペンダントを取り出して握りしめた。

「リリア!」

 その時、リリアを呼ぶ声がした。黄昏の光が、長い影を作る。朝と違って、レオン団長はこちらに向かって全速力で駆けてくる。

「レオン団長……。どこから走ってきたんですか」

 それでも、レオン団長の息は切れていない。

「会議室から。作戦会議が長いから待たせたな?それにしても……」

 レオン団長が眉毛を少し寄せてから笑う。

「あの頃と同じで、リリアはいるかな?と思うところにいてくれるな」

 その言葉を聞いたリリアは、思わずレオン団長を抱きしめた。

「え? あの……リリア、さん?」
「私はもう、七瀬じゃなくてリリアだから。一回しか言わないね」

 少し体を離すと、ピーコックブルーの瞳がこちらを見つめている。木下くんよりも背が高くて、年齢もリリアより年上。……それでも、今は。

「木下くんに会えなくなって毎日が色を失った。仕事に打ち込むしかなかった。忙しくしていないと、会いたくて。思い出すと泣いてしまうから」
「七瀬……」

 レオン団長は、所在なげにしていた両腕をそっとリリアの背中にまわした。

「なんで、こんな時にそういうこと言うんだよ。せっかく言わないでいたのに。それって」
「フラグでしょ? ふふふ。木下くんよく言ってたね。でも、伝える前に会えなくなるよりずっと、ずっといいと思わない?」

 レオン団長が、リリアの間近で眉を寄せ少しだけ瞑目するのが見えた。
 木下くんだってきっと七瀬に会いたかった。たぶん、七瀬が過ごした日々募った思いと同じだけ。


「木下くん。……木下くんは、私の初恋の人なんだよ」
「七瀬。俺だってあの日伝えたかった」
「うん」

 遠慮がちにリリアを抱きしめていた腕の力を込めて、レオンが言う。あの日そう願ったように。

「俺は、七瀬が好きだ」
「うん。ありがとう……うれしい」

 そっと、2人は離れた。

「レオン団長は、とてもすてきで。木下くんと同じ部分もあるし、まったく違う部分もある。それは、七瀬とリリアも同じ。でも、それがそういう気持ちか、私にはまだわからない」
「……そうだな」

 リリアは笑顔で、レオンを見つめてささやいた。

「この戦いから帰ったら、伝えたいことがあるの」

 レオン団長は息をのんで、とても複雑な顔をした。それは、彼にとって一番つらい思い出の言葉だろう。そして、いわゆる特大のフラグというやつだった。

「それフラグっ! ……ていうよりもさ。それ俺の台詞じゃないか?」

 そんなことを言いながら、レオン団長はリリアの頬に優しい口づけをしてくれた。

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