消えた幼なじみが騎士団長になっていた

氷雨そら

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異世界で幼なじみともう一度

騎士団長と闇魔法


 ✳︎ ✳︎ ✳︎


 薄暗い森深く。リリアは、団長直属部隊の魔狼討伐任務に参加している。もちろん、レオン団長が最前線で戦うのはいつもの光景だ。

 今のところリリアの活躍の場はほとんどない。それどころか、多くの団員がリリアの周囲を守っているような気さえしていた。

 しかしその時、ほかの魔狼より二倍以上ある魔狼が、木の上から突然リリアの眼前に現れた。

「――――あ」

 逃げようにも、魔狼とリリアの位置はあまりにも近くそれは不可能。しかし、リリアが覚悟した衝撃はいつまでたっても訪れることはなかった。

(なにか重いものが倒れるような音がした)

 そっと目を開いたリリアの目の前には、頼もしい団長の姿があった。そのそばに、魔狼が倒れている。

「リリア?けがしてないか……?」
「レオン団長、ありがとうございます」
「アイリーンと一緒に行動しろ。こいつら少々知能が高いみたいだ」

 そう言い残すと、レオン団長は残りの魔狼を次々と切り伏せていった。

 ✳︎ ✳︎ ✳︎

(レオン団長がどこにもいない)

 その日、だれ一人欠けることなく無事に任務は終了した。しかし、王都に帰ってきたにもかかわらず、いつも真っ先にリリアのもとに駆けてくるレオン団長の姿が見当たらなかった。

(騎士団長室かしら?)

 そっと騎士団長室の扉をノックする。中からは音がしなかった。

(誰もいない……。何か用事があるのかもしれないし、帰ろうかな)

 しかし、ドアが少し開いていたようで、気づかずに手をついてしまったリリアは、部屋の中に転がり込んでしまった。

「いたた」

 しかし、少し薄暗い室内には予想外に人影があった。

「え?レオン団長……?」
「……リリア」

 レオン団長は、上着を羽織っていなかった。端正な筋肉が見えてしまい、リリアは動揺しかけたがそれよりも先に気まずそうなレオン団長の表情に強い違和感を感じた。

「どうして……」

 リリアはまた転びそうになりながら、レオン団長のもとに駆けよった。

「なんで怪我してるの。さっき私を庇ったとき?」
「たいした傷じゃない。包帯も、もう巻くところだから」
「何で黙ってるの?!今すぐ……」

 ――――パチンッ

「え?」

 ――――パチンッ

 何度試しても、リリアの癒しの魔法ははじかれてしまう。

(この音、確かに聞いたことがある)

「……レオン団長が身体強化を強制的に解除したときの音と同じ」
「……」

 気まずそうにレオン団長が下を向いている。

「どういう、ことなの。教えて、くれるよね?」

(いやだ。いやな予感がする。……でも、それしか考えられない)

 闇魔法は、強力な攻撃力や能力を持つというのが一般的な認識だ。しかし、光魔法以上にその出現頻度は低く、現在確認できているのはレオン団長ただ一人という。そのため、その詳細は謎に包まれている。

「ねえ。答えてよ……」
「リリア。ごめんな?」
「謝らないで。……答えてよ」

 答えを聞かなければという焦燥感と同時に聞きたくないという思いがリリアの胸を締め付ける。青い空のような瞳から、大粒の雨のような涙がボロボロと零れ落ちた。

「泣かせてごめん」
「う、ひっく……」
「俺さ、闇の魔力の影響だと思うんだけど…」

 ――――回復魔法の恩恵は受けられないんだ。


 ✳︎ ✳︎ ✳︎


「どうして黙っていたの?」

 やはり予想した通り、それは聞きたくなかった答えだった。リリアの涙は止まることなく流れ続ける。

「リリアを守りたいから。話したらリリア泣くだろうし、守らせてくれなくなると思ったら言えなくてさ」
「レオン団長のバカ!それでひどい怪我したらこの世界には病院もちゃんとした薬もないんだよ?!」

 涙で霞んでしまう視界の中で、レオン団長が困ったように微笑んでいた。

「大丈夫。闇の魔法には回復魔法はないけど、自己治癒力はすごく高いんだ。たぶんこの傷も明日には塞がっているから」
「そんなの…」
「じゃ、無茶しないって約束するから。これからもそばで守らせて?」

 レオン団長が、零れ落ちる涙をすくってリリアの頬にそっと手を触れた。

「だって、守ってもらっても私は何もしてあげられないんだよ」
「バカだな、リリアは……。大好きな幼なじみ守るのに、なんで見返りがいるんだよ」

 幼なじみという言葉を使ったのはレオン団長なりのやさしさなのだと、リリアにもわかってしまう。

「幼なじみで、いいの?」
「リリア?」

 大事にしていたものが、なくなることが怖いだけなのかもしれない。

「幼なじみが良いよ。今は」
「私、レオン団長のこと、大好きだよ?」
「は。あまり可愛すぎること言わないで」

 レオン団長は、自らの手をリリアの口元に当てると、その手にそっと唇を寄せた。

「続きはその言葉をリリアが笑って言えた時にとっておく」

 レオン団長が蕩けそうな顔で笑ったのを、まだ笑うことができないリリアは見つめているしかなかった。今はまだ、幼なじみのまま2人の時間は過ぎていった。
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