消えた幼なじみが騎士団長になっていた

氷雨そら

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異世界で幼なじみともう一度

初恋の思い出と今の2人


 ✳︎ ✳︎ ✳︎


 出発の朝は少し寒かった。

 リリアは、騎士服にマントを羽織る。リリアが遠征するのはまだ2回目。荷物は少なめだが、いつものポシェットにポーションが入っていることだけはもう一度確かめた。

 女子寮から騎士団に向かういつもの道。その先のいつもの場所にレオン団長が立っていた。遠くから2人の目が合う。

 初めはゆっくりとしたレオン団長の足取りがもどかしいようだったのに、すぐにどんどん早くなって駆け寄ってくる。

 気が付くと、リリアはレオン団長に抱きしめられていた。

「リリア。怪我なんてするなよ?魔石も絶対身に付けていて?」
「今回は、討伐戦じゃないから大丈夫だよ」
「そんなのわからない。魔獣は、癒し手を狙ってくるんだから。ディアス団長は強い。リリアのことも守ってくれるはずだ。ちゃんと近くにいるんだぞ?」
「……」

(なんとなく、それは嫌だな。なぜかな?)

 爽やかなイメージそのものの騎士団長であるディアス団長。
 たしかに、何があっても守ってくれそうだ。それでも、いつも近くにいて欲しいのは……。

 ――――騎士団長に俺はなるから。

 困ったように笑う幼なじみの姿が脳裏に浮かぶ。

「……え?」
「リリア?」

 忘れていた記憶が急速に蘇る。そう、あれは木下くんと七瀬が中学校の頃のことだった。


 ✳︎ ✳︎ ✳︎


 木下くんの部屋は、今日もそれなりに片付いている。そして本棚にはラノベが、テレビ台にはゲームが山ほど入っていた。

 木下くんは一応野球部に所属しているが、運動神経があまりにも良いせいか、最近はしょっちゅう他の部にピンチヒッターとして駆り出されているようだ。

 それでも休みの日には、今でも一緒に過ごすことが多い七瀬と木下くん。とは言っても、木下くんは大概ラノベを読んでいるかゲームをしている。

(その割には、テストの点数はいつもいいんだよね。……悔しいことに)

 木下くんが部活をしている間、七瀬は勉強を頑張っているのに、いつも惜しくも勝てないのだ。
 そんなことを思いながら、七瀬は木下くんに借りていたラノベをそっと閉じた。

「七瀬?」
「うん。読み終わった。ありがと」

 木下くんが、読み途中だったラノベを閉じて少し身を乗り出しながら聞いてきた。

「そっか。どうだった?」
「んー。主人公を助ける騎士団長がカッコ良かった。きっとそんな人が、ピンチの時に助けに来たらキュンとしちゃうよね」
「……えっ」
「ん?」

 七瀬と木下くんの視線が交差した。なぜか沈黙が流れる。
 先に目をそらしたのは、木下くんだった。

「七瀬は、そういうのが好きなの?」
「まあ、あんなふうに助けてもらったら、ときめくかもしれないね」

 そこで、しばらく黙り込んで下を向いていた木下くんは、急に顔を上げると意外なことを言い出した。

「……じゃあ騎士団長に、俺はなるから」

 それからしばらく、休みのたびに何故か騎士団長になるための剣の練習だと、木下くんが素振りをしている姿を見せられた。

 そう、あれは中二の夏休み直前のことだった。


 ✳︎ ✳︎ ✳︎


「……あ」
「リリア?」

 気づいた時には、もう2人は離れていたけれど、レオン団長の手はリリアの肩に置かれたままだった。

「そっか」

 騎士団長になるというセリフと、木下くんの不思議な行動は、そんなやり取りの後だった。

「リリア?」

 確かに見た目や所作は、ディアス団長はあのラノベに出てくる騎士団長そのものだ。

 でも、あの時七瀬が騎士団長にときめいたのはその部分じゃなくて。

「レオン団長は、あのラノベの中の騎士団長みたいにいつも私のこと助けてくれるね」
「は……。えっ?」

 リリアはレオン団長に笑いかける。幼なじみだった時も、今も誰より大好きな人。

「……私にとって理想の騎士団長そのものだよ」
「……それは、今まで頑張った甲斐があったな」

 リリアは、そのまま少し上を向いて目を瞑った。
 少しだけ、リリアの肩におかれたままのレオン団長の手が震える。

 2人は、そっとやさしい口づけをした。


 
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