28 / 96
異世界で幼なじみともう一度
癒し手の苦闘と活躍
✳︎ ✳︎ ✳︎
災害現場の復興は、まだあまり進んでいないようだった。家を失った人々は、かろうじて屋根があるような場所に集まっていた。
(仮設住宅とか、ないものね)
それよりも、リリアは避難生活の衛生状態が気になった。いくら、回復魔法をかけても、衛生状態が悪ければ、感染症が蔓延してしまうかもしれない。
「リリア殿。飛竜討伐でのご活躍は聞いています。この現場を見てどう思われますか」
ディアス団長から、声がかかった。
「まずは、すべての包帯やシーツを洗って、お湯で茹でてから干して下さい。水も生水はダメです。一度必ず沸騰させないと……」
癒し手なら、怪我人に回復魔法をかけて回るのが通常だろう。第一騎士団の団員の一部から不満の声が上がった。
「……もちろん、重症の方から回復魔法をかけていきます。もし宜しければ、負傷者の移動の協力をお願いできますか?」
第二騎士団内であれば、皆んなすぐに動いてくれるだろう。だが、この場所ではリリアは新参者。
(すぐに理解を得るのは、難しいって分かってる)
その時、黙っていたディアス団長が口を開いた。
「貴女に協力を依頼したのは私だ。この現場では、戦場の聖女殿の意見が優先される」
「……ありがとうございます。まずは、歩ける負傷者の方は、あちらの天幕に移動してもらって下さい」
その時一人の男が声を上げた。
「なぜ、俺が移動せなばならん。癒し手ならば、さっさと回復しろ!俺は子爵だぞ!」
(やはり、こういう声は上がるのね)
「災害現場において、トリアージの優先順位は絶対です。歩ける方は、指示に従って下さい」
「無礼者!」
男は急に抜剣し、リリアに斬りかかってきた。リリアは、身体強化を発動して、その斬撃を避ける。
次の瞬間、男はディアス団長により、地に伏せられていた。
「あなたの技量では、リリア殿に傷の一つもつけられませんよ?実力が違いすぎます」
「くそ。俺を誰だと……」
ディアス団長が、冷たい声で答えた。
「たとえ貴族であろうと、王命によりこの現場の最高責任者は私だ。逆らうことは許さない。――連れて行け」
現場には静寂が訪れた。ディアス団長が、リリアの前に跪く。
「リリア殿、すぐにお助けできなかったこと、恥じるばかりです。どうかお許しを。……しかし、武勇の噂は聞いていなかったが、強いのですね?」
「いえ……。騎士団の中ではまだまだです」
ディアス団長が、爽やかな笑顔を見せる。
「しかしあなたは癒し手だ。これほどの腕を持った方は見たことがない。貴女に興味が湧いてしまいました」
「……ありがとうございます?」
その瞬間、騎士団員たちから小さなざわめきが起こった。
「「あのディアス団長が女性にスルーされた!!」」
どんな女性でも、ディアス団長にあんなふうに言われれば、頬の一つも染める。それが、第一騎士団員たちの共通認識だった。
✳︎ ✳︎ ✳︎
あの事件から、リリアはなんとなく第一騎士団の騎士たちに受け入れられたようだ。今も、リリアの周りを数人の騎士が守ってくれている。
「守ってくださって、ありがとうございます」
「いえ、職務ですので」
リリアが感謝を込めて微笑みかけると、なぜか顔を逸らされるのは続いているのだが。
(皆んな、恥ずかしがり屋なのかしら?)
少しだけやりやすくなった現場で、リリアは重症者に回復の全体魔法をかけた。
「凄まじい光魔法だ……」
護衛してくれていた騎士が、感嘆の声を上げた。
(でも、回復魔法だけでは十分ではないわ。脱水を起こしている人も多い。経口補水液が作りたい。塩と砂糖が欲しい。それに清潔な布や水がもっと)
回復魔法をかけて、魔力が切れかけるとリリアは天幕をまわって傷の処置や状態の確認を行った。
休むことなく働くその姿に、いつしかこの場所でもリリアは戦場の聖女と呼ばれ始めていた。
あなたにおすすめの小説
存在感のない聖女が姿を消した後 [完]
風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは
永く仕えた国を捨てた。
何故って?
それは新たに現れた聖女が
ヒロインだったから。
ディアターナは
いつの日からか新聖女と比べられ
人々の心が離れていった事を悟った。
もう私の役目は終わったわ…
神託を受けたディアターナは
手紙を残して消えた。
残された国は天災に見舞われ
てしまった。
しかし聖女は戻る事はなかった。
ディアターナは西帝国にて
初代聖女のコリーアンナに出会い
運命を切り開いて
自分自身の幸せをみつけるのだった。
助けた騎士団になつかれました。
藤 実花
恋愛
冥府を支配する国、アルハガウンの王女シルベーヌは、地上の大国ラシュカとの約束で王の妃になるためにやって来た。
しかし、シルベーヌを見た王は、彼女を『醜女』と呼び、結婚を保留して古い離宮へ行けと言う。
一方ある事情を抱えたシルベーヌは、鮮やかで美しい地上に残りたいと思う願いのため、異議を唱えず離宮へと旅立つが……。
☆本編完結しました。ありがとうございました!☆
番外編①~2020.03.11 終了
冷酷騎士団長に『出来損ない』と捨てられましたが、どうやら私の力が覚醒したらしく、ヤンデレ化した彼に執着されています
放浪人
恋愛
平凡な毎日を送っていたはずの私、橘 莉奈(たちばな りな)は、突然、眩い光に包まれ異世界『エルドラ』に召喚されてしまう。 伝説の『聖女』として迎えられたのも束の間、魔力測定で「魔力ゼロ」と判定され、『出来損ない』の烙印を押されてしまった。
希望を失った私を引き取ったのは、氷のように冷たい瞳を持つ、この国の騎士団長カイン・アシュフォード。 「お前はここで、俺の命令だけを聞いていればいい」 物置のような部屋に押し込められ、彼から向けられるのは侮蔑の視線と冷たい言葉だけ。
元の世界に帰ることもできず、絶望的な日々が続くと思っていた。
──しかし、ある出来事をきっかけに、私の中に眠っていた〝本当の力〟が目覚め始める。 その瞬間から、私を見るカインの目が変わり始めた。
「リリア、お前は俺だけのものだ」 「どこへも行かせない。永遠に、俺のそばにいろ」
かつての冷酷さはどこへやら、彼は私に異常なまでの執着を見せ、甘く、そして狂気的な愛情で私を束縛しようとしてくる。 これは本当に愛情なの? それともただの執着?
優しい第二王子エリアスは私に手を差し伸べてくれるけれど、カインの嫉妬の炎は燃え盛るばかり。 逃げ場のない城の中、歪んだ愛の檻に、私は囚われていく──。
全力でお手伝いするので、筆頭聖女の役目と婚約者様をセットで引継ぎお願いします!
水無月あん
恋愛
6歳から筆頭聖女として働いてきたルシェルも今や16歳。このままいけば、大聖女様のあとを継ぐことになる。が、それだけは阻止したい。だって、自由にお菓子が食べられないから! ということで、筆頭聖女の役目と婚約者をまるっとお譲りいたします。6歳から神殿で、世間から隔離され、大事に育てられたため、世間知らずで天然のヒロイン。ちなみに、聖女の力はバケモノ級。まわりの溺愛から逃れ、自由になれるのか…。
ゆるっとした設定のお話ですので、お気軽に楽しんでいただければ嬉しいです。
巻き込まれではなかった、その先で…
みん
恋愛
10歳の頃に記憶を失った状態で倒れていた私も、今では25歳になった。そんなある日、職場の上司の奥さんから、知り合いの息子だと言うイケメンを紹介されたところから、私の運命が動き出した。
懐かしい光に包まれて向かわされた、その先は………??
❋相変わらずのゆるふわ&独自設定有りです。
❋主人公以外の他視点のお話もあります。
❋気を付けてはいますが、誤字脱字があると思います。すみません。
❋基本は1日1話の更新ですが、余裕がある時は2話投稿する事もあります。
完結 愚王の側妃として嫁ぐはずの姉が逃げました
らむ
恋愛
とある国に食欲に色欲に娯楽に遊び呆け果てには金にもがめついと噂の、見た目も醜い王がいる。
そんな愚王の側妃として嫁ぐのは姉のはずだったのに、失踪したために代わりに嫁ぐことになった妹の私。
しかしいざ対面してみると、なんだか噂とは違うような…
完結決定済み
【完結】断頭台で処刑された悪役王妃の生き直し
有栖多于佳
恋愛
近代ヨーロッパの、ようなある大陸のある帝国王女の物語。
30才で断頭台にかけられた王妃が、次の瞬間3才の自分に戻った。
1度目の世界では盲目的に母を立派な女帝だと思っていたが、よくよく思い起こせば、兄妹間で格差をつけて、お気に入りの子だけ依怙贔屓する毒親だと気づいた。
だいたい帝国は男子継承と決まっていたのをねじ曲げて強欲にも女帝になり、初恋の父との恋も成就させた結果、継承戦争起こし帝国は二つに割ってしまう。王配になった父は人の良いだけで頼りなく、全く人を見る目のないので軍の幹部に登用した者は役に立たない。
そんな両親と早い段階で決別し今度こそ幸せな人生を過ごすのだと、決意を胸に生き直すマリアンナ。
史実に良く似た出来事もあるかもしれませんが、この物語はフィクションです。
世界史の人物と同名が出てきますが、別人です。
全くのフィクションですので、歴史考察はありません。
*あくまでも異世界ヒューマンドラマであり、恋愛あり、残業ありの娯楽小説です。
花言葉は「私のものになって」
岬 空弥
恋愛
(婚約者様との会話など必要ありません。)
そうして今日もまた、見目麗しい婚約者様を前に、まるで人形のように微笑み、私は自分の世界に入ってゆくのでした。
その理由は、彼が私を利用して、私の姉を狙っているからなのです。
美しい姉を持つ思い込みの激しいユニーナと、少し考えの足りない美男子アレイドの拗れた恋愛。
青春ならではのちょっぴり恥ずかしい二人の言動を「気持ち悪い!」と吐き捨てる姉の婚約者にもご注目ください。