消えた幼なじみが騎士団長になっていた

氷雨そら

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異世界で幼なじみともう一度

幼なじみが騎士団長になっていた


 ✳︎ ✳︎ ✳︎


 金色の髪と青い目をした女の子がこちらを見ている。とても頑張り屋で、一途で、高い能力を持った大切な……。

「遠くに行ってはダメ!」

 その子の手を掴んだところで目が覚めた。

「んー、なんだか久しぶりによく寝た。……ん?枕がいつものと違う?」

 目を開けたら、目の前に青緑っぽい目をした、超絶イケメンがいた。

「リリア……よかった。目が覚めたのか?」

 どう見ても知らない人が、知らない名前を言った。でも、なぜか不信感はない。

(なんだか、仕草が懐かしい)

 その男の人に、急に抱きしめられた。

「……?!」
「リリア、心配した。お願いだからもう、あんなことしないで」

 その人がそっと離れると、瞳と瞳が交差する。見た目が全く違うのに、不安そうなその姿を見て、確信に近い思いでその名を呼ぶしかなかった。

「……木下、くん?」
「え?リリア……?」
「リリアって、誰?私は、七瀬だよ?」

 どう見ても違う姿なのに、すでに木下くんにしか見えないのが不思議だ。

「七瀬……?」
「あ……。え?木下くんじゃ、ないの?」
「いや、木下だけど……」

(この状況が、なんなのかは分からない。でも、この人は木下くんだ)

「木下くん、探してたんだよ。ずっと、ずっと、会いたくて。ここにいたんだね」
「……七瀬。大丈夫。もう、心配ないから」

(ああ、これは……)
 
 木下くんが何か不安要素を隠した。うまく隠しているから多分他の人には分からないけれど、幼なじみの七瀬にはわかってしまう。

「どうしたの?そんな顔して」
「……本当に覚えていないのか?」
「……何があったかちゃんと話してくれるかな?」
「ああ」

 そのとき七瀬の視界の端を、オレンジ色の小さな影が横切った。

「お?目が覚めたか」
「えっドラゴン?」

 七瀬の寝ていたベッドの下から、小さなドラゴンが現れた。

「あれから、3日経っている。しかし見事な魔法だったぞ?まあ、最終的に死にかけたのは、そこの男のせいだが……」
「リリアを助ける方法を知っているというから契約して見逃しただけだ。さっさと話してもらおうか?」

 ドラゴンは、羽をパタパタして、七瀬のまわりを飛び回っている。

「落とし子があの魔法を使った前例がないからな。まあ、普通のものが使ったなら、3日ほど眠り込むのとその日の記憶を失うくらいの筈だ」
「落とし子とは転生者のことか?」
「お前たちは、他の世界から生まれ変わってきたもの。つまり落とし子だ」

(木下くんは、異世界に転生してたのね。どこを探しても見つからない筈だわ。そして私も?)

 金色の髪の毛が視界の端に映った。七瀬は少しだけ引っ張ってみた。

(うん。痛い)

「あくまで仮説だが、眠ってしまったリリアより先に、他の世界の人格の目が覚めた。というところだろう」
「どうすれば、元に戻る?」
「元に……戻しても良いのか?」

 たぶん、あのドラゴンは今、意地悪な顔をして笑っている。木下くんが、泣きそうな目でこちらを見た。

 あなたを一人で泣かせない。
 それだけは覚えているから。

 七瀬は立ち上がると、木下くんとドラゴンの近くへツカツカと歩み寄り、割って入った。

「その話によると、リリアっていうのが今の私の名前のようね?」
「そのようだな。だが、ななせ。リリアが目覚めればお前は消えるんだぞ?」

 七瀬はひとつため息をつくと、ドラゴンの顔を覗き込んだ。

「あなたの言うことは、ウソだわ」
「なっ」
「朧げに思い出した。いつも見ていたわ。リリアはいつも頑張っていて、そう、レオン団長に一途な、今や私の1番の推しなの。……あなた、ちゃんと本当のことを言いなさい?」

(現場で揉まれた看護師の観察力と度胸。舐めないで欲しい)

 七瀬はドラゴンを前に、わざと少しだけ唇を舐めて見せてから不敵に笑った。

「ラノベでは、ドラゴンのステーキは絶品というのが定番テンプレなのよ?」
「ひっ!?」

 泣きながら話すドラゴンの説明で、おそらく、七瀬は一時的にリリアの代わりになっていることはわかった。
 それなら答えは一つしかない。

「さ、木下くん。こうしてはいられないわ。いつ戻るか分からないもの」
「七瀬?」
「今だけ、木下くんと呼んでもいい?」
「……もちろん」
「さ、異世界の騎士団を案内してくれる?」

(そう、大好きなラノベの騎士団が今ここに!)

 七瀬は木下くんと手を繋いだ。そこにリリアの時のような恥じらいや躊躇いはない。

「七瀬……」
「うん、今はそう呼んで?」
「俺は……」
「あなたがもう、レオン団長なのは分かってる。でも、ななせに対して後悔はないの?」

 2人は見つめ合った。七瀬だってこんな状態、不安でいっぱいだ。でも、今はそれよりも長かった11年を取り戻したかった。

 七瀬は騎士服に着替えた。2人は手を繋いで、騎士団を見てまわる。

「ね?すごい見られているけど、職務上不味かった?」
「いや、大丈夫だ」
「じゃ、木下くんに変な虫がつかないように頑張ってみようかな?」
「はは。それ、いつも俺が思ってることだよ」

「「リリア、目が覚めたのか。良かった!」」
「ご心配おかけしてごめんなさい。それから、いつもありがとう」

 そう言って微笑みかける七瀬に、声をかけてきた団員たちが、赤い顔をして固まる。

「「え?今日のリリア、大人っぽくないか??」」

(雰囲気が変わったから戸惑っているみたい?)

「そういうところは、変わらないな」
「え?」
「いや、そのままでいて欲しい」

 思わず見上げた顔は、木下くんじゃない。でも、やはり困ったような顔で笑っていた。


 ✳︎ ✳︎ ✳︎


 騎士団見学が終わり、七瀬はとても満足だった。今はリリアとレオン団長がよく待ち合わせる、女子寮への帰り道。大きな木の下にいる。

「木下くん。本当の騎士団!すごく楽しかった」
「ああ、俺もだよ七瀬」

 幼なじみの2人は、一緒にいればなんでも楽しい。たとえ違うことをしていたって、一緒にいるだけで。

 七瀬があくびを一つする。そろそろ時間のようだ。

「ね、あの時『伝えたいことがある』って言ってたヤツ。今ここで言ってくれる?」
「……七瀬」
「人生って、過去と今この瞬間しか確実じゃないんだよ」

 2人の瞳から涙がこぼれ落ちた。

「……違う大学になって、会えなくなるのは嫌だ」
「うん。私も同じだよ」

「好きだ、七瀬」
「うん、私も木下くんが好き」

「付き合って欲しい」
「実はそう言ってくれるの、待ってたんだ。言ってもらえなかったら、卒業式の日に私から言うって決めてたんだよ?」

 七瀬はそっと、木下くんに寄り添って目を瞑った。次に目を開けた時、彼女は七瀬ではなかった。
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