消えた幼なじみが騎士団長になっていた

氷雨そら

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異世界で幼なじみともう一度

11年の孤独

 ✳︎ ✳︎ ✳︎ 


 リリアの手を引いたレオン団長は、騎士団室奥の私室の扉を開けた。

「そこのソファーに座って。リリアが好きそうな、フルーツの香りの紅茶があるんだ」

 ここまで来てリリアの涙はやっと止まった。そして申し訳なさでいっぱいになる。

「あの……一人になりたいって言ってたのに、ごめんね。今からでも帰るか……」
「ごめん。少し冷静さを欠いていた。……そばにいて欲しい。ダメかな?」
「……じゃ、ここに来て」

 レオン団長が近くまで来ると、リリアは自分の太ももをポンッと叩いた。そして、レオン団長の手を強く引く。体勢を崩した団長がリリアの膝元に倒れてくる。

「…………えっ」
「膝枕、してあげる」
「えっ?!」
「泣いても、いいよ」
「……」

 レオン団長は腕でその瞳を隠して黙ってしまった。リリアも黙って柔らかい髪の毛をそっとなでる。

「リリアに聞いてほしい話がある」
「うん」
「……」
「聞きたいな。話して?」


 ✳︎ ✳︎ ✳︎ 


 七瀬に思いを伝えることを決意し携帯電話を切った直後、真っ白な光で何も見えなくなった。目の前にトラックが迫っていることに気づいたときに、にぶい衝撃を感じて意識が途絶えた。

「あなたの名前はレオンよ。お父様と同じ瞳ね……」

 気づいた時には、小さな体で母に抱かれていた。そこから、母と二人の生活が始まった。

 父親がいないのを不思議に思ったが、前世の記憶がある自分はそういうこともあるだろうくらいに思っていた。ただ、七瀬に何も伝えられなかったことだけが悔やまれた。

(七瀬に会いたい)

 ただ、毎日思うのはそれだけだった。それでも、母は自分を大事に育ててくれてその日々は穏やかだった。生まれ変わりというやつなのだろうと思っていた。いつか七瀬に会いに行きたいと。

 俺を取り巻く状況が大きく変わってしまったのは、6歳の時。母が馬車に轢かれそうになったのがきっかけだった。

「母さん!!」

 その瞬間、俺の体から黒い蔦のようなものが現れて母をその場から助け出した。通行人が唖然としてこちらを見ている。母は蒼白になって震えていた。

「レオン……よりによってあなたに!」

 母はその瞳から大粒の涙を流し続ける。俺は、外国だと思っていた場所に魔法が存在することに初めて気が付いた。そしてその日の夜、俺を迎えにあの男が訪れた。

「リーナ、レオン。お前たちの幸せを願っていた。……だが」
「ええ、わかっております。今までの配慮に感謝していますわ」
「許して欲しいともいえんな。レオンとともに来てくれるか?」
「うれしいです。でも、これからのレオンには私の存在は不要です。もう、お会いすることはないでしょう。私は隣国に戻ります」

 前世の記憶があるとはいえ、まだ幼かった俺は、ただ2人の会話を黙って聞いているしかなかった。そして、その日から母に会うことはなかった。

 俺は、侯爵家の庶子だった。そして、闇の魔法は侯爵家に数世代に一度だけ現れる希少なもの。そして父と同じ色の瞳。

 母と会えないことも、変わってしまった環境も、使用人ばかりに囲まれた生活もすべてが受け入れられなかった。

 それよりも、異世界に生まれてしまったことが何より受け入れがたかった。

「七瀬に……もう会えない」

 たとえ、七瀬がほかの人間と過ごしていても構わないと思っていた。それでも、一目会うことだけを願っていたのに。

 ――――主人公を助ける騎士団長がカッコ良かった。

 その時、あの日の七瀬の笑顔を思い出した。七瀬に振り向いてほしくて思わず言ってしまった言葉も。

 俺の父親である侯爵は、騎士団長だった。騎士を目指していることを知った父は、今まで関わらなかったことを塗り替えるほど、剣の指導をしてくれた。

「騎士団長に俺は。……七瀬」

 それからは、幼なじみとの約束を叶える、ただそれだけを目指して過ごした。

「ね、あなた。強いわね?私と勝負しなさい?」
「なあ、つまらなそうな顔してないで手合わせしてよ」

 いつも騎士学校で一人でいた俺に、アイリーンとルードはいつも絡んできた。2人に負けることはなかったが、2人が組むと格段に強く、敵わないことが多かった。

 騎士になってからは、戦争でも武功をあげた。そして三年前、第二騎士団長に任命された。

 そして、三年前のあの日。父から伯爵位の叙勲の話が内定していることを聞いた。

「騎士団長にはなりますが、伯爵位は受けません。俺は、貴方のようになりたくない」
「リーナとの、ことか」
「貴方が一番よくわかっているはずです。愛のない婚約などさせられては敵わない」
「そうか。だがこの件は保留にする」

 騎士団長になり、仲間ができて毎日忙しく過ごしても、心の空白は埋まらない。

 ドラゴンと戦ったときには、流石に死にかけた。それでも七瀬の泣き顔が浮かんで戦い続けた。闇魔法の恩恵で、回復魔法は受けられなくても翌日には傷が塞がっていた。

「致命傷以外、死ぬこともできない」

 母を奪った、平穏な日々を、七瀬と会える希望を奪った闇魔法が憎かった。


 ✳︎ ✳︎ ✳︎ 


「リリア」
「うん」
「あの頃と違って、俺は君に普通の幸せをあげられない」

 もしも、あの日思いを告げていたなら。2人はずっと一緒に過ごしていたのだろう。

 七瀬は看護師になったとしても家庭をもってたぶん、あんな働き方はしなかった。2人はきっと……。

「大神官がリリアの姿を見てきたときいて、ひどく醜い感情が胸を占めた」
「うん」

「リリアが誰かと話すだけでも。そんな自分がすごく嫌だ」
「うん」

「リリア。だから俺から……」
「少し黙って」

 そっと、瞳を覆い隠していたレオンの腕がどけられた。レオンの瞳に飛び込んできたリリアは大好きな優しい笑顔をしていた。

「私、今すごく幸せなの」
「リリア」
「これからも、きっと幸せなの」

 ――――だから、隣にいて欲しい。

 その言葉のあとは、2人とも言葉を発することはなかった。ただ、リリアが髪をすく感覚に、レオンの瞼は徐々に重くなっていった。
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