消えた幼なじみが騎士団長になっていた

氷雨そら

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異世界で幼なじみともう一度

婚約


「リリアは聖女の儀式を見たことがあるか?」
「いいえ、私が神殿にいる間には新たな聖女は生まれませんでしたから」

 何故か楽しそうに将軍閣下が笑った。

「そうだったな。まあ、将来大聖女にも手が届かん能力の最有力候補が騎士団を選んだ時の奴らの顔、見ものだったな」

(それは誰のことかしら、どこかで聞いた話なだけに考えたくない)

「話を進めてください、閣下」

 どこか苛立った様子のレオン団長が先を促す。

「そうだったな。聖女の儀式は、光魔法で聖杯を満たすものだ。その全貌は秘匿されている。……だが、俺は聖女だった人に聞いたことがあってな」

 聖杯はリリアも見たことがない。だが、その存在はジル大神官から聞いたことがあった。

「聖杯はこの国の安寧を守っていると」
「ああ、そういうことになっているな」

 そう言った将軍閣下の表情は曇り、眉を寄せたその瞳には悔恨を滲ませ何かを思い出しているように見える。

「もともと闇魔法を排出する我がラーディ侯爵家と光魔法を絶対とする神殿は相容れない。」
「閣下……私は」
「だが、それもリリアが聖女になれば変わると信じている」

 もう、その瞳はいつもの将軍閣下のものだった。

(将軍閣下と、聖女だったという人の間には何かがあったのかもしれない)

「3日後に聖女の儀式が行われると公表された今、奴らも動き出すだろう」
「リリアは、我が第二騎士団が守ります。……大切な仲間ですから」

「油断するなよ。我らラーディ侯爵家は武勇の一族。聖女との繋がりを持てば力が増すと見なされる。敵も少なくないからな」
「後ほど作戦会議をお願いします。あと、2つ目の話というのは」

 ――――リリアに婚約の打診がいくつか来ている。

 リリアは思わずレオン団長の方に振り返る。その瞬間、レオン団長は下を向いてしまったので、リリアはその表情を見ることはできなかった。

「はい?誰の婚約です?」
「お前しかいないだろう。リリア」
「え?なんでまた?」

 将軍閣下は、重々しいため息をついた。

「やはり、レオンと同じ感覚か。……聖女は結婚できる。教会の上層部か、貴族と結婚することが多いな。ましてや、リリアは戦場の聖女と二つ名を持ち、大神官や騎士団、侯爵家の後ろ盾が透けて見えているのだから」

 この世界の、少なくとも貴族社会の婚約は、そういうものなのだろう。

(こういう時にこそ、何か言って欲しいのに)

「ジル大神官や第一騎士団のディアスも候補に挙がっているようだ。レオンはそれでいいのか?」
「いいはずが、ないです」

 将軍閣下が、レオン団長の肩を強く叩く。部屋にドンッという音が響くほど。

「生ぬるいな。愛するものを手に入れたいならば手段を選ばないことだ」
「……」
「お前も婚約者候補として捻じ込んでおいた。父親としてしてやれることはそれだけだ。……後悔するなよ」

「感謝します。……父上」
「礼はいらん」

 困ったことにリリア抜きに、話はどんどん進んでいるようだ。リリアの感覚では、まだ16歳。そういったことは、まだまだ先だと思っていた。

「すまんなリリア、この通りレオンはいざとなると腰抜けだ。そろそろ俺は帰る。作戦会議は王宮に来い、レオン」
「了解いたしました」

 普段ぐいぐいくる割に、あと一歩は踏み込めない。レオン団長のそんな態度。

(でも、関係を変えるのが怖いとか勇気が出ないとか、そういうことだけが理由ではない気がする)

「レオン団長……」
「は、不甲斐ないな。リリアを誰にも渡したくない。それだけは変わらない。ただ、ひとつだけ伝えてからじゃないと。……聞いて欲しい」

 ようやくレアン団長はリリアとしっかり目線を合わせた。リリアが頷くのを確認してから、レオン団長はゆっくりと話し出した。

「リリアは聖女としてこれからもたくさんの人を救うことができる。だけど、俺と結婚すると、リリアの光魔法は消えてしまうかもしれない」
「聞かせて、下さい」

 たぶん、今からレオン団長が話すことを聞いたら、リリアは100%の自信を持ってレオン団長と婚約したいと言えなくなる予感がした。

 それでも聞かないわけにはいかない。全てが手に入るはずはないのだから。

「俺の母親、元聖女なんだ。父と母は正式な婚約者だった。だが、結婚直前に何故か母は聖女の力を失い、神殿から追放された。父との婚約もラーディ侯爵家により破棄されることになった。……父がそのことを知ったのは、全てが終わってからだったそうだ。母は父の前から姿を消した」

 それでも、将軍閣下はレオンの母親リーナを探し出した。そしてようやく見つけたリーナの腕には、レオンが抱かれていた。

『このまま、誰にも知られずこの子と暮らしていきたい』

「涙ながらのその願いを、父は断ることができなかった。聖女でなくなった母は、侯爵家に嫁ぐことはできない。俺は庶子であっても、ラーディ侯爵家の人間として母と引き離されて育つしかない。別れの日、母は言っていたよ。願いを叶えて貰ったのだと」
「……愛し合っていたんですね」

 少しだけ沈黙が流れた。レオン団長の唇が、次の言葉を紡ぐ。

「たぶん闇魔法を持つ子どもを身籠ったことで、聖女の力は消えたんだと思う。テオドールのポーションの件で、疑っていたことが確信に変わった」

 レオン団長の指先が、リリアの方に向けられた。だが、そのまま触れることなく握り締められてしまう。

「リリアがやりたいことは、俺と結婚したら叶わないかもしれない。だから、リリアはほかの……」

 その言葉の続きは紡がれない。

 名残惜しむようにリリアから寄せられた唇が離れていく。その時に浮かんだ気持ちは、七瀬だった頃からずっと変わらずにそこにあった。

「ほかの人と結婚なんて、考えられない。それならいっそ一人がいい。あなたのそばで叶えられない夢には輝きがないから……ちゃんとして?」
「はあ。こんな時まで俺は、本当にカッコ悪いな」

 そう言ったレオン団長は、机の引き出しから出してきた小さな小箱を持ちリリアの前に跪いた。

「愛するリリア。どうか俺と生涯共にいて欲しい」
「嬉しい。……ずっとそばにいて。レオン」

 この世界では左手の薬指は、特別な場所ではない。それでもリリアの左の薬指に、小さなピーコックブルーの石は輝いていた。



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