消えた幼なじみが騎士団長になっていた

氷雨そら

文字の大きさ
58 / 96
異世界で幼なじみともう一度

伯爵襲名式


 ✳︎ ✳︎ ✳︎

 その日、レオン・レーゼベルグ伯爵の襲名式には多くの人が駆け付けた。その顔触れは多岐にわたる。

 先の戦争での救国の英雄レオンを慕う騎士団関係者、聖女リリアの所属する騎士団の団長であることから神殿関係者、そして将軍閣下の息子として侯爵家の派閥関係者も。

「ふえー、すごいね。本当にこの中でするの?」
「そうよ。リリアは見つかったら大騒ぎになるから隠れていなさい」

 アイリーンは実は伯爵令嬢だった。ストラウス伯爵家の次女。今回はその肩書で参加している。ちなみにルード団長も子爵家の三男ということで参加を許されている。

「みなさん貴族だったんですね」
「今更だわ。これからはそう言ったことも頭に叩き込まないとやっていけないのよ。ふふふ。でも、私が手とり足取り……」

 アイリーンをエスコートして入場してきたルード副団長がため息をつきながらアイリーンのじゃれあいを制する。

「アイリーン、余計なこと言うな」
「ルード……せっかくだから一曲踊りましょうか?」
「今回は遠慮しておくよ。警護に支障が出る」
「冗談よ」

 ルード副団長にエスコートされたドレス姿のアイリーン。すごくお似合いに見える。

 どうしてこの二人が付き合っていないのかが謎なくらいに距離が近いのだが、貴族社会はいろいろあるのかもしれない。

「リリア、ここに隠れているのよ。私たちは周囲を警戒しながら近くで参加しているわ」
「ありがとうございます。アイリーン隊長」

「ここではアイリーン様と呼びなさい。伯爵令嬢として参加しているから、その呼び方なら私と近しい人間ということも周囲が理解するでしょう」
「アイリーン様、かしこまりました。ありがとうございます」

 リリアは貴族の作法にのっとってアイリーンに礼をした。

「リリア様の所作は完璧よ。自信をお持ちなさい」

 背筋を伸ばしてドレスを着こなすアイリーンは本当に美しい。

 騎士服を着た時の凛々しさから、赤薔薇の騎士と呼ばれて社交界の令嬢たちのファンもとても多いらしいが、艶やかなドレス姿も誰よりも輝いているだろう。

 ルード副団長も社交界では本当に人気があるらしい。いつも冷静な、次期騎士団長としての呼び名も高い子爵家の三男。

(よく考えたら、すごい人たちに囲まれていたのだわ)

 七瀬が好きで読んでいた騎士物語の中の登場人物たちに負けないほど、第二騎士団の団員たちはいろいろな意味で目立っている。

 むしろその中でもリリアが最近一番目立っているのだが、リリア本人にはあまりその自覚はないため、周囲はいつもハラハラしながらフォローしているのだった。

 国王陛下から正式な襲名が言い渡されると、周囲から祝いの拍手が巻き起こった。リリアが控えている部屋までその歓声が聞こえてくる。

「リリア、出番だぞ」

 将軍閣下自らが部屋まで迎えに来てくれた。その手にエスコートされたリリアが会場に現れると、それまでの雰囲気が嘘のように周囲が静まり返る。

 おそらく、リリアが将軍閣下にエスコートされこの場に現れた意味を誰もが理解しているのだろう。神殿関係者は心なしか青ざめているようにさえ見える。

「リリア」

 レオン団長の蕩けるように幸せそうな笑顔を見た周囲の人間は、ほとんどがレオン団長の冷徹な仮面しか見たことがない。信じられないものを見た、すわ天変地異の前触れかとでも言いたげな表情を、騎士団関係者以外の誰もがしている。

 騎士団関係者だけは慣れたもので2人の様子を生暖かい視線で見守り続けているのだが。

「本当に妖精が来たかと思った」
「こんな時まで冗談言わないの」
「いつだってリリアをほめるとき、俺は本気だよ」

 将軍閣下のエスコートから、レオン団長のエスコートへ。事前に将軍閣下から話を通してある国王陛下がこちらを見守っている。

「国王陛下。このたび私、レオン・レーゼベルグに伯爵の地位を与えてくださり厚く御礼申し上げます。この祝いの席でもう一つめでたきことを報告させていただきたく」
「許そう」
「私、レオン・レーゼベルグはこの良き日に、聖女リリアと婚約いたしました」
「ふむ。僥倖だな。2人の行く末に幸あらんことを」

 国王陛下からの正式な婚約の許可。この後に手続きがあるとしても、もうそれはゆるぎない事実となった。しかし、国王陛下は口元の片端だけを釣りあげて、周囲に聞こえないほどの声で2人に告げる。

「ふふ。落とし子2人を同時に得た国は今までなかった。我が国にとって吉と出ることを祈っているよ」

(とっくにばれていた!!)

 将軍閣下の方を見ると、珍しいことに苦虫をかみつぶしたような顔をしている。すべては国王陛下の手のひらの上だったというわけだ。

「ああ、だがレオンには申し訳ないことをしたと思っている。俺があの時王になっていたら母を失わせるような真似はしなかった。これからは幸せになれ、戦友の一人として願っている」
「陛下……」

 それだけ言うと陛下は祝辞を切り上げ去っていった。

「主役が踊らねば、始まらないぞ」

 将軍閣下に促されて、2人は会場の中心で踊りはじめる。リリアはダンスはそこまで得意ではない。ダンスの動きについていこうと身体強化を発動していたのがばれて、レオン団長に笑われてしまった。
感想 8

あなたにおすすめの小説

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

全力でお手伝いするので、筆頭聖女の役目と婚約者様をセットで引継ぎお願いします!

水無月あん
恋愛
6歳から筆頭聖女として働いてきたルシェルも今や16歳。このままいけば、大聖女様のあとを継ぐことになる。が、それだけは阻止したい。だって、自由にお菓子が食べられないから! ということで、筆頭聖女の役目と婚約者をまるっとお譲りいたします。6歳から神殿で、世間から隔離され、大事に育てられたため、世間知らずで天然のヒロイン。ちなみに、聖女の力はバケモノ級。まわりの溺愛から逃れ、自由になれるのか…。 ゆるっとした設定のお話ですので、お気軽に楽しんでいただければ嬉しいです。

助けた騎士団になつかれました。

藤 実花
恋愛
冥府を支配する国、アルハガウンの王女シルベーヌは、地上の大国ラシュカとの約束で王の妃になるためにやって来た。 しかし、シルベーヌを見た王は、彼女を『醜女』と呼び、結婚を保留して古い離宮へ行けと言う。 一方ある事情を抱えたシルベーヌは、鮮やかで美しい地上に残りたいと思う願いのため、異議を唱えず離宮へと旅立つが……。 ☆本編完結しました。ありがとうございました!☆ 番外編①~2020.03.11 終了

冷酷騎士団長に『出来損ない』と捨てられましたが、どうやら私の力が覚醒したらしく、ヤンデレ化した彼に執着されています

放浪人
恋愛
平凡な毎日を送っていたはずの私、橘 莉奈(たちばな りな)は、突然、眩い光に包まれ異世界『エルドラ』に召喚されてしまう。 伝説の『聖女』として迎えられたのも束の間、魔力測定で「魔力ゼロ」と判定され、『出来損ない』の烙印を押されてしまった。 希望を失った私を引き取ったのは、氷のように冷たい瞳を持つ、この国の騎士団長カイン・アシュフォード。 「お前はここで、俺の命令だけを聞いていればいい」 物置のような部屋に押し込められ、彼から向けられるのは侮蔑の視線と冷たい言葉だけ。 元の世界に帰ることもできず、絶望的な日々が続くと思っていた。 ──しかし、ある出来事をきっかけに、私の中に眠っていた〝本当の力〟が目覚め始める。 その瞬間から、私を見るカインの目が変わり始めた。 「リリア、お前は俺だけのものだ」 「どこへも行かせない。永遠に、俺のそばにいろ」 かつての冷酷さはどこへやら、彼は私に異常なまでの執着を見せ、甘く、そして狂気的な愛情で私を束縛しようとしてくる。 これは本当に愛情なの? それともただの執着? 優しい第二王子エリアスは私に手を差し伸べてくれるけれど、カインの嫉妬の炎は燃え盛るばかり。 逃げ場のない城の中、歪んだ愛の檻に、私は囚われていく──。

巻き込まれではなかった、その先で…

みん
恋愛
10歳の頃に記憶を失った状態で倒れていた私も、今では25歳になった。そんなある日、職場の上司の奥さんから、知り合いの息子だと言うイケメンを紹介されたところから、私の運命が動き出した。 懐かしい光に包まれて向かわされた、その先は………?? ❋相変わらずのゆるふわ&独自設定有りです。 ❋主人公以外の他視点のお話もあります。 ❋気を付けてはいますが、誤字脱字があると思います。すみません。 ❋基本は1日1話の更新ですが、余裕がある時は2話投稿する事もあります。

完結 愚王の側妃として嫁ぐはずの姉が逃げました

らむ
恋愛
とある国に食欲に色欲に娯楽に遊び呆け果てには金にもがめついと噂の、見た目も醜い王がいる。 そんな愚王の側妃として嫁ぐのは姉のはずだったのに、失踪したために代わりに嫁ぐことになった妹の私。 しかしいざ対面してみると、なんだか噂とは違うような… 完結決定済み

【完結】断頭台で処刑された悪役王妃の生き直し

有栖多于佳
恋愛
近代ヨーロッパの、ようなある大陸のある帝国王女の物語。 30才で断頭台にかけられた王妃が、次の瞬間3才の自分に戻った。 1度目の世界では盲目的に母を立派な女帝だと思っていたが、よくよく思い起こせば、兄妹間で格差をつけて、お気に入りの子だけ依怙贔屓する毒親だと気づいた。 だいたい帝国は男子継承と決まっていたのをねじ曲げて強欲にも女帝になり、初恋の父との恋も成就させた結果、継承戦争起こし帝国は二つに割ってしまう。王配になった父は人の良いだけで頼りなく、全く人を見る目のないので軍の幹部に登用した者は役に立たない。 そんな両親と早い段階で決別し今度こそ幸せな人生を過ごすのだと、決意を胸に生き直すマリアンナ。 史実に良く似た出来事もあるかもしれませんが、この物語はフィクションです。 世界史の人物と同名が出てきますが、別人です。 全くのフィクションですので、歴史考察はありません。 *あくまでも異世界ヒューマンドラマであり、恋愛あり、残業ありの娯楽小説です。

花言葉は「私のものになって」

岬 空弥
恋愛
(婚約者様との会話など必要ありません。) そうして今日もまた、見目麗しい婚約者様を前に、まるで人形のように微笑み、私は自分の世界に入ってゆくのでした。 その理由は、彼が私を利用して、私の姉を狙っているからなのです。 美しい姉を持つ思い込みの激しいユニーナと、少し考えの足りない美男子アレイドの拗れた恋愛。 青春ならではのちょっぴり恥ずかしい二人の言動を「気持ち悪い!」と吐き捨てる姉の婚約者にもご注目ください。